低俗スクランブル   作:かげのかげたろう

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初投稿です。


6/大天使降臨

 

 『Butterfly Dream』のイかれたメンバーを紹介するぜ!

 

 まずはこの店の店長にして、ナンバーワンガチ恋ドスケベサキュバス、『クロエ』ちゃん!

 そのお淑やかな振る舞いや態度とは反する、淫猥で淫蕩なサキュバスフェロモンとボディに全客がメロメロ!

 あまりのすけべさに、全俺が泣いた!

 

「……ねえ」

 

 次に、この店随一の酒カスヤクザにして、甘ったるい声と顔しか取り柄の無いサキュバス、『アオイ』ちゃん!

 コイツは……ああ、コイツはいいや。

 

「……ねえってば」

 

 次いで!この店の古参にして、最もツンデレサキュバスとして接客、もとい君臨するつるぺたサキュバス『アカネちゃん』!

 ぶっきらぼうな態度とは裏腹に、会話の心地よいレスポンスや垣間見える面倒見の良さや優しさが関わる人間全てを魅了する最強のサキュバス!

 サキュバスという仮面を外したこの子がどんな顔をするのか、私、気になります!

 

「……あのー、もしもし?」

 

 そして────!

 

「もしもしってば」

 

「ボクっ娘あざといギャンカワサキュバスのシロエちゃんどうしたの?親への挨拶ならいつでもいいよ」

 

「えぇー?なんすかその呼び方。あと挨拶はしません」

 

 俺の目の前に居るのは、今日担当してくれるシロエちゃんというあざとい系サキュバスだ。

 白髪で片目を隠して、十字架のピアスがチラリと揺れるその地雷風味の可愛さには悶絶ものだが、彼女を肴にして煙草を吸いハイボールを味わう事でどうにか妙な言動を口走る事を抑えている。

 ふう。

 

「取り敢えずどれくらい貢いだら耳かきしてくれるのかな」

 

「八那由多っすね」

 

「強欲なとこも好き……」

 

「あはは、センパイ私の事好きすぎー」

 

 メロメロ!!!!!!!!!!

 

「ああいやじゃなくて、どうしたの。なんか呼んでたけど」

 

「だってセンパイ、煙草吸った瞬間なんでかフリーズしてて。毛玉吐くのかと思いましたよ」

 

「シロエちゃんの猫になれるならいつだって毛玉の一つや二つは吐くけど」

 

「はは、要らないっす」

 

「あー、好き……」

 

「なんなんすかほんとそれ」

 

「顔がいいの……」

 

 そうか、これが、恋……。

 

「言葉じゃなくて酒を寄越して下さい。私まだ全然飲んでないっす」

 

「いいよ何でも飲みなよクレカはここにあるから」

 

「やったー、ありがとうセンパイ大好きー」

 

「うっひょー!」

 

「何やってんの…………」

 

 変なテンションで居たせいで、グラスを拭き拭きしているアカネちゃんが冷たい目線で俺を見てくれる。

 昨日の今日でお金持ちのイケメンから、様子のおかしいイケメンにランクアップしてしまった俺を祝福してくれているのだろうか。

 ああ、ビバ、サキュバス。

 

「ああごめん、紹介するねアカネちゃん。俺のお嫁さんのシロエちゃんだよ」

 

「違うっす」

 

「もう、照れちゃって。まだ自覚が足りないのかな」

 

「全然違うっす」

 

「可愛いなあ、本当。食べていい?」

 

「アカネちゃん、この人って変なモノやってないっすよね?」

 

「やってない筈……え、やってないよね?」

 

「シロエちゃんがヤクに相当するヤベー可愛さであるから、まあやってはいるかも」

 

「そろそろ戻って」

 

「俺はいつも通りだ」

 

「昨日より変だって言ってるの」

 

 けらけらと変な人っすねーと笑うシロエちゃんはやはり可愛らしく、昨今で見たお嫁さんにしたいランキング堂々の一位を掻っ攫っていった。やはり派手髪メンヘラ系美少女は世界を救う。

 いつの間にか根元まで燃えていた煙草を灰皿は押し潰し、新しく煙草を吸い直す。

 ……ふむ、俺は変な事を口走ってしまっていたような。

 

「ごめんごめん、取り乱した」

 

「取り乱し方がやべーすね」

 

「そう?照れるなあ」

 

「褒めてないっす」

 

「知ってる。嬉しいよ」

 

「アカネちゃんやっぱりまだ壊れてるっす」

 

「叩けば治るかな」

 

 衝撃!閃光!ニコチン!

 

「…………え、なに?」

 

「何はこっちなんだけど」

 

「ご褒美をくれるくらいまだ貢いでないよ」

 

「やっぱ鈍器が良かったすかねー?」

 

「ごめんなさい、冗談がわかるサキュバスに囲まれていたいです」

 

「囲まれる願望が出てる時点でそれなりにきもいすけどね」

 

 そんな褒めないでくれよ。思いながら、何故か五つ並んでいるテキーラを見ない振りをししつつアカネちゃんに目線を向ける。

 

「今日も話してくれるの?アカネちゃん」

 

「まあ、暇だし」

 

「すね」

 

「全く、他の奴らは何をしとるか。サキュバスに貢ぐ気合いが足りない」

 

「今日は大雨だから仕方ないんじゃないの」

 

「来る方がおかしいくらいの大雨っす」

 

「まるで俺がおかしいみたいな言い方じゃないか」

 

「そう言ってるけど」

 

「なんと」

 

 驚いてみる。……しかし、今日は確かに客足の遠のく陰鬱とした気分になる程の大雨だ。

 こんな中、サキュバスに貢ぎたいとえっほえっほとやってくるのは相当なサキュバス狂いかただの頭のおかしい奴かだろう。

 ざあざあとやたらと大きく聞こえる雨音を屋内から遠く耳にしながら、ハイボールを一口。

 

「てか、今日は二人なんだね」

 

「今日はこんな大雨だからね、店長が前もって連絡してたの。皆休んで、なんなら休業にしてもいいよって」

 

「じゃあ何故二人は此処に?」

 

「私は、まあやる事も無いし」

 

「ボクは雨の時にだけ出勤するレアキャラっすからねえ」

 

「シロエちゃんに至ってはそれどういう事なんだ」

 

「クロエとそういう契約結んでるっすから」

 

「訳が分からないかも」

 

「この店立てた時にそういう契約にしたんすよ、裏方は私で表はそっちって」

 

「え、もしかして古参サキュバス……?」

 

「そうっすよー。良きにはからえー」

 

 今日は驚く事が多いのかもしれない、といつの間にかカシスオレンジを手にニコニコしているシロエちゃんを眺めながら思う。

 雨の多さと、この一ヶ月間で一度も見た事の無い激カワ大天使級サキュバスの出現と、立ち位置的に裏ボスな登場と。

 雨の憂鬱とした気分が晴れそうだ。なんなら既に晴れているまである。

 

「てか古参超えて開店メンバーなんだ」

 

「すね。ほぼほぼクロエに巻き込まれた形になるっすけど」

 

「巻き込まれた?」

 

「いやほら、アイツ女の子好きじゃないっすか。てかレズじゃないすか」

 

「そうなの?」

 

「ハイ」

 

「そうよ。知らなかったの?」

 

「女の子を見る目が少し熱が籠っているな、とは思ったけれど」

 

「熱と言うか恋情と言うか性欲と言うか」

 

「中々やらしい目で見てくるわよ、店長」

 

「ええ。じゃあ俺、玉の輿狙えないって事……?」

 

「まあ。クレイジーサイコレズなんで」

 

「何その聞いた事の無い単語」

 

 予想を超える強めのカミングアウトに呆けていると、シロエちゃんが懐から煙草を取り出す。吸っていいすか、と目で訊かれニコニコで頷けば彼女は慣れた手つきで火を点けて煙を吐き出す。うわえっろ。

 

「シロエちゃんお客様の前で煙草吸っちゃ……」

 

「いいの。えっちだから」

 

「……えっちなの?」

 

「顔が良い女の子の吸う煙草姿はえっちなんだよ」

 

「何言ってるか分かんないんだけど」

 

「変な事言うっすね。副流煙要ります?」

 

「要る」

 

 ふわぁ、と吹き掛けられる紫煙が心地良い。これ無料ってマジ?

 

「で、クロエちゃんがクレイジーサイコレズって言われるのは何で?」

 

「アイツ、女の子に関してはイかれてるんすよね」

 

「また酷い言い草な」

 

「この店を開いた理由がまず可愛い女の子に囲まれてウハウハしたいからなんすけど」

 

「何その素敵な理由」

 

「ついでに可愛い子が風俗堕ちしないように街で怪しげな女の子ナンパして雇ったりするし」

 

「おん?」

 

「まあ仕事中は問題無いんすけど、プライベートは基本女の子のお尻追いかけてるようなやべー奴っすね」

 

「俺のクロエちゃん像が崩れていく」

 

 お兄ちゃん、とにこやかに微笑んでくれるクロエちゃんの姿が砂となって崩れ落ちる。最初に店で見せてくれたあの笑顔は偽物だったのか。

 

「いやまあ、男性も嫌いな訳じゃないっすよ?ただ女の子が異常な程に好きってだけで」

 

「じゃあ俺もワンチャン!?」

 

「無いっすね」

 

「無いのか……」

 

「趣味が街で見かけたタイプの子のストーキングをする事っすからね」

 

「なにそれこわい」

 

「私もたまにされるわよ」

 

「従業員のストーキングってどういう事なの……?」

 

「曰く安全の為の見回りだとか、犯罪予防としての健全活動だとか」

 

「同性同士だとストーキングって捕まらないんだっけ」

 

「さあ?ボクはされないからどうでもいいすけど」

 

「私はたまにされるけど、まあ困ってないし」

 

「ドライだなあ」

 

 カシスオレンジが、溶けた氷がからんと揺れて波打つ。

 

「しかし、クロエちゃんは女の子もストーキングしちゃうくらいのやべー奴なんだ」

 

「そっすよ」

 

「………ふうん」

 

 半ばまで燃えてしまった煙草を一吸いして、吐き出す。

 ようやく見なかった振りをしていたテキーラ五つに目を向けて、やけにうるさく聞こえる大雨の騒音を掻き消すようにまず一つ煽る。強い酒精が喉をカッと熱く通り過ぎて、独特の刺激が食道を通って濃い吐息が漏れ出す。

 グラスに丁寧に添えられたレモンを、じゅっと口へ運ぶ。

 

「おー。なんか音頭でもしたげれば良かったすか?」

 

「ポンポン持って笑顔で踊ってくれる?」

 

「テキーラ追加っすね。アカネちゃーん」

 

「後四つも残ってるのにまだ追加するんですか……」

 

「ボクがついてあげてるんだからいいんすよ」

 

「王様かよかわいいな。もう一杯」

 

「それ飲んでから言ってくれる?」

 

 アカネちゃんが傍らに水を注いでくれる。優しさが染み渡り、うっかり恋しそうになるが目の前のシロエちゃんが居る中でそれは浮気だと思い思い留まる。

 

「話は戻るんだけど、クロエちゃんが特に好きなキャストの子って居るの?」

 

「んあー、皆等しく好きだと思うっすけど」

 

「まあそうね。でも、多分アオイちゃんに関しては割とお熱だと思う」

 

「アオイちゃん?」

 

 あの酒カスになんでさ。そう目で伺うと、アカネちゃんが思い出すように顎に手を当てて答える。

 

「基本店長って地雷系の子が好きなんだけど」

 

「うん」

 

「基本ついでにマゾでお酒が入ると酷くなるの」

 

「うん?」

 

「アオイちゃんってお酒入るとナチュラルエロサド女になるんだけど」

 

「……うん」

 

「仕事柄お酒入るから、二人ってとっても相性がいいらしくて」

 

「うん」

 

「店長がメロってるって感じ?」

 

「うん。……うん?」

 

 傾聴しても微妙に理解し切れなかった。ご主人様を見つけちゃった♡愛してもらわなきゃ♡って事だろうか。

 

「まあ二人の性癖がベストマッチなのもそうなんすけど、なんかあったらしいすよ」

 

「なんかって?」

 

「さあ。クロエは秘密って言うし、アオイちゃんは酔ってたから覚えてないって言うし」

 

「迷宮入りってコト?」

 

「そーゆー事っす」

 

「はあ」

 

 事情を聴き、噛み砕き、理解する。ふむ。なるほど。

 テキーラをもう一杯。強い酒精が流れる。

 ニコチンを一吸い。ぐるり、とアルコールと混ざってより体内をそれらが循環する。

 

「じゃあクロエちゃんに聞かないと分からないって事か」

 

「多分そっすね」

 

「ふうん」

 

 もう一杯。

 

「クロエちゃんって今日は何処に居るの?」

 

「さあ。家じゃないすかね」

 

「なに。教えないわよ」

 

「そうじゃなくて。今何してるのかなって」

 

 もう、一杯。

 

「……え、何で泣いてるのアンタ」

 

「あんな酒カスがクロエちゃんとズブズブなのを知ってどうして悲しまないと思った……!」

 

「うわボロボロに泣いてる」

 

「あはは、センパイ面白い顔っすね。おかわりします?」

 

「する!!!」

 

「駄目ですって。ちょっと、ほらお水」

 

「水やだお酒のむ何であんな酒カスの方がえっちなおねえさんと仲良くなるんだよおかしいだろ……」

 

「女の子だからじゃないの?」

 

「俺も女の子になればクロエちゃんとズブズブになれるかな……」

 

「たぶん行けるっすよ」

 

「俺今から女の子になってくる!」

 

 もう一杯!

 

「あちょっと何立ち上がって、どこ行くの!」

 

「俺の未来を、手にしてくる」

 

「何言ってんの!?」

 

「センパイ、お会計はー?」

 

「してく……カード一回で」

 

「はーい。……はい、今日はこれくらいっす」

 

「あ、タッチで」

 

「はいどーぞ。……おっけーっす。じゃ、後は女の子になってきていいっすよ」

 

「うん!」

 

「うんじゃなくて!……え、冗談よね?」

 

「俺は、真剣だぜ」

 

「酔っ払いの言う事を真に受けちゃ駄目っすよーアカネちゃん」

 

「ええ……でもほらちょっと心配だし……」

 

「…………アカネちゃん」

 

「え、な、なに」

 

「シロエちゃんと一緒に結婚しようね」

 

「なんで私だけじゃないのよ」

 

「いかんのか」

 

「一夫多妻制だったら考えてあげるからまず水でも飲んでいきなさ」

 

「じゃあ行ってきます」

 

「話を聞け!」

 

「いってらっしゃーい」

 

 

 

 外に出れば、雨は少し収まって心地の良い小雨に変わっていた。傘を店内に忘れたのを思い出すが、まあいいかとそのまま歩き始めてぽつりぽつりと身体を濡らしながら進んでいく。

 俺の頭の中は外の空気を吸った事で思考がぐるぐると回り、調子の良さを感じていたけれど酔いと酒カスに対する嫉妬の心が渦巻いていやに陰鬱としていた。

 ああ、なんで俺はあんなにえっちなお姉さんと仲良くなりきれないのだろうか。

 

「人生ってクソ」

 

 次の瞬間には雷もそうだよとごろごろ鳴いたので、ああそうだよねと溜息をそのまま吐き出した。

 

 




「カス」
・雨は普通。

「シロエちゃん」
・雨は好き。

「アカネちゃん」
・雨は好きっちゃ好き。

「クロエちゃん」
・雨は嫌い。
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