偽言とコイバナ   作:虚人

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ウワサ

「“アカオニ”?」

「そう…“赤鬼”。まあ都市伝説みたいなものね」

 

 放課後の教室。

 桐崎、鶫、小野寺、宮本の四人が教室で机を並べ話していた。つい最近引っ越してきたばかりの桐崎と鶫に地元の情報を教えていた時、鶫がある噂を思い出し話題に出したのが始まりだった。

 先日起きた表に出回ることのなかった廃墟での事件。事件の犯人として噂が広がった人物、どうやら元々この街にあった話から来ているらしい。

 

「都市伝説ってことはただの作り話じゃないの?」

「まあ、普通はね。でも“赤鬼”は実在する人物よ。ああ、勿論『赤鬼さん』なんて名前じゃないから」

「呼び名というわけですね」

「そんなとこ」

 

 宮本の言葉に顔を見合わせる桐崎と鶫。呼び名と言えば鶫もアメリカでは存在していた。裏の世界でのそういったものはそれなりの畏怖や尊敬の念が込められる場合が多い。日本の街レベルでは程度が知れるがそれなりに大きな話なのだろうと考える。そして鶫はもしもの場合は排除も視野に入れていた。

 

「それで、その赤鬼はどういった人なのですか?」

「さあ?知らない」

「知らないって…。小咲ちゃんも知らないの?」

「ごめんね、私もよく知らないの…。ただ、噂が出始めた時はすっごい街が荒れてて外出がなかなか出来なかったことは覚えてるよ」

「赤鬼は一般人には馴染みのないと言ってもいいかもしれない」

「馴染みがない?」

 

 こうして結構な範囲に広がっている話なのに馴染みがない。その言葉に首を傾げる。

 

「赤鬼の噂は俗に言う不良グループを中心に広がった噂なの。三年前まで、この街には色々いたから。暴走族、チーマー、ギャング…ああ、勿論あんたたちみたな本物じゃないから」

「わかってるわよ」

「そう。とにかく、そういった連中が多くいたの。連日連夜どこかしらで争いが起こって毎日毎晩ずっとサイレンが鳴っていた」

「警察はなにしていたのですか?日本の警察はなかなかに優秀とお聞きしますが……」

「勿論動いていたわ。だけど数も多いから手が追いついていない状況だったの」

 

 思い返すように喋る宮本は忌々しげに眉間に皺を寄せる。横に座る小野寺も困った様な表情を浮かべる。その頃を思い出しているようであまり顔色が優れない。

 

「…今気にすることじゃないか。まあ、そいつらが好き勝手やってた時に事件が起きた」

「事件?」

「一つの集団が一夜にして壊滅した。あまり大きなところではなかったけどそれでも二十人弱はいたメンバーの全員がやられてた」

「その犯人が赤鬼…」

「そう。その日を境に一週間に少なくとも一つのグループが消えていった。大小関係なくね」

「それで、結局四か月足らずでほぼ全てのそういった人たちの集まりは無くなったの」

「へえ、なんかヒーロー?みたいね」

 

 客観的に聞いた率直な感想。困っている人たちの為に迷惑な人たちを懲らしめる存在。有り体な言葉で称するとして、桐崎はそんな言葉が浮かんだ。

 だが、宮本は即座にそれを否定した。

 

「それはあり得ない。だって、見つかった人たちはみんな重症や重体で、とても止めるだけを目的にしたとは思えないほどの有様だった。むしろ悪魔やら悪鬼ね」

 

 ちらりと鶫を見る桐崎。過去に同じことをした彼女の様子を窺う。一瞬目が合い物凄い速さで逸らされた。まあ、目の前でああも全否定されればそうなるだろう。

 

「それでね、その時にやられた人が呟いたの『赤い鬼が来た』って。それで広がったのが“赤鬼伝説”」

「赤い鬼ねえ…特徴とかないの?その鬼には」

「紅いバンダナとツナギ姿ってことぐらいしか知らない」

「たったそれだけ?」

「なんでも不良たちの間で戒厳令が敷かれてるらしい。これもあくまで噂だけど」

 

 一息入れるように宮本はパックのジュースを一口飲む。

 

「続けるけど、やられていた不良たちも黙ってやられてなかった。残った組織、回復した者たちが連合を組んで赤鬼退治に乗り出した。しかも他県もグループも巻き込んで膨れ上がった。数は色々言われてるわ…五百とか二千とか。実際の数字までは把握してないけど、とにかく類を見ないほどの大規模だった」

「どっちにしても随分な数ね」

「着色されてるから信用は出来ないけど……」

「それで、その連合と赤鬼との戦いはどうなったんですか?」

「さあ?」

 

 さも知っているふうに語っておきながら締めで知らないと言いだした宮本。そのあまりの適当さに桐崎、鶫の両名は思わずズッコケてしまう。

 

「さあってねえ!」

「そんなこと言われても知らないものは知らないの。話自体は色々あるけどね」

「どのような話ですか?」

「別に普通な話だけど?戦争は連合軍が勝ったとか、やっぱり鬼に粛清されたとかね。ただ今もその連合は残ってるって話。確か“オーガ”って名乗ってたはず」

「“オーガ”って鬼でしょ?」

「そう、だからそこにも説がある。鬼を討ったから“オーガ”、鬼がリーダーを務めるから“オーガ”って。どっちの由来かによって戦いの結果が分かるから随分と楽よね」

 

 ここまで聞いていて鶫はふと疑問に思う。そこまで大事になっていたのなら“集英会”が動いてしかるべきなのではないか、と。少なくとも彼女ら“ビーハイブ”の管轄地域でそのようなことが起きれば黙っていることなどありえない。

 

「あの、“集英会”はどのような対応を?」

「……ああ、一条くんちね。それも知らない。私が知っているのはあくまで巷で広まった話だけ。まあ、“赤鬼”はヤクザ---“集英会”が雇ったハンターって話もあったけどね」

「ハンター…ですか」

 

 ハンター、つまりは狩人ということ。ヤクザが雇ったとするのならば相当な存在である。自身もギャングのヒットマンとしてそれなりに有名で実力があると自負している鶫。だが、ジャパニーズ・マフィアと言われる組織のメンバーだとするなら苦戦するかもしれない。まだ見ぬ相手に拳を握りしめ、その存在を強く意識する。

 ---お嬢にもし手を出すようなことがあれば、たとえ四肢が捥がれようともその息の根を止めてみせよう。

 そんなことを考える鶫を知ってか知らずか、桐崎はそっと握られた拳をそっと包む。

 

「お嬢?」

「手、傷つくわよ」

 

 そっと手を開かせる。手のひらにくっきりと爪の跡が残ってしまっていた。

 

「だめよ、つぐみ。あなたも女の子なんだから」

「え?あ、はい…」

「……ま、そんなに心配する必要ないとおもうけどね」

「どうして?」

「だって、その“赤鬼”はそれ以来姿を現してないもの。さっき久々に聞いたから、生存情報。それに一般人の被害も目撃情報も皆無、まともに生きていれば関わり合いなんて---」

 

 言葉を切って宮本は桐崎と鶫の二人を見る。一般人なら問題はないが、今前にいるのはアメリカンギャングと言う事実がある。

 

「……まあいいんじゃない?」

「え!?何その間!?」

「もう、るりちゃん!」

「---ああ、あと多分“赤鬼”について一条君にきいても意味がないと思うよ」

「なんでよ?」

 

 少し聞いてみようかなあ?と思っていたところへの言葉に反応する。宮本はそれに対し肩を竦めながら答える。

 

「だって、彼あまり自分の実家の事知らないっぽいし、そんなこと把握してるは思えないけど?」

 

 ああ、なるほど、と思う。確かに、短時間ではあるが身近に彼を見ていてとても把握してるとは思えない。鶫を見ても彼女も同意見らしく、肩を竦めている。

 仕方がないのでこの話はここで終わりにする桐崎。その後解散するまで林間学校での思い出や写真についてなど話し、時間を潰した。

 

 

 

 帰宅後、自室のベットでのんびりと本を読んでいた桐崎。いつもなら誰も来ることのないこの時間で珍しくノックの音が部屋に響いた。普段ないことに戸惑つつ体を起こす。

 

「はーい」

「お嬢、少しよろしいでしょうか?」

「つぐみ?ちょっとまって」

 

 急ぎベットから扉を開ける。

 

「どうしたの?」

 

 彼女は学校の制服のままで何やら資料らしきファイルを片手に佇んでいた。

 

「ちょっと自分なりに調べてまとめまして、よろしければお嬢に、と」

「調べたって…“赤鬼”?」

「はい、如何ですか?」

「うーん…。そうね、折角だから見させてもらおうかな。入って」

 

 鶫を部屋に招き入れた桐崎は、資料を受け取り再びベットに腰掛ける。鶫も桐崎の椅子を借り彼女と向き合う形に腰を下ろした。

 

「それで、何かわかったことはあったの?」

「はい。まあこれと言って本人に行きつくようなものではないんですが……」

「---ということは実在するんだ」

「…はい」

 

 鶫の言葉の証明のように、ファイルには放課後聞いた内容より事細かに“赤鬼”の情報が記されていた。初めて出現した時期に行動範囲、目撃された順序、被害者の一人一人のキズの度合いまで書いてある。

 

「意外にあるわね」

「噂自体は多かったので。調べてみたら結構簡単に出てきました」

「ふーん…、ん?」

「どうされました?」

 

 ぺらぺらと紙を捲っていた桐崎の手が止まる。そして始めからまた見始め「やっぱり」と小さくこぼした。

 

「これまったく赤鬼本人について載っていないのね。足による攻撃を主にすることとおおよその身長くらいしか…。結構な騒動を起こしているなら顔を見た人もいるんじゃないの?」

「そのことですか……。色々と調べてはみたのですが、その時の被害者たちは記憶がおぼろげになって覚えていないとか、見ていないとかでまったく話しにならないんです」

「ホントに知らないか、戒厳令みたいなものが敷かれているか……」

「詳しく調べてみますか?」

「……いいわ、別に」

 

 桐崎はファイルをベットに置いて立ち上がると、窓辺へ行き外を眺める。野鳥、夜虫の声が風に乗りよく聞こえてくる。目に映り込む範囲は平穏そのものである。

 

「この街ではまだ私たちは余所者。だからあまり変な事はしない方がいいのよ……」

「お嬢……」

 

 哀愁を漂わせる桐崎の背中に言葉を失くす鶫。かける言葉を探すが思いつかず、鶫はただ彼女の背中を見つめるしかできなかった。




 まったく原作にない話
 初めて宮本さんが多く喋ってるけど、彼女の口調がいまいちわからない(笑)
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