しんどい展開が続いたので息抜き回。
万は《万化》と揶揄される程、ネット上では物議を醸し出たキャラですが、それはキャラの問題ではなく展開の犠牲者であると筆者は考えています。
魔虚羅との正妻争いを加えつつ、本編では描かれなかった魔虚羅の調伏と同時に万をクローズアップします。
宿儺の一撃を受けた虎杖は、ビルを貫きながら吹き飛ばされた。
宿儺が術式を使わなかったのは、檻として自身を幽閉した目障りな不届き者を視界から排除する為であった。とはいえ全力で殴った訳ではあるが……。
「呆れたな。これでも死なぬとは……まあいい」
害虫など視界に無ければ構わない。わざわざ目視し、気を害すことも煩わしい。
「さて羂索の下らぬ遊戯に付き合うのも不愉快だな」
宿儺は首を鳴らす。
「裏梅。離れていろ」
「はい。宿儺様」
裏梅は氷を足場に、滑るように主の戦場から離れていく。
それを確認し、宿儺は中空へと飛び出した。
「肩慣らしには丁度よかろう……鵺」
影絵を創り出し、呼び出した鵺は、宿儺の呪力により強化された巨大な翼を幻出させる。
そして、巨鳥の羽ばたき。稲妻が降り注いだ。
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(後悔先に立たず。だな)
憲紀は動かない体の死期を悟る。1時間というのは嘘だった。
人体の構造上、皮膚の90%以上の範囲を火傷した上で、内臓の幾つかを潰されれば10分ほどで息絶える。
まして血液もほとんど残されていないのだ。
(残れと言えば、虎杖悠仁は私の死を見届けてくれただろうに)
家族との会話も寄り添う友も無い死。
だが悔いは有れども、苦しまずに逝けるのは赤血操術を宿せばこそ。
(母には…感謝をするより他無いなーー)
「…?」
眼の前が瞬いた瞬間。加茂憲紀は稲妻に焼き殺された。
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遠く雷鳴と共に起こったゾッとする様な呪力に華は恐怖した。
(なにこれ……)
思わず解いた術式。だが、万もまたその呪力に足を止める。
「すっ宿儺ぁ♡♡♡」
《堕天ッ》
その呪力の持ち主へと万はハートの視線を向け、天使はギリッと歯を鳴らす。
取り残された華は、理由もわからず恐怖する。その姿にも。
「なんで…恵っ」
「千年経てども顔ぶれが変わらぬな」
全結界に残る泳者は、今の一撃で残り8人となっていた。
《華っ! 動くんだッ》
「うご、動くーー」
《ッ光よーー》
戸惑う華を守る為に、天使が呪詞を唱えようとした瞬間。
「貫牛」
宿儺の呼び出した獣が、一瞬にして華の腕を吹き飛ばした。
「いっ…いやぁああああぁあッ!!」
「喚くな女。相変わらず下らぬ術式だ」
落ちていく天使にトドメを刺すべく宿儺はビルを蹴る。
が、その行く手に愛の使者が立ち塞がる。
「宿儺っ! やっと会えたわね!」
万は両手に甲殻を構築しながら、宿儺を迎え撃つ構えを取る。
「……はぁ」
テンションを下げた宿儺は、万を回避する様に後に下がる。
「千年…この時を待っていたぁあ! 私の愛が今度こそ貴方を包む時を!!!」
「……」
無言で放った解を、事もなげに万は回避し、宿儺に拳を撃ち込む。
「喧しい」
甲殻の内に溜め込んだ弾性エネルギーによる一撃を防ぎ、宿儺は言った。
「なら黙らせてみなさい! 千年前のようにぃ!!」
「……いいだろう。雑魚ばかりでは食が振るわぬ」
宿儺が街に降りると、その前に万も降り立つ。同時に液体金属を構築し、ウォーターカッターの要領で宿儺に向けて放つ。
「腕は落ちて居ないようだな」
「当たり前でしょう! 私を誰だと思っているの?」
「知らん」
「万! 貴方に愛を教え! つ、つつっ妻となる女よっ!」
「覚えは無いな」
「なら今覚えなさいッ!」
……そ、それと、けっ、結婚も……。と小さく付け加える。
「やってみろ。俺に勝てば記憶に残るやもしれぬぞ」
「はい言いました!! 今の縛りぃ!! 勝ったら結婚するのよおおおおぉ宿儺ァあァぁああ!!!!しゃごらぁあああテンションあがってきたぁあああ!!!!!」
「……」
宿儺はため息を吐いて、万に向かい合う。
言動はともかく実力に関しては、万は千年前の呪術師の中でも随一と言っても良い相手であると宿儺も認めていた。
「今は少々気分がいい。ハンデをやろう」
宿儺は両腕を万に突き出し、調伏の為の呪詞を唱える。
「布瑠部由良由良」
ビリッと万はその呪力に少々痺れる。
「八束剣異戒神将魔虚羅」
無数の玉犬が鳴くと同時に、法輪を掲げた巨人が召喚される。
「コイツ……式神かッ!!」
しかしその意識が宿儺に向いている事を察し、万は宿儺に向き直る。
「私を相手にしながら、この式神を調伏するつもり?」
「無論だ。貴様にとってはまたとない好機であろう?」
宿儺が応じると同時に、万は全身に甲殻の鎧を纏う。
「いいわ。貴方のその強者故の孤独……私の愛で満たしてあげるッ!」
フッ、と宿儺は鼻で笑う。
「え?」
「さっさと掛かってこい」
魔虚羅が万に先んじて動く。
(以前の調伏から状態を引き継いでいる…訳では無いようだな)
宿儺は魔虚羅の拳を受け止め、その巨体を軽々と持ち上げる。
「胴ががら空きッーー」
「知っておるわ」
万に向かって魔虚羅を振り下ろす。
「恋路の邪魔あぁあ!!!」
魔虚羅に向かい、万は拳を撃ち込む。上に吹き飛ばされた魔虚羅を離し、宿儺は腕に呪力を込める。
「胴ががら空きだな」
蝦蛄、鉄砲海老に代表され、昆虫に於いてもアギトアリを含め筋肉の弾性エネルギーを利用する生物は多い。
筋肉の比率に対し、エネルギーの効率が良く、万もこれを愛用していたが。
欠点として、打ち出しの後、筋肉が完全に伸びた状態となることが挙げられる。
宿儺の迎撃の拳を、万は蹴り上げると同時に、その反動を利用し、今一度腕の弾性をリセットする。
「ほう」
「上ががら空きッ!」
振り下ろされた拳が、宿儺の頭に振り落とされ、受けた衝撃でアスファルトに体が埋まる。
圧倒的な呪力量を誇る宿儺といえども、接近戦での万の一撃は目を見張る物がある。
さらに追撃する魔虚羅の刃。
「だから恋路の邪魔ぁっ!!!」
万は蹴りで魔虚羅を吹き飛ばし、攻撃がワンテンポ遅れる。
(なるほど。調伏に含まれぬ者による攻撃は魔虚羅のダメージにもならぬのだな。適応もしていない。障害物と同じ扱いか?)
宿儺は分析しつつ、万の攻撃を躱し、中空へと登る。
「上ががら空きだな。満象」
宿儺の呪力で強化された巨像が、魔虚羅と万の上から落下してくる。
「少しは役立て木偶の坊ッーー」
万は魔虚羅の足を払うと、巨体の影に屈む。
1人で質量を受け止めた魔虚羅が屈する隙に、万は式神の懐から抜け出した。
「さて…頃合いだろう」
宿儺は閻魔天の掌印を結ぶ。
「領域展開」
伏魔御廚子。呪いの王の領域。骨の堂を中心とした無慈悲の斬撃が振り下ろされた。
ヤコブ関連は天使を瞬殺して宿儺の強さのアピールに使う方が良かったと思います。
また本作では万=三輪を活かし、普通の女の子である三輪ちゃんにしか出来ないストーリーで「強者故の孤独と愛」は決着をさせようと思います。
……わざわざ空港と鹿紫雲貶めてまですることだとは思わないので。