魂を縛る魔法   作:首切り役人

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後編

 500年。

 それだけ生きる魔族は珍しい。千年以上も昔のある時代の魔族はとある存在に殺し尽くされて、今の時代確認されているもっとも古い魔族は千年君臨した魔王。

 

 その魔王により戦争が起き、多くの人間と同様に魔族も死んだ。そんな戦争の中、生き残ってきたのが古き大魔族達だ。

 

 アウラは服従させる魔法(アゼリューゼ)を編み出した時点で、魔力の量を増やすことが主な鍛錬になった。恐らく数少ない同世代の中でも群を抜いた魔力量。より古き大魔族には敵わずとも、その膨大な魔力を攻撃に転用すれば成る程、確かに恐ろしい。

 

人を殺す魔法(ゾルトラーク)

魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)

 

 腐敗の賢老クヴァールが生み出した貫通魔法。あまりに洗練されていたため人類にも理解可能で、その有用性から取り入れられ今では一般攻撃魔法と呼ばれるに至った魔法はしかし専用の防御魔法が必要となる。

 

 フリーレンが対魔族に特化させたゾルトラークと、アウラの師にして弟子が魔族専用に改良したゾルトラークがぶつかり合う。

 

「…………………」

 

 魔力が減っているようには見えない。やはり、本当の魔力はもっと上か?

 

「もっと魔力制限の揺らぎを見る目を鍛えておくんだったわ」

「意外だね。魔族が、そんな戦法を前提にするなんて」

「変わり者を拾ったのよ」

 

 ある古き名無しの大魔族なら兎も角、まだ魔力制限特有の揺らぎをより注視しようと思い始めたのがここ数十年のアウラはフリーレンの魔力制限を見抜けない。

 

 だが、警戒している。

 思ったより厄介だ。フリーレンは内心毒づく。戦力を失うことを避けて魔法勝負になっているが、正直一度支配してしまえば魔力を必要としない不死の軍勢で攻められた方が厄介だ。

 

「………」

 

 地獄の業火を──

 

「!?」

 

 業火の魔法を放とうとして、止まる。アウラが不死の軍勢を自分の周りに配置したからだ。

 動きが固まるフリーレンに、アウラは残虐に笑う。

 

「そうね、少し勿体無いけど………ここで時間をかけるよりはマシね」

 

 再び動き出す不死の軍勢。それだけではなく、アウラ自身も魔法を放ってくる。

 アウラに攻撃すれば、不死の軍勢を傷つける。

 仕方ない………。

 

「ヒンメルに怒られるのは、やだからね」

 

 不死の軍勢を解放していく。魂を縛る特性上、既に首を斬り落として殺した不死の軍勢は再支配は出来ない。

 だから、削る。アウラが油断するまで。

 

 

 

 

(…………どうしたものかしら)

 

 フリーレンは本当に魔力制限をしているのか? していたら、今の魔力はどの程度か。

 いっそこのまま不死の軍勢で殺すのが一番確実。だが、アウラは魔族だった。

 

 合理的で、自分の生を優先する一方魔法に対して高いプライドを持つ生物。

 そんな魔族が魔法使い相手に自分が編み出した魔法を使わない? それはありえない。

 よほどの変わり者か、相手をかなりの格下とみている場合のみだ、そんな事があり得るのは。

 

 アウラはフリーレンを見下してはいる。死者の言葉を何時までも守る不合理、そのために自分の前で魔力を消費するという不用意。

 

 だが、フリーレンは魔王を殺したパーティの一人。七崩賢が、シュラハトが、クヴァールが従う魔王を討った存在。

 

 社会性の低い生物である魔族を従える方法は唯一つ。力で従わせること。解りやすく魔力の量……そして、魔法の強さ。

 

 魔王はその条件を満たしていた。ヒンメルが大いに貢献しただろうが、ヒンメル一人の力では決してない。あの規格外の戦士や僧侶は勿論、フリーレンだって魔王討伐の要因足り得るはず。

 

「……………なら、魔力制限なんて行えないぐらい、追い詰めればいい」

 

 花畑を出す魔法+花弁を刃に変える魔法(ジュベンラード)

 

 鋼鉄の強度を与えればそのまま刃物としても使えるであろう花弁をさらに鋭く硬質化させる魔法。魔法としては花弁と認識されているので、意識しなければ数枚は防護魔法を突破してくる集中力を削る魔法。

 

「……………」

「………?」

 

 フリーレンの魔力が一瞬揺らいだ? だが、これは感情的なゆらぎ。何かがフリーレンの琴線に触れたらしい。

 

「花畑を出す魔法か。お前たち魔族には無用なものだろ」

「そうね。これと組み合わせる魔法も、そこまであるわけでもないし。でも、あの子が気に入ってるのよ。薬草とか出せるって」

「魔族が薬草?」

 

 相手は人間なのだが、別に言う必要はないだろう。現状完全な信用こそしてないが、何時か支配した暁にはグラナト領のような結界が張られた場所に潜入させるのに使える手駒だからだ。

 

「…………………」

 

 支配しても殺さず使おうと思っているあたり、それなりの信頼をしているのだろう。相手は人間なのに……。

 

「それより、いいの?」

 

 刃と化した花弁の濁流。それを防ぐも、ひらりと舞い落ちる数枚の花弁。

 魔法はイメージの世界。防御魔法は攻撃を封じるもの。防御魔法は空気は通す。認識していない埃だってそうだろう。花弁も同様………。

 

「っ!!」

「!?」

 

 瞬間、アウラはその場から吹き飛ばされる。魔法の制御が乱れ、刃の花弁が風に流されていく。

 

「これ、は…………?」

 

 魔力を感じない。攻撃と認識出来ない。

 こんな手を隠していたのか。

 

「……………重力を増やす魔法(グラズビリア)

「!!」

 

 防御魔法を貫通してフリーレンが地面に叩きつけられる。肋が折れた。

 防御魔法をすり抜けた…………訳では無い。魔力は感じる。だが、干渉しているのはフリーレンではなく現象。

 

「いいでしょ、これ。魔力防御も効果がないの。代わりに、リヴァーレみたいなのには鍛錬法として使われると愚痴っていたわ」

 

 リヴァーレ。魔族の中でも高齢な将軍。

 身体強化で体そのものを強化するしか防ぐすべがないということか。

 

「…………………」

 

 地面に押し付けられたフリーレン。反撃は、ない。

 アウラはゾルトラークを放つ。

 

「…………はっ。打つ手がなくなったようね」

 

 顔のすぐ横を着弾したゾルトラーク。フリーレンは、反撃らしい反撃をしてこなかった。

 ならもう、奥の手など無いだろう。

 

 服従させる魔法(アゼリューゼ)

 

 アウラを七崩賢の地位へと導いた、絶対の魔法が発動する。

 

「ああ、ようやくか」

「……………は?」

 

 だが、それは悪手。

 天秤に現れた黒い光と白い光。二人の魂は、最初は間違いなくアウラに傾いていた。だが、フリーレンの方へと傾き始めた。

 

「お前がこのまま不死の軍勢と共に魔法を撃ってきたら、危なかったな」

「………わざと、反撃しなかったの? 馬鹿じゃないの、そんな………私が普通に貴方を殺すことも」

「お前達魔族が、私ぐらいの魔法使いに自分の魔法を見せないなんてある訳が無い。何より、私は以前お前と対峙してその魔法を見てないからね」

「────!!」

 

 フリーレンは魔力制御を行っている。その前提を持ちながらも、アウラは他の魔法で殺さず服従させる魔法(アゼリューゼ)を使うことを選んだ。

 

 何故なら彼女は大魔族だから。学んだ魔法も、服従させる魔法(アゼリューゼ)を成功させるための、相手の魔力を削る手段としか考えていなかった。

 

「私が魔力制限をしている前提があるなら、軍勢による物量とゾルトラークで押し潰せばよかったんだ」

「………ふざけるな、私は500年生きた大魔族だぞ」

 

 そのような戦い方、服従させる魔法(アゼリューゼ)を扱うアウラは………大概の魔族は行えない。行えるくせに、プライドが許さない。

 

「アウラ、お前の前にいるのは千年以上生きた魔法使いだ」

 

 フリーレンが魔力を解放する。傷だらけでありながら、それでも勝てないと思わせる膨大な魔力。天秤はフリーレンへと傾いた。

 

「“アウラ、自害しろ”」

 

 強い精神力を持つ者なら、わずかに抵抗出来るらしい。だが、生憎とアウラはそうではない。意思に反して動く体は、アウラがそうさせて来たように自らの腕で剣を首に添える。

 

「…………ありえない、この私が」

 

 その言葉を最後に、アウラという魔族の生涯は終わった。首を切られ、魔力の粒子となって消えていく。

 

「…………はあ」

 

 正直、危なかった。アウラが服従させる魔法(アゼリューゼ)に拘らず殺す事に専念していたら………。

 

「いや、後一匹居るのか」

 

 アウラに人類の魔法を授けた変わり者の魔族。あるいはアウラ以上の使い手。

 一度結界内に戻り傷を癒やすべきだが………。

 

 

 

蘇生させる魔法(オルフィアス)

 

「油断したな、アウラ」

「!?」

 

 突如現れた魔力。後ろから響く声。振り返り杖を構えたフリーレンは、その光景に目を見開く。

 

「あ、え…………わ、私…………」

 

 仮面を被った魔法使いと()()()()()()()()()()()()()。ありえない、今まさに魔力の粒子となって消えていったはずだ。

 

「…………お前は、人間か?」

「200年は生きてるけどね」

 

 魔力が揺らいでいる。だが、恐らくわざとだ。

 200年生きたと騙る魔法使いは、アウラの肩に手を置く。

 

「あ、トーテ………今、私………し、死ん………」

「ああ、俺が生き返らせた」

「……………ありえない」

 

 死者を蘇らせる魔法。そんなもの、おとぎ話の領域だ。そんな魔法が存在するなら、死の概念は無茶苦茶になる。

 

魂を縛る魔法(アゼリューゼ)

「!?」

 

 と、フリーレン達の周囲に浮かび上がる無数の光。それはアウラの天秤に乗った魂に似ている。

 トーテと呼ばれた男は自分の目の前に黒い魂を3つ持ってくる。グラナト領から来たようだが………恐らく、魔族の魂。

 

「…………無理だな。数分で不可能になるか」

 

魂を食らう魔法(ホロウグランテ)

 

 その魂全てがトーテに飲み込まれた。

 

「改良の余地あり。一先ず俺の中で眠れ」

「────!!」

 

 魔力が膨れ上がる。フリーレンやアウラを遥かに凌ぐ膨大な魔力奔流。

 

「行くぞアウラ。お前の負けだ…………不死の軍勢は、まあお前が死んだ時点で一度効果が切れてるしな」

「!!」

 

 咄嗟にゾルトラークを放つフリーレン。トーテは振り返ること無く防御魔法で防いだ。

 

大体なんでも切る魔法(レイルザイデン)

 

「────カフッ」

 

 肩口を切り裂かれる。肺の片方にまで達した深い傷。その場で膝をつくフリーレンは、後ろに振り返りその光景を見た。

 城壁も、フランメの結界も、街も雲も等しく斬られていた。

 

 フリーレンの防御魔法すら容易く刻んだ、超強力な魔法。どんなイメージを持てば、こんな魔法が実現出来るのか。

 

「じゃあなフリーレン。お前の物語は、どうぞ続けろ。だがこいつは俺のものだ」

 

 アウラとトーテの姿が消えた。魔力を探すも、周囲に反応はない。もっと深く探ろうとして、視界が歪み。

 ゴボッと口から血を吐き出し、その場に倒れた。暗くなっていく視界の端に、見覚えのある少女の姿が見えた。

 

 

 

 

 魔族にはれっきとした感情がある。

 圧倒的強者である魔王に従っているように、恐怖は知っている。怒りも覚えるし、悲しみだって解る。

 

 当然、死を経験したアウラはその恐怖に震えていた。

 トーテの隠れ家の一つで、部屋の隅で縮こまる。

 魔族とて生物なのだ。死は恐ろしい。そして、死を体験した魔族などアウラだけだろう。何せ普通は生き返らぬのだから。

 

 表現する言葉をアウラは持たない。というか、死んだ事も無い者たちには表現出来ない、あの恐怖。

 アウラはすっかり死の影に怯えていた。扉が開く音にビクリと身を震わせる。

 

「アウラ、そろそろ一週間だが…………大丈夫か? 飯を食えるか?」

 

 そう言ってトーテが出してきたのはりんごパイだ。魔族は別に人間しか食えないわけではない。それも食えるが、アウラはここ数日何も食べていない。

 

「…………大丈夫なわけ、無いじゃない…」

「………………」

「あの時、死んだ………私は死んだの!! そうでしょう!?」

「そうだね」

 

 掴みかかるアウラは、しかし直ぐに離れた。

 トーテの魔力は膨大。自分など直ぐに殺せる存在だと思い出したのだ。

 

「…………どうして、私を助けたの」

「ん?」

「不要でしょ、貴方はもう魂に干渉できる」

 

 元々の目的は果たした。だからこうしてアウラが復活した。その魔法の実験だったとしても、わざわざ助けずあの場に放置すればいい。

 

 理解出来ない。理解できないから怖い。眼の前の自分を何時でも殺せる存在が恐ろしい。

 

「俺はお前を愛してるからな」

「……………愛?」

 

 あい………愛?

 人間の概念だ。トーテを上手く扱うために学んだ本に書いてあったが、未だ理解できない概念。

 愛の為に守り、殺し、助け、奪い、殺し合い、狂い、救われ、救い…………その感情の結果様々な事が起きる最も難解な感情概念。

 

 だが、一つ解ることがあるとするなら…………人間は愛する者は愛している者を傷つけず、守るという習性があるということ。

 

「本当に、私を愛してるの…………」

「ああ。お前は?」

 

 そして、愛するものに求めるのは………

 

「私も! 私も、愛してるわ! 貴方を、愛してるの!!」

 

 愛される事。

 それがどういうものかは解らない。だからとりあえず言葉に出す。

 

「嘘つきめ」

「っ! あ、や………いや、違う。違うの、待って………あ、愛したいと思ってるの。知りたいと思ってるの、本当よ………!」

「別にいいよ」

 

 と、怯えるアウラを安心させるように頬に手を添えるトーテ。

 

「嘘だと知りながら、俺は君の愛を受け取ろう。何故なら君を愛してるからね………守るよ、この世のあらゆるものから」

「………………あっ」

 

 群れる生き物のボスが強いのは何故か。当然、力で支配するから。だが、決してそれだけではない。

 ライオンなどがいい例だろう。強いボスは、緊急時に群れを守る役目を背負う。つまりは、庇護されるため。

 

 フリーレンという命を狙う敵対者。

 魔王という支配者。

 魔王の命令のもと手を組む他の七崩賢。

 

 自分より強い存在は他にも居る。その一人が、自分を守るという安心感。自分の為に動くという優越感にアウラは笑みを浮かべトーテの手に触れる。

 

「…………愛してる」

「うん………」

 

 だからアウラは嘘をつく。その嘘で、少なくとも自分は眼の前の存在から危害を加えられないと確信したから。

 

「愛してる愛してる愛してる。愛してるわ、トーテ。 愛してるの」

「知ってるよ」

 

 意味など理解してないくせに愛を囁くアウラを、トーテは笑いながら見つめる。

 

「俺も愛してるよアウラ」

 

 アウラはトーテの首に手を回す。意味は知らない。だが、愛し合う者達が愛を確かめるために行うものだとは知っている。

 

 トーテも大人しく受け入れ、二人は唇を重ねた。

 

 

 

 

 善意のように清らかで悪意の様に悍ましく、砂糖菓子のように甘く苦丁茶の様に苦い。

 それのために人を救い、それの為に人を殺し、それの為に悪事を犯し、それの為に英雄になる。

 

 魔法よりも深く、人の魂を縛るもの…………人はそれを愛と呼んだ。

 

 

 


 

 

トーテ 種族 人間

主な使用魔法

成長する魔法

若返る魔法

致命傷を癒やす魔法

魂を縛る魔法

魂を食らう魔法

魂を対価にする魔法

蘇生させる魔法

 

 

 

200年生きる魔法使い。その正体は転生者であり、生前は事故で苦しみながら死に、フリーレンの世界に転生した。

原作は知らないが魔法はイメージの世界と師に教えられ、二度と死に脅かされない魔法を編み出そうとした。

しかし一度死んだ身のため死なないイメージが出来なかった。魂を理解し漸く死を別の魂に押し付ける魔法を開発。

実は五感にフィルターが入ったような感覚をしており、それが死の間際と重なりあまり生きてる実感が湧かなかった。

アウラに魂を触れられて初めて前世同様の感覚を覚え、以来アウラを欲していた。

取り込んだ魂から魔法や記憶を読み取れる。リーニエの魔法と合わせれば戦士の魂の技術も再現可能。

 

 

150年前ほどに魂の理解を深めるため、死者の経験を赤子に与える魔法を代々受け継いでいた戦士の里に向かいリヴァーレと出会う。

以来リヴァーレとの交友関係を持った。リヴァーレはトーテの境遇を知り、全力で今を楽しんで生きれば五感の未熟など関係ないとアドバイスしたがトーテは何いってんだこの脳筋と思ってる。

 

 

現在蘇生させる魔法は死体が消える魔族に対して死んで数秒の間しか効果を発揮しないが魂は回収してるのでリュグナーとリーニエは何時か蘇らせるつもり。ドラートは気分次第。

 

 

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