魂を縛る魔法 作:首切り役人
「そうだ、零落の王墓に向かおう」
「………は?」
トーテは取り込んだ魂の内3つ、首切り役人を復活させる魔法はないかと200年の生で集めた書物を読み漁り、一つ当たりをつける。
「人の記憶を読み取り忠実な再現体を作り出す神話時代の魔物がいる。その魔法を解析すれば器が作れるはずだ」
「あの子達を復活させてどうするの?」
仮にも自分に仕え、殺された存在が蘇るかもしれないと聞いても、アウラに喜びの感情はなく、寧ろ不満………いや、不安が見て取れる。
トーテの愛が分けられるのを恐れているのだろう。
「私、ちゃんと貴方を愛してみせるわ」
「魅力的だが、俺はそこまで夢見がちじゃない」
遠い未来なら、魔族の性質も変化しているかもしれないが、少なくとも今の魔族、ましてや500年前から生きる大魔族に愛が芽生えると思える程、トーテは魔族に対して無知ではない。
「でも、私………ちゃんと学んで」
そもそもアウラはトーテを愛する気などない。ただ愛という、他者を優先する理解不能な感情を向けてほしいだけ。その為に愛するふりをして、こうしてそれを信じないと言われると不安になり愛を騙る。
「愛してるの。本当よ、貴方が私を愛してくれるから……」
「俺も愛してるよアウラ」
だから愛を語れば安堵する。コロコロ変わる表情も、魂に触れているアウラだから感じ取れる。
この世で唯一正しく認識できる存在。たとえゼーリエにも、壊させる気はない。
「それはそれとして、彼奴等は蘇らせるがな。蘇生の魔法は兎も角、不死の魔法はまだ完成してない」
あくまで死んだ際、別の魂をあの世に送ることで自身の死を無かったことにする魔法。結局はストックが必要な不完全な不死だ。
「死んで時間がたった奴を生き返らせたという経験は、不死の魔法のイメージ構築に役立つだろう」
「………………」
「それに前回みたいに蘇生が間に合わなくても、後で蘇生できるようになる」
「それは…………」
まあ、相変わらず不老の魔法を他者にかけるのは無理だから、何時かはアウラも寿命で死ぬのだろうが。
まあ魔族だから1000年近くは生きるだろう。
「それに忠実な複製を作る神代の魔法、この機会を逃したら二度と出会えないかもしれん!!」
トーテは魔法が好きなので、不死の魔法の開発というのも嘘ではないがまだ見ぬ神代の魔法にもとても興味がある。
一級魔法使いの試験。魔法使いを管理する大陸魔法協会の定める階級。その頂点である一級魔法使いになるための試験に挑むフリーレンとフェルン。
北部高原を渡るためには一級魔法使いの同行が必要なのだ。
第一次試験を突破したフェルン達は第二次試験である零落の王墓という
本来ならそれだけの試験。ただし、そこに異物が紛れ込んだ。
「…………ん?」
遺跡に訪れたトーテはダンジョンに存在する複数の魔力に首を傾げる。未踏破のこのダンジョンは、危険だから立ち入りを制限されていたはず。
「まあ良いか。サンプルが増えるのは良い事だ」
と、遺跡の中に入るトーテ。早速自身の精神防御に何かが触れる感覚。
魂を理解し魔法に組み込めるトーテは、精神魔法に関してなら神代から生きるゼーリエにも劣るつもりはない。
「俺との戦いも面白いかもしれんな。ま、それは後だ」
黒い魂を取り出し、魔法を発動するトーテ。周囲の魔力が集まり、人のような形を取る。
「あ、あれ…………俺は」
「気分はどうだ、ドラート」
「トーテ? 俺は、あの魔法使いに………!」
「あ、時間だな」
「は? …………!?」
何を言ってる、そう尋ねようとしてドラートの体が崩れていく。まるで魔族や魔物が死して消滅するかのように。
「な、何だ!? トーテ、助け………!!」
完全に崩れて消えた。残った魂を再び回収して迷宮の奥へと歩きだす。
「死んだ時の記憶は消しておいたほうが良さそうだな」
背後から魔力を消していた何者かが現れるが、トーテはすぐさま壁を動かす壁にし同時に防御魔法を張る。
「………ん? この術式、視界に依存した拘束魔法か」
魔力の操作も阻害するようだが、膨大な魔力が解放されればこの程度の魔法阻める。問題は、そうなれば魔力を探知されるということ。
「あまり見つかりたくはないんだよな」
遺跡の壁の破片で誰かの複製体を破壊し、奥へと目指すトーテ。叶うなら
「……………………なんだ?」
一級魔法使いゼンゼは、ふと虚空を見つめ呟いた。ヴィアベル二級魔法使いの複製体の気配が消えた。いや、魔力を隠すぐらいなら出来るだろうし、沢山の魔法使いや同数の複製体を同時に把握出来るとは言わない。
言わないが………。
「どうかしたの?」
「………?」
「フェルン」
「はい……」
「君から見て、ヴィアベル二級魔法使いは………容易く勝てる相手か?」
ヴィアベルと交戦経験のあるフェルンに尋ねるゼンゼ。フェルンは不思議そうな顔をしながらも、取り敢えず応えた。
「無理ですね。正面からの戦いなら、やりようはあるかもしれませんが……」
魔力を隠した奇襲、視界に収めるだけで発動可能な拘束魔法。魔法勝負ではなく殺す為の戦い方は、魔法使いとしての実力は関係ない。
フェルンが見たところ魔法使いとしての実力が上のエーレよりも強いらしいし。
「後あの人犬蹴ってそうです」
「……………人を見かけで判断するものじゃないよフェルン」
「でも平気で人を殺そうとします」
「どうかな……それで言うなら、私はヴィアベル二級魔法使いよりユーベルの方が恐ろしい」
「ヴィアベル様とお知り合いなのですか?」
「………どうだったかな」
言葉を濁すゼンゼ。と、不意にフリーレンが振り返って杖を構えた。
「…………………」
「フリーレン様?」
「う〜ん………おかしいな。これって、どういうことだろう?」
フェルンの疑問に答えず、フリーレンも疑問を口にしながら曲がり角を見る。
「フェルン、防御」
フェルンは直ぐ様防御魔法を全面展開する。フリーレンは魔力を集中して掴み取る。
「これは………糸?」
曲がり角から現れたのは、角の生えた少年。服も肌も目も髪も、何もかもが灰色の魔族。
「魔族だと…………?」
ゼンゼは髪の毛で糸を絡め取りながら、その糸を切ろうとするが、切れない。
「魔族の魔法でも随一の硬さだってさ」
「なるほど、確かに私の魔法では切れそうにないな」
その言葉を理解したのか、或いは理解せずとも糸を絡めた時点で勝ちを確信したのか背中を向け糸を引く魔族の少年。ゼンゼの体が糸で釣り上げられる。
「だが、それだけだな」
ゼンゼの髪が蠢き、鋭い刃となって糸を持つ腕を切り落とし、そのまま首を捩じ切った。
「やっぱりこの魔族、アウラの部下だ」
「アウラ? 逃亡した断頭台のアウラか?」
「うん。殺したはずだけど………幻覚じゃないよね? 侵入者の記憶を読み取って再現するにしても、この程度の魔族を出すとも思えないけどな」
それこそクヴァールやアウラ、フリーレンがかつて敗れた11人の魔法使いの誰かを再現されたら危なかった。
「そうだ。そもそもここは記憶を読み取っても、複製するのは侵入者の筈」
「どういうことですか?」
「…………まあ、どうせすぐに分かることか」
試験のヒントになると返答に迷っていたゼンゼは仕方ないというように応えた。
「この迷宮で現れる複製体は、本人の筈だよ。見た目がよく似た魔族が侵入したのだろう」
「魔法まで同じ?」
「………………」
「私はね、死んだ魔族を生き返らせる事の出来る魔法使いを知っている。そいつは、その時は出来ないって言ってたけど、魔法は常に進化するものだ」
「トーテ様が、この迷宮に…………?」
仮面の魔族。表向きには正体不明とされるその魔族は、一級魔法使い達には情報を開示されている。
曰く、不老の魔法を編み出した不滅の魔法使いトーテ。200年生きる、ゼーリエも認めた最も才能に溢れた弟子。
「…………確かか?」
「うん。どうするの?」
理不尽な逆境を乗り越えてこその一級魔法使い。だが、トーテは理不尽が過ぎる。
「………試験は中止にするべきか」
「じゃあ、他の皆を探そうか」
ゼンゼの言葉に早速皆の魔力を探知するフリーレン。トーテの魔力を探るが、やはり見つからない。相当うまく隠している。恐らくは複製体も。
「ドラートがやられたが。能無しめ」
仕方ないのでもう一度復活させる。
「…………? お、おい、さっきのはなんだ!?」
「死んだ魔族が魔力の粒子になるのは当たり前だろ?」
「死ん………? あ、おれ………」
再び崩れた。だが、新しく作られた複製体を見つけた。他の魔法使いに消される前にそちらに向かう。
「お、いた」
伸びてきた糸を掴み、千切るとドラートの魂を取り出しドラートの複製体に押し込む。さて、どうなるか。
「うあああ!? あ、あれ…………」
「…………よし、崩れてないな」
「な、何だこの体…………」
自分の体が黒いことに気付き困惑するドラートを無視して、早速解析を始める。
どうやら遺跡から出したら消えるらしい。原点範囲内の記憶を読み取り作る。リアルタイムでないと情報を得られない。実にシステム的な魔物だ。
「次は性能を見たい。丁度いい、あれと戦え」
と、トーテが指さした方向にはサイドテールの少女の姿をした複製体が居た。魔法の性能だけで言えば、彼女はドラートを超える物は持ってなさそうだが………。
「命令するな!」
と言いつつも五指から糸を放ち腕を振るうドラート。腕の動きに合わせ動き、石壁を切り裂きながら迫る。
結果は、ドラートの糸が切り裂かれた。
「……………は?」
「
「ど、どういうことだ!?」
「魔法はイメージの世界だからな。切る魔法で、切れると思えば切れる」
尤も、普通の魔法使いならドラートの糸を見れば並の魔法では切れないなど直ぐに解る。複製体を解析した結果、心の動きも精密に真似しているようだが、あの少女は中々面白い精神構造をしている。
魔法の発展には無関係な、精神面での対応。トーテがゼーリエに最も愚かな弟子と言われる所以と同じだ。
「ふざけるな! そんなわけ!!」
「あ………」
「え?」
複製体を襲ったからか、異分子と判断されたドラートの複製体が崩れる。直ぐに魂を回収。どうやら、この魔法は自分で習得する必要がある。
まあ、初めからそのつもりだったが。
取り敢えず本体のもとに向かおう。4名ほど魔法使いが居るがこちらは無視。フリーレンの複製体は………。
「…………………」
襲いかかってきた少女の斬撃を受け止め、逆に切り裂く。ドラートの複製体と合わせて、その崩れ方を見つめていく。
「問題ない」
「………む?」
最深部前の広間に陣取ったフリーレン複製体。試験でなければ逃げ出したい最悪の敵が、突然土塊になって崩れ落ちた。
「………何が起こった」
道中出会った複製体の死に方ではない。明らかに何らかの魔法を受けた。だが、どこから? 術者は誰だ?
「はい、ちょっと通るよ」
「「「!?」」」
声が響く。その場の誰もが接近を気付けなかったが、直ぐ様臨戦態勢を取る。
「ほう………一人見覚えがあるな。宮廷魔法使いのデンケンか。叩き上げだとは聞いていたが今の反応。中々どうして燃えているな」
感心感心、と仮面をつけた少年は笑う。
少年、なのか? 姿を見られた瞬間顕にした魔力はあまりに膨大。角でもあれば即座に大魔族と判断した。或いはエルフの耳でも持っていれば………。
「ん? おいお前、俺を見て何を思ってる」
「えっと………小さくてかわいいな、って」
「……………………」
仮面の少年は仮面の青年になった。メトーデは残念そうにあぁ、と声を漏らす。何だこの女、やべえ。
「まあ俺が用があるのはこの先なんだ。ちょっと通るぞ」
「お主は、何者じゃ」
「魔法研究が好きな生きたがり。ある魔法の研究のために、この奥にいる魔物に用があるんだ。他の宝はいらん。好きにしろ」
全員で戦っても、勝ち目が見えない。それでも戦う方法を一瞬でも考えたデンケンに、仮面の青年は顔を向けた。
「………ああ、そうか。今の時期に、魔法使いだけのこの状況。一級魔法使いの試験………お前は合格できるぞ、ゼーリエが気に入る」
「…………知り合いなのか?」
「弟子だよ。勝手に出奔したね」
と、不意に青年に向かい放たれる高出力のゾルトラーク。
青年は見向きもせずに防いだ。
「やっぱり…………久し振りだね、トーテ」
「フリーレンか。そうでもないだろ」
「…………それもそっか」
たった一年。長命種のエルフにとっても、不老の魔法使いにとっても大した時間ではない。
「悪いが試験は中止だ」
と、ゼンゼがデンケン達に告げる。
「俺がゼーリエの弟子と知ってたな。誰だ?」
「妹弟子だよ。兄弟子殿」
「そうか、師匠の……怒ってた?」
「…………まあ」
「だよな。お前が試験監督か。試験は中止しなくていい。目的のものは手に入れた」
と、トーテの手の中には何時の間にか、菱形の無機物のような魔物が居た。
「これが欲しかったんだ。もう帰る」
「ゼーリエ様は、貴方を捕えるとおっしゃった」
「妹弟子ちゃん…………お前程度が挑むなら、徒党を組めと忠告されなかったか?」
ゼンゼが髪を無数の刃物に変えて襲いかかる。幾重にも魔法が編み込まれた髪。髪の束を動かす、なんて単純な動きではなく、一本一本正確に操っている。
魔法をかけた上で、それを精密に操れるイメージ。だが………
「斬られるイメージを持ってるな?」
あっさりと、編み込まれた魔法ごと髪が切られる。
「良くないな妹弟子ちゃん。相手がどれだけのイメージを持とうと、君自身が切られるイメージを持ったら」
「…………っ!!」
「短い髪も似合ってるぞ。射程を考えればある程度伸ばせるのだろうが………まあイメージ補強のために伸ばすのは必要か」
と、トーテは収納魔法で収納していた魔導書を一冊取り出す。
「髪を伸ばす魔法だ。受け取ると良い」
それは妹弟子に対するトーテなりの好意の表し方。つまり、自分を襲ってきたゼンゼを微塵たりとも脅威と判断していない。
「トーテ」
「何だ、フリーレン」
「それもう一冊ある?」
「……………」
本を写本する魔法。
「ほれ」
「ん」
「……………フリーレン様」
トーテから本を受け取ったフリーレンに、フェルンは責めるような目を向けた。
「うん。トーテ、やっぱり私は君と戦いたくないな。強いのもあるけど、トーテから悪意を感じないんだよね。あの時の斬撃も、私や街の人を殺さないよう気を使ったでしょ?」
「殺す事に躊躇いはないよ」
「そんなの私だって同じだ。でも、だからといって殺したいわけでもないでしょ?」
「…………………」
「アウラは何処? あれは生かしておけない。案内してくれたら、ゼーリエには私も怒らないように頼んでみるから」
アウラは生かしておけない。あれは人類の敵である魔族の中でも特に脅威となる。魔族は人を殺す。腹が減れば、腹が減らなくても、理由が無くても殺す。
その中でアウラは進んで人を殺すタイプの魔族だ。
「アウラは臆病だから、お前が生きてる間はもう人前に出る事はないぞ? ヒンメルでもそうだった」
「そういい切れる? あれは魔族だ。魔法を作り変えて、魔力が上の君も支配するかも」
「逆に疑問なんだが、魔力制限という騙しがあったとは言え
自分の魔法が無効化されるとか、効果を塗り替える、などなら兎も角アウラの魔法はあの日あの時正しく発動し、その上でアウラは敗れた。
己の編み出した魔法による、魔力の差が多いほうが支配するという何処までも公平な結果によって。
「アウラは人を襲わないよ。それだけで俺に守ってもらえるのに、わざわざそんな無駄なことをするものか」
何故ならアウラは魔族だから。
「じゃ、そういう事で」
と、転移の魔法を使おうとするトーテ。だが…………
「…………ん?」
発動しない。失敗した。実におかしなことに、指定した座標が存在しない。わけが解らない。奈落に飲まれようが山が生えてこようが、空間座標は世界が壊れない限りそこにあるはず。
世界を断絶させる魔法。
零落の王墓を包みこんだ結界。その上空で、一人の魔法使いが浮かんでいた。
「これほど近くに来ておきながら、挨拶もなしとは。私に気付かれないとでも思っていたか?」
だとしたら、勝手に出ていった事も含めてしっかり教育し直さなければならない。
「覚悟しろ馬鹿弟子。今日は拳骨程度ではすまさんぞ」