偽言とコイバナ   作:虚人

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ミルモノ

欠伸をころしながら廊下を歩く裕樹。すれ違う同級生たちに軽く挨拶を交わしつつ自身の教室に向かう。今日も予鈴ギリギリの登校でのんびり歩いていると、突然大歓声が響いてきた。

 

「な、なんや、やかましい」

 

 寝ぼけてた頭を強制的に覚醒させられて顔をしかめる。賑やかなのは好きだが、五月蠅いのは嫌いだ。朝の心地良い微睡を邪魔されるというのは更に嫌いだ。深く息を吐き頭を強く掻き毟る。いまだ騒がしく聞こえる声はどうやら目的地から発生しているようだった。何となくだが、この原因が楽関係のような気がしてしまう。

 

「はあ、今日はサボるか…?」

 

 もともとなかったやる気が更にそがれ、どうでもよくなってきた裕樹はこのまま帰ろうかと考え、足を止める。もう教室は目と鼻の先だが、どうにも気持ちが乗らない。しかし、このまま帰るのもそれはそれで面倒なところもある。窓の外をボーっと眺めながらどうするか考える。

 

「屋上で寝るか…」

「ダメよ、そんなの」

「ん?げ、キョーコちゃん!」

「先生をつけなさいって」

 

 目線を元に戻すと 呆れ顔の担任がいた。実にタイミングの悪いことだ。

 

「見逃してーなキョーコちゃん」

「ダーメ。ほら、さっさと教室に入る」

「うぃっす……」

 

 まあわかっていたことだが、あっさり断られ、更には逃げられないように襟首を持たれ引っ張られる。別に逃げる気は裕樹にはないのだが、ノリのいい先生の茶目っ気だろう。

 裕樹は引っ張られるままに教室に入る。案の定、教室はお祭り騒ぎ。悲鳴に歓声に叫び声。その中心はやはり、最近の裕樹の注目株である楽であった。先生がそちらに気を取られてるうちに腕から逃れ、裕樹は騒ぎを眺める小野寺と宮本のもとに行く。

 

「おはよーさん。いったいどういう騒ぎなん?」

「おはよう鳴海君。えっとこれはね……」

「一条君と桐崎さんが土曜日にデートしてたらしいの」

 

 言いにくそうに詰まった小野寺の続きを宮本が引き継ぎ伝えられる。どうやら、一昨日のあの出来事の事の様だ。

 

「ああ、なんやそれか」

 

 別段新しい話でなく、やっぱりそうなんか、ぐらいにしか感じることなかった。普段ならこの手の話題に食いつきそうな裕樹のそんな態度に二人は首を傾げる。

 

「鳴海君は驚かないの?あの二人の事」

「いや、十分驚いとるで?あのガクが急に姫さんと街んなかでじゃれてんの見たときからおもろそうな匂いがしとったからの。せやけど、今は気分が乗らんし何よりこの状況は面倒や」

「え!?鳴海君も見たの!?」

「まあの。言うても見ただけやけどな」

 

 本当はその時ちょっとしたことがあったが、まあお互いの為にならないと黙ることにした。

 

「そうなんだ……」

「……」

 

 寂しそうな微笑みを浮かべる小野寺。ここで気の利いた言葉を言うべきなんだが、生憎とその手の良いセリフを持ち合わせない。

 

「まあ、なんだ?ほらまだ浅い関係やから、お互い一瞬の気の迷いかもしれへんで?」

「ふふふ、なにそれ」

「……」

 

 ガラでもないことを良い、小野寺には笑われ宮本には微妙な視線を送られた。穴がったら入りたいというのはまさにこのことだろう、と身を持って感じる裕樹。だが、

 

「誤解なんだよみんな~、俺たちはカップルじゃなくて」

「超ラブラブカップルだっつーの~!!」

 

 息の合った二人の大胆発言が飛び出し、再び教室に歓声が響き渡る。

 

「ん?」

 

 一瞬、二人の口元が引きつったのが見えた。周りは気が付くことはないが、微妙に目元もひくひくと動いているのがよく見ると確認できる。それに、楽が現在小野寺の言葉で打ち砕かれてることをみるに、やはり何か裏がありそうな気配がする。

 

「ねえ」

「なんや?」

 

 なにがあるか考えていると宮本が話しかけてきた。視線はこちらによこさず、渦中の二人を眺めてるようだ。

 

「あの二人の関係どう見る?」

「どうって、二人が言うてたやろ?超ラブラブカップルやて」

「本当にそう思うの?」

「……なにが言いたいんや?」

 

 視線が交わる。探るように互いを見つめ数秒、すっと宮本が目をそらし再びあの二人の戻す。

 

「なんでもないわ、忘れて頂戴」

 

 先生に促され席につきに始めた生徒の流れにのり歩き出す宮本。だが、すぐに立ち止まり裕樹に振り返った。

 

「ああそうそう、さっきのセリフ。もう少しセンスを磨いた方がいいわよ」

「……」

 

 颯爽と去っていく後ろ姿に呆気にとられながら見送る。まさか別れ際に爆弾を放ってくるとは思わず、言葉をなくしてしまった。やはり、宮本るりという人物は苦手だ。

 

 

 

「ねえねえ鳴海君!!」

 

 あの騒動から次の日の放課後、裕樹がバイトの手芸に勤しんでいると数人の女生徒が集まってきた。時々こうして手芸をしていると集まってきていたが、今回は少し様子がおかしい。何というか、異様に目が輝いている。

 

「ど、どないしたんや?」

「実はね、私たちも土曜に見たんだ」

「見た?」

 

 はて、見たといえば件の楽の事だろうか。それならばなぜこちらに言ってくるのか。わけもわからず裕樹はポカンとした表情を浮かべる。

 女生徒たちはそんな裕樹の顔を見て今度はにんまりと笑う。

 

「惚けても駄目だよ!公園で小野寺さんと一緒にいたでしょ!」

「そうそう!それに家まで送ってたのも見たんだから!」

 

 なるほど、そっちか。彼女らがこちらに来た合点がいった。それと同時に面倒なことになりかけてることも理解できてしまった。

 

「ああ、確かにあの日は一緒におったな」

「やっぱり!!」

 

 裕樹の肯定の言にキャーキャーと黄色い悲鳴を上げる彼女ら。

 

「じゃあもしかして二人は付き合ってるの!?」

「あっという間にカップルが二つに!鳴海君小野寺さんたちとよくいるもんね」

「でも最近桐崎さんとも仲良かったよねえ」

「そうそう!でも桐崎さんは一条君とだもんね」

 

 裕樹の話を聞かずに勝手に盛り上がりだす彼女らに頬が引きつり始める。

 

「おいおい、俺は小野寺と付きおうてないで」

「えー、嘘だー」

「嘘やない。俺はあの時中学のツレとフットサルやってたんや。嬢ちゃんもたまたま通りかかっただけで、成り行きでそのまま見学していっただけや」

「そうなの?」

「せや。たんなるお友達」

「なんだ、つまんない」

 

 期待外れの結果に彼女らは口々に残念そうに呟く。だがあまり食い下がってこないことから、ふざけ半分だったようだ。実に迷惑な話であるが。

 

「そういえば、鳴海君に聞きたいんだけどさ」

 

 裕樹に浮ついた話が無いと知るとまた別の話を持ち出してきた。女性というのは話が絶えない。

 

「今度はなんや?」

「うん、桐崎さんのこと」

「姫さん?なんだっけ俺に姫さんのこと聞くんや?」

「だって桐崎さんと仲がいいのって一条君以外だと鳴海君だけだよ?」

「ああ…」

 

 仲がいいかは置いておいて、確かに彼女が周りとあまりうまくいっていないことは裕樹も認識していた。それについて時間が解決するものだと考えていたが、どうやら拗れてきてしまっているようだ。

 

「でねー、桐崎さんがあまり私たちと話してくれないの。いろいろ試してるんだよ?」

「そうそう、それで今朝も話したんだけどあしらわれちゃって……」

「やっぱさー、どっかカベあるんだよねー…。避けられてるみたいな」

「金髪美人の帰国子女ってだけで話しかけ辛いけどさ」

「一条君とかの時と態度全然違うし…」

「私達の事もホントは見下してんのかも…って」

「それで一条君以外でよく話す鳴海君に聞いてみようと思ったの」

「……」

 

 やはりと言うべきか、あまりよろしくない状況に流れているようだ。

 

「せやなあ…。まず第一に言うておかないといけんのは、姫さんは誰も見下してへんってことや。あいつはあいつなりに皆と仲良くしようとしとるんやで?」

「それ本当?」

「マジもマジの大マジや。あいつはかなり不器用やからな、冷たかったり距離があるように感じるかもしれんが、そもそも転校してきて一か月。それも外国からの転校や。環境も風習も何も違うなかで戸惑いながらの手探り。大変やろうし、早々うまくいかんやろ」

「それなら言ってくれれば…」

「他人に助けを求めるちゅうことが苦手なんや」

 

 ここ一か月、観察するなかで思ったことだ。表面上は取り繕っているが、かなりの努力をしている。いい機会かもしれない。他人との付き合い方がわからないでいる彼女にちょっとした手助けをする。聞き耳を立てている丁度いい人物もいることだし。

 

「しっとるか?姫さん、よく放課後残ってること」

「放課後?」

「ああ、影の努力ってやつやな。皆の輪に加わりたいからって一生懸命やっとるんやで?」

「残ってなにしてるの?」

「それは秘密や。プライバシーってやつやな」

 

 裕樹は悪戯っこのように笑う。だが、すぐにまた真剣な表情に戻る。それと同じくして壁の向こうにあった気配が遠ざかっていくのを感じた。どうやら、彼が動いたようだ。

 

「まあ、せやからあいつはキミらを見下してるわけちゃうねん」

「そうなんだ…」

「だからっちゅうわけじゃないけど、姫さんと仲良くしてやってくれや」

「…うん、そうだね。もう少し積極的にいこうかな!」

「ああ、せやな。まあでも、騎士《ナイト》くんがなんとかしてくれるかもしれへんで?」

「あはは、なにそれー?一条君のこと?」

 

 吹き出すように笑い始める彼女たち。しかし、彼女たちもそれには納得の様だ。

 

「そうだね、超ラブラブカップルだもんね!」

「彼氏君の活躍に期待して、明日からも頑張って話しかけよっか!」

 

 にこり微笑む。どうやら、うまくこれからも仲良くなれるよう頑張ってくれるようだ。

 自分がしてあげることはこれぐらいだ、そう裕樹は思う。友好関係っていうのは自分で築いてなんぼの話だ。難しい事ばかり考え、空回り気味の桐崎をうまくフォローするのは相方である楽の役目。そこら辺の事が鈍い彼を今回うまく誘導できたのは実にいい仕事だった。

 裕樹は身体を伸ばし、固まった筋肉をほぐす。

 

「さて、今日は終いや」

「もう帰るの?」

「まあ、今日のぶんは終わったでな」

 

 縫っていたものを鞄に入れ、立ち上がる。

 

「そっか、じゃあまた明日」

「今日はありがとうね」

「また色々話そうね!」

「ああ、ほなな」

 

 鞄を肩にかけ軽く手を振り別れを告げる。そして部屋を出て廊下をふらりと歩き出す。階段を下り、下駄箱に向かう途中で少し自分の教室の階で止まり耳を澄ませてみれば、楽と桐崎の声が響いて聞こえてきた。

 

「うまくいったようやな」

 

 喋っている内容はわからないが、仲良くやっているようで安心である。嫌よ嫌よも好きのうちという言葉もある通り、案外相性のいい二人だ。

 そんな二人声を聞きながら微笑みを浮かべていた裕樹だが、ふと、携帯にメールが入っているのに気付き視線をそれに運ぶ。そしてその笑みが消えた。

 

「……」

 

 鋭くなったその目で暫し空を見るが、やがて踵を返し階段を更に下っていく。

 彼が何を思い、何を見ているのか、それを知るものはここには誰もまだいない。




鳴海は桐崎のノート作成にかかわっておらず、ただ知っているだけ。
桐崎は鳴海が知っていたことは知らなかった。
楽は基本原作通りの行動へ。
小野寺はドア越しに盗み聞き。

なお、エキストラの女生徒のセリフは原作のモブの言葉を入れつつの鳴海を混ぜたものである。
小野寺の事について引きが早いのは、昼に小野寺と同じような問答をしたためでもある。
ということで。
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