偽言とコイバナ   作:虚人

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フシアナ

 桐崎千棘が転校してきて数日、相変わらず楽とは合わないようで常にいがみ合っている。そして件のペンダントも見つかっていないようで、この日も校庭を探している。

 

「まだやっとるのか」

 

 黒雲が空を覆う中、二人の様子を窺う。彼らを手伝うという事もできるが、裕樹はそうはせず今日までその様子を眺めてきた。今回もこの調子で終わるだろうと思っていると、様子が変わってきた。二人して立ち上がり言い合いを始めたかと思うと楽の怒鳴り声が轟いた。

 

「うるっせいなあ!!!!だったらもう探さなくていいからどっかいけよ!!」

 

 冷静さを欠いた声。そして桐崎が静かに去って行く。

 

「・・・なにしてんや。あいつら」

 

 楽のところには小野寺がいる。ならば---。

 傘もささずに濡れながら歩く桐崎の後ろから傘を差し出す。

 

「え?」

「傘ささんと濡れるで」

「あなたはあいつの友達の、えーっと・・・」

「鳴海裕樹や」

「そう、鳴海って名前だったわね」

 

 普通にやり取りはしているものの、その表情は浮かないものだった。だが、裕樹はなにも言わず、なにも聞かず傘を差し続ける。

 

「なにも言わないのね」

 

 そんな茂樹に耐え切れず、桐崎が小さく問いかける。

 

「べつに。当人同士の話やからな」

「そっか・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 そしてまた痛い沈黙が訪れる。雨粒の音があたりを包み、心まで曇るようだった。

 桐崎は顔を伏せるだけで喋らない。だが、その様子だけで心情は何となく理解できた。

 

「ねえ」

「ん?」

「私はどうしたらいいのかな?あなたにこんなこと訊くのも変なことだってわかってるけど・・・」

 

 楽の前とは違う弱弱しい姿だ。

 

「あんなことがあった手前あいつの手伝いなんてできないしさ」

「・・・手伝う必要なんてあるんか?」

「え?」

「もともと乗り気やなかったわけやし、本人からも手伝わんでええって言われとったやん」

「でも!」

「でも、なんや?」

 

 裕樹の問いに答えるべく、口を動かすが声が出で来ず、結局閉じてしまう。

 

「わからんのか?」

「・・・・・・そうよ。わかんないのよ!何が何だかわかんないの!!これであいつと離れられるはずなのにもやもやしてすっきりしない、頭が煮だって何も纏まらない!!」

 

 溜まった感情を吐き出すように叫ぶ。

 

「確かに初めの原因は私かもしれないけど、ここまでやってやる必要なんてないじゃない!一週間よ一週間!転校そうそうこんなことになって、変な噂まで流れるし、ホントになんなのよ!!おまけに今日は怒鳴られるわ雨に降られるわで最悪よ!!」

 

 息を乱し、拳を固く握りしめる桐崎。

 

「気いすんだか?」

「全然よ!まだ腹立たしいわ」

 

 射殺さんばかりに睨まれる。感情を爆発させるのは勝手だが、とばっちりは勘弁だ。こちらに来たのはハズレだったと密かに裕樹は思う。

 

「ああ、もう!こうなったらあいつより先に見つけて、ぐうの音も出させないようにしてやるわ!!」

「おうおう、随分とやる気やな。まあ、程々に頑張りや」

 

 立ち直ったならそれでいいか、そんなふうに軽く考えていた裕樹だが、これで終わるという事はなかった 

 

「鳴海って言ったわよね、あなた」

 

 自己解決し、息巻く桐崎に呼ばれる。嫌な予感がした。

 

「ん?せやけど」

「お願いがあるんだけど---」

 

 

 また更に数日がたった。

 相変わらず、楽と桐崎は喧嘩をしたまま、進展も好転もない。桐崎は楽を手伝いを止め、楽一人でペンダントを探している。そして楽がいなくなった後に桐崎が同じように校庭を探し回る。裕樹はそのどちらも手伝わず、ただそのどちらも眺めている。

 

「「誰にも言わず、手伝うこともせず、承認人になれって」ね。姫《ひい》さんもガクのこととやかく言えんで、ホンマ」

「うるさいわね。いいでしょべつに」

 

 楽がいなくなった校庭に出る桐崎とあとに続く裕樹。鋭い視線を流しながら飄々と歩く。あれから裕樹はどちらになにをすることなく、桐崎にお願いされたまま、以前と同じように眺め続けていた。

 

「それにしても見つからないわね」

「なんや、もう音を上げたんか?」

「違うわよ!」

 

 犬歯をむき出しにし、噛みついてくる桐崎に肩を竦め、そこでふとあること思い出す。

 

「そや、姫さんこれ使いや」

「うわっと・・・。なによこれ?」

 

 放り投げられたものを受け取った桐崎は首を傾げる。

 

「何って軍手や軍手。手え、昨日切ってたやろ。それつけてやりい」

 

 桐崎は一瞬ポカンとした表情を浮かべるが、段々口元が緩みだしついには笑い出した。

 

「なんや急に、気色悪い」

「い、いえ、ちょっとね。ありがとう、使わせてもらうわ」

 

 収まりきらない笑みを浮かべたまま軍手を付ける。

 

「それにしても、見た目不良で中身は紳士ってなによ。ギャグのつもり?おっかしい」

「よう言うわ。自分も詐欺みたいなギャップのくせに」

「それってどういう意味よ」

「さあ、なんやろうな」

 

 素知らぬ顔でその場に寝転がり、口笛を吹きだす裕樹。桐崎はそんな彼を一睨みした後、捜索を再開する。雲が青空に流れ、春風が校舎の間を吹き抜けていく。若草の香りが肺を満たし、日差しがちょうどいい感じで眠気を誘ってくる。

 何もせず見ているというの案外大変なもので、裕樹も段々と疲れてきた。相変わらず黙々と探す桐崎の背中もどこか疲労が見え隠れする。校内に自動販売機があったことを思い出し、こっそりその場を抜け出し飲み物を買いに行くことにした。

 さほど離れていない位置にある食堂でそれらを買い戻ってくると、影から桐崎を覗き見る小野寺の姿があった。

 

「何しとるんや?」

「きゃっ!・・・って、鳴海君」

「やっほ。桐崎のことか?」

「うん・・・。私も手伝えないかなって」

 

 ちらりと小野寺は桐崎を見る。どうにもあと一歩踏み出せないでいるようだ。

 

「やめとき、どうせ断られるだけや。自分の力でケジメを付けたいんやと」

「そっか・・・」

「てか、嬢ちゃんさ。こっちやのうてガクのほう行きいや。そっちのがええで、お互いに」

「え!?あのそれは・・・、あ、私用事あるんだった!」

 

 ほほほ、とあからさまな誤魔化し笑いを浮かべ足早に去っていく。あまりの早業に関心する。その行動力を是非とも他に生かして頂きたい、切実に。

 小野寺の消えいく背中を送り、桐崎のもとへ向かう。休みなく探しているようだが、やはり集中を欠いている。裕樹は意地の悪い笑みを浮かべこっそりと後ろに忍び寄り、無防備の首筋に冷えた缶を当てた。

 

「ひゃあ!?」

 

 想像もしていなかった刺激に桐崎は飛び退く。

 

「おお、猫みたいに俊敏やな」

「ちょっと何するのよ!!」

「何って差し入れや」

 

 ぽい、と片方の缶を投げ渡す。 桐崎は戸惑いながら受け取った。

 

「一休みも大事やで」

 

 そう言いその場にどかりと座り、コーラを飲む。あまりに気ままに動く裕樹に何か言いたげな顔をみせるが、すぐに諦めた様に桐崎もその場に腰を下ろす。そして、受け取った缶の確認する。

 

「レモンティー、ね。・・・うん、微妙」

「おい」

 

 随分な辛口コメントをし、遠慮無く飲む桐崎に思わず呆れてしまう。外国人は本音で語るというが、これがそうだとするなら何とも言い難いものだ。

 

「あーあ、ホントに見つからないわね。誰か学校に届けてんじゃないの?」

「それはない。毎朝聞いてるからな」

「あっそ。ていうか、なんであんたはあいつを手伝わないでここにいるのよ。友達なんでしょ?」

「んん?まあ、友人やけどそれとこれとは話が別よ。それに、頼まれてへんからな」

「案外冷めてるのね」

 

 桐崎の冷たい視線を曖昧な表情で躱し、裕樹は顔を逸らす。

 チラリと視界の端に光が入った。彼らがいる場所から少し離れた生垣からだ。

 

「どうしたの?」

 

 急に立ち上がったことにより声をかけられる。だが、そんなことは今はどうでもいい。

 

「なあ、探したのは下ばかりか?」

「え?」

「ええから」

「えーっと、確かそうだった気がする」

 

 ああ、なるほど。そう思った。それと同時に急に怠くなたのはきっと気のせいじゃない。だからあからさまに溜め息を吐いてしまった。

 

「俺はもう帰るわ」

「え?・・・あ、うん。そう、わかったわ」

「姫さん、足元ばかり見てたらあかんで、もっと周りに気い配りや。じゃないと見えるもんも見えないで」

 

 桐崎の返答を聞く前にその場を後にする裕樹。

 桐崎は出そうになった声を飲みこみ、今言われた言葉を頭で反復する。そして、彼の今までに無い行動を考える。ジュースを飲んでいたら急に立ち上がって、やる気なさげに帰って行った。なら、彼はジュースを飲んでいた時に何かがあったのかもしれない。

 

「周りを見ろ?」

 

 裕樹が居たところに立ち、周囲を確認する。何もなくただ雑草の生えた見飽きた校庭があるだけ。訳が分からない。茂樹の変わりようにやる気を持っていかれたことと、長く日に当たっていたことでどっと疲れた桐崎はその場にしゃがみ込んだ。そして、

 

「ん?」

 

 眩しい。思わず手で遮る。そこで気づいた。この光が上から、つまり太陽から来ているものでなく少し離れた生垣から来ていることに。重くなった体を勢いよくおこし、生垣に駆けよる。

 今は見えない光はかなり内側から来ていたようだ。シャツの袖を捲り生垣の木に突っ込む。あまり手入れがされていないそれは、枝葉が無駄に盛り、うまく探すことが出来ない。

 

「ああもう!面倒ね!!」

 

 ついに上半身を生垣に入れる形になる。この体勢はかなり息苦しい。枝を何本かへし折り、蜘蛛の巣を掃い、ようやく目的のものを手に掴み生垣から出る。

 

「こんなとこにあったの・・・」

 

 手の中にあるものを見て呟く。ゴテゴテとした作りのアクセサリー。ここ数日間ずっと探し続けていたペンダントだ。どうやらかなり飛ばされていたようだ。

 

「あいつ、見つけたのらいいなさいよ」

 

 今はいない似非不良に悪態をつく。だが、すぐに気が付く。

 

「私のため、か」

 

 おそらく、あそこで裕樹がこれを見つけていたら桐崎は納得することなど到底できないだろう。いや、現状も不満が無いと言えば嘘になるが、それでも幾分かマシだ。それを理解したうえでヒントだけ告げ帰ったのだろう。

 

「借りね。必ず返すわ」

 

 貰いっぱなしはガラじゃない。どんな形であれ清算しよう。そう心に桐崎は誓う。だが、まずは一条楽との因縁にケリを付けなくてはならない。歪なペンダントを強く握りしめる。さて、どう渡そうか・・・、まだ桐崎の悩みは終わらなかった。




探してる程見つけられない、よくある。

このあと直接渡せず剛速球プレゼント。
よく鼻の骨とか折れなかったね!

そして偽物の恋人に。
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