低俗スクランブル   作:かげのかげたろう

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(家賃が払えないので)初投稿です。


2/お持ち帰りが全て不健全な訳ではない。

 

 お持ち帰り成功。てってれー。

 

「何か飲むか?今日は酒の貯蓄があるぞ」

 

「本当?アタシ何でも飲めるから全部持ってきてよ」

 

「順番にな」

 

 躊躇無くベッドに腰掛けるその地雷女は、我が家かのように寛ぎ始めている。まるで家主かのように俺にそう言う彼女は、まだほろ酔い程度なのか酒を催促するようにばんばんとベッドを叩く。おいやめろ埃が立つだろうが。

 冷蔵庫からビールを二缶手に持ち、一つを手渡す。笑顔で受け取る地雷女は酒が好きなようで、手に持った瞬間にウキウキな様子が弾むように見える。

 かしゅ、と互いに缶を開ける。

 

「じゃ、乾杯」

 

「かんぱーい!」

 

 かん、とビール缶を打ち鳴らしてそのまま口元へ。居酒屋の一杯目と、家の中の一缶目は等しく美味く感じるのは何故だろう。

 ぐびぐびと喉を鳴らして嚥下し、その爽やかな苦味と喉越しを楽しむ。キンキンに冷えたその黄金飲料は恐ろしい程に美味く、次の二口目を体が求めているのが細胞の沸騰具合で分かる。

 では二口目を……と口元に運びかけて、かしゅり、と缶を握り潰す音が聞こえてその手を止める。

 

「……早くないか?」

 

「え?こんなの普通だよー?おかわり!」

 

「普通……そうか、普通か……」

 

 一口目で全部飲み干すのが普通なのか。そうか、地雷女の中ではそうなのだろう。もう一缶を冷蔵庫から持ってきて、手渡す。

 ふと先日、新刊の原稿をきっちりデッドラインギリギリで出した祝いとして、編集さんから感謝として貢物を幾つか貰ったのを思い出す。

 『これでどうか次は締切を守って下さい、いやマジで』と割と死んだ目で言っていたのを思い出す。結構良い物を貰ったし、次は真のデッドライン前くらいには出すとしよう。つまみは何処に仕舞ったのだったか、思い出そうとした瞬間にかしゅり、と再び缶を握り潰す音が聞こえる。

 

「おかわり!」

 

「なん……だと……?」

 

「ビールって美味しいね、やっぱり」

 

「そんな水みたいに飲む物じゃないぞ、ビールは」

 

「えぇ?度数も低いし水みたいな物じゃん」

 

「バグってんのか頭」

 

「普通だよ普通、仕事でもいっぱい飲むし」

 

「何だ、キャバ嬢か何か?」

 

「んーん、コンカフェ」

 

「ほう、コンカフェ」

 

「あれ、興味ある?」

 

「かなり」

 

 少しテンションが上がりながら、この調子でビールが消えてしまう事を懸念して、編集さんの貢物の一つである日本酒をドンと机に持ち出す。お猪口、は無いからコップでいいか。

 自分で入れろよ、と瓶とコップを置いてまた冷蔵庫を漁る。ふむ、つまみは……ミミガー?何でミミガーがあるんだ。ヤニカスが買ってきたか?

 取り敢えずこれでいいか。ストックしてある割り箸二膳とミミガーを持っていくと、地雷女はコップに並々に日本酒を注いでいた。俺の分も。

 

「日本酒ってこんなにギリギリまで注ぐものだったか?」

 

「お酒は多ければ多い程嬉しいじゃん」

 

「まあそうだけども」

 

「そうでしょ。……何でミミガー?」

 

「分からん」

 

「謎チョイス。美味しいからいいけど」

 

「美味しいからええやろ」

 

 座って、日本酒を一口。フルーティーな味わいが広がって、甘さと酒気が脳を浸す。ビールとはまた違う、濃い酒精の味。

 ほ、と一息吐いてしまう。その美味しさは日本酒特有のもので、ストロング缶のガツンとしたアルコールとは違う優しい味わいが幸福感をもたらす。

 地雷女も、先程の勢いとは違って味わいながら飲んでいるようだ。日本酒はゆっくり飲むのか。

 

「で、お仕事の話は詳しく聞いていいの?」

 

「んー、いいよ」

 

 目線が左に逸れるのを尻目に、煙草を咥える。

 

「では何のコスプレをしているのでしょうか」

 

「色んなの。基本はサキュバスなんだけどさ」

 

「サキュバス!??」

 

「え、声でかっ」

 

「なしてそげなすけべやねんばい……!」

 

「何処の訛りなのそれ……」

 

「母国の訛りが、つい」

 

「興奮しすぎでしょ」

 

「お前、だってサキュバスだろ。ふざけんなよ、サキュバス。ありがとうございます」

 

「えー、どういたしまして?」

 

 けらけらと笑う地雷女。俺は既に平身低頭でこの神様に頭が上がらない。

 ありがたやありがたや、と掌を擦り合わせてありがたがっていると、こん、とコップを置いた音と同時に笑い声が止まる。

 急に気配が変、と首を傾げる。

 

「……?どうした」

 

「………………」

 

 無言の後、「ねえ」と声を掛けられる。

 

「此処ってさ、何階?」

 

「二階だが」

 

「じゃあベランダに何か飼ってる訳でも無い?」

 

「ああ」

 

「じゃあさ」

 

「あ?」

 

 顔を上げて、地雷女の顔を見る。真顔だった。先ほどまでの酔っていた楽しそうな状態とは全く異なる、まるで素面のような。

 

 

 

 「其処に人が居る訳無いよね」

 

 

 

 ガタッ。

 その声に反応するように、小さい物音が外からする。

 視線はベランダ側の窓。つられて、俺もそちらへ視線を向け。

 誰かと目が合う。

 

 

 

 ガタッ!!!

 

 

 

 窓を揺らすように、まるで拳をぶつけたかのように窓が震えた。微かに見えたのは、瞳孔が開いた誰かの瞳。次の瞬間にはその瞳は硝子の奥から消えて、物音と共に遠ざかるのが聞こえた。

 

「「…………」」

 

 顔を見合わせる。恐らく同じような表情をしているだろうと思えば、ソイツは何故だかバツが悪そうな顔をしていた。まるで、何か心当たりがあるような。

 ……いや、ふむ。ティンと来た。コイツか。

 

「……おい」

 

「はい」

 

 煙草を咥える。火を点ける。立ち上がる。

 

「お前さ、今の知ってるだろ」

 

「……知らないよ、誰かなんて」

 

「個人情報以外には心当たりがあるって事だな?」

 

「……まあ、ねぇ?」

 

 近くにしゃがみ込む。煙を面の良い顔面に吹き掛ける。視線を逸らされる。

 

「お前面倒事に巻き込んだな!?」

 

「違うもんナンパしてきたのはそっちじゃん!」

 

 ブンブンと首を振る女に詰め寄って声を荒げれば、逆ギレのように声を荒げ返される。なんでキレてんだテメェ。

 

「なんかあるかなーとは思ったけどこう言うのは違うんだよ!ドロドロしてるじゃん多分コレェ!」

 

「ドロドロしてないよ!なんかちょっと最近ストーカーされてるだけで!」

 

「充分ドロドロだろうが!何なら俺が血みどろになる未来見えるだろうが!」

 

「無いって多分!ストーカーに其処までの行動力ある訳無いじゃんかぁ!」

 

「無闇矢鱈に人を追い掛け回す人種に無い訳ねぇだろうが!」

 

「もし刺されたりとかしたらごめんね!お酌してあげるから!ほら!コップ出して!」

 

「お酌で俺が満足するか!」

 

 コップを出す。注がれる。一口。

 

「で、ストーカーはいつから?」

 

「落ち着き過ぎでしょ……」

 

「酒と煙草と顔の良い女さえあれば俺は満足する。良かったな、お前の顔が良くて」

 

「それは良かった本当に」

 

 地雷女は自身のコップにも酒を注ぎ、エンジンを回し直すかのようにグイッと一口煽り、深い溜息を吐く。

 

「……一ヶ月前とかかな、何と無く見られてるかもって思ったのは」

 

「コンカフェの客?」

 

「だと思う、けど心当たりあり過ぎて誰か分かんない」

 

「罪な女かよ」

 

「ほら、アタシ可愛いから。あと色恋営業紛いなのも良くないかもね」

 

「まあ。要素は多いよな」

 

「で、まあ色々飲み歩いたりして誰かぐらいは分からないかなーって割と毎日居酒屋ハシゴとかしてたんだけど」

 

「肝臓さんを休ませろよ」

 

「なんか今日つい飲み過ぎじゃって?そしたらなんか男の人に声掛けられたからついに来たかーなんて思ってたんだけど」

 

 ぴと、と視線を向けられる。

 

「お客さんでもない知らん奴でさ」

 

「釣り針に引っ掛かったのがイケメンで悪かったな」

 

「タイプじゃない」

 

「は?全人類俺の顔は好きだろ」

 

「そのクソ強い自尊心なに?」

 

 互いに一口。

 

「なんかナンパされたなーって思ったけど、男連れてたら何かアクションあるかな、って思ってさ」

 

「お前俺を釣り餌にしようとしたの?」

 

「うん」

 

「うんじゃねぇ」

 

「でも釣れちゃったからさ、見事に」

 

「二階に登ってくるくらいには釣れちゃってましたけども」

 

 かこん、と空になったグラスをまた置く地雷女。そして向けられる瞳は一握りの申し訳無さそうな感情と、大部分の小悪魔的な表情で。

 

「おっと、持病の耳が何も聞こえなくなる病が」

 

「ねえ」

 

 俺の求めている楽しいトラブルじゃないと仔細を聞かされた俺はその先を聞かまいと両手で耳を塞ごうとして、両手首を掴まれる。

 顔が近づいた。思わず息が詰まり、その揺れる瞳と目が合う。

 既に酔いは覚めたのか、顔の赤みは消え去っていた。

 

「アタシの彼氏役、なってくれない?」

 

 甘い匂いが鼻腔を、縋るような声が耳朶を打つ。

 可愛い女の子の、甘えるようなそんなお願い。

 思わず頷いてしまいそうだ。だが、如何に俺の好みのタイプといえど、こんな下手すれば血みどろな事件に発展しそうなトラブルにうんと頷く訳が───

 

「何でも好きなコスプレしてあげるからさ」

 

「俺はストーカー絶対許さないマン!美少女が困っているなら包丁を出してこようが助けるぜ!」

 

「ちょっろ」

 

 ───ありますねぇ!ありますあります!報酬があるなら話は別ですとも!

 どばりとコップに日本酒を注いで、ついでにお酌してがぱりと一口。いやあ!その報酬は胸が高鳴ります!

 いやー!乗り気じゃないんだけどなー!困ってる人は放っておけないからなー!全く不本意なんだけどなー!

 

 

 

 ────かくして、第四部『恐怖!コンカフェ嬢とドキドキストーカー事件!』の幕が開かれたのだった。続きはCMの後。

 




「カス」
・トラブルは嫌いじゃないけどいざこざは好きじゃない。

「地雷少女」
・ガチ恋量産コンカフェ嬢。
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