久川凪・颯の双子にシスコンの兄を生やした、それだけの話。
数年前のエイプリルフールに気まぐれで書いた小説の供養です。
346プロダクションの双子系新アイドル!久川凪・颯姉妹!! 『miroir』特集!!
そうアオリ文句の書かれた雑誌をパラパラと捲り、流し読みをする。
バッチリとアイドルらしい可愛いいポーズを取る妹の颯と、バッチリアイドルらしからぬ奇抜なポーズを取る姉である凪の双子姉妹の写真と一緒に載せられたインタビューの記事、新人アイドルには破格の特集だろう。
まぁ、我が愚妹達ながら見てくれだけは一等良いからな。
ソファにぐでぇと寝そべって雑誌を読んでいた青年、久川嵐はそんな感想を抱きながら、チラリと視線を向かいのソファへと向ける。
そこにはムフフと何処で覚えたのかウザったいドヤ顔をしている雑誌と同じ顔が一つ。
春休みで帰省するなり嵐の元へ騷しくやって来て、自身の載った雑誌を自慢げに見せつけてきた双子の片割れ、妹の颯だった。
そんな颯に向けて、嵐はため息を吐く。
「はぁ……で?」
「初めて妹が雑誌に載ったんだよらーくん! 反応薄くないっ!?」
「だってこんな写真くらいなら俺のスマホにあるし……わざわざ見せてくるから何だと思ったら、反応欲しけりゃ水着特集でも持ってこいよ。なんの為の無乳の凪から吸い取ったバストだと思ってんだ」
「それセクハラだし! なーにも失礼だよ!!」
「ばっかお前、微笑ましい兄妹のコミュニケーションになんて事言いやがる」
「らーくんこそ何言ってるの!?」
うがーとツッコミを入れる颯。
凪と俺のおかげで元々ツッコミセンスは高かったが、上京してから尚の事ツッコミのキレが増している。流石天下の346プロ、日々のレッスンの成果が目に見えるな、嵐はそう関心した。
「ステイステイ、落ち着け」
「らーくんが変な事言うからでしょ!?」
「まぁそのなんだ、おめでとさん。お祝いに久川家自家製のネギをやろう」
「なんでソファの下からネギが出てくるの!? いらないよ! 毎月沢山寮に送られてくるし!」
「なに! ネギがいらないだと!? 凪はあんなに歓喜しているのに!?」
「それはなーだけだってば。もう! 普通に祝ってよねらーくん!!」
つーんとそっぽを向いて頬を膨らます颯、からかい過ぎて機嫌を損ねさせてたらしい。新人としてレッスン等で忙しい時期だろうに、わざわざ徳島まで帰ってきたのだ、機嫌を損ねさせたままでは忍びない。
これ以上怒らせないように嵐は話題を変え、先程から気になっていることを聞く事にした。
「ごめんごめん。でさ、凪の奴は何処に居るんだ? さっきから姿が見えないんだけど」
「な、なー? なーなら『徳島よ、私は帰ってきた』って言いながら駅に着くなり何処かに行っちゃったよ?」
「へー、まぁ凪だしな。ほっといたら勝手に帰ってくるだろう」
嵐にも颯にも完全に理解できぬ行動だが、その意味のわからない行動こそ凪の持ち味。
大人しそうな見た目に反して今まで行われた奇行は数知れず、超絶マイペース&ゴーイングマイウェイな性格をしている彼女の意図を理解しようとするのは、兄妹の二人にすら難しい。海賊王になると言って泳げもしないのに海に飛び込んだ事は懐かしい思い出だ。
そのため慣れては居るので、今更ちょっとやそっとの奇行じゃ騒いだりしないのだ。
「完全に猫だよなアイツ。行動パターンが読めない」
「はーからしたら、らーくんもなーも同じだけどね」
「何を言う、超完全模範人間の俺に。ネギ食らわすぞ」
「その異常なまでのネギ推しもそっくりだよ!?」
「久川の呼吸壱の型【ネギ】を知らんのか!」
「知らないよ!」
「ちなみに弐の型は【颯の如く】参の型は【嵐にしやがれ】だから。安心しとけ、仲間はずれじゃないぞ」
「そこの心配はしてないってば!!」
話題を変えても相変わらずふざける嵐に、颯は再び声を荒げるが、ふうっと深呼吸をすると何か企んだような笑みを浮かべた。
「らーくん知ってる? 今日はなんの日でしょうか!?」
「モチのロンよ。4月1日、児童福祉法記念日だろ?」
「そうかも知れないけどちっがーう! エイプリルフールだよ!」
「ほう、エイプリルフール。日本では四月馬鹿、しかし俺はエブリデイフール。誰が毎日馬鹿だ」
「何自分でボケて自分でツッコんでるの!? とにかく! 今日はエイプリルフールだよ! 普段から何かとらーくんには振り回されてばっかりだからね! 今日ははーが嘘でらーくんを翻弄してあげる!」
フンスと胸を張ってそう宣言する颯。本人に言っちゃ駄目だろと嵐は思いなが、胸を張った事で強調された、妹のたわわをじっとガン見、そして普段と微妙な違いがある事に気がついた。
「……なぁ颯、お前痩せた? 胸のサイズ落ちてない? 凪に吸われた?」
「なっ! らっらーくんっ!! そんなわけ無いでしょ!!」
「俺がお前等の身体的変化に気が付かない訳がないでしょ!」
「らーくんくんキモい!」
「グハっ! な、なるほど……エイプリルフールは始まってる訳だな?」
「いや、マジでキモいよ?」
真顔でそう言う颯、嵐はさめざめ泣いた。
「もう! らーくんがキモいのは何時もの事でしょ! ほら泣いてないで、エイプリルフール始めるよ!」
「いや、だからソレ本人に宣言したら駄目だろ」
「細かい事は気にしない! じゃあちょっと準備して来るから待っててね!」
絶対に脅かしてやると意気込みながら、一旦リビングから離脱する颯。
そんな妹の後ろ姿を見送りながら、アホだなーアイツと内心呟いた。今から嘘付くからと宣言されて驚く奴なんてそうそう居ない。
しかし、なんか知らないが張り切っているらしい、ここは兄として驚いた振りでもしてやるか。
「楽勝だぜ、HAHAHA!!」
完全にフラグだった。
◇
「こほん、お待たせしましたらーくん、いやお待たせしすぎたのかもしれません。徳山が産んだ美少女の姉、ネギ……間違えた凪です」
「いや、颯でしょお前。無理あるだろ、髪型変えただけじゃん。凪には無い神に与えられた二物が激しく自己主張してんじゃん。いや、めっちゃ似てるけど」
何時もの髪型を凪と同じツインテールに変え、無駄に高い完成度のモノマネを披露する颯。一瞬で気がついた嵐はツッコミを入れた。
「流石らーくん、お見事。シスコンの名は伊達じゃない」
「さすがも何も普通にバレるだろ。お前リビング出ていったの2分前だからな? 凪は新たなマンションポエム求めて放浪中なんだろうが」
「あちゃー、やっぱり無理かぁ」
「意気込んでた割には仕込み雑だな! いや、モノマネのクオリティは凝ってたか?」
一卵性の双子である颯と凪はそれはとても顔が似ている、その上いつも一緒に居るからモノマネの完成度も一級品だった。
「けどまぁ、そのくらいじゃ驚かねぇなぁ」
「ふふん、こんなのまだまだ序の口だよ?」
そう言って凪の格好のまま、向かいのソファに座る颯。次はどんな嘘をつくのだろうか、どうせ驚きはしないだろうから冷静に対象しよう、そう思いながら嵐は聞く姿勢を取った。
「今まで黙ってたんだけど……実はね」
「うん」
「なー……彼氏がい「おい何処の馬の骨だブチ殺し差し上げるからそのクズの名前と住所と電話番号&顔写真と交友関係を教えろ」反応がはやい! そして必死すぎるよ!!」
冷静になんて無理だった、先程までのけだるげな雰囲気はどこへやら、殺意剥き出しで颯に迫る嵐。
「我が家の天使に手ぇだそうなんぞ断固許さんわ! 親父と徒党組んで完全犯罪。明日の朝日は拝ませない!」
「そう言いながら釘バット素振りしないで! てか何処から出したの釘バット!?」
「高速リア充追尾式撲殺釘バット(野郎専用)、クズのタマ潰すまで俺が走って追尾するバーサクウェポンだ」
「嘘! 嘘だよ!! 殺意漏れ過ぎだよ!!?」
今にも外に向かおうとしている嵐を羽交い締めにしながら、颯はネタバラシをする。
「んだよ! 心臓に悪い嘘つくなよなぁ」
「はーからしたら、らーくんの反応の方が心臓に悪いよ!」
「ばっか、兄として当然の反応だろうがよ。千葉県の高坂さん家も比企谷さん家も同じ事言うわ。つまりは誰だってそうする、俺だってそうする」
「高坂さんに比企谷さんって誰!? 世間一般に絶対にその反応は間違ってるからね!?」
「勘違いしちゃだめだよ?」と颯に咎められる嵐だが、その表情は納得していない。
「颯も凪も俺の可愛いい妹なんだよ、心配くらいすんわ」
「ふ〜ん、そんなに取り乱す程なんだ」
「当たり前だぞ? 自分で言うのは何だか、お前ら二人が兄妹じゃなかったら二人同時に告って振られて泣いて自殺するくらいまであるぞ?」
「だかららーくんキモいよ!」
「HAHAHA我々の業界じゃご褒美じゃよ。コレが貴様の兄の愛だ、諦めて受け入れろ」
「まじキモい」
真顔で繰り出される純度120%の軽蔑。嵐の心はその名の通り大雨の嵐模様。
しくしくとわざとらしく泣く、相変わらずな兄の姿に颯は「はぁ」と溜め息を吐くと立ち上がって向いのソファ、嵐の隣に座り直した。
そしてコテンと、情けない兄に体を預ける。
「そんな気持ち悪いらーくんですけど……その、好き……ですよ?」
「……それエイプリルフールとか言わない? もしそうなら俺のハートがブレイキングするんだけれど」
「流石に言わないってば。午前中は嘘をついても良いけど、午後は本当の事言わないと行けないんだよ?」
頬に朱が差すいたずらっぽい笑顔で笑う颯。そんな全人類の理想の妹をしてみせた颯に、「俺の妹可愛いいマジ天使尊みが秀吉で泣かせて見せたわ兄トギス」と訳のわからぬ事を曰わりながら、嵐はマジ泣きする始末。
「あー、もう泣かないの」
「グスッ……もう大丈夫。ちょっと尊さで吐きそうなだけだから」
「吐かないでよ!?」
「愛が口から吐きでそう……なぁ、ちょっと抱きしめていい?」
「もう……いいよ?」
「え? 冗談だったんだけど……マジ?」
嵐がそう聞き返すと、んっ! と両手を広げて受け入れる体制の颯。
「……らーくん、はやく」
そしてトドメの一言。
あ……コレ俺明日死ぬわ。
妹のぬくもりに包まれながら、キャパシティの超えた嵐は意識を手放した。
◇
「…………寝てしまいましたね」
そう呟いた颯……いや、凪はホッと息を吐いた。なんと最初っからこの場に居たのは妹の颯ではなく、姉の凪だったのだ。
「はーちゃんに頼んで変装してみたのですが。なるほど、コレは中々に良いものだ」
そう言って、自身の膝で間抜けな寝顔を晒す兄の頬を凪は突く。
「当初の目的とは多少ズレましたが、甘えるのではなく、甘えられるのもアリアリのアリーデヴェルチですね」
凪はそう言って満足げに微笑んだ。
事の発端は凪が嵐不足を颯に訴えた事。
普段はこの様にフリーダムな言動が目立つ凪だが、実は兄妹に向ける愛情が人一倍強い女の子だったりする。
要するに、愛する妹の為に上京したのは良いけれど、今度は大好きなお兄ちゃんに会えなくて寂しくなってしまったのだ。
しかし、素の状態だとフリーダムな言動が邪魔をしてコントみたいになってしまう為、十分に兄に甘えられない。それはそれで良いのだが、嵐不足を訴えている凪にはそれじゃあ物足りなかった。
そんな事を恥を忍んで妹である颯に相談したところ、今回の双子の特性を活かした、エイプリルフール影武者大作戦が決行されたのだった。
「しかし、こうも上手く行くとは……流石は凪、演技派。これはアカデミー賞待ったなしか?」
ちなみに本物の颯は今何をしているのかと言うと、外で適当にショッピングをして時間を潰している。凪と違って颯は甘え上手なので、嵐には帰ってから沢山甘える予定である。
そのため今は凪のターン、カードを伏せてもターン続行。心ゆくまで枯渇した兄ニウムを補充していた。
「…………というか、胸には敏感に違和感を感じてましたね? 他は全く気が付かないのに、それは兄としてどうなのか? 愛してるとは口ばっかりですか?」
その事が気に要らない凪は、うりうりと頬を突きまくる。
「……な………………ぜ」
「おや?」
嵐が何か寝言を言い出したので、腹立つ程にもち肌な頬を突くのを中断して耳を澄ます。
「凪ぃ、それはダイオウグソクムシじゃない、パンデモニウムさんだぁ。捕まえて颯に見せようぜ」
「ふふっ、いったいどんな夢を見てるのでしょうか」
「へへっ……流石、愛してるぜ凪」
「………………本当、どんな夢を見てるのでしょうね」
そう呟く凪の顔は、不意打ちを食らって真っ赤に染まっていた。
まったく実の兄にこんな事言われて喜ぶなんて、こんな事が世間に知られたら私はりあむさんになってしまいます。歌って踊れるアイドルにはなっても、歌って踊れる本能寺にはなりたくありません。
しかし、ここには余計な事をつぶやくりあむさんも、ゆーこちゃん(母親)もはーちゃんも、居ない……凪とらーくんの二人っきり。これはこの溢れる愛しさに身を任せてもいいのでは? そんな事を思う凪。
「押すな押すなは、遠慮なく押せ。凪は東京で学びました。つまり、駄目だ駄目だは、オールオーケー? ちがうか? ちがくないな。うん、もーまんたい」
らーくん成分を補給しないと私は駄目になります、つまりこれは医療行為? ええ、医療行為です。そう自分に言い訳をする凪。
「……こちらこそあいらぶゆーですよ、らーくん」
そう言って桜の花びらが嵐の頬に優しく触れた。
◇
「お、凪おかえりー。ええ感じのマンションポエム思いついた?」
「いいえ、どうやら徳島のレベルが凪が居ないうちに落ちているようですね。やはりここはマンションポエムの申し子である凪が徳島を引っ張って行かないと、そう決心しました」
「おぉ、そうか。頑張ってくれ」
「はい」
「あ、そうそう。凪さぁ、今日何の日か知ってるよな?」
「モチのロンです、児童福祉法記念日ですよね?」
「うん、そうだね。エイプリルフールだね」
「見事なスルースキル。凪じゃなかったら見逃すところでした」
「アレって嘘はその日の内にバラさなきゃいけねぇんだろ?」
「そうですね」
「そかそか、じゃあ……」
「あいらぶゆーだよ凪。寝込み襲うとは、そなたやりてじゃな?」
「なっ!!」
徳島の兄は妹よりも一枚上手だった。
読んでくれた皆様、ありがとう御座います。
良かったら感想、高評価よろしくおねがいします。