偽言とコイバナ   作:虚人

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ソノテ

 林間学校の目玉、肝試しは滞りなく進んでいく。次々と初々しく手をつないだ男女が森へ入り、絶叫を響かせる。裕樹はその状況を見て満足そうに頷く。時間がなかったため碌な準備が出来ていなかったが、暗闇と森という条件下で心理的恐怖が高まっているおかげで、想像以上の成果を得られているようだ。

 およそ半数が森に消えた。続いてはいるのは裕樹の友人ともいえる人物たちだ。

 

「心の準備はええか?」

「と、当然だ!」

 

 自信を奮い立たせるがごとく力強く答える鶫。だが声の震えを察し、裕樹はニタリと笑う。BGMとして聞こえてくる悲鳴の所為で、鶫には彼が魔王か何かに見えてしまう。

 

「あなた、ほんと楽しそうね」

「はは。いや、実に楽しいさ」

「そう、今のあなた完全に悪役っぽいわよ」

「おお、そら気を付けないとな」

 

 「心にもないことを…」と呆れながら呟く宮本。そんな彼女らにまた一笑いする。そんなことをしていると無線に合図が入ってきた。前のペアが規定のラインを越えたようだ。

 

「それではお嬢さん方、準備はええか?」

「ああ…」

「見ればわかるでしょ」

「OKOK。ほな存分に楽しんで来てくれや」

 

 二人に道を開け、先へ促す。彼女らは静かに口を広げる森の入り口に息をのむ。しかし、後ろでニヤニヤを見ている裕樹に気が付くと意を決し入っていった。その際、鶫が「後で覚えていろ」と言っていたが、あの様子で本人が覚えていられるか、と裕樹は思う。

 鶫と宮本を見送り、裕樹は次のペアを迎えるために振り返る。続いてやってきたのは楽と小野寺。先程の例外を除けば今までの様に互いに照れながらも手を握っている。ただ今までの者たちと違い、頬の赤みが強く互いに強く意識し合っているようだ。

 

「よう、お二人さん。随分と嬉しそうやな」

「なっ!?バ、そんなじぇねえよ!!」

「ハッハッハ!誤魔化すなや、顔に書いてるぜ?“ペアになれて嬉しいです”って。な、お二人さん?」

「んな!!?」

「~~~!!」

 

 ただでさえ赤かった顔を更に赤くし、動揺する楽と小野寺。なんだかんだでこの二人は両想いなのかもしれないな、と思う。ならやはり楽が桐崎と付き合っていることが気になるが、こと色恋沙汰はよそ者が首を突っ込むのは危険というものだ。

 

「さてさて、いい雰囲気のお二人さんはこれからお楽しみかい」

「---っ!?」

「お前わざとだろ!?」

「くくく、いいやないか。若い二人で暗い森の中。まるで---」

 

 突然、ブザーが鳴る。緊急用に設けておいた無線の回線だ。裕樹は今までの表情を消しを無線を繋ぐ。

 

「なんや?なにがあった?」

「ごめん、あの…そこに桐崎居る?」

「姫さん?」

「うん、急いで確認して欲しいの」

 

 焦った声に促されるまま全体を見渡す。しかし桐崎の姿はなく、ペアの舞子がぽつんと佇んでいるのが見えた。

 それに裕樹は嫌な予感が襲われる。

 

「…おらん。何かあったんか?」

「えっとね、お化け役の一人が体調を崩しちゃって、それで---」

「代わってもらったんか」

「う、うん」

「なんですぐ報告しなかったんや?」

「ご、ごめんなさい。時間が無かったからつい忘れちゃって」

 

 無責任な行動に舌打ちを思わずしてしまう。

 

「ええわ、それでなにがあったんや?その子は大丈夫なんやろ?」

「それは大丈夫なんだけど。あの、その…」

「はっきり言え」

「き、桐崎さんに渡した懐中電灯が電池が入っていなかったみたいで…」

「なんや…」

 

 思ったより大変な状況でないようで一安心する裕樹。だが、実のところはそうではなかった。

 

「あ、あと…」

「まだあるんか?」

「えっと、実は無線と地図も渡し忘れちゃって」

「…なんやて?」

「ごめんなさい!!」

「ごめんやあらへんわっ!!!」

 

 裕樹の怒鳴り声に機械の向こうで息をのむのがわかったがそんなことは今はどうでもいい。

 

「場所は?」

「え?」

「桐崎が変わった場所はどこだって聞いてるんや!!」

「エ、エリアCです!」

「わかった、なら俺が向かう。お前は手が空いてる奴らを集めろ。それからは言わんでもわかるやろ?」

「先生には?」

「酔った奴らなんぞ使えるか。連絡は入れても期待はすんな。時間が惜しい、切るぞ」

 

 無線を一方的に切り、近くにいた同僚にこの場を預ける。そして森に乗り込もうとした時、楽に呼び止められた。

 

「なにかあったのか?」

「……なんでもあらへん」

「なんでもないって、そんなわけないだろ?お前がそんなに焦ることなんて初めてだぞ。さっきの怒鳴り声だってそうだ」

 

 そういう楽の隣では、小野寺も同じく不安気に様子を窺っている。なにもわからないこの二人が協力してくれたところで、戦力どころか足手まといになりかねない。しかし、人手は多い方がいいかもしれない。

 

「どうやら桐崎が森の中に置き去りにされとるみたいや」

「な!本当か!?」

「なら早く見つけないと…!」

「ああ、わかっとる。だから俺は今から探しに行く。お前たちは---」

 

 唐突に腕を引かれ、森に向けていた視線を楽に戻す。

 

「なんや」

「……あいつは暗所恐怖なんだ」

「---」

 

 事態は裕樹の想像以上に悪いようだ。

 

「わかった。なら早く見つけてやらんとな。……任せておけって言っても勝手に動くよな、お前ら」

「ああ」

「うん!」

「なら近くの役員から地図と無線、それと懐中電灯を貰え。あと絶対一人で動くな。もう二人探すなんてしとうないでな」

 

 それだけ伝え、走り出す。返事など聞く必要も待つ必要もない。その時間すらおしい。もし彼女が下手に動いてしまっていたら探すのは更に困難になりかねない。

 全神経を周囲へ向け、更にスピードを上げ森の奥へ溶けて消えていく。

 

 

 

 

「なんで私がこんな目に合わなくちゃいけないのよ…」

 

 桐崎は独り、膝を抱え己の不運を嘆いていた。

 きっかけは気まぐれ、いや、純粋なる好意であったのだろう。偶々お化け役の生徒達を見つけ、困っていたので手を貸したに過ぎない。深く考えての行動ではなく場当たりてきなものであった。現在、彼女は自分の浅はかな行動を深く後悔していた。

 過去の出来事により暗所恐怖症を患っており、もともと暗い森の中でのお化け役など出来るはずもなかったのだ。唯一の希望であった懐中電灯も整備不良の為その意味をなしていない。彼女はただ自分を強く抱きしめ、溢れ出す恐怖に耐えるしかない。立ってみんなのところに戻ろうにも現在地も目的地もわからない。その上、恐怖に心身ともにまいってしまい力が入らないのだ。彼女が出来るのはただ耐え、誰かが来るのを待つしかない。

 

「……怖い」

 

 涙を堪え震える体を必死に抱く。恐怖に負けないように思考を巡らせ、とにかくこの状況を考えないようにする。

 ふと、走馬灯のように過去の出来事を思い出した。

 ---昔。そう、本当に小さかった頃に似たようなことがあった。岩の隙間に落ちて、それからどうしただろう……。確か、誰かが来てくれたんだ……。誰だったっけ?あれは---

 記憶を辿ろうとするが霞がかかったように出てこない。薄れてしまった幼少の思いは甦ることはないのだ。その事実がまた桐崎に恐怖を抱かせた。

 

「誰か……。誰か、助けてよ---!!」

 

 闇夜に響く悲痛な叫びが森に飲まれ溶けていく。帰ってくるのは風に揺れた木々の音と夜虫の鳴き声だけ。この世界に存在するのは自分だけではないかというふざけた考えすら浮かんでくる。いよいよもって追い詰められた桐崎。心が砕けそうになったとき---

 ガサリ、とすぐ近くの藪が揺れる。

 

「ひっ!」

 

 涙が溢れかけ、悲鳴が漏れた。

 

「漸く見つけたわ……」

「……鳴海、君?」

「よう頑張ったな、もう大丈夫や」

 

 生い茂る草木を退かし現れた裕樹に驚く。

 

「どうして……?」

「どうしてやあらんわ、お前を探しに来たんや桐崎。ほら、帰るで」

 

 そういって手を差し出す裕樹。息を切らせ立つ彼はところどころ服が解れており、手には切り傷が目立っていた。

 

「---」

「?」

 

 蹲り動かない桐崎。彼女の前にしゃがみ差し出していた手で肩を叩こうとした時、ふわりと金糸が視界を舞った。続いて軽い衝撃が体を襲い、思わず尻餅をついてしまった。

 何が起きたのかわからず、思考が遅れる。そして嗚咽を耳にして漸く理解した。泣いているのだ。

 

「うぅ…っ!」

 

 裕樹のシャツを強く握りしめ涙を流す彼女を裕樹はただ無言で受け入れ、泣き止むまで優しく背中を叩き続けた。

 

 

 

「ああ、姫さんは見つけたでこれから戻る。そっちも安心して引き上げてくれや」

「わかった。みんなには伝えておくから」

「すまんな、頼むわ」

 

 無線を切り、深くため息を吐く。一時はどうなるかと思われたが、なんとか無事事態は終息した。楽がほかの関係者には伝えてくれるようなので、あとは桐崎を送り届けるだけだ。だが、

 

「ちと痛いんやけど」

「しょうがないでしょ」

 

 桐崎が固く手を握り離そうとしない。微かに震えを感じることからまだ恐怖心は取れていないようであった。顔色を窺おうにも泣き止んでから俯き続けているため、見ることが出来ない。

 時折振り返っては「大丈夫か?」と声をかけ、小さな「うん」という返事を聞きまた歩く。そんなやり取りを幾回か繰り返した時、桐崎から声を掛けられた。

 

「ねえ鳴海君」

「んん?どないしたぁ?」

「どうしてあの時私がいた場所がわかったの?」

「どうして、ねえ……。まあ、そうやな、声が聞こえた」

「声?」

 

 漸く桐崎は顔を上げ、裕樹を見る。前方を向いているためその顔を確認することは出来ない。

 

「微かにな。聞こえた気がしたんや、“助けて”って」

「あっ---」

 

 自然と握る手に力がこもる。自分とは違う固く大きな手。それに気付き、すぐに力を緩める。前を歩く裕樹に反応はなく、変わらず前を歩いている。

 

「そろそろ離してくれんか?」

「どうしてよ?」

 

 一瞬、心臓が飛び跳ねた。

 

「いや、そろそろみんなのところに着くでな。流石にガクの前に手を繋いで戻るわけにはいかんやろ」

「……別に問題ないわよ」

「あん?何言って---」

「私達本当に付き合ってるわけじゃないの…」

 

 裕樹の足が止まる。訝しげに振り返った彼に桐崎は目を合わせるがなんとなく逸らしてしまう。

 

「冗談にしても質が悪いで」

「冗談じゃないわ」

「……」

「詳しくは言えないけど、親の仕事の関係上仕方なく恋人のふりをしているだけ」

「……そうか」

 

 驚くほど淡白な返答。特に驚いた様子をみせない裕樹に逆に疑問を感じる。

 

「驚かないのね」

「なんとなく裏があるのかもなって、考えてたからな」

「そっか…」

 

 結局離す気はなんだなと判断した裕樹は再び歩き出す。そして引かれるように続いていく桐崎。

 無言が包み桐崎はなんだか気まずくなる。なにか話題を、と考えていると賑わう声が聞けこえ始めた。裕樹の背中を避けるように体を乗り出せば、ちらちらと揺れ動くいくつもの光が見えた。

 やっと戻って来れたのだ。

 ---溜め息がこぼれた。

 

 ---歯車が軋みながら動き出す。




楽、小野寺と肝試しが出来く残念だったが桐崎が見つかり一安心
桐崎、
小野寺、桐崎捜索中、楽と二人きりで実は少しドギマギしていた
宮本、事態終息後事件を聞く
舞子、役員の代わりに先生に報告
鶫、涙を流し桐崎の無事を喜んだ



 ホントは原作主人公の仕事を取るのはしたくなかったが、仕方なかったんですよ……。 因みに、一応楽と桐崎の今の互いの意識は、初めの悪い印象が消え見直した、みたいの状況でした。まあ、なんだかんで要所のイベントが飛んでいるからそんなものですね。

 さて、これからの話が大変だ(^p^)
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