偽言とコイバナ   作:虚人

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ドウケ

「今日も日本は平和ですってな…」

「どうした?急に」

「いんや、ただあの集団を見ているそう感じるだけや」

 

 座席の隙間から最後列の集団に目をやる。楽を中心に周りを固めるようにクラスの綺麗処を集めたような配置で座っている。互いが互いの動きに敏感に反応し、わいわいと騒ぐ彼らを見ていると平和な日常を実感できた。

 本日から林間学校ということで朝からバス移動をしている彼ら。皆一様にこれからの行事に胸を躍らせ、顔を輝かせていた。そんななか裕樹は舞子の隣で怠そうに座りながら窓の外を流れる景色をぼうっと眺める。

 

「なんだ裕樹、お前楽しみじゃないのか?」

「そんなことはないさ。ただ朝からはテンションが上がらんだけや」

「……ああ、お前いつも朝は遅刻か寝てるかだもんな」

「まあそういうこと。すまんが俺は寝るわ」

「りょーかい。じゃあ着いたら起こすわ」

「ん、頼んだ」

 

 そういうと裕樹は周りの音が聞こえないようイヤホンをつけ、アイマスクを掛け眠りについた。

 定期的に感じていた揺れが無くなり、イヤホン越しに聞こえていた声が一層大きく聞こえ、裕樹は目を覚ました。アイマスクを外し窓の外を見るとバスは駐車場に停まっているようであった。

 

「着いたんか…」

「おお、おはよう。キョーコちゃんがとっとと降りろってよ」

「ん、そーか」

 

 妙にニヤつく舞子に言われ欠伸と共に大きく伸びをし席から立つ、ちらりと後ろを向くとやたらと疲弊した楽たちの姿が見え、何となく想像がついた。不意に彼らと目が合い、ついついニヤリと笑ってしまう。

 

「!!」

 

 三者三様の反応が返ってきたが、全員ともが恨めしそうな表情が見て取れ、さらに面白く感じてしまう。なるほど、舞子が無理をしてこの編成にした理由がわかった。舞子に視線を戻すと、向こうもこっちの考えが分かったようで互いに親指を立て楽たちに送ってやるのだった。

 

 

 バスを降り、班ごとに生徒が並んだことを確認し、担任がこれからの事を説明をきく。その後、指示通りキャンプ場にやってきた裕樹たちだったが、楽が鬼気迫る勢いで班員に指示飛ばす。裕樹と舞子はその様子を呑気に眺めていた。

 

「必死だな楽…」

「まあ、ウチの班の女子は壊滅的に料理が出来ないみたいやしの。宮本とポチは知らんけど」

 

 今までの楽の身に起こったことを聞いている二人は我関せずとその様子を眺めている。別に料理が出来ないわけではない二人だが、どうせなら彼女らに任せた方が面白いだろうと考えていたのだ。まあ、そうは問屋が卸さないわけで

 

「おい、お前らも手伝え!!」

 

 楽にサボっているのを見つかり、強制参加させられることになった。仕方が無しに二人は楽に近づく。

 

「はいはいっとね。俺らはなにしたらええんや?」

「取り敢えずどっちかは小野寺たちを手伝ってくれ。もう一人は食材を切ってくれ」

 

 何とも曖昧な指示に肩を竦める。いちいち動ける相手に明確な指示を出すのは馬鹿げたことなのでしょうがない事だが、もう少しこちらを見てもいいではないか、と思う。

 

「まあええわ。ほんならどうすっかねえ」

「う~ん、じゃあ俺が薪のほういってくるよ」

「ん、りょ~かい。頼んますわ」

「はいよ」

 

 舞子を見送りそこらにあった包丁を手に取る。適当に包丁を回しながらじゃがいもやニンジンといったものを持っては置き、また別のものを手に取る。

 

「あんた何してるの?」

「ん?」

 

 そうこうしているとボールを持った桐崎がやってきた。

 

「なにって、選んでんのよ。テキトーなの使ってもええんやけど折角ならそこらも考えてやればええやろ」

「……」

「なんや、その顔は?」

「いや、べっつに。ただ意外だっただけよ、すごく」

「うっさいわ」

 

 鼻を鳴らしながらもよさげなものを見つけそれを桐崎のボールに放り込む。

 

「あ、ちょっと!」

「ん~?空だからええやろ」

 

 そんな感じで次々に食材をボールに投げ入れボールを一杯にする。一杯になったところで桐崎を連れ、炊事場に行き包丁で器用に皮を剥き始めた。以前、楽の為に同じように包丁で皮を剥いた経験がある桐崎はその包丁さばきに舌を巻く。

 

「器用なものね」

「まあ刃物の扱いは慣れとるからな」

 

 そんなこんなで皮を剥き終え、ニンジンを一口大に切り、じゃがいもはそれより少し大きめに揃え再びボールに戻す。ついでになぜか何もすることなく眺めてきていた桐崎をついでに小突いておく。

 

「いった!何すんのよ!」

「そらこっちが言いたいわ!お前も働け」

 

 裕樹は自分が働かないのはいいが、他人が働かないのは絶対に許さないタイプである。桐崎はそんな彼の言葉にふくれっ面になる。

 

「だってすることないんだもん。あのもやしなんもさせてくれないし」

「はあ、おまえなあ…そんなんでええんか?」

「なにがよ?」

「お前、料理できないんやろ?」

「なっ!?で、できるわよ!!……たぶん」

「たぶんっておま……。はあ…」

「なによ~」

 

 ぶーぶーっと頬を膨らませる桐崎に何度目かになる溜め息を吐く。このじゃじゃ馬姫様の相手を務めてきた楽に心の中で労いの言葉を送る。取り敢えず、今後の彼の苦労を減らしてやり、借りを作っておくのもいいかもしれないと考える裕樹。

 

「なんなら、簡単なこと教えろか?」

「ほんと!?」

 

 あからさまに瞳を輝かせる彼女に苦笑いがこぼれる。

 

「ああ、ええよ。じゃあどうするかな……」

「今の出来るようになりたい!」

「せやなあ…」

 

 簡単なところでニンジンの桂剥きならやらせてもいいか、そう考え、ふともう必要な分は終わっていること思い出す。だがまあ多少多くても構わないだろう。

 

「ん、じゃあニンジン二本とついでにお湯持って来てくれ」

「わかった!」

 

 幼子の様に嬉しそうに駆けていく桐崎を微笑ましく見送る。こんなことでご機嫌が取れるのなら実に安いものである。先程出たごみを片づけ、包丁をもう一本だし洗う。一緒に見せながらやればいくら不器用でもどうにかなるだろうという考えである。

 そんなおり、突如野太い悲鳴が聞こえてきた。

 

「…ガクか」

 

 顔を見なくても声の質と最近の彼の女難の具合から容易に察しはついた。もはや呪われているのではないかと思うほど、一条楽という人物は女性関連で災難に見舞われている。

 

「取り敢えず様子だけでも見に行くとするか」

 

 熱いという声から、大方桐崎に頼んでいたお湯でも被ったんだろう。水で濡らした布巾と乾いたタオルを持ち、悲鳴が聞こえた方へ歩いて向かう。

 現場につくと楽の後ろ姿と何やら楽の額辺りを見つめる桐崎が見えた。

 

「ガク!随分な声が聞こえたが大丈夫か?」

「ユウ…。ああ、まあなんとかな」

「そうか。ほれ、取り敢えずそれで冷やしい」

「お、サンキュー」

 

 楽に持って来た布巾とタオルを投げ渡す。楽は濡れ布巾で頭を冷やしつつ、制服などお湯を被り濡れてしまった箇所をタオルで吸水していく。

 

「お前代わりのシャツあるんか?」

「ああ、あるよちゃんと」

「ならそれに着替えてきい。ここはやっとくで」

「…そうだな。ごめんちょっと頼むわ」

 

 濡れたままの恰好で過ごすのはさすがに病み上がりの彼には酷な話である。本人もそれが分かってるようで素直にその場から撤退していった。

 

「それで、なにしとんのや?」

「…別に」

 

 そっぽを向いてはぐらかそうとする桐崎。

 

「ちゃんと謝ったのか?」

「当たり前でしょ!」

「そうか、ならええわ」

「あ、うん…」

 

 歯切れの悪い答えが返ってき、裕樹は桐崎を怪訝そうにみる。普段から色々なことを楽にやってきた彼女である、まさかさっきのことを気にしてるわけではないだろう。

 

「どうした?」

「うんうん……。なんでもない!さっ!はやく教えなさい!!」

「お、おう」

 

 一瞬なにか考えるような表情を浮かべるが、すぐにいつも通りの雰囲気に戻り裕樹の背を押し始めた。なにかあったようだが、それを訴えてこないのならこちらから行くべきではない。彼女がいまはそれでいいのなら自分がいう事もないと、大人しく桐崎に押され元の炊事場に戻る。

 

「お前、ほんとセンスないのな」

「……」

 

 なお、その後約束通り簡単に桂剥きを教えるのだが、桐崎の絶望的なセンスの無さに愕然することになった。

 

 

 

「おお~~!」

 

 昼食後、各班に割り振られた部屋に移動した。旅館という事で、部屋は勿論和室で七人が泊まれるほど大きな部屋である。しかし、襖で仕切られるからと言って男女が同じ部屋というのは果たして如何なものかと思う裕樹。そこら辺の事はこの上なく緩いこの学校。今まで特に問題が無かったとこが凄いといえよう。

 

「温泉ねえ~…」

 

 女性陣の会話を聞きながら呟く。

 

「なんだ、お前初めてなのか?」

「ん、いや。そういうわけじゃないんやけど……。まあどうでええか」

「なんだよ?」

「気にせんでええよっと」

 

 荷物を適当なところに放り、準備されていた菓子を一つ掴み椅子に座る。担任が指定してきた集合時間までそこまでの時間はないため、だらだらとテレビでも見ようというのだ。鼻歌まじりにリモコンに手を伸ばす裕樹だが、その前にひょいと舞子にリモコンを取られてしまった。

 

「おろ?」

「まだ自由時間あるし、せっかくだからトランプでもやんない?」

「そんな時間あるんか?」

「大丈夫大丈夫。ババ抜きならあんまかかんないから。それで、普通にやってもつまんねぇし、負けた奴は罰ゲームってのはどーよ?」

「…罰ゲーム?」

 

 小野寺の問いにあからさまにイイ顔になる舞子。その顔になんとなく舞子の答えとその後運命を察する。

 

「負けた人は自分のスリーサイズ---すみません、ウソです」

 

 舞子が言った瞬間に彼の後ろに音もなく現れる宮本。目がヤバいことになっているが、これは気にしたらいけないだろう。

 それから舞子と宮本の猟奇的なやり取りが数回繰り広げられた。

 

「……!!初コイのエピソードを語るとか…」

「…まぁ、そのくらいなら」

「えっ…」

 

 ボロボロな舞子に誰も反応せず、何人かがその言葉に反応した。目の前の惨状よりそっちのほうが衝撃的なのかと密かに驚く。

 

「そんじゃ決まりな!ささっとやっちまうか」

 

 即刻復活した舞子からトランプを受け取り、シャッフルして配る。舞子から始まり鶫、裕樹、宮本、小野寺、楽、桐崎で一周する配置だ。トランプは心理戦うんぬん言われるが、所詮はそんなことの出来ないずぶの素人の遊び。余程わかりやすいことをしなければ結局は運勝負である。そう考えていた裕樹であるが

 

「……」

 

 あからさまな反応をするものが二人、小野寺と桐崎だ。彼女らがどういった状況か手に取るようにわかってしまうのだ。もはや勝負にもならないわけで、ジョーカーを器用に回しながら手持ちを着々と減らしていく。あっという間に一人二人と勝ち抜けしていき、残ったのは小野寺のジョーカーを貰い続けた楽と純粋に変な運を持った桐崎。

 

「フェミニストやなあ…」

 

 わざとジョーカーを引いた楽に呆れた視線を送る裕樹。楽らしいといえばらしいが、どこまでも甘い男だな、と思う。

 

「…ん?」

 

 お互いのプライドをかけた最後の攻防を眺めていると、ふと時間が気になった。何かゆっくりし過ぎてはいないか、そう考えていると

 

「こらーーーーー!!集合時間はとっくに過ぎてるぞーー!!早く集合!!」

「やっば!すまんキョーコちゃん」

 

 怒り心頭の担任が部屋に乗り込んできた。取り敢えず担任に詫びを入れつつ立ち上がる。

 部屋を出る際にちらりと桐崎の手札を覗くとピエロとジョーカーの文字が見える。あざ笑うピエロの絵がいやに目についてしまった。




楽、嬉し恥ずかしのバス移動で既にだいぶ疲弊
桐崎、初恋の話をなんとか回避し安堵
小野寺、意外に早抜け出来てほっとする
宮本、舞子をなんとかしなければと本気で思う
舞子、色々ハッピー
鶫、実はこの林間学校楽しみにしていた



鶫の恋の話はないです(白目)今後の展開で別に作るかもですが、取り敢えずないです。お見舞いは行われてますが、鳴海は係わってないので省きました。
因みに、楽の額のキズと桐崎のカギの一件はここでは登場しません。鍵の入手と傷の思い出は鶫が出した初恋の話を思い出そうとした産物なので。ただ、これらはそのうち出す予定ではあります。
桐崎が楽の額を見て考えていたのは、なにかを思い出しそうになったからです。
そして、桐崎は10年前の初恋なんて思い出してないわけで、このトランプゲームで負けて損するのは実は小野寺と楽だけという悲しい戦いでした。
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