偽言とコイバナ   作:虚人

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ホウモン(ウラ)

現在、一条楽は猛烈な感動と幸福に心躍らせていた。というのも、宮本の突然な発案で一条家で勉強会を開くことになり、意中の人物である小野寺小咲が来ることになったのだ。何故急にそんなことを言いだしたかわからないが、実にありがたい申し出あったことは確かだ。

 

「お待ちしてやしたぜ坊ちあ~ゃん!!今日はお勉強会ですってね~!!?」

 

 玄関扉を開けた先にはやたらとテンションの高い竜たちが待ち構えていた。あまりのニヤつき様に楽は少し心が落ち着いてしまった。

 

「…ああ、茶ァ頼む…」

「了解しやしたァ!!」

「はあ……、ん?」

 

 隅に置かれた革靴が目に留まった。見覚えのない靴だ。

 

「今誰か来てるのか?」

「え?へえ…まあ」

 

 顔を逸らし言い淀む彼らに首を傾げる。

 隠すことが苦手な彼らの事だから聞けばわかることだろうが、ここで言わないというのならば、それはつまり楽が知らなくていい事であるということだ。楽もこれまでの生活で何となくそういったことがわかるため、突っ込むことはしない。

 取り敢えずは、今はこの現状を神に感謝する楽であった。

 

 

 

 同刻、屋敷の奥では重く、険しい空気が立ち込めていた。

 

「……お前、本気で言ってるのか?」

「ええ、本気ですよ」

 

 組長の鋭い視線をまっすぐ受け止める裕樹には一切の気負いはない。

 

「これは彼らにとって必要な事であり、なにより彼らの問題でありますから」

「あいつらの問題、ねえ…。本気で言ってんのか?」

「はい」

「あいつらの周りだけで収まる問題だと?」

「ええ、収まります」

「堅気の人間に被害が出てからじゃ遅いんだぞ?」

 

 眉間に刻まれる溝を深くし威圧する。

 

「そうはなりませんよ」

 

 しかし、それすら裕樹は気にも留めることなく、素知らぬ顔で言い放つ。

 

「ほう、どうしてそう言い切れる?」

「あちらの行動は常に把握しています。それに収拾がつかない事態になる前にこちらも動きますので」

「てめえが直々にか?」

「……」

 

 組長の問いかけに裕樹は微かに口の端を釣り上げる。

 

「こちらのことは私に任せて下さい。それに、あなた方もこんな小さなことに構っていられる状況ではないでしょうし」

「ふん、知ったふうな口を」

 

 鼻を鳴らす組長ではあるが、裕樹がいった事は正しい。現在、ギャング組織“ビーハイブ”と非常に危うい関係にある。互いの長の子供たちによってその関係は微妙なバランスで保たれている。それがかなり危ういもので、どういった要因で崩れるかもわからない。

 暫し思考を巡らせ、目の前の男を見る。落ち着き払い何を考えているかわからない。

 

「……いいだろう」

「ありがとうございます」

「ただしっ!!」

 

 頭を下げようとした裕樹を遮る。

 

「一か月だ。一か月以内に終わらせろ。それができなければこちらも黙ってちゃいられねえぞ」

「十分です」

「ならてめえに任さてやる」

「はい、わかりました」

 

 深々と頭を下げる裕樹に組長は一瞬、渋い顔をするがすぐに悪戯小僧のような顔を浮かべた。

 

「それで、久しぶりの学校どうだ?楽しくやってるか?」

「ええ、まあそれなりに楽しくしてます」

「そうか、そりゃあなによりだ。ところでてめえ今日は学校はどうした?休みじゃねえだろ」

「わかっているのに聞かれるんですか?こんなこと息子さんに聞かれるわけにはいきませんし、見られるわけにもいきませんからこうやって平日に来ているんですよ」

 

 カッカッカと笑い湯呑に手をかける。

 

「新しい環境はそれなりに充実しているようでなによりだ。実はな、いまごろ楽のやつが友達つれてここに来るようなんだが、顔出してくか?」

「まさか、出すわけないでしょう」

 

 呆れたように呟き、裕樹は立ち上がる。

 

「彼らが来るのでしたら私はこれで失礼させてもらいますよ。会うわけにはいきませんので」

 

 一礼し、部屋を後にしよう障子に手をかけた時、不意に呼び止められた。

 

「てめえはいつまでそうしていくつもりだ?」

「……」

 

 何も答えず、今度こそ部屋から立ち去る。

 廊下に出た裕樹は空を仰ぎ、深く息を吐いた。きつめに締めていたネクタイを緩め、歩き出す。ここまで送ってきてくれた竜も、代わりの者もいない。どうやら楽たち一行が来るという事は本当の様であった。しかし、それを差し引いても誰もいないというのは、信用されているのか、はたまたその必要がないと思われているのか。

 歩を進めていくにつれ、徐々に賑わい出す一条家。一般人が見たら逃げ出すような人たちがあちこち動き回っており、数人が襖に張り付き耳をそばだてている。何となくだが、そこに楽たちがいるのだろう。

 

「おう、けえるのか?」

「用事は済んだからな」

 

 声をかけてきた竜に軽い調子で返す。先程までと真逆な態度であったが、竜はそれについて一切の動揺はない。彼がこういう人物だという事はよく知っているからだ。

 

「一緒に勉強してくればいいじゃねえか」

「堪忍や、勉強なんて授業受けてれば十分」

「そうか」

 

 ひらひらと手を振り、あからさまに嫌そうな表情を浮かべる裕樹に思わず苦笑してまう竜。

 

「ほなな、俺はこれで帰らせてもらうわ」

「あ、おいっ!!」

 

 竜の制止を聞き流し、裕樹は玄関戸を開け外に出、そのまま後ろ手で戸を閉ざした。軽く肩を解した裕樹は懐からサングラスを取り出しかける。スーツにサングラス、そして普段はしない金に輝くオールバック。体格がいい分、その威圧感はかなりのものだ。

 門を出てからも周りの目はこちらに向くことはない。少し歩いたところで裕樹は携帯を取り出した。

 

「ああ、おれや」

「---?」

「大丈夫や、許可はとったからの」

「---!」

「気にすんなや、せやけどわかってるとは思うがキッチリ片を付けろ。もしお前らの手に余ると判断したらこちらで処理するからな」

「--!---!?」

「三週間や。それ以内に終わらせろ」

 

 相手の返答を聞くことなく電話を切る。

 

「盗み聞きとは、随分な趣味持ってようで」

 

 至極怠そうな顔で振り向く。その視線の先には険しい顔を浮かべた眼鏡の外国人。名前は確か、クロードと呼ばれていたはずだ。

 

「何の用で?」

「貴様になど用はない」

「んん?」

「貴様がどんな人物だろうが、何をしていようが、お嬢に害がないのであればどうでもいいことだ」

「ふーん、そうけ」

「だが」

「あん?」

「貴様はよくあのガキと一緒にいるな」

 

 纏う空気が変わる。気怠そうにしていた裕樹もそれを受け、漸く体を向けた。

 

「それがどうしたんや?」

「お嬢はどこだ?」

「はあ?」

「お嬢はどこだ、と聞いている!!」

 

 地面を踏み鳴らし、怒号を発するクロード。だが、裕樹は彼の発言に呆気を取られた。どうやら、彼は今まで桐崎を探していたようだ。そしてこの怒気も彼女から来るのだろう。

 

「過保護もここまで来ると、言う事が逆にのうなるわ」

「質問に答えろ小僧…」

「はあ、堪え性のないやっちゃな」

「なに?」

 

 クロードが青筋を浮かべ懐に手を入れるの確認し、裕樹は肩を竦める。

 

「一条楽の家や」

「なんだと?」

「聞こえへんかったんか?だから一条楽の家におるで、あんたんとこのお姫様は」

 

 こちらを睨めつける様に見てくるクロード。裕樹の言葉が正しいのかどうか推し測っているようだ。だが、サングラスをかけているため裕樹の表情は読み取れない。

 

「いいだろう、信じてやる」

「いや、俺が嘘つく必要ないやろ」

「ふん」

 

 懐に入れた腕を出し、眼鏡をかけ直しながら言うクロードに裕樹は思わず崩れてしまう。

 

「待っていてください!!お嬢ーーーーーーーっ!!!」

 

 もはや裕樹の事は眼中にないと言わんばかりに駆け出し、あっという間に視界から消えてしまった。

 

「なんなんやいったい…」

 

 少し、彼を楽たちのもとにやったのは間違いだったかもしれないと思った裕樹だったが、流石にヤクザの本拠地で荒事はおこさないだろうという考えに至った。

 ずれたサングラスを直し、止めていた歩みを再開する。

 

「カハッ」

 

 これから起こるであろうことを想像し、思わず笑いが漏れる。口角はつりあがり、格好も相まって尋常ならざる雰囲気が滲み出ているように感じさえする。

 

「さあ、どうなるんやろうなあ……、お互い」

 

 昼間にも関わらず誰もいない道に裕樹の声が染み渡る。革靴の音と押し殺した笑い声を響かせ、裕樹はその場から去って行った。

 

 

 

「よかったんですか?組長」

「なにがだ?」

 

 先程まで裕樹と話していた部屋で、組長と組員たちが集まり裕樹との会話について話をしていた。

 

「なにがって、ウチらの島の問題っすよね?ならやっぱウチらが出張った方が---」

「今ウチは荒事を起こせる状態じゃねえ、それにあいつもそろそろ溜まってるみたいだったしな。ちょうどよかったんだよ、互いによ」

 

 お茶をすすりながら呟かれたその言葉に一同がどこか納得したような、しかしどこか納得しきれない、そんな表情を浮かべる。

 

「それで組長は納得されたんですか…?」

「オレはな、あいつのことは高く見てるんだ」

「知ってます。組長があいつを見つけた時から言ってましたから」

「ああ、あいつはお前たちと同じで息子みたいなもんだからな。たまの我が儘くらいは聞いてやらなけりゃな」

「いつ牙を向けるかわかったもんじゃないですがね」

「カッカッカッカッ!!」

 

 誰かの囁きが耳に入り、組長は可笑しそうに笑い声をあげた。

 

「くくく。いいじゃねえか、そういうのも。オレは嫌いじゃねえぞ」

「よして下さい組長」

 

 どこまでも楽しそうに言う組長に心底心配する組員一同。

 そんな会議のなかに、一つの怒号が届く。

 

「お嬢ーーー!!」

 

 少し遠くから聞こえるその叫びは、どうやら庭から発信されてるようだ。

 

「おや、今日は客が多いな」

「そんな悠長なことを言ってる場合ですか!?」

「ぼっちゃあああああああん!!」

「騒がしい連中だなあ」

 

 絶叫と共に飛び出す息子たちを見送り、開け放たれた障子から親は一人空を見上げる。何を考えているかなど誰にもわからない。ただ一人物思いに耽る。

 

「どうなるのか、ねえ……」

 

 聞く者のいない言葉は風に流され、虚空へと消えて行った。




楽、天に昇り地に落ちる。
桐崎、楽の評価を上方修正。(吊り橋効果?)
小野寺、動揺し逃げ出す。
舞子、二人の関係に納得する。
宮本、本の作戦失敗につき次へ。


鳴海は別に集英組に属しているわけではないです。ただ、彼らはやんごとならない繋がりがあるということです。それが正か負かはまたそのうちに。

というか、めちゃくちゃ久しぶりですね、すみません。
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