鶫が転校してきて三日---。
色々とドタバタとしていたため挨拶が遅れたと、鶫は小野寺、宮本両名に改めて自己紹介をした。どこか向けている小野寺と妙に鋭い宮本のコンビの反応は真逆であったが快く受け入れられた。しかし、舞子の気安さには手厳しいようで、舞子と楽は相も変わらず警戒の色が強い。
変わらないのは周りも同様。男装しているという事が分かってからも女生徒からの人気は変わらず高く、様々な状況でよく囲まれている。
だが、あくまで彼女は桐崎千棘の警護と一条楽の見極めを優先しており、彼らの行動を随時見守ってる。
「…よぉハニー。先生が飼育係のエサ買ってこいってよー」
「ええーーー!?なんで私たちが~?」
放課後、いつものように学校で飼っている動物の世話をしている楽と桐崎。普段なら掃除やエサやりなどで終わる内容だが、この日は先生より動物たちのエサが不足してきたため、買い出しを頼まれることとなってしまった。
「…ったく、そーゆーの普通業者に頼んで持って来て貰うものなんじゃないの?」
「ウチは珍しい動物が多いからな。近くのペットショップで買うしかねぇんだよ」
「あんた一人で行ってきてよ」
「重いつーの」
難色を示し、渋る桐崎と怠そうに受け答えする楽。いつもならなんだかんだで結局は先生のいう事に従う二人だった、今回は違った。
「お待ち下さいお嬢…!!」
「ん?」
「え?」
二人の背後の垣根から突如鶫が現れ二人の間に割って入ってきた。突然の事に驚き動揺する二人をよそに彼女は桐崎に雑用をやらせるわけにはいかない、自分が代わりに行くと言いだした。
「ほら行くぞ一条楽!グズグズするな!」
「えっ…待てよ。まだ準備が…!」
楽を急かし、行かんとする鶫には考えがあった。勿論、桐崎に雑用をさせられないというのは事実であるが、その他にクロードより受けた任務、楽が本当に桐崎の恋人であるかをこれを機に見極めようとしたのだ。
前に歩き、楽を睨みながらどうしてやろうか考える鶫。だが、ここで彼女の思いもよらない事態になってしまう。
よそ見をしていたため目の前に人がいることに気付かずドンッとぶつかってしまった。
「む、これはすまな…い……」
ぶつかった人物に謝ろうと顔を上げ、声が止まる。彼女の視線の先には“良い笑顔”を浮かべた裕樹が見下ろしており、威圧感を放っていた。
「おう、ポチ。こんなとこでなにしてるんや?」
「ポ、ポチと呼ぶんじゃ---」
「ん?」
「~~~……なんでも…ない」
完全に裕樹に萎縮する鶫に言葉を失くし、二人を見る楽と桐崎。そんな彼らの事など気付いていないかのように裕樹は鶫に話しかける。
「俺言うたよな?放課後は委員会があるから教室にいろって。まさか聞いてなかったなんてあらへんよなあ…?いや、あらんな。お前はちゃんと返事したもんな?」
「い、いや…それは」
「おかしいなあ、日本語通じるよなあ?ん?」
「あのだな、私は今から---」
「委員会、だろ?」
「はい!」
背筋を正し返事をする鶫に溜め息を吐き、漂わせていた威圧感が静まっていく。この間なにやら後ろの方でこそこそと話す楽と桐崎にちらりと視線を向け、しょんぼりとする鶫に視線を戻す。
「お前がやることは止めねえが、こっちのことを疎かにすんなや」
「…すまない」
「はあ、ほらいくで」
「ああ」
「ほな、すまんなお二人さん。ポチのことは俺に任せて二人で買い物に行ってきな」
「あ、ちょっと待てよ」
縮こまる鶫を連れ、この場を離れようとした裕樹を楽が引き止める。
「ん?どした?」
「委員会って長くかかるのか?」
「どうやろうな、二人で頑張ればそんなにかからんと思うが?」
それを聞き何やら互いに頷く楽と桐崎。
「ならさ、そっちが終わったら一緒に買い物に行かないか?四人で」
「おいおい、またなんで?」
折角二人でデート(?)できる機会が出来たというのにそんなことを言いだす彼らを怪訝そうに見る。それは鶫も同じようで、何を言っているんだ?この馬鹿は。と言わんばかりに楽を見ていた。
「いやさ、結構エサって量もあって重いんだよ」
「荷物持ちってこんか?」
「あ、いや」
「それもあるけど、つぐみにどうせなら街を案内しようと思って」
「お嬢…」
感動に瞳を潤ませ桐崎を見つめる鶫はほっておいて、裕樹は楽と桐崎を見る。
「だけどお前らいいのか?折角恋人同士邪魔されずゆっくりできるチャンスなんだぞ?」
「恋人?」
「どうし?」
「…ん?」
「……っ!!ああ、いいんだよそんなことは!!いつでも仲良くできるから!なっ!ハニーっ!!!」
「--っそ、そうよ!いいのよそんなことは!ねえ、ダーリン!!!」
なにやら取り繕うようにしどろもどろになる二人。
「お前らなんか隠して---」
「じゃ、そういうことで待ってるぜ!」
裕樹の言葉を遮り、楽は桐崎の手を引きあっという間に去って行ってしまった。残された裕樹と鶫は肩を竦め、どうしたものかと考える。本来なら丁重に断るとこだが、その相手がいなくなってしまっている。それに二人のいった事も間違いではないのだ。であれば、答えは決まっているようなものであった。
「じゃあ、とっとと終わらせるとしましょうかね」
「え?」
「あいつらがああ言ってんだ。行ってやろうじゃないか」
「!ああ、そうだな!!」
何やら意気込む鶫をよそに、どうやってこの買い物を乗り切るか考える裕樹であった。
時が経ち、買い物という事で桐崎、鶫、楽の三人が集まっていた。三人は一人遅れている裕樹を待っているのだが、桐崎、鶫の両名の美貌により周りの視線が集まり、かなり居心地が悪い状況になってしまっていた。桐崎は特に気にした様子はないが、彼女に慣れない女物を着せられた鶫と嫉妬の視線を集める楽は堪ったものではなかった。
「俺が最後か、すまんな遅れたわ」
いよいよもって耐え切れなくなってきた頃、漸く裕樹がやってきた。
「ホント遅いわよ。何してたのよ?」
「ちょっと電話してての」
「ふ~ん、なに?彼女?」
「いんや、そんなんじゃねえよ。昔馴染みや」
裕樹がやってきたことでやっと動けると思ったところで、桐崎と話し出しなかなか移動しない。ついに我慢が出来なくなった楽と鶫が二人の間に入り、会話止めさせる。
「ほ、ほら早く行こうぜ。結構時間が遅いから店が閉まるとやばい」
「そうです!はやいところ済ませてしまいしょう」
「ん、せやな。ほな行きますか」
「そうね、ほらはやく案内しなさいよ」
「わかってるよ」
取り敢えずとまっての会話を止めさせることに成功し、楽を先頭に歩き出す四人。
しかし、移動し始めたところで向けられる視線が減ることなく、むしろ裕樹の登場からその視線の数が増えた。目立つ金髪がもう一人増えたという事もあるが、普段飄々としてる裕樹だがその容姿はなかなか整ったものであり、それに高身長というポイントが加わりかなり目を引くのだ。
「…なんや、そんな小さくなって」
「う、うるさい!」
横で体を丸め、隠れるように歩く鶫に声をかける。かけられた鶫は涙目で返してきた。そんな鶫をじっと裕樹が見つめる。その視線が妙に恥ずかしくなり更に顔を染め、鶫はそっぽを向く。
「な、なんだ。じっと見るんじゃない!」
「ああ、すまんな」
「……笑いたければ笑えばいいだろ」
「…はあ?なんでや?全然おもろいことないのに何を笑えって言うねん」
「この格好とか……」
「なに言ってんのや。笑いどころなんてあらんよ。よー似合ってる」
「……!!なっ……!!」
真顔で鶫を褒める裕樹。すると面白いくらいにあたふたと狼狽えだす。言葉を出そうとしてそれが出ずに消え、また出そうとして止まる。いつも凛としている様子とのギャップに、裕樹は堪らず吹き出してしまった。
「な!貴様!!まさか私をからかったのか!!?」
「ハハハ、まさか。ホンマ似合っとるよ。うん、可愛い可愛い。くくっ」
「笑うな!」
「ハッハッハッハッ」
そんなやり取りをしているうちに桐崎も参戦してきてしまい、この買い物が終わるまで終始鶫は顔を真っ赤にさせていた。
その日の深夜、ビーハイツの拠点の一室にてクロードによる鶫の訓練が行われていた。
眼隠した状態での拳銃の組み立てである。部品の位置、形状を把握し瞬時に組み立ていく。その姿はすごくでのヒットマンとしての彼女本来の姿なのであろう。
「ふむ、ところで集英組の二代目の話だが、どうだった?」
「特に何も変化はありません」
「そうか、引き続き任務を続行しろ」
「はい」
拳銃を組み立て上げ目隠しを外す鶫。クロードもストップウォッチを確認したのち拳銃の点検に入る。
「そういえば鳴海裕樹の件だが」
「…はい」
「奴に関してはお前は手を出さないでいい」
「……はい?それはどうしてですか?」
純粋な疑問である。今までこういったことはまずなかった。相手が他のギャングやマフィアなどの幹部とかならまだしも、今回の相手はただの高校生だ。
「あれについては当分様子見だ。下手に係わるべきものではない」
「…それはどういった意味ですか?」
「……」
それ以降、クロードが裕樹のことについて口を開くことはなかった。
楽、無事買い物終了から帰宅後、体に違和感を感じる
桐崎、鶫の服装に大満足。またやろうと考える
小野寺、眼鏡に興味を持つ
宮本、小野寺のボケに付き合うか迷う
舞子、なにごとにも平常運転の行動
鶫、なんだかんだで実は買い物が楽しかったりした
因みに鶫が買い物で意気込んだ理由は、桐崎と一緒に行くという点です。
さてさて、まあそろそろ本格的に主人公の相手を決定しましょうかね~
このまま宙ぶらりんだと非常にやりづらいので(笑)