桜島以降、空気となった加茂先輩を大活躍させる。
虎杖、腸相の共闘をイメージ。
色々と設定的な矛盾もありつつ、熱い展開とノリと勢いは粗を吹き飛ばせると筆者は信じています。
(なぜ俺は戦い続けている)
日車は自問しながら、術式を没収した術者にガベルを構えた。
「わ、私が悪かった! 見逃して! お願いっーー」
「麗美。死滅回遊で殺したのは、全て一般人だ」
「仕方ないじゃない! だって、そうしないと死ぬのよ! 誰も助けてくれないのに! どうしろってーー」
(助けてくれない、か。間違ってはいないのだろうな)
今日、日車が戦った呪術師の中で麗美は最も非力だった。
もうすぐ死滅回遊は一時的ではあるが終息する。 好む好まざるに関わらず、だ。
「コガネ。俺の点を全てこの女に譲渡しろ」
「了解したゼ!」
日車は今日返り討ちにした術者と、最初の1点を合わせた11点を麗美に渡した。
「え……」
「術式は没収するが、このまま時間が来ればそれで生き残れるだろう。もう誰も殺すな。何処かに身を潜めていろ」
そう言った日車の腕に、麗美は腕を組ませようと近づいた。
「私の騎士っ! きっと、あなたが本当のーー」
「俺は君を救いたいわけじゃない。ただ罪を償って欲しい。もしら生きて結界から出られたなら、自首してくれ」
「何を、何を言っているの?」
「誰も助けてくれなかった。そう言ったな? なら……せめて助けられるための努力をして欲しい」
麗美は日車の腕を振り払った。
「ふざけんな! バカなこと言うな! アンタだって……人殺しでしょ!? 偉そうに講釈垂れないでよ! バカバカしいッ!」
「……ならせめて今すぐ俺の眼の前から消えてくれ。頼むよ」
日車の殺気を感じ取り、舌打ちをして麗美は去っていく。
「……遣る瀬無いな。本当に」
助ける必要の無い人間も居る。しかし非常時における緊急避難の適用案件を満たしていないと言えば嘘になる。
だからこそ遣る瀬無い。
生きる為に他者を蹴落とす。現代社会でも、それは変わらない。呪術の存在云々を抜きしても、大なり小なり、誰もが罪を犯している。
「向き合う努力……か。俺も人のことを言えた立場ではないな……やはりキミとは違うよ。虎杖悠仁」
日車は自身の術式を受けた者のうち、ただ一人だけ罪を認めた少年の事を思い出した。
虎杖悠仁、日車が与えた1点さえ、他者に譲渡した彼の点数は0点。
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「虎杖悠仁! その式神には絶対に勝てない! 私と共に一旦引くぞーー」
憲紀は戦闘態勢を崩さず、虎杖に向かって叫んだ。
「……」
(細目+私=……前髪? 足してみれば……)
「加茂先輩?」
「何だ今の間は! 分かるだろ!」
虎杖は立体駐車場から飛び降りて、憲紀に合流した。
「あれは汎ゆる事象に適応する最強の式神…魔虚羅だ。攻撃もいずれ通じなくなるぞ」
「? いや、普通に効いてたぞ? それに宮濔羅って呼んでた」
「なに?」
加茂家の蔵書には、十種影法術が備えるそのような式神の記載は無かった。
「あの輪っか、あと1回は何も起きない。けどその後は何か切るやつと、炎と、ハンマーと防御とーー」
宮濔羅が二人の間に割って入る。
憲紀は血を操作し、閃血を放つ。
宮濔羅の首に当たったそれは、貫くことさえできずに飛散する。
(硬すぎるーーこれほどの強度! 遠距離では無意味か)
憲紀はその判断から、赤燐躍動を発動させる。
虎杖は宮濔羅の横面に拳を叩き込んだ。
「矢、それから爆発して、何か触ったもの崩すやつと、その後は再生する!」
宮濔羅がよろけた隙に、憲紀にわかっていることを全て伝えた。
(何か切るやつ? 炎だと?)
真依の構築術式と、狗巻の呪言を憲紀は連想した。
(虎杖悠仁の言葉を信じるより他無いがーー)
ガコン。宮濔羅の法輪が廻る。
(法輪の回転。確かに何も起らないようだが)
憲紀は赤燐の拳を宮濔羅に叩き込む。
華奢な見た目に反した剛体。打ち込んだ此方の拳が逆に弾かれる。
(しまったーー)
体勢が崩れた憲紀に、宮濔羅の拳が迫る。
直前、割り込むように一羽の鴉が弾丸となり、宮濔羅を吹き飛ばした。
『おやおや。私の援護一回につき、2級呪具1つは貰わないとねぇ』
インカムを通して、冥冥の声が憲紀に聞こえる。
「分かっています。今は、全力で援護をお願いします」
『ふふふ。せいぜい儲けさせてもらうよ』
等の冥冥は遠く離れた電波塔の上から、オペラグラスで式神と憲紀の戦いを観戦している。
「虎杖悠仁! さっきの言葉、信じていいんだな!」
「ああ、多分だけどーー」
憲紀には信じて作戦を組むより他にない。
特級術師相当の力を秘めたこの式神に対してーー。
虎杖と憲紀は左右に散る。
式神は、憲紀に向かって来た。
背後に回った虎杖が拳を振り上げる。
だが、それより前に、宮濔羅の法輪が回転し。
切る。虎杖が言った言葉の意味は判らない。
縦か横か、或いは斜めか。術の発動の予兆すら掴めない中で、憲紀の生存本能。そして決意が重なり合う。
(私は、生きなければならいのだ!)
刹那の一撃。
それは弱者に与えられた勝機ーー。
憲紀の拳に黒い火花が宿る。初めて体感する己の抜き身の呪力。
黒閃。
赤燐躍動と共に強化された身体能力の一撃が、宮濔羅をよろめかせ、憲紀から僅かにズレた切断がアスファルトから背後のビルまで一直線に両断する。
黒閃が憲紀の赤血操術を覚醒させる。
加茂家の密書を読み耽る内に、自身の中にあった構想。今ならば、実現させられる。
そう確信するハイ・ボルテージ。
憲紀は術者として次のランクへと登り上がっていた。
毛細血管に至るまで、汎ゆる血液に意識を巡らせる。
多量の脳内麻薬、エンドルフィンを生成させた異常な集中力が憲紀を包む。
赤血操術、赤燐躍動・思速静状。憲紀が考案した新たな秘技は、彼自身の脳内に超集中状態を生み出した。
(筋肉の動きから虎杖の次の行動が予測できる。ならば、私もそれに合わせよう)
「行け!虎杖悠仁ッーー」
「うぉおお!」
虎杖も2度の黒閃によりボルテージを上げている。
宮濔羅の懐に潜り込むと、その腕を掻い潜り、式神の脚を払った。
研ぎ澄まされた視覚、聴覚、触覚。黒閃と共に超感覚で、憲紀は虎杖と動きを合わせ、倒れた能面に拳を叩き込む。
これだけではダメージは入らない。
(しかし、これならばどうだーー)
東堂から何度も聞かされた虎杖の悪癖『逕庭拳』。より着想を得た新たな秘技。
拳に纏うように圧縮した血液が、掌打の衝撃をトリガーに炸裂する。
「血庭拳ッ!」
重なった二度目の衝撃が式神に炸裂する。瞬間、法輪の回転する音が憲紀の耳に響き、呪力がまるで油膜のように足元に広がっていく。
「先輩っ」
一足先にその範囲から逃れた虎杖に向かって、緩やかな閃血を放つ。
合図はなくとも、この連携は繋がる。その確信が戦いの中で両者の間には生まれていた。
憲紀ごと閃血を一本背負いに虎杖は持ち上げる。
上る火の手から離れた憲紀は、輸血パックの血を開放し、その温度を一気に低下させる。
融解と気化。血液が熱に溶け出し、蒸発する直前に熱を奪い、再び凝固。
超感覚状態でのみ使用可能であろう術式の連続使用により、憲紀は一瞬にして炎上を沈下させ、アスファルトに血液が赤く落ちる。
(流石にこれ以上は無理か)
細胞膜が急激な冷却と高温に崩壊し、赤血操術の制御から外れる。と、同時に虎杖が走り込む。
(そうか……東堂。これが……虎杖悠仁か!)
憲紀はそれに続く。
振り上げた宮濔羅の手。これはモーションがわかり易い。
虎杖と憲紀は左右に別れ、不可視の力場を避ける。
がら空きとなった両脇。虎杖の拳に宿る黒い光。
憲紀の纏う血液の掌打。
互いの逃げ場を塞ぐ、二つの衝撃が宮濔羅に向かって放たれ、その威力に式神の身体にヒビが入る。
(この…威力でも…! この程度のダメージしか入らないのかッ)
「次はバリアだ!」
「分かっているっ! 冥さん!」
両者は式神の反撃を掻い潜りながら、距離を取る。
中央。自死の呪力を纏う鴉の特攻。
しかし、それは宮濔羅に当たる直前で呪力を失い地に堕ちる。
次の回転までの時間は15秒ほど。憲紀は虎杖に向かって血を渡す。
「虎杖!」
「了解ッ」
それを掴んだ虎杖は、憲紀を縄で振り回して宮濔羅の頭上に上げる。
(閃血では貫けないならばーー爆発ならどうだ)
奇しくもそれは九相図(兄)腸相がたどり着いたものと同じ術式の解釈。
瞬く血の超新星ーー。
宮濔羅は頭上からの衝撃に膝を折る。
その顔に向けて、虎杖は拳を打ち込む。黒閃でなければ、この硬さに対しては有効打たり得ない。
だが、回答は先程、憲紀が見せてくれていた。
遅れた衝撃と呪力が爆ぜ、逕庭拳の威力を倍加させる。
仮面に僅かにヒビが入る。
ガコン。
今の虎杖と憲紀の直感は、狙いを自らでは無いと判断する。
《止まる必要はないーー》
「冥さん! 狙いは貴女だ!」
読み通り、放たれた呪力は冥冥の居る電波塔まで一直線に飛んでいった。
『ぐっ…あのオペラグラス……高かったんだけどね……命拾いしたよ』
インカムから冥冥の苦痛が聞こえてきた。
( 負傷したなら憂憂に任せたほうがいいだろう。何よりこの式神に対してそんな余裕は存在しない)
次は爆発。全身に傷を負った天女は、踊るように虎杖と憲紀を振り払う。
泥眼に影が差し込む。
憲紀は今の攻防で、輸血パックを全て消費した。残る血は自分自身の体内を流れる血液のみ。
宮濔羅が、幽玄に動き来る。
その組手を虎杖と共にいなしながら、憲紀は次の回転を目視した。
霧状の呪力が放出され、大気中の塵に吸着される。
(私の身体ーー持ってくれ)
爆発の威力を想定し、憲紀は体内に血液に濃淡を設けた防壁を作る。
即席の防火服のようなものだが、実際には負うであろう皮膚の裂傷と火傷は気合で耐えるより他にない。
(そして、もう一つ分かった。この爆発の中心はあの法輪っ! ならこの式神の本体もまたアレだ)
僅かな血を打ち出し、虎杖を上空へと逃がす。
(これで意図は伝わる。後は)
大気の爆発が、憲紀の身体を焼く。
血液の冷却。そしてダメージコントロールを瞬時に行う。
「うおおおおおおお!!!! 私は立っているぞッ!!!」
憲紀は雄叫びを上げた。右目が焼け、皮膚の大半は失いながら、まだ戦える。
それは自らを鼓舞するためでは無い。虎杖に無事を知らせ、僅かでも集中させるためだ。
それに応えない虎杖ではない。
全力の呪力を込めた拳が、黒い稲妻と共に、宮濔羅の法輪へと撃ち込まれる。
空間を歪める一撃に、宮濔羅は膝を折る。
ギギギッ。ヒビの入った法輪が再び廻る。それに跨り、虎杖は拳を再び振り上げる。
宮濔羅は跳躍し、ボロボロの憲紀を殴る。
骨が砕け、筋肉が裂ける。そして血が吹き出す。
(崩したいなら存分に崩せ)
宮濔羅の手が触れた憲紀の血が、粉のように消えていく。
「いだ、どりぃ゙…ぃ゙げーー」
致死寸前の血液を凝固させ、憲紀は最後の一滴を法輪と式神の間に潜り込ませた。
二度目の超新星。
そして。鬼神の手には黒が宿る。
街を衝撃が突き抜ける。
二つの排撃に挟み込まれた法輪が砕け散り、宮濔羅は黒い影に帰った。
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津美紀の領域が揺らぐ。
宮濔羅の敗北。
その気配は、綱引きを決定づける最後の一線を伏黒にもたらした。
「終わりだッ! もう……これで、津美紀ッーー」
塗りつぶしていく。
津美紀の闇と影を。伏黒の領域が。
そして。全てを絞り出した伏黒の領域が崩れ、冬の遠い空が姉弟の頭上に広がった。
憲紀イヤーということで。
粗は解りつつも、兎に角熱い展開であれば関係無いハズ。
気合を入れたので、2日がかりでした。