原作描写から読み取れた人格象として
・伏黒からは善人
・友達からも慕われている
・荒れた伏黒にジュースをかける
・死滅回遊で殺人によって発生する点で離脱することに意義を唱えない(原作では万であったため)
・そのことを伏黒が疑問に思わない
ことから虎杖、七海とは違い表面上のみの善人で伏黒が家族フィルター越しに見ていたと解釈しています。
※また登場する呪物、及びその人物名もオリジナルであり原作には一切登場していません。
2017年4月17日 八十八橋ーー。
『怖いから津美紀にもついてきてほしい』
(そんなに行きたいのならひとりで行けばいい)
私はそうは答えなかった。名前と声と顔を知っているだけの友人でも無い相手とのどうでもいい会話を続け続けた。
そうしていれば相手は何れ飽き、別の話題を持ち出し始める。
口から出てくる言葉に意味など無い。若しくは意味を騙るために言葉にしているのか……どちらにせよ私には興味が持てなかった。
『誰かを呪う暇があったら、大切な誰かのことを考えていたいの』
いつか恵が私に投げかけたつまらない問に適当に答えた時のように。
私の“大切な誰か”は何処にもいない。
その場において必要なら笑いもする。泣きもする。怒りもする。
無意味な感情の発露でも、他者は同情し、慰めるか、共感する。
(けれどそれにどんな意味があるの)
私が思う内に友人だと騙る“誰か”が橋下駄に降りていっていた。
見下ろせば自殺の名所というだけあって、深く仄暗い底が手招きするように流れちょろちょろと音を立てている。
私はそれに聴き入った。
私を取り巻く世界の凡ては普く程に無関心であった。
死はそれから私を救ってくれるのだろうか?
そう考えた時、異形の羽虫が目の前を飛んだ。
人の耳を持ち、私の唇を割り開くようにーー。
「私に用事が有るのかしら」
私は……伏黒津美紀は具現化した呪いから顔を背けた。
「コレが恵や五条さんが言っていた呪霊。けれど…貴方の意思では無いのでしょう?」
津美紀が振り返ると、暗い道路を独りの男が歩き出た。
男の頭には縫い痕があり、袈裟を着た姿からは僧侶の様にも見える。
「いやぁ。驚いたよ。まさか一般人に呪霊が見えるとはね」
「見たのは初めてよ。聞いてはいたけれど」
津美紀は男に答えながら、橋の下を見た。気絶した人間が転がっていた。
「あれも貴方がやったのかしら?」
「まさか。あの程度の呪霊は興味は無い。偶然だよ。それよりも私が気になるのは、君が呪霊を見れた理由だ」
男は馴れ馴れしく隣に来ると津美紀と同じように川を見下ろした。
「死の間際、恐怖によって非術師であっても呪霊を見ることはままある。呪力とは負のエネルギーだからね」
「そうね。ここから飛び降りようと思っていた所だったから、とか」
「……なるほどね。この世界自体に感じる忌避意識が君に呪霊を見せるほどの負の感情を想起させたわけか。興味深い話だ」
津美紀は羽虫呪霊と、それが抱えた耳を見上げた。
「アレは何?」
「ああ。呪物だよ。過去の契約でね。黄泉がえりと引き換えにちょっとした儀式に無条件で参加してもらう。そのための仕込みだよ」
「それを私に話すのは。私を殺すつもりだからでしょう?」
「うん。五条悟に私のことを知られるのが一番困るからね」
「安心して。恵はあの人のことを嫌っているけど。私は興味無いから」
「君のようなタイプは私も過去に何人も見てきた…ああ、性格の話だよ? そういう自身を取り巻く世界に対する疑念やズレを感じ、空白に閉じ籠もる。思春期に有りがちな思考だ」
「そうでしょうね。否定はしないわ」
「長い人生だ。時間が解決してくれる問題が殆どだと思うが、君は違うのかい?」
「どうかしら。そもそも私は貴方の名前さえ知らないのよ?」
「これは失礼。私は羂索だよ」
「伏黒津美紀。……羂索は私のことを殺そうとしていたんじゃないの? まるで先生のような物の言い方だったけれど」
「これは悪いクセでね。長生きをすると…悩む若者にはつい忠告のようなものをしてしまうんだ」
羂索は呪霊を呼び寄せると、呪物という耳を手に握った。
「そろそろ死んでもらおうと思うけど、いいかな?」
「ご自由に、と言いたい所だけど。質問してもいいかしら?
「構わないよ」
「さっき言っていた儀式……さしずめ私は黄泉がえりの生け贄ととでもするものなのでしょうけれど。何の為にそんなことを?」
「死滅回遊。古い知人と考えた儀式でね。全ての日本人の魂と呪力を同化させ、新しい可能性への進化を促す。簡単に言えば、その為の準備だよ」
羂索は闇夜を見上げる。
「どうなるかはわからない。分からないから知りたい」
呪との同化。津美紀はその言葉に興味を引かれた。
「つまり……それが出来たら。見ることが出来るのかしら。この世界がどれだけ呪われているのか」
「可能性として否定はしない」
津美紀は「なら」と繋げた。
「私も見てみたい。この世界の全ての呪いを。詳らかに暴き出し、確かめたい。その為なら……どんなことでも」
羂索はポカンとし、その後笑った。
「いやぁ驚いた。本当に驚かされたよ! 普通こういう話はしないんだけど……君には特別に教えてあげよう」
羂索は話し始めた。呪い。死滅回遊。そして縛り。
呪術に関する知識を語り。
夜が微かな明かりを地平線に見せた頃、羂索は津美紀と縛りを結んだ。
「非術師の魂が呪物を取り込んだ場合、本来はその肉体は受肉によって消費され、術者の黄泉がえりに利用される。が、君自身が結んだ縛りと、私と結んだ縛りが有れば逆に君の魂と肉体が術者のソレを抑え、呪力と術式のみを君に与えるだろう」
「有難う」
津美紀は微笑み、羂索から受け取った呪物を呑み込んだ。
意識が消える。目覚める確証の無い賭けを縛りとした津美紀が取り込んだ呪物の名は『特級呪物 禪院椰葛の耳』。
かつて五条家との御前試合にて壮絶なる相討ちを遂げ、仇家の断絶の呪いと共に羂索に引き継がれた忌物であった。
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2018年11月14日PM14:59
「“誰”って、アナタのお義姉ちゃんでしょ?」
津美紀の表情が消える。
「ちが、津美紀はーー」
「私の何を恵が知っているの?」
津美紀の手のひらが影を作り出す。思考の停止した伏黒には、その意味が理解できなかった。
「鵺」
ペストマスクを被った巨鳥。鋭利に揃った翼に微かな放電が青白く光る。
「伏黒ッ!」
虎杖が庇うように伏黒を突き飛ばす。
大気をヒビ割る雷電が虎杖の体に激痛を与えた。
「な、なんだよこれーー」
「虎杖さんッ!」
反応が遅れた高羽と華。
《華ッ! 呪霊だ》
天使の声に華は急襲した呪霊の攻撃から身を躱す。
「良いタイミングよ。羂索ーー」
ホテルの屋上から飛び降りた津美紀を、彼女の鵺が受け止める。
「おい! 伏黒ッ 糞っ!」
次々に襲い来る呪霊を祓う虎杖。
「ぁ、は…羂索……?」
伏黒の思考が理解を拒む。津美紀の言葉の意味の。
「しっかりしろっ! 助けろって言ったのはお前だろうがッ!!」
虎杖の叫びに、ようやく伏黒は立ち上がった。
「玉犬・混ッ」
影から生まれた式神の爪が呪霊を切り払う。
「ここは俺たちに任せて先に行け伏黒ッ! 理由はわかんねぇけど……姉ちゃんを止められんのはお前だけだろッ!」
「……悪いっ」
絞り出すように伏黒は言った。
形作った鳥の影。呼び出された鵺の脚に掴まれて、伏黒は津美紀を追いかけるように飛び立った。
あらすじ通りに今後は悲しき姉弟対決、死滅回遊デスゲームを描く予定です。