魂を縛る魔法   作:首切り役人

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魔道外伝

 事故だった。

 炎が腕を焼く感覚は、しかし妙にくすぐったくて、母だった肉の温もりは感じられない。

 先程まで激痛と絶望に叫び、しかし今はただぼんやりと思考が霞がかる。

 

 口の中に広がっていた鉄の味はもうしない。視界の色は褪せていき、輪郭はぼんやりと歪む。

 誰かいないかと探していた声は、耳に詰め物でもしたようにくぐもり鼻に付く血とガソリンと土の匂いは何時しか弱くなっていた。

 痛みはない。恐怖だけが残る。視界が失われるのが、音が消えるのが、匂いが無くなるのが、味を感じなくなるのが、痛みが終わるのが…………。

 

 何も感じなくなるのが怖くて………だけどその時はやってきた。

 

 

 

 

 そして、目覚めた。一瞬にも百年にも感じられた無の感覚。何も無いという地獄。

 そこを抜け出した彼は、トーテという新しい名と、幼い体を手に入れていた。

 

 転生………オタクと言うほどでも無くとも、アニメを好む彼の知識に存在するそれは、仏教における転生ではなく記憶を保持したまま新たな生を受ける作り話。

 それが現実となった事に困惑したが、また光と音がある世界を得たのは、彼にとって救いだった。

 

 だけどその世界は色が薄く輪郭は歪み、音はくぐもり、小さな傷なら気づけない程痛みに鈍く、匂いはあまり感じず、何を口にしても大量の水を一緒に口に含んだかのように味が薄い。

 

 水を使ったレンズを作ってみた。

 音はともかく、味や匂いの濃いものを作ってみた。

 だけど、感じにくい。ただ感覚が鈍いのではない。まるでフィルターがかかっているかのように、トーテの五感は、それこそ死に際の状態を固定化されたかのように正しく機能しない。世界を認識出来ない。

 

 或いはただの赤子なら、痛みに鈍い、目の悪い子供で済んだだろう。だが彼には成熟した精神があり、正しい五感の世界を知っていた。

 

 故に世界に触れられないという認識を持っていた。

 だから、魔法という技術に目をつけた。

 

 この世界には彼の世界の神話、伝承、作り話の如く魔法が存在した。本来開発、研究は禁忌とされ、魔法を操る者は魔族と呼ばれる技術として人々に恐れられていた。

 

 それでも魔法使いは細細と存在していた。トーテの母は、息子の異常な五感を直せないかと、ある魔女に相談し、トーテは彼女に魔法を教わりたいと言った。

 

 もとより世界に触れられないトーテは、不幸な事に魔法だのエルフ、ドワーフなんて作り話そのものの世界を無意識に見下していた。漫画や小説の主人公に憧れていても、紙の中の存在が自分と対等、格上などと思える人間はまず居ない。

 

 母親はそんなトーテを気味悪がっていたし、魔女はそんなトーテの精神性から生まれる魔法に興味を持った。

 

 

 

 

 トーテが最初に覚えた魔法は色付ける魔法。この世のあらゆるものに自由に色を付ける事ができる。

 中々愉快な魔法だが、トーテはそれを師の反応でしか性能を認識できなかった。

 

 続いて五感を強化する魔法を生み出した。魔法はイメージの世界。そして、トーテは正しい五感が感じる世界をイメージ出来る。だが、実現出来なかった。

 トーテの五感はあいも変わらずこの世界を認識出来ない。同じような格好をした人間が少し距離を取ったらどれが誰か見分けがつかない。魔力で判別するしかない。

 

 

 

 ただ、ある日トーテは五感を取り戻す方法を見つけた。死にかける事だ。

 魂が世界に対して剥き出しになるかのような、文字通りの死にかけ。その一瞬だけ、トーテはこの世界を正しく認識した。勿論、死にかけの自分が見せた単なる錯覚かもしれないし、もう一度試す気はない。死ぬのは怖いのだ。本当に、何よりも怖いのだ。

 

 それと、その日から魔女が余所余所しくなった。

 聞けば魔族に襲われ死にかけたトーテは咄嗟に触れたものを切る魔法を使った。本来それは魔族を斬るだけ………或いはその魔力に阻まれ斬ることも出来ない弱い魔法。

 

 だが、トーテは魔族を切り裂いた。後ろの木々も、山も、まるで一枚の絵を裂くように魔族を切り捨てた。

 世界の見方が違う。それは五感によるものと判断していた魔女は、その異質さを恐れ、持て余し、トーテの前から姿を消した。

 

 それでも傷を癒やしてくれたのは魔女なので、トーテは特に恨むこと無く魔法の研究を一人でする事にした。

 魔法はいい。魔法の効果、術式、発展性………それから人が見えてくる。もちろん、ただの想像でしかない。

 

 だがなぜこの魔法を作ったのだろう。この効果なら、きっとこんな場所に住んでいた。子供に使いやすくしてるから、ひょっとしたら子や孫がいるのかも、そんな風に想像して…………しかし魔女が集めた本は直ぐに読み終えた。

 

 魔法の研究がこっそり行われる今の時代、むしろここまで集めただけでも凄いのだ。

 

「…………………」

 

 もしその時代が、魔王が討たれる200年ほど前なら、本の数は今より多く、それを読んでいる間にトーテはとあるエルフにたどり着く。

 

 魔女の家から出た後、向かう道が反対だったなら、彼はそのエルフに偶然出会っていた。いや、この世界においても彼は出会う。ただ、順番が良くなかった。

 

 

 

 

 

「五感を操る魔法か…………」

 

 それは千年前の人類には使えない魔法。千年後の人類は精神魔法を覚えるが、それでもここまでの物は生まれないだろう。

 

 匂いを、音を、景色を、感触を、味を、全て正確に支配し術者の望む光景を見せるイメージを人類は持てないからだ。

 後の時代に生まれる記憶にすら干渉する大魔族の魔法には及ばぬまでも人知を超えた魔法。

 

「教えてくれ」

「………無駄だ。お前には使えない」

「無駄かどうかは試してから決める。幸いお前も俺も、時間などいくらでもあるんだ」

 

 死を恐れるトーテが真っ先に消し去ったのは老い。トーテは魔法を使わぬ限り年を取らない。魔族も長い時間を生きる。

 

「付き合ってもらうぞ」

「無駄なことに付き合わせるな」

 

 トーテは自分の五感が戻った世界に対して、これは偽物だと把握し打ち破った。それはつまり、無意識のうちにトーテは五感が戻らないと思ってしまっている。

 

「そう言うな。俺はお前と仲良くなりたいんだ。というか魔族と仲良くしたい」

 

 何せ人類の魔法は後で探せるが、魔族の魔法は一代限りの一期一会の魔法。人を食らう方法など幾らでもあるのに、何を思いどうしてそんな魔法にしたのか、興味が尽きない。

 

「無駄だ。魔族の考えなど、人類に理解出来るものか」

 

 唐突に聞こえてきた声と共に放たれた魔法。四肢を切り落とされていた魔族は消し飛んだ。

 

「山を切り裂く子供の魔族が出たと聞いて来てみれば、あの山を切ったのはお前か?」

「誰?」

「魔法使いだ、お前と同じな」

 

 見た目はトーテより少しだけ上の年齢に見えるが、魔女を遥かに超える膨大な魔力。それが、ここに現れるまで気付けなかった。

 

「お前、私の弟子になれ」

「え、嫌だ」

 

 

 

 

 しかし相手は遥かに格上の魔法使い。そのまま拘束され、彼女の住処に連れて行かれた。

 

「魔導書!」

「ああ、私は歴史に記されたほぼ全ての魔導書の知識を持っている」

 

 ヒャホーと飛び跳ねるトーテ。

 

「山を裂いたというお前にはそうだな、視界に映るものを斬る魔法など…………」

「ん、後でね」

 

 変な間取りを建てる魔法が記された本を読み出すトーテ。ゼーリエはヒョイと奪い取る。

 

「それは古代の魔法建築家が暇を持て余して作った魔法だ。人間の寿命は短い、もっと実用的な魔法を覚えろ」

「断る。まずは面白そうな魔法を覚えてからだ」

 

 ゼーリエが持ち上げた本に手を伸ばしピョンピョン跳ねるトーテ。結局ゼーリエは一つ戦闘用の魔法を覚えるごとに好きな魔導書を一つ読んでいいと言う契約をした。

 

 

 

 

 その後妹弟子が出来たりしたトーテは、人の魔法を後回しに魔族の魔法を研究する事にした。

 前世という死を超えた経験を持ち、世界がフィルター越しのようなトーテの精神性は術式を組み換え魔族の魔法を一部再現出来た。

 

 再現出来るなら一期一会のそちらを優先したい。ゼーリエの世話を妹弟子のフランメに任せて、旅立ったトーテ。

 

 魔族を捕らえ会話をし、魔法を学び、トーテ以外の人類は使用出来ない魔族の再現魔法を生む。人類の魔法には何の発展も与えない行為だ。

 

「…………そこにいるのは誰だ?」

「お前に自己紹介するのは、これで何度目だったかな」

 

 魔族と『お話し』していたトーテは魔力を隠した何者かに気付いた。それは魔族だった。妙な目をした魔族だ。

 魔族はエルフよりも短い寿命のはずだが、ゼーリエよりも長く時を見てきたかのような目をしている。

 

「魔王軍、全知のシュラハトだ。魔王様の副官をしている」

「全知?」

「俺の魔法は未来を見る」

「直接的戦闘能力は無さそうな魔法だが………」

「やりようは幾らでもあるさ。こうして会えたのは、運が良い」

「運が?」

「お前は異なる世界からこの世界に迷い込んだ。俺が見た数多の未来で、様々な時代に生まれる」

 

 つまり、未来を見れるというシュラハトにも、どの世界線か解らず居場所を予知しにくいと言うことだろう。

 しかし、未来を見るだけでトーテが異なる世界に住むと見抜く?

 

「師匠との会話を予知したか?」

 

 だとすると、自分は何時かゼーリエに転生したことを話すのだろうか?

 

「いいや、未来でお前から聞いた。お前は魔族と友人になる事があるからな」

「魔族と? 信用出来ない存在と?」

「魔族が魔族を信用し、友と呼んでいると思うか?」

「成る程、納得だ………しかし魔族と友人など、師匠に知られたら殺されそうだ」

「お前がゼーリエに殺されることはない。どの時代に生まれ、どのように出会おうとな」

 

 それは良い事を聞いた。

 

「それで、未来の友人。俺になんの用だ?」

「魔族と交友を結ぶお前に、魔王様が会いたがっている」

「何故?」

「これは何度もされた質問だが、お前は答えを知っていながら俺に聞く」

「…………人間と共存したいんだろ。知ってるよ。その結果がこれなんだから、面白いな」

「面白いのか?」

 

 トーテは首を傾げるシュラハトに対して笑みを浮かべた。面白がるかはともかく、それをおかしいと思っていないのは一応は人類であるトーテと魔族であるシュラハトの価値観の違い。やはりシュラハトは魔族だ。

 

「まあ未来の友達の頼みだし、俺も魔族を支配し続けている魔王には興味ある。ところで、喧嘩売ってきた魔族は持って帰ってもいいのか?」

「それが魔族と人類の理解に繋がるなら、魔王様も何も言わないだろう」

 

 

 

 

 北の果ての果てにある魔王城。

 思えば魔族という生き物の生態からして、王を名乗るのも城に住むのも、相当変わった存在だ。

 些か物語の影響を受けすぎたか。

 

「すごい魔法だった」

「そうか。あの方の友になってくれて感謝する」

「まあ俺にも得があるし、そもそもここまで来て断る選択肢なんてないだろ」

「珍しい魔法が見たいんだったな? なら、七崩賢が丁度いい」

「へえ、それはどこに居るんだ?」

「200年後に勧誘を始める」

 

 未来を見る存在らしい答えだ。ならそれまで今の魔族の魔法を学ぼう。

 トーテは魔法を学ぶに当たり自分の存在が魔族に知られるのを避けていたが、もうその必要もなくなった。

 

「しかし素直に教えてくれるかね」

「今までは敵だから教えてこなかっただけだ。考えてみろ、魔族が自分の魔法を自慢しないと思うか?」

 

 普通の魔族は自分の魔法のみを鍛えることを優先する。魔族は他の魔族の魔法に興味を持たないが、自分の魔法がすごいと見せつけたがっている者も多い。

 

「だが魔王軍には女神の魔法を使える者は居ない。一部は呪いを移す魔法を覚えてからにしろ」

「『呪い』の定義で対応出来る魔法か。師匠のは見たことがあるが、面倒くさそうなんだよな」

「お前は数年で、自分で開発しているぞ」

「すごいな未来の俺」

 

 なら早速作ってみようと案内された部屋に向かうトーテ。その日、魔王の客人だと知りながらも魔力の高い肉に誘われた魔族が17名石化し砕かれた。

 

 

 

 

 

「今日は魔王様とどのような話をしたんだ?」

「人類の魔法について。俺の妹弟子のおかげで魔法の研究も進んでな。みてくれ、その日一日タンスの角に小指をぶつけなくなる魔法だ」

「机の角は?」

「ぶつけるぞ」

 

 何だその魔法。

 

「だが魔王はこういう良く解らない魔法について知りたがる。解らないことが解れば人類を知れると思っているんだろう。俺もこれを作ったやつがどういう奴なのか知りたい」

「良く解らんな」

「それより、そろそろ七崩賢を探しに行くんだろ? 何故俺まで。俺は客人であって、魔王の部下ではない」

「七崩賢の内2人は、お前が別の時代に生まれていれば友になった。特に片方はそこそこ若い頃に知り合い囲っていた」

「へえ…………」

 

 聞けば魂に干渉する魔法。なるほど興味深いが、わざわざ人類を敵に回してまで囲うだろうか?

 

「まだ若いお前は、五感を受け入れられていなかった。五感を取り戻せる唯一の相手として欲しがったんだ」

「なるほど、確かに若い」

 

 400年。前世の時間を遥かに超えるほど永い時を生きて、トーテにとって嘗ての五感が見せた記憶そのものが色褪せた。

 まあ、だからといって今更世界の見方が変わるわけではないが。

 

「しかし面白いな俺は。聞けば聞くだけいろんな俺がいる」

「そうだな。見ていて飽きない……人類の言葉ではなんと言うんだったか」

「あー………なんだろな?」

 

 

 

 

 

「魔族と人間が一緒にいるなんて、珍しいじゃない」

「これが?」

「ああ。必要になるから殺すなよ」

 

 

 

 

 

 

「最近、魔王討伐を目指す者達を勇者と呼んでいると魔王と話していたら、ヒンメルとかいう名前が出てきた」

「ああ、魔王様を殺す勇者の名前だな」

 

 トーテは魔王が人類との共存の為に友として呼んだ人間だ。人間なので魔族からすれば肉が歩いているのと変わらない。そんな中で、魔王の他に友と呼べる一人がシュラハトだ。

 

 よく相談もする。今日はただの雑談だったが、思わぬ言葉に固まるトーテ。

 

「エルフか?」

 

 それこそ、トーテが今更どうこう出来る存在ではない長寿の存在なのかと問いかける。

 

「まだ生まれていない人間だ」

「? 勇者の剣の加護は、時空を超えるのか?」

「ヒンメルの持つ勇者の剣は形だけ似せたレプリカだ。そもそも、勇者の剣は世界を滅ぼす厄災と戦うための勇者の為の剣だ」

「ああ、そして魔物、魔族はそれを怖がるな」

 

 興味深い。一度解析しようとしたが、全くの無駄だった。光の届かぬ深海から空の動きを見ようとするような…………視点を変えれば結果を再現出来る魔族の魔法とはまるで異なる異質な魔法。

 

「七崩賢のも、再現は出来ないが理屈はなんとなくわかるのにな。あの剣なら魔王を倒せてもおかしくないと思ったが、持ってないの?」

「ただのレプリカだ。勇者ヒンメルが持てば、ベーゼの結界を欠けさせる」

「化け物か? だが人間なら、幼いうちに対処しておかないのか?」

「まだ生まれていないからな」

「益々殺せるじゃねえか」

 

 殺すどころか、存在させないことだって出来る。

 

「それでは駄目だ。何より、魔王様も会いたがっている」

「本当に人間が好きだな。俺よりも好きなんじゃないか」

 

 好きは好きでも好奇心だが。まあ、魔族の中であそこまで人間に歩みよろうとする魔族は魔王ぐらいだろう。

 

「歩み寄らず近付く魔族も居るがな」

「へえ」

「ついでにこの世界より五百年遅れて生まれた場合の、お前の妻だ」

「……………そうか」

 

 となると、人間の文化に興味を持つ魔族が気まぐれで人間と婚約でも結んでみたのか? だとしても、その世界線の自分はなんだって魔族と婚約なんか…………近くで魔族を観察できるからか。

 

「で、魔王の命令で勇者ヒンメルを生かし続けて、魔王が死ぬまで何もしないのか?」

「敗戦処理がある。そも七崩賢は、そのために集めた。千年後の魔族のためにな」

「それはまた、魔族らしくもない」

「そう思うよ。俺が死んだ後、幾つか任せたいこともある」

「俺がそれをやると思うか?」

「やるさ。勇者ヒンメルならそうする」

「へえ、じゃあ聞かせてくれよ、その勇者ヒンメルの物語を…………」

 

 

 

 

 基本的に魔族は人を殺す。腹が減ってなかろうが殺す。そこに疑問を持つことはない。だが七崩賢のマハトは、虚しさを感じていた。不毛だと思い、戦争の原因たる魔王を嫌ってすらいた。

 

 そのマハトが命令を受けて一つの村を滅ぼしてから、マハトが変わった。人に興味を持って、トーテに話しかけてくるようになった。

 その村に居た神父の言葉が原因らしい。

 

 名のしれた戦士や魔法使い、神父など居ない。英傑が存在しない村にわざわざ派遣された七崩賢が、魔王のように人に興味を持った。果たしてこれは偶然か………。

 

「マハちゃんは変わってるね、人間を知っても仲良くなれるとは限らないのに。だってトテちゃんはほら、こんなに美味しそう」

 

 勝手に遊びに来るトートはマハトの言葉を無意味な事だと切り捨てる。

 

「だが、トーテはこうして魔族と共に暮らしている」

「暮らしているだけだよ。トテちゃんが強いから食べられないだけで、私の“呪い”の完成を見たがってるから食べたがってる私を殺さないだけだもん」

 

 初対面の時、名前が似てるね〜と笑いかけたトートはしかし思っていたのは食べようとしたら殺されるな、であり、普通に食べようとした。

 その後魔王の客人であることを思い出し、二重に殺されるかと思ったものだ。

 

「まあそういう意味では共にあれるかもしれないが、ただ一緒にいるだけで共存とは言えねーな。強いて言うなら、共生?」

「人間は自分を食べる生き物とずっといられるの?」

「食べない、殺さない、それが保証されるならな。だが、何故それだけで共にいられるのか、わからないだろ?」

 

 こんな質問、そもそもされる理由すらわからないのが魔族だ。

 

「うん」

「ああ。それを知りたい」

「無理だな。魚が鳥に空の飛び方を聞くようなものだぞ」

「鳥の中には空飛んでるくせに泳いで魚を捕まえるのもいるらしいけどね。トテちゃんはそんな感じだよね」

 

 魔族に人類は理解出来ないし、人類だって魔族を理解できない筈なのに一部を理解し、魔族の魔法を扱い、偶に魔族を殺す。成る程、言い得て妙だ。

 

「魔族と人類は解りあえないと?」

「永遠に無理とは言わねえよ。魔族だって、元は意味もわからず言葉を真似する魔物が祖先だ。今ではその時その言葉と言う理由は解らずとも、言う言葉と意味はわかるわけだし。つまり進化を続けて………」

「難しそうな話だから、私帰るね」

 

 トートはマイペースにそう言って帰った。

 

 

 

「魔族が人類と分かり合えるまで、どれだけの世代交代が必要だ?」

「さてね。まあ、ただでさえ寿命の長い魔族だ………のんびり融和を目指せば、その間に人類が滅ぼされるかもしれんな」

「なら、世代交代の早い人類を選別するのはどうだ?」

「その果てにあるのは魔王と変わらぬ戦争だよマハト。お前が望む結果は得られない」

 

 だがマハトは、それでも人間を理解する方法を探すと魔王城を離れた。人間を理解するために、より多くの人間を殺すのだろう。

 

 

 

 

「七崩賢を集めた目的を果たす時が来た。南の勇者を殺す」

 

 と、シュラハト。

 

「ひいてはお前との会話もこれで最後だ」

「そうか、寂しくなるね」

「後は任せた」

「……………………」

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルが二人目の七崩賢を討ち、魔王城に向かってくる。

 

「じゃあ、俺はもう行く」

 

 1000年近く連れ添った友ではあるが、命を懸けたりはしない。そもそれは向こうも同じ。互いに利用価値があったから友になった。

 

 シュラハト曰く、トーテは様々な時代に現れる可能性があり、魔族を研究し、その過程で魔族と過ごすことが多いと聞く。きっと今の魔王との関係のようなものなのだろう。

 

「嬉しそうだな? 勇者ヒンメルに会えるのがそんなに楽しみだったのか?」

 

 自分を殺す相手なのに。魔王はしかしその言葉を肯定した。

 

 何処に行くか………シュラハトの言う敗戦処理を邪魔しないよう、場所は選ばねば。

 そんな風に考えていると、魔王が指摘してくる。何故そんな事を気にするのか、と。確かに魔族の未来などトーテにはあまり関係ない。

 

「…………勇者ヒンメルなら、そうするから?」

 

 これからヒンメルに殺される魔王は、その言葉に笑う。

 

「良い最期を、魔王」

「さらばだ、友よ」

 

 

 

 

 

「それで、お前は千年も魔族共と共にいたと?」

「ああ。やはり魔族はいい。様々な魔法と一期一会だ」

「よくもまあ、それを私の前で口に出して言うものだ」

「友達が言っていた。ゼーリエは俺を殺さないと」

 

 その友とやらも魔族だろうに、信じたと言うなら灸を据えねばならん。

 

「魔族の言葉なんて友だろうと信じる気はないが、ゼーリエなら信じるに値するしな」

「……………………」

 

 だからその言葉に、はぁとため息を吐くゼーリエ。

 

「…………千年だ」

「ん?」

「1000年近く勝手に彷徨った罰だ。向こう千年、自由があると思うな」

「1000年か………楽しければ早いんだがな」

「それはお前次第だ。千年後にはフランメの弟子にも会わせてやる。フランメを覚えているか?」

「覚えてるよ。師匠が魔法の知識を誰でも触れられるようにしてるのは、どうせあの子の望みだろう。この花畑も、あの子が好きだった魔法だ」

 

 逆にゼーリエは無意味な魔法だと嫌っていたくせに、とは口に出さない。

 

「人類の魔法も増えた。これからも増えるだろう。まずは戦闘用の魔法から学んでいけ。ゾルトラークは知ってるな?」

「開発者が友達だ」

「………………………」

 

 


 

 

ソリテールやマハトもその言葉を使っていることから、魔族にも友という概念はあるらしい。

ただしトーテと魔族達における友という関係はあくまで殺し合わず、会話をするという関係。

トーテは偶に街に訪れて基本的には魔王城に引きこもってるので人類に名を知られていない。

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