魂を縛る魔法   作:首切り役人

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皆色々言ってるけど、この世界はまだ出会って200年ぐらいしか経ってないのでそこまではしません。
一番共に過ごした時間でさえ800年ぐらいかかってるんだぜこいつ等


天秤異聞Ⅱ

 魔法はイメージの世界。イメージ出来ない事は実現出来ず、イメージさえ追い付けば大概の事は出来る。

 ただし、行えないことは行えない。

 時間は巻き戻せない、不可逆。魔法の発展とは無関係な世界の理を女神の魔法以外で実現叶わぬように、転移魔法で存在しない場所には転移できない。

 

「あ、やばい」

 

 トーテが天井を見上げ呟いた瞬間、光の柱に飲み込まれた。

 

「…………え」

「これは、人を殺す魔法(ゾルトラーク)だね」

「え、今のが…………」

 

 腐敗の賢老クヴァールが生み出した歴史上多くの人間を殺し、歴史で最も人同士の殺し合いに使用された、一般攻撃魔法。

 

 だがその威力も範囲も、フェルンが知るそれを遥かに凌駕していた。

 

「っ!! この魔力は…………ゼーリエ様!」

 

 そして外から感じる膨大な魔力。フリーレンの本来の魔力にすら匹敵する。

 

「いくら怒ってるからって貫通魔法はねえだろ…………とか言ってる場合じゃないな!」

 

 光の柱の中から無傷で現れたトーテは直ぐ様()()()()()()()()

 まるで水の中に飛び込むかのように沈み、魔力が消えた。というよりは、迷宮(ダンジョン)の魔力に紛れた。

 

「ん?」

「防御魔法?」

 

 瞬間、フリーレンやフェルン達を包み込む防御魔法。発動したのは本人達ではない。先程のゾルトラークと同じ魔力。ゼーリエだ………。

 

 

 

破滅の光を降らせる魔法。

 

 

 

 歴史的価値の高い遺跡でもある零落の王墓が、最奥の宝物ごと消し飛んだ。

 

「あっぶね」

 

 地面に潜った魔法………より厳密には魔力を含む大地と同化する魔法で迷宮(ダンジョン)と融合しダンジョンの外へ移動しようとしていたトーテは咄嗟に魔法を解いて防御魔法を張ったが、遅れていたら一回死んでた。

 

「うわあ、地獄かここは」

 

 赤熱化した大地。溶けて蒸発した高温の岩石蒸気が周囲に立ち込める。防御魔法の外に出たら人間など一瞬で消し炭になる。

 

 何だあの生き物。ああ、神話の時代から生きるエルフだった。とりあえず、この辺の環境を何とかしないと防御魔法から出た瞬間死ぬな。

 

終末の吹雪を起こす魔法。

 

 結界内が吹雪に包まれ、冷気と熱気が渦巻き水蒸気が周囲を白く染めた。

 

「腕は鈍ってないようだな、馬鹿弟子」

 

 先程の高熱の地獄と打って変わって肺すら凍る極寒の世界で、ゼーリエは堪えた様子もなくトーテを見据えた。

 

「加減ってもんを考えろよ」

「お前は一度死んでも死なんのだろう?」

「無実の魂が消費され消える事になるがな」

「魂が消える? 馬鹿を言うな、お前にそんな事が出来るか」

「……………………」

 

 トーテの望む不死の魔法の核となるのが魂の不滅性。死後の世界である魂の眠る地(オレオール)にてフランメと語り合った戦友、一度死してなお自我を残したトーテ。

 

「魂が消滅するなど、お前のイメージする世界にはあってはならんだろう?」

「………………」

 

 魂を対価にする魔法と名付けた魔法がある。聞けば魂というエネルギーを消費して魔法を放つように見えるが、要は死ぬだけだ。

 その『死』はストックした魂に押し付けられる。するとどうなるか? 魂の眠る地(オレオール)にでも行くんだろ、たぶん。

 

「そして、お前は殺しに躊躇いはないが擬似的な不死のためだけに身勝手に人を殺すような子でもない」

 

 つまりトーテが取り込んでいる魂はグラナト伯爵領でアウラが捕えていた魂と魔族の魂。増えているとしても盗賊野盗を殺して得た魂だろう。

 

 つまりこの戦いでトーテがいくら魂を使用しても彷徨う魂が成仏するか、屑の魂が地獄に落ちるだけ。なんの問題もない。

 

「流石我が師。俺をよく理解しているようで」

「百年以上の付き合いだというのに、この程度で感心とはな。我が弟子は薄情者のようだ」

 

 二人の背後に同時に現れる魔法陣。

 

空間を抉り取る球を出す魔法。

 

無限の質量をぶつける魔法。

 

 漆黒の球体が名前の通り空間を削り取りながら迫る。嘗てのゾルトラークのように防ぐ手段のない神代の魔法に対してトーテが行うのは、現代の防御魔法を正面からねじ伏せてみたいと生み出した新代の魔法。

 

 魔法では魔力消費を無視すれば無から物質を作れる。その術式構造を洗練させ極めた仮想の質量を打ち出す魔法。

 

 衝突の結果はあまりに静か。抉り取られた空間に質量を押し付けたのだが、プラマイ0。

 

「少し寒いな」

 

春の陽気にする魔法。

 

 凍えるような寒さだった結界内が暖かくなる。後少し良い匂いもした。花の香だ。

 

「師匠、これ俺が作った時くだらない魔法って言ってなかった?」

「言ったな。で?」

「…………………」

 

 こういう人だった。

 

「こんな魔法で良ければ好きなだけ作ればいい。だから、さっさと帰ってこい」

「え、やだ」

 

 ゾルトラークが飛んできた。

 

「私ならお前を魔法の高みへと連れて行ってやれる」

「それは興味深いが、そういうのはレルネンの小僧に頼めよ師匠」

「あの子はもう長くはない。あれだけの境地に立っておきながら、残念でならんな。人間の弟子など取るものではない」

「でも師匠寂しがり屋だから絶対取るだろ。てか取ってたじゃん、妹弟子ちゃんに会ったぞ」

 

万物を貫通する魔法。

 

 嘗てトーテが編み出したゾルトラーク以上の貫通性を誇る魔法が心臓を狙ってきた。

 ゾルトラークのような洗練さもない、相当な魔法の才能がなければ使えない魔法。

 

「だが、あの子でもお前の領域にはたどり着けない。お前程の才能はない」

「……………………」

「照れるな」

 

 あの子も魔法使いとしての才能は上澄みだと思うが、それより上と言われ照れるトーテ。

 

「そもそも魔族の女を連れて行った理由は何だ?」

「ん? ああ、愛」

「…………………」

「!?」

 

裁きの炎を降らせる魔法。

 

森を生み出す魔法+山火事を消し去る魔法。

 

 森を生み出し、同時に森が燃えるのを概念的に防ぐ魔法で火を消し去る。

 

「愛だと………馬鹿かお前は、魔族に愛を騙られ本気にしたか?」

「そこまで馬鹿じゃないさ。でも、人は愛するものを守ると理解して、俺から愛を得ようとするアウラは愛らしい」

「愛玩か…………愛を玩具にするとはよく言ったものだ」

 

 呆れたように目を細めるゼーリエ。普通に会話してるが、さっきの魔法は対応を間違えればトーテでも2、3回は死ぬ。

 トーテは内心このクソババア、と思ったが口に出したら三日三晩泣かされるので言葉を飲み込んだ。

 

「お前今私をクソババアだと思ったろう?」

「え、口に出た? あ、やべ」

 

陸地を海に沈める魔法。

 

 大量に降り注いだ海水が結界内の地面を鎮める。森が水流に砕かれ、かき回され、一瞬で消えた。

 

「ちい!」

 

海を龍に変える魔法。

 

「ふん」

 

海を氷河に変える魔法。

 

 船団すら飲み込む巨大な水の龍が一瞬で凍りついた。

 

「……………」

 

 素直に相手する気はない。水鏡の悪魔(シュピーゲル)を収納魔法で収納し、さっさと逃げるに限る。トーテは結界に触れた。

 

大体なんでも切る魔法(レイルザイデン)

 

「………………あん?」

 

 だが、切れない。千年続く結界すら切り裂いたトーテの魔法で傷一つつかない、というか、トーテの本能がこれを壁と認識していない。

 

「ただの最果てだ。存在しないものは切れまい」

 

 解析のために隙をさらしたトーテをゼーリエが踏みつける。氷の大地にめり込んだ。

 

 

 

「……人類の飛行魔法が出せる速度じゃないね」

 

 ゼーリエの飛行速度は人知を逸している。飛行魔法はもともと魔族の魔法術式。原理が解らぬまま使用しているから応用が利かないはずなのに。

 

「ゼーリエ様の特別製だ。弟子の一人が作ったと言っていたが…………」

「トーテの動きからして、トーテだろうね、本当に優秀な魔法使いだ」

 

 ゾルトラークと異なりいまだ解明されていない筈の魔族の魔法を改良するなんて、すごい魔法使いだ。フリーレンの素直な称賛に、フェルンはむすーと頬を膨らませた。

 

 

 

「世界を断絶させる魔法。文字通りここは世界の果てだ。お前の転移魔法も、あらゆる魔法も、そこより先に行けはしない」

「……………なるほど」

 

 トーテは異なる世界から訪れた転生者。されども、死して転生し、こちらの世界で新たな肉体を得た。肉体を持つ以上、世界を越えるイメージを持てない。というか魂だけになっても世界を渡れるイメージがない。なにせ何時の間にか転生していたのだから。

 

「それよりも、この結果は何だ。お前、確かに私を殺すイメージは持っていた筈だ。無論私とて、返り討ちにしてやるイメージは持っていたが………お気に入りのペットにかまけて魔法の鍛錬でも怠ったか、ん?」

 

 グリグリと踏みつける足に力を込めるゼーリエ。ご丁寧に身体強化まで使っている。

 

「俺の中にある魂が邪魔だな…………」

 

 眠らせているが本能の部分に僅かながら影響を与えていた。つまりゼーリエの膨大な魔力を見て本能的に恐れをなしたのだ。

 

「その辺も調整しないとな」

「次があると思っているのか?」

「ああ」

 

氷を柔らかくする魔法。

 

 ドプッとトーテの体が氷の中に沈み込む。溶けたわけではない。ゼーリエの足が半分ほど沈み、直ぐに硬度を取り戻した。

 

「往生際の………ちっ」

 

 炎を放とうとして、トーテの気配が氷の中に無いことに気付く。魔力は、上……!

 

「悪いね、ちょっと人質になってくれ」

 

 ゼンゼ達の入った防御魔法の中に転移したトーテ。ゼーリエの判断が一瞬だけ固まる。

 

破滅の光を降らせる魔法。

 

 意趣返しとばかりに放たれる光の雨。氷の大地を溶かし、その下の地面すら消し飛ばす。結界内が再び超高温の蒸気に覆われる。

 

 当たり前だが結界は存在しているし、ゼンゼ達を守る防御魔法は全て健在。念の為新しいのを張り直す必要はなかったな。

 

「えぇ……生きてる……」

 

 防御魔法をすり抜け灼熱の世界に出たトーテを見てフリーレンはドン引きした。

 

蒸気を操る魔法。

 

「おお…………」

 

 高温の蒸気が集まり、まるで太陽の様。あれ岩石蒸気にもいけたのか。いや、イメージさえできれば出来るか。

 

 あそこまで高圧に集められると内部で金とか生まれてるかもしれない。

 

「………少し髪が焦げたな」

「少しかよ」

「全くお前は………たかが200年で、ここまで育つか」

 

 すごく嬉しそう。自分と戦いが成立する魔法使いなど、久しくいなかったのだろう。

 

「だが、まだだ。もっと育て。そのために戻ってこい」

「俺はアウラを不老にはしないからさ、たかが数百年ぐらい待ってくんない?」

「断る」

 

 わがままババアめ。

 

「今私をわがままババアと思ったろ?」

「まさかまさか」

「生意気なクソガキめ…………そいつ等は邪魔だな」

 

 と、トーテが人質にしていたゼンゼ達が消えた。結界内の何処にも居ない。恐らくは、結界の外。

 それは良い。ゼーリエの魔法だ。ゼーリエなら結界の外にも干渉出来るだろう。問題は……

 

「転移魔法?」

 

 脳の構造、精神構造故に未だ人間には存在証明すら不可能な転移魔法。トーテが再構成した術式でも、人類には使用不可能。

 精神構造と歪な確信で行っている筈のそれを、ゼーリエも行っていた。

 

「最終的に必要なのは確信とは言え、あんな術式がよく発動するなんて思えるね師匠」

 

 制作者かつ使用者であるトーテですら、魔法使いとしての知識の部分でこの術式で発動しろとかふざけてんのかと思う。

 

「確かにな。これが魔族の魔法をそのまま流用していれば、私とて発動する確信は得られなかっただろう」

 

 だが、とトーテを指差すゼーリエ。

 

「お前は私の弟子だ。お前に出来て、私に出来ぬ道理はない」

「うわ、傲慢」

 

 そんな傲慢な確信であの魔法を発動できるのだから、やはりゼーリエはとんでもない魔法使いだ。

 

「で、次は何を見せてくれる?」

「……………」

 

 逃げるか。

 

魂を対価にする魔法。

 

「……ほう」

 

 所謂生贄を用いた魔法。全生命力を対価に魔力を生産。その死は他の魂に押し付ける。

 

世界を繋ぐ魔法。

 

 

 

 

 ゼーリエは世界を仕切る結界の中からトーテの魔力が消えたので、意味を失った結界を解除した。魔力を消したわけではない。結界を越えられる感覚は、確かにした。

 

「……………ああ、そこか」

 

 

 

「マジか」

 

 収納魔法という魔法使いの基礎とも言える魔法がある。杖などを収納する魔法だ。

 それは個人の空間であり、他人の収納した杖を取り出すのは………不可能とは言わないが普通は出来ない。

 

 トーテの扱うそれは、当然何重にも防護術式が存在し、トーテが()()()外界との繋がりを塞げば堅牢なシェルターとなる。それを、ゼーリエは正面から打ち破った。

 

「ぐえ!」

 

 空間を裂いて現れた小さな手に首を掴まれ引きずり出される。ついでに水鏡の悪魔(シュピーゲル)も壊された。

 

「一先ず、大人しくしてもらおう」

 

 ゼーリエは精神魔法も使える。目を合わせ、トーテの精神に触れ………

 

「悪いね師匠、魂を知覚した俺の方が、精神魔法に関しては師匠より上だ」

 

 ゼーリエがトーテから手を離す。トーテははぁ、と立ち上がりため息を吐いた。

 深淵を覗く時は深淵もまた覗いている、などという言葉があるように、精神魔法を使い相手の精神に触れれば当然、逆に支配される事もある。

 

「じゃあまた、千年後とか」

 

 トーテはその場から転移して姿を消した。

 

「……………ガキめ」

 

 ゼーリエはチッと舌打ちした。最後の最後で逃げられた。まあ油断したこちらのせいだが。

 下に見過ぎていた。生意気にも勝つイメージを構築しているとは言え、それでも魔法使いとしてはゼーリエが遥か格上という自負はあったが、精神魔法………もはや魂魄魔法と呼ぶべきそれはゼーリエの上をいく。

 

「だがなるほど、貴重な経験だ」

 

 トーテはあの時、ゼーリエの魂に触れた。

 ゼーリエは魂に触れられたのだ。魔法で………

 

「今のが魂の感覚か………なるほど、干渉できる魔法を編み出すのは、中々骨が折れそうだ」

 

 故にゼーリエは、魂の存在を朧気ながら掴んだ。

 トーテなりの謝罪の証だろう。後、ゼーリエの性格からして、解析中は安全とでも思ったか。

 

「千年もかかるか、馬鹿弟子め」

 

 とは言え、解析するまで見逃してやろうと思うあたり、ゼーリエはやはり弟子に甘いのだろう。

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