低俗スクランブル   作:かげのかげたろう

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(パチンコ負けたので)初投稿です。


8/添い寝レビュー⭐︎3.5

 

 

 

 ちんこが痛い。

 

「まだヒリヒリすんだけど」

 

「そっちか悪いんでしょそっちが」

 

 コンカフェ嬢が男に慣れていないというのもミスマッチだと思うが。この件に関してはふっと鼻で笑うくらいの余裕を見せてくれないと面白くない。

 ヤニカスを見習え。あいつは全裸で彷徨いてても「粗末なものを目の前でぶらさげないでおくれ、目が腐る」くらいまで言うぞ。

 まじで酷い。思い出して勝手に傷つきそうになる。あいつ切れ味高すぎる。

 

「てか着替えちっちゃくねえか」

 

「アタシのなんだから仕方なくない?」

 

「そらそうだが」

 

「オーバーサイズだからまだマシでしょ」 

 

「まあ、うん、まあ」

 

 渡されたグレーのスウェットのセットアップは女性からすればオーバーサイズでぶかぶかなのだろうが、俺からすると少し小さく感じる。それでもかなり大きめなものなお陰で、肩幅や足幅などに多少ゆとりがあるのが救いだが。

 

「下着くらい置いておけよ」

 

「何でアタシが男物の下着置いとかなきゃいけないのよ」

 

「これだからレビューが星二なんだよ」

 

「そもそもお泊まり施設じゃないっての」

 

「お前ので良ければ履いたんだがな」

 

「それは嫌」

 

「俺も嫌だ」

 

「何で言ったの」

 

「一応ね」

 

「何の一応なの」

 

 俺が知りたい。既にスト缶は二缶目に突入しており、アオイちゃんに至っては三缶目だ。

 スト缶ビンタの後、普通に宅飲みとなったこのリビングでは冷蔵庫に大量ストックされてあるスト缶とボックスの中に乱雑に突っ込まれたおつまみによる夜飲みが始まっていた。

 客からの差し入れや自身でも買うラインナップが全て酒やおつまみである事から、宅飲みをするには困らないのだそう。普通の飯類は冷蔵庫にも何処にも無かった。何故。

 

「明日はお店来るの?」

 

「いや、明日は少し用事がある」

 

「え、珍しいじゃん。女?」

 

「仕事が恋人という定義ならそうなる」

 

「ああ、仕事。何するの?」

 

「缶詰」

 

「カンヅメ?」

 

「部屋に監禁されてひたすらに小説を描かされる素敵なお仕事だよ」

 

「…………アタシは詳しくないけどさ、それって前もって出してたらやらなくていい奴じゃない?」

 

「俺、宿題ってギリギリにやる派なんだよね」

 

「仮にも小説家がそんなんでいいの」

 

「小説家だからこんなんなんだよ」

 

 お前は知らないだろう。俺は缶詰四天王の中でも最弱。他にもデッドライン越えの常習犯は多く居る。舐めるなよ、小説家を。

 缶詰の期間になると、俺だけではなく隣の部屋から怨嗟と悲鳴と狂笑が響いてくるなんてザラだ。

 まあ俺も響かせてる側なんですけどね。ああ、明日で全部終わらせよう。

 

「今日は俺の最後の晩餐という事だ」

 

「ツケが回ってきただけじゃん、何でそんな被害者みたいな顔できるの」

 

「だって編集の奴ら俺を過大評価してるんだ……お前ならいける、天才なんだろやってみせろよ、ちくわ大明神、とか」

 

「まあ褒められてるならいいんじゃ……何だ今の」

 

「まあ実際天才だから出来ちゃうんだけどさ」

 

「ねえちくわ大明神って?」

 

「何とでもしてみせるさ」

 

「ねえってば、ちくわ大明神って何?」

 

 閑話休題。

 

「ともかく、暫くはお仕事で来れないって認識で大丈夫?」

 

「ああ。そういう事になる」

 

「これまで来すぎてたくらいだし、たまには肝臓休めなさいよね」

 

「休肝日など要らん」

 

「酒を飲むのが仕事じゃない奴がしゃしゃるな」

 

「本職に言われると言い返せんな。……まあ、一週間以内には終わると思うから、また落ち着いたら行くわ」

 

「はーい」

 

 酒を煽りながらちらりとスマホを見てみれば、通知欄には『覚悟の準備はいいですね。私は出来てます』とやけにガチなメッセージが担当から届いていた。追い込まれないとやる気が出ない作家を担当して大変だなこの人も。未読無視した。

 

「なんかあったら連絡しろよ」

 

「なに、急に」

 

「一応ストーカー自体は見つかってない訳だから、俺が丁度いない期間に何かあるかもしれないだろ」

 

「考えすぎ。三週間の間出てこなかったんだから、多分大丈夫だよ」

 

「……そうか?」

 

「何でアタシより心配してるの」

 

「いや、顔の良い知り合いがうっかり刺されないか心配になる」

 

「そんな大袈裟な」

 

「まじ気を付けろよな、あれ痛いから」

 

「あはは、そんな刺される訳……え?刺された事あるの?」

 

「いやあ、初恋のお姉さんにうっかり」

 

「…………何で????」

 

「いやあ、好感度調整ミスって」

 

「そんなギャルゲーみたいな」

 

「顔が良かったから許した」

 

「顔面至上主義過ぎ」

 

 顔が良い女は何においても、俺の世界では許されるのだ。法は許してくれなかったが。

 ぐいと酒を煽り、酒精をずぶずぶと脳味噌に浸らせていく。アルコールが徐々に染み込み、ふわりという感覚が身体を満たしていくのを曖昧な五感で感じる。

 アオイちゃんはまだまだ余裕なようで、既に四本目へと突入している。仕事でも飲んでプライベートでもペースを落とさず飲める辺り、本当に化け物なのだなと実感する。コイツの肝臓はどうなっているんだ。

 

「まあそんな俺の話は置いてだな」

 

「そこそこ気になるし掘り下げたいところだけど……」

 

「それよりは明日のアオイちゃんは何をするのだ」

 

「え、アタシ?」

 

「うん」

 

「アタシは……明日は仕事も無いから、一人で呑みにでも行こうかなって」

 

「うわ、いいな。うっかり刺されんなよ」

 

「あはは、冗談にしては笑えないねいやまじで」

 

「明日中に缶詰が終わったら合流するわ」

 

「終わるの?」

 

「終わらせるんだよ」

 

 全ては気合い。デッドラインを超えたら待つのは死。無職は嫌だ。それだと俺、ただのユーモアに飛んでて顔がいいヒモ予備軍のカスになっちまう……。

 

「まあ、来るなら来るで飲むけどさ。缶詰って一日で終わるものなの?」

 

「全然全くこれっぽっちも違うけど」

 

「何で終わらせられる風に言ったのあんた」

 

「男は見栄を張ってナンボ、だろ?」

 

「締め切り守ってない人が言うとカッコ悪いけどね」

 

「ぐう」

 

「ぐうの音を出さないで」

 

 会話に一間、互いに酒を一口。

 一頻り流れるように会話をしたところで、テーブルの上に広げられているおつまみに手を出して酒に慣れ切った下へ塩味を与える。口にした一口まぐろはぴりりと味気を与え、流れるように酒を煽らせる。

 ぐいぐいと流れ込む酒気はふわりと思考を浮かせ、じわりじわりと酔いが蝕んできているのを感じる。まだまだ完全にキマるまでは程遠いが、風呂で茹でられながら飲酒したのが効いたのだろう、多少なりとも酔いは来ているようだ。

 

「せんせー、煙草」

 

「先生は煙草じゃゃありません。はい」

 

 程良く酔いが回ってくると身体はニコチンを欲してくる。家主に許可を願えば、今飲み切ったのであろう缶を渡してくる。缶を灰皿にしろと言う事らしい。

 ゆっくりと立ち上がり、勝手知ったる顔で俺はベランダの方へ歩いでガラリと開ける。其処にいつかのようにストーカーは居らず、脱ぎ散らかされたスリッパを雑に吐いて外へと出る。外はまだ少し、小雨がぱらぱらと降っていた。

 まだ寒いと言うより涼しさが勝つ外で煙草を咥え、火を点ける。

 

「そういやさ」

 

 ニコチンが回る前に、話題を一つ。

 

「なにー?」

 

「お前とクロエちゃんって何処で知り合ったの?」

 

「え、なに急に」

 

「んや。今日シロエちゃんとそういう話になってさ」

 

「ああ、そっかシロエちゃん知ってるもんね、そういう話」

 

 曰く、プライベートの話はあまりしない職場なのだとか。故に入店理由、主にはクロエちゃんもとい店長からのスカウトの経緯は話さない事もザラなのだそう。

 

「じゃあ知ってるじゃん。私、気づいたらこの店に入ってたって」

 

「お前は酔ってて覚えてなくて、クロエちゃんは秘密って言ってた馴れ初めって奴?」

 

「そ。覚えてるのは、クロエちゃんと全裸でラブホで朝チュンしたところから」

 

「えっちょっとその話詳しくして貰えますか?」

 

「何もしてないって。私からしたら、夜飲んでたと思ったら朝起きて綺麗なお姉さんが笑顔でおはようって言ってきて、明日からウチで宜しくって働く事になってたって感じ」

 

「本当にあった怖い話かも」

 

「んー、まあでも可愛い格好してお酒飲んで働けるからいいかなーって。前の職場ブラックだったし」

 

「その職場はどうしたの」

 

「その日に辞表叩き付けて退職したけど」

 

「お前すげぇな」

 

 そういう行動力ある女って面白くて好きだよ俺。思わず煙草も進む。

 

「じゃあ、クロエちゃんが全部知ってるって事ね」

 

「そうだね……あ、でも一個他に覚えてるのあるよ」

 

「何?」

 

「クロエちゃん、朝見た時には目腫らしてたからなんか泣いてたっぽい」

 

「…………ほーん?」

 

「何で泣いてたのかとか、そういうのは全然聞いてないんだけどねー」

 

「………………ふうん」

 

 すう、と煙草を勢い良く吸い込んで、吐き出す。

 泣いてたお姉さんとベロ酔い酒カス女。二人ラブホで、何も無い筈は無く。

 やっぱえっちの一つや二つしてるんじゃねえか。くそったれ羨ましい。

 

 じり、と缶に煙草を磨り潰してベランダから空を見上げれば、雨は既に収まっていた。吐息を空へ吹いて溶かして、ベランダから下を見下ろして。…………また、吐息を深く吐き出す。

 

 ベランダから中に戻って、缶をテーブルに置いてぐっと伸びをする。

 ………酔いも程好く。ニコチンの補充も完了。

 雨も収まって、俺の服がずぶ濡れな事以外は特に問題は無い。

 

「んじゃ、帰るわ」

 

「え、帰るの?」

 

「おん」

 

「珍しー。いつもならベッド借りるわとか言って寝てくのに」

 

「今日は散歩したい気分なんだよ」

 

「ふーん。って服はどうするの」

 

「洗濯しといてくれ。また店かどっかで返すから、置いといてくれ」

 

「彼氏でもない男の服置いておくの嫌なんだけど」

 

「じゃあ彼氏になるか?」

 

「やだよ、こんなカスみたいな奴」

 

「ひっで」

 

 笑いながら、玄関の方へと向かう。

 

「こんなに優良物件なのにな」

 

「可愛い女の子には目がなくて、酒も煙草もギャンブルもして、何週間もコンカフェに通うような男が?」

 

「そこに目を瞑れば、金持ちで顔の良い優しい男だぞ?」

 

「目を瞑るところが多すぎる」

 

「多少は見ない振りをするのが良い女三原則の一つだぞ」

 

「三原則て。因みに他は?」

 

「メロい、エロい」

 

「絶対今考えたじゃん」

 

「バレた?」

 

「わかってないなぁ、世の中の女の子はみーんな良い女なの」

 

「俺が知らないだけで?」

 

「知らないだけで」

 

 女の子だけでなく、人間誰しも良い悪い長所短所エロいエロくないはあると思うが。

 靴を履こうとして、そういえば靴までびしょ濡れな事を思い出して隣のサンダルを借りる。少しきつい気がするが、無理矢理足を詰め込んでぎちぎちにフィットさせる。

 靴も置いてくの、みたいな顔をされたが仕方がないだろう濡れてるんだから。文句は顔を出さないお天道様に言ってくれ。

 

「じゃ、また」

 

「んじゃね。また」

 

 ひらひらと手を振って扉を開ければ、やはり雨は止んでいた。

 傘を借りる必要もなく一本外へ出て、振り返れば健気にお見送りしてくれる顔の良い女がそこに居た。

 …………ふむ。

 

「例の報酬のコスプレは逆バニーをお願いするから」

 

「はっ?いやちょっと待っ」

 

 ばたん、と扉を閉める。いやあ、バニーっていいよね。

 なんだか扉越しにあいつ!みたいな声が聞こえる気がするが、気のせいだろう。履き慣れないぎちぎちのサンダルでかぱかぱと濡れたアスファルトの上を歩く。

 自身の足音に耳を澄ませながら、雨上がりで曇天が晴れない空を見上げて、いやに張り付くべたついた湿気に目を細めながら帰路を辿る。

 

 かぱかぱ、こつこつ。

 

 空は晴れないまま、時刻は既に逢魔時を超えて夜に入りかけている。

 この無特徴なスウェットとぎちぎちのサンダルを履いた姿を見られるのを避けるように、俺は懐から煙草を一本咥えながら人気の無い道へと入り込んでいく。

 ルートは我が家へ。火を点けてニコチンを吸い込んで、煙を吐き出して道の奥へ奥へと進み。

 

 かぱかぱかぱ、こつこつこつ。

 

「…………はあ」

 

 真後ろから聞こえる別の足音に、俺は溜息を吐き出しながらスマホを取り出す。

 トークアプリでヤニカスに対して『俺、生きて帰ったらお前にナース服着せるんだ』と送る。秒で既読がついて『気色悪いね』と端的なメッセージが返ってくる。ああ安心する、コイツはいつだってこうだ。

 『煙草ワンカートンで着てあげるよ』と吹っ掛けてくるメッセージに『乗った』と返して、スマホをポケットの中へ仕舞ってぴたりと足を止める。

 

「……で。人気の無いところまでついてきて誰ですかアンタは」

 

 振り返れば、其処には一見正体不明の不審者が居た。

 ボディラインを誤魔化すようなぶかぶかの黒い服装。フードは深く被って、マスクもして顔を何もかも晒すつもりはないようだ。

 手にはきらりと光るナイフ。ち、と切先を久方振りに向けられて、俺は煙草の煙を吐き出しながらぽりぽりと頭を掻く。

 

「ベランダから見えたけどさ、なーんであの子をストーカーしてんの?顔はいいけど酒は飲み過ぎだし、営業スマイルだし、恋愛するには面倒そうな子だけど」

 

 脅すようにぶんとナイフが振られ、水溜りを踏み締めてその黒ずくめは俺に向かってくる。一歩、また一歩と足音を立てながら。

 

「まあアンタにとっちゃいいんだろうけどさ、もっと良い子も居るんじゃないの?あの子を選ぶなんてのは、よっぽどの変態か変人だと思うけどね」

 

 足が早まる。

 

「居酒屋然り、仕事終わり然り。ストーキングなんて変な事するアンタには何言っても効かないと思うけどさ、俺、一つだけ効く言葉持ってるよ」

 

 ナイフが振り上げられる。

 

「あいつ、抱き心地良いんだよね。知ってる?」

 

「ッ……!!!」

 

 そして、急所を狙ったように俺の首元へそのままナイフが────────

 

 

 

 

 

 

 

「あ。忘れ物してんじゃん」

 

「何これ、……鍵?」

 

「あーもー、忘れ物届けてあげなきゃじゃん」

 

 

 

 

 

 

 ────────じゅわ、と熱が広がる。

 




「カス」
・脱ぐと凄い。

「酒カス」
・脱ぐと凄い。
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