魂を縛る魔法 作:首切り役人
断頭台のアウラ。
七崩賢と呼ばれる人類には再現不能の魔法を使う大魔族の一人。
彼等に匹敵する大魔族がいないわけではないが、その魔法の希少性は特にイメージが結果に直結する魔法使いにこそ強い効果を及ぼす。
アウラの使う魔法は『
人類の編み出した精神操作の魔法とは比べ物にならない強制力に永続性。死した肉体すら縛り続けるその魔法は、現状確認されている唯一の魂に干渉する魔法。
「是非教えてくれ、断頭台のアウラ」
そんな強力な魔法を持ちながら、勇者ヒンメル一行に敗れた過去を持つアウラはヒンメルの死後隠れ潜みながら部下と不死の軍勢を集めていた。
そんな彼女の元に現れたのは、一人の人間。アウラに遠く及ばぬまでも若い魔族の中では実力者である首切り役人と名付けた部下達を一方的に押さえつけた実力者。
「人間如きが、私の魔法を使えるとでも?」
「別にお前の魔法を使う気はない。ただ、魂に干渉する術が欲しいだけだ」
アウラは、支配の魔法を使わない。使えない……。
「この、卑怯者が…………」
手足を切り取られ、体外の血が凍り付くほどの冷気に覆われたリュグナーが忌々しそうに男を睨む。男は、魔法使いとして最低の行為をしていたからだ。
魔力の完全隠蔽、これは別にいい。魔族だって使う事はある。
だから、男が接近に気づかせず隠れ家に現れた事は、リーニエの魔力探知を搔い潜った事を驚きこそすれ怒る理由にはならない。
問題は、魔力を解放した後だ。明らかに魔法使いとして格下も格下。それこそ魔力探知を掻い潜るほど隠せたのは魔力が少ないからと誰もが思うほどに。
だが強かった。ほんの一瞬魔力が膨れ上がり、3人の首切り役人を戦闘不能にした。
血を操る魔法のリュグナーは手足を切られた後血が凍りつく冷気の結界に閉じ込められ、人間が無意識に流す体内の魔力を記憶し戦士の動きを模倣するリーニエは体内の魔力を乱す魔法を使われ動くことすらままならず、ドラートは普通にふっ飛ばされた。
全員生きてはいるが、それは向こうが加減したから。加減する程の実力があるということ。そして、あの程度の魔力の癖にこれだけの魔法を使って消費した様子はない。
つまり、本当はもっと魔力を持っている。そう思い改めて魔力を見れば、魔力制限している者特有のゆらぎがあった。
魔法を偽る、魔法使いとして最低の行為に魔法に対して誇り高い魔族であるリュグナーは怒りを覚えていた。
「………………」
「まあ、不安なのは解る。俺がお前より魔力を持っていたら、そう思うと魔法も使えないよな?」
眼の前の人間の、本当の魔力の総量がわからない。
500年生きる魔族である自分より上の存在がそうそう居るとは思えないが、ヒンメル一行の僧侶みたいに大した年月を生きてないくせに馬鹿みたいな魔力をした人間はいるにはいる。
「だが安心してくれ、さっきも言ったが、俺は魂に干渉する魔法を覚えたいだけなんだ」
「…………どうしてかしら?」
「不老の魔法も、半身吹っ飛んでも治せる治癒魔法も覚えた。だが死ねばそれまで………だから、魂の魔法、転生とかそういう魔法を覚えたいんだよ」
「……………そんなの出来るわけないじゃない」
死とは絶対。抗いようがない世界の法則。魔法はイメージであり、イメージ出来ないことは実現出来ない。
「貴方人を殺したことがあるでしょう?」
「魔族も魔物もね」
「なら、無理よ」
殺せば死ぬというイメージがあるのに、殺されても死なないイメージを持つ? 不可能だ。
「まあモノは試しだ。不可能だと断じて魔法の可能性を閉じることのほうが、俺にとっては馬鹿らしい」
「…………私が貴方に魔法を教えて、何の得があるのかしら」
「戦力が手に入る。この三匹より余っ程役に立つのは保証する」
と、転がっている2人と壁の向こうに吹き飛んだ際空いた穴を見る男。
「後、人類の魔法を教えてやるよ。一点特化の魔族はそこを潰されると弱いからな。特にあんたの魔法はこうして魔力の総量が解らない相手には使えないし、魔力を消費させようにも人形共を離されたらそれも出来ない」
現在彼等は結界の中に居る。アウラの不死の軍勢は結界を破ろうとしているが一向に壊れる気配がない。
魔族は自ら生み出した魔法を発展させていく傾向にある。例外が全くいないわけではないが、少なくとも若い魔族はその傾向が強い。
「ふざけるな、貴様のような卑怯者に…………」
「…………………」
アウラは目を細め男を見つめる。
確かに、アウラの魔法は相手が自分より魔力がある場合、魔力を消耗させる必要がある。
基本的には不死の軍勢をぶつけるのだが、こうして手を出されなくしては打つ手がない。
だが、信用出来ない。魔族は簡単だ、強い魔力を持つ者に従う。人間は違う。自分より強い相手にも平気で逆らう。
「なら、俺を支配していいぞ」
「…………はあ?」
「俺には魔法の効果を書き換える
「ちょっと………」
「だからこれを使おう」
と、男が指をふると二人の足元に魔法陣が現れた。
「
「…………それを信じろと?」
「魔力を隠す卑怯者の言う事なんて信じられないか。仕方ない、ならもう殺してから記憶を覗くしか」
500年の記憶を読み取るとなれば生半可な精神では耐えられない。まず間違いなく隙ができる。なら、記憶を取った後、解析が始まる前に殺すのがベスト。
「逆に、なんでそうしないのかしら?」
「500年の記憶を読む方が、魔族を生かすより余っ程やりやすいとは確かに思うがな。俺はお前達が好きなんだ」
「…………好き?」
人間の使う言葉だ。魔族もまあ、自分の魔法が好き………だとは思うが、良く理解出来ない概念だ。
知ってる事はある。人間は、好きなものを傷つけない。
「……………解ったわ。一先ず信じてあげる」
「アウラ様…………!」
「私からの条件は『私達に一切の不利になることをしないこと。それに対しての対価は私の魔法の効果の一部を教える』」
「俺からの条件は『反撃に関しては許可すること。それに対しての対価は人類の魔法を教える事』」
口にした条件が魔法陣に刻まれ、浮かび上がった魔法陣が小型化する。
「後はこれを何処かにくっつけろ。2人がくっつければ、契約は完了」
と、左手の甲に魔法陣を貼り付ける男。アウラも同様に、手袋を脱いで右手の甲に触れさせる。
バチリと一瞬だけ焼け付くような痛みと共に、魔法陣が体に刻まれた。
「よし、じゃあ早速
「…………はあ?」
「服従するという部分を書き換えれば、魂に干渉されることは変わらない。まずは魂の感覚を掴んでからだ」
「貴様は私が嫌いな天才だ」
「天才ですまない」
「…………………」
危害を加えた瞬間、殺されるという自覚があるリュグナーはやはり睨むだけだった。
「トーテ様………」
「ん、どうしたリーニエ」
「今日はリンゴタルトが食べたい」
「ああ、解った。ちょっと待ってろ…………ドラートは?」
「りんご取ろうとしたから壁に埋めた」
「…………そうか」
魔力制限しているトーテにリュグナーやドラートは不快感を覚えるが、リーニエはそうではないらしい。りんごをより美味しくしてくれる生き物と認識している。
襲ったところで食えないどころか殺されるような相手を餌と見るほど馬鹿でもないということだろう。
そういう意味ではドラートは、人間の魔法使いにいいようにされているくせにまだ自分は人間の魔法使いより強いと思っている。
「………アウラ様からお使いを頼まれている。私の姿を変えろ」
「ああ」
最近アウラは男女の物語が書かれた本を所望する。別段そういう行為に興味が出た訳では無い。ただ、トーテという人間をうまく扱う術を探しているのだ。
まあ物語には200年以上生きた魔法使いなど出て来ないが。
今はグラナト領と戦争しているのだったか…………まあ、結界を越えられないようだが。
「人間の俺に命じれば良いものを」
「人類のお前を、人の群に放り込む訳が無いだろう」
裏切りを警戒している。当たり前だ。
不利になることをしないという契約の魔法を使っているのはトーテ本人。何時こちらの情報が流されるか、解ったものではない。
「お前は天才を嫌い、俺からの魔法講義を受けず自分の魔法をこそ極めようとしてるが、俺はそんなお前が好きだぞ」
「なんだ、突然」
「俺は魔法が好きだ。200年しか生きてないが、古代の魔法の書を読むのが好きだ。どんな人が書いたのか、怖い人か、愉快な人か………だが、考えたところでそれは死者だ」
「…………………」
「だから俺は魔族が好きだ。必ず自分の魔法を持ってるからな…………まあ第一級魔法使いなんかも好きだが」
第一級………人間の魔法使いの組分けだったか、と思い出すリュグナー。
「私は、人間のランクで言うとどの程度だ?」
「第二級。まあ、相性次第では第一級も殺せるとは思うが………お前油断しがちだからなあ。今度、和平交渉で街に入って中から結界を解除させるんだったか? 死ぬなよ、リュグナー」
「誰に物を言っている」
少なくとも、あの街にはリュグナーを殺せるだけの存在は居ない。
あくまで、あの街には。
この世界にはリュグナー程度の魔族を殺せるやつなど幾らでも居る。
「久し振りだね、アウラ」
「そうね、80年ぶりかしら」
例えばそう、勇者一行の一人、フリーレンのような。
だが彼女はリュグナー達よりも、アウラを優先した。
七崩賢、勇者一行の魔法使い。因縁深い2人は人知れず対峙していた。
アウラはリュグナー達が結界を解除してからグラナト領に攻め込むつもりだったのだが、思いがけぬ強敵。だが、逃げない。
理由は慢心。自分のほうが格上だという自負。
それでも、全く無警戒ではない。トーテという魔力制限を行う人間の魔法使いを知っている。
彼は敢えてゆらぎを見せているが、その気になればアウラでも解らぬほどに隠せる事も知っている。
フリーレンが何歳かはしらないが、トーテより年上ならばトーテ以上の魔力制限を行える可能性もある。
「…………………」
一先ずは、魔力を消費させる。
不死の軍勢が一斉にフリーレンへと襲いかかった。
「…………あら」
フリーレンが魔法を発動すると死体にかけていた魂を縛る最強の支配の魔法が解除された。こんな事、初めてだ。
「驚いた……私の魔法を理解もせず、効果を消せるのね。でも、それって凄く魔力を消費するじゃない。どうして無駄なことをするの?」
80年前のようにまとめて吹き飛ばした方が魔力を消費せずに済む。だというのに、魔力の無駄遣い。それを自分の前で行うなど、愚かとしか言いようがない。
「後でヒンメルに怒られたんだよ」
「なら、益々こんな事する必要ないでしょう?」
「どうして?」
「ヒンメルはもういないじゃない」
既に死んだヒンメルに怒られる事もなく、パーティ内の不和を生むことを警戒する必要はない。なのに死者の言葉を今も気にするフリーレンを、アウラは理解出来ない。
「そうか、良かった」
フリーレンはアウラが理解しない事を、解りきっていたことだが改めて安堵する。
「やっぱりお前達魔族は化け物だ。容赦なく殺せる」
「それは無理よ」
「!!」
周囲の砂利が浮かび上がりフリーレンに襲いかかる。直ぐ様防御魔法を張るが、質量攻撃に僅かに亀裂が走った。
「驚いた、人類の魔法を使うんだね」
「貴方が私の魔法を解除できる以上、下手に突っ込ませても戦力を失うだけだもの。魔力消費の少ない魔法で、削り取ってあげる」
紫色の霧が発生し、蛇を型取り襲いかかって来る。魔法で出来た霧。当然防御魔法で防げるが、砂利と違いゾルトラークでは消せない。
「
「
毒霧の蛇が消えた途端、地面が槍のように盛り上がりフリーレンを貫こうとする。防御魔法で防ぎ、炎を放ち直ぐ様ゾルトラークを放つフリーレン。
アウラは防御魔法で防いだ。ゾルトラークを防ぐ魔法だ。
「服従させた死者から魔法を奪えるのか?」
「それを話す必要はあるかしら?」
再び砂利が浮かび上がる。攻撃魔法に対して高い有用性を誇る防御魔法は、逆に質量攻撃に対してはそこまで効果を発揮しない。
「今の時代の魔法使いとの戦い方だ」
感想待ってます