実力の差は当然あるが、伏黒の援護ありである程度戦える塩梅に。
天使の過去を少し独自解釈で追加。
こちらは夜蛾の言葉を活かすような形です。
炭化した死体。
崩壊した街はあちらこちらで上がる火の手に燻る。
見渡そうと、正しい死等何処にもない。
虎杖が近づくと、華は右目だけを動かした。
「キミは背けないのだな。あの人と……天元と同じ様に」
華の顔の半分……受肉した天使が呟いた。
右手を残し、三肢を失った華の傷口と体はケロイド状の皮膚に覆われ、受肉した天使の瞼のない左の瞳が虎杖を見る。
醜く爛れた皮膚に、黒い腫瘍が幾つも浮かぶ天使の姿は、彼女が生を受けた時代であれば、どれだけの差別を受けたか想像するに固くない。
「残念だが。私は反転を使用できない。華の痛みを、こうして代わりに受け取る事しか」
虎杖は、天使の頬を撫でると、華の手を握った。
「天元は私を照らし救ってくれた。暗闇に光を与えてくれた礼に、せめて彼女のその願いを穢す受肉者を……堕天を消し去りたかった」
「……宿儺は俺の中に居た。伏黒に受肉したのも全てオレのせいだ」
「それは違う。完全に受肉せねば、呪物を私の術式で焼くことは不可能だ。元より、私の力だけでは堕天を祓うことなど叶わなかった。言ったはずだ“これ”は私の信条であると。奪わないでくれ、私の意思を」
その言葉に、虎杖は初めて高専に来た日を思い出す。
“呪術師に悔いのない死などない”
天使は自らの信条を神と呼ぶ理由……虎杖は思い至った。
夜蛾学長が気付かせてくれた事と何一つ変わらない。
“大好きな祖父を呪うことになるぞ”
恩人を自ら呪わない為。そのために天使は生き、全てを自らの意思とした。
それの何処に、虎杖との違いがあるだろうか。
「だが…華には申し訳なく思っている。私が受肉しなければ、このような結末を迎える事は無かった」
華は薄く笑った。
「それも…違います」
一筋の涙を華は頬に伝わせた。
「恵にもう一度逢えたのは…天使様のおかげです。でも、ワタシ…貴女のように強くないからぁ……っ」
華の手が虎杖を握り返す。
「恵はワタシを助けて…くれたのっ。呪霊を祓って、ワタシに光をくれた。だから…お願いです。虎杖さん……愛する人を、ワタシの恩人を……恵を……助けてーー」
虎杖は強く頷いた。
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(他の誰のせいでもない。オレのせいだ)
ビルの屋上で虎杖は思う。
この感情は呪いではない。単純で純粋な、澄み切った怒り。
(だから祓う。アイツを…この世から消し去る)
虎杖は脚に力を込める。
風が凪いだ。
刹那、ビルが虎杖の踏み込みに崩れていく。
かつて呪霊が言っていた。祓うの間違いだと。
(ああ。その通りだ。祓う。殺す価値も此奴には無い。尊厳を、生命を踏みにじる悪鬼ーー)
「宿儺ぁああああァアアッッッ!!!!!!!!!」
憎悪が虎杖の拳に乗る。
「不愉快な声で喚くな小僧」
呪いの王の呪力が虎杖の肌を切る。無数の斬撃が降り注ぐ中を、虎杖はひたすらに突き進む。
「ッ!」
宿儺が怯む。虎杖の圧力にではない。“己の呪力低下”にだ。
拳が宿儺の顔面にめり込む。
久しく感じなかった痛みと、自らの血の味が口に広がる。
(なんだ…この力は)
込められた呪力の為ではない。根本的な部分で、虎杖の力は宿儺の想定を超え増している。
そして……もうひとつ。埒外の現象。
虎杖の拳に乗せられた呪力が、宿儺の肉を切る。
その鋭さは間違いなく自身の術式の物であった。
(そうか……小僧はあの時のーー)
「羂索め…気味悪いことをする……」
虎杖の正体。自らの器足り得た理由を察し、宿儺は呟いた。
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“誰も傷つけない”
その縛りを破った宿儺が受けた罰は2つ。
1つは、受肉による魂の死の不可化。
通常、呪物化する程の呪術師の力は器の魂を圧し殺し、肉体を奪い取る。
しかし、虎杖との縛りを破り“虎杖悠仁”を傷つけた宿儺の魂は、弱まった伏黒の魂から肉体の主導権を奪ってはいるが、完全に支配することは出来ていない。
いわば、井戸の底に沈めた小石と同じ。
伏黒恵の魂は未だに残り続け、宿儺の完全な受肉を妨げ続けていた。
そしてもう1つの罰。
それこそがかつて無い不快感を、両面宿儺に与えていた。
術式、御厨子の刃は2つ。捌と解。その対の刃のうち1本、捌が虎杖の肉体に術式として刻まれ、宿儺から取り上げられたのだ。
「不愉快だ。これほどまでの屈辱は貴様が初めてだぞ……小僧」
虎杖は宿儺の言葉に歯を鳴らした。
「不愉快だと……屈辱だと……テメェが言うのかーー」
虎杖は腹の底から憎悪する。眼の前に立つ呪いに。
「何人殺した。何人奪った……オマエが……テメェがぁああー!!」
「俺が知るか! 弱者のことなど」
虎杖の拳を受け止め、宿儺は眼の前の羽虫を潰すように横腹を“本気”で蹴り抜いた。
だが、虎杖はそれを耐える。
呪いの王を受け止めた器。宿儺の呪力という重石を失ったことで、それまで圧縮され、溜まっていた虎杖の力が開放されたのだ。
(羂索め。余計な小細工を小僧に施していたか)
宿儺はさらなる苛立ちを覚えながら、虎杖の拳を避け、よろめいた顔面を殴り飛ばす。
「俺は己の身の丈を生きているにすぎぬ」
さらに宿儺は倒れかけた虎杖の頭を踏みつけ、地面に埋める。
「貴様らは生涯、己の身の丈にあった不幸を噛み締めていれば良いのだ」
「……なら噛み潰してみろよ…不幸をーー」
虎杖の瞳が宿儺を見上げる。
不快感から蹴り伏せようとした宿儺の動き。虎杖は読み切りその足を掬い上げる。
解による斬撃の中、虎杖は宿儺に拳を叩き込んだ。
(切り刻めぬのは、小僧の力だけでは無い。この肉体……伏黒恵の魂が俺の邪魔をする)
虎杖は無意識に魂の輪郭をその拳で掴む。
真人を祓ったその拳に、伏黒の魂がにわかに浮上し、内から宿儺と戦い始めていた。
「不愉快だッ! 貴様らはッ!!」
虎杖の腹に宿儺の拳がめり込んだ。
血を吐き、それでも虎杖は宿儺から離れない。
臓物が潰れている。その痛みでは、虎杖悠仁は止まらない。
掌印。閻魔天の印を虎杖は結ぶ。
(俺が殺した)
虎杖は宿儺によって魂に刻み込まれた原罪を再現する。
幾度となく、虎杖の肉体で再現した呪術戦の極意。
罪の記憶が虎杖を覚醒させる。
「領域展開」
宿儺と虎杖を結界が覆う。
そこにあるのは、虎杖の心象風景。
枯れた芒。無数の罪を背負った墓標と、鎖すべき魔を再び納めるための堂が現出する。
伏魔御厨子。伏魔を封じ、安置するべき御厨子が開く。
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(こんなものが領域だと?)
虎杖のソレは、宿儺にとっては結界術と呼べる代物ですら無い。
児戯以下の領域は、帷とさえ綱引きを起こすほど脆弱であり、貼られた術式に付与された必中効果も“自身すら”対象としている。
閉じない領域を空に絵を描くが如き神業とするのであれば、これは絵ですら無い。
筆でなく手と自らの血で絵を描くが如く。流れる血を受け止める紙さえ無く。
故に区別なく捌の刃が虎杖と宿儺に振り下ろされる。
伏黒の邪魔がなければ、直ぐにでも切り裂ける領域の中。
宿儺は刃を呪力で受ける。
一方の虎杖は自らを両刃に刻まれ、血に染まって行く。
「ケヒッ……愚かな餓鬼だ」
嘲笑う宿儺を虎杖は睨み返す。
(なんだコイツは)
これまで殺してきた者とは違う感覚に宿儺は苛立ち、虎杖の顔を殴り、身体を打ち、蹴り飛ばし、それでも虎杖は掌印を解かず宿儺を睨む。
(俺はなぜ苛立っているーー)
虫を潰すことと大差など無い。しかし、それに苛立つ自身に、宿儺は苛立ちを募らせる。
「先に死ぬのは貴様だ」
変わらぬ事実を突きつけられながらも、虎杖は領域を放ち続け、刻まれ続ける。
僅かに、宿儺の身体が裂けていく。
綻び、薄皮が切られ、血が滲む。
(数刻。後数刻でこの領域は砕ける。虎杖悠仁の死によって)
宿儺はその事実にさえ苛立ちを募らた。
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九十九の死。
羂索との戦闘後、体を最短で回復させた脹相が見たものは、薄く貼られた結界の中で、幾度となく振り下ろされたであろう刃に、虎杖が刻まれる瞬間であった。
「ッ……」
弟を救うべく駆け出そうとした脹相は、息絶える寸前の少女を見つけ足を止める。
(あれは…天元の言っていたーー)
「受肉者か。だが…泳者では無いようだな」
「お前が、天元の言う汎ゆる術式を消し去る……天使と、来栖華で間違いないか?」
死を間近にした少女は頷くようにまぶたを閉じ、その頬にある口が脹相に応えた。
「その通りだ」
「……頼みがある」
脹相は九十九に託された獄門疆「裏」を天使の前に差し出す。
「これを、この呪具の封印を解除してほしい」
「虎杖悠仁も言っていたな。お前は彼の何だ?」
「兄だ」
一点の曇りも迷いもなく脹相は応えた。
「そうか。ならば信じよう」
天使は口を閉ざす。
それは生命を共有する天使にのみ伝えられた、華の最期の願いだった。
「ひか…りよ……全てを…じょうか…したまう……光よ」
震える唇で、華は呪詩を唱える。
脹相は目を閉じ、その声を魂に刻み込む。
「罪・咎・憂いを……消し去り、彼の者を導きたまえーー」
一筋の光が、獄門疆を照らし出す。
「…や…コブの……梯子……」
粛静たる祈りの様に。少女は目を閉じ涙を流す。
「感謝する。ありがとう」
再び目を開けた脹相は、傍らに立つ男と視線を合わせた。
空を映したような澄んだ瞳は、腸相の覚悟を察し、視線を外した。
「助かったよ」
五条悟は言って、脹相の傍らから姿を消した。
月曜日に本当に虎杖が覚醒するのか楽しみに待ちますが、今作ではこのような形です。
ジャンプの内容如何では多少今後の展開にも変化があると思いますが、破綻しない様に注意します。