空白の1ヶ月間編です。
彌虚葛籠と簡易領域の差は独自解釈です。
■呪術高専東京校 11月15日10:30
死滅回遊を生き延びた生徒、教員そしてーー。
「そっか。七海みたいなタイプは生き残ると思ってたんだけどね」
五条は自身が封印されている間に起きた呪術テロ、死滅回遊とその結果である一億呪霊の存在を知らされた。
「だけど変わったね。お爺ちゃんも」
「何が言いたい?」
楽巌寺は五条に聞き返した。
「昔のアンタなら、夜蛾学長の遺言。上層部に報告していたでしょ? けどしなかったし、みんなを助けてくれた。その年になっても人は変わるってことじゃないの?」
「フン…わしは事態を収拾することを優先しただけだ」
「一度しか言わないけど……感謝してるよ。今のアンタになら、呪術界を任せられる」
「クソガキも成長するようだな。多少は目上の人間を敬える様になったか」
楽巌寺は五条に言った。
「じゃあ、そういうことで♪ お爺ちゃんと、日下部さんに歌姫には上層部の対応任せたから♪」
「はぁ! 待て待て! それ面倒事押し付けただけだろ!」
「いいよ日下部。コイツそー言うやつなの分かってるでしょ。寧ろ、全員殺さないだけマシってことよ」
今の上層部は羂索の傀儡だった者たちのみ。しかし、その当の羂索は死滅回遊で命を落とした。
頭の無い傀儡程度なら、楽巌寺は十分対処できる。
「さてと。次はみんなだ」
待たせていた生徒の元に、五条は歩み出た。
「憂太、アイツを殺してくれたんだってね。ありがとう。俺独りじゃできなかった」
「先生に、2度も親友を殺させたくありませんでした。それに、僕独りでやった事じゃないんです。沢山の人に助けられた」
「そっか」
五条は乙骨の背を叩いて、次の生徒に目を向ける。
「金次もよくやった。でも停学中に賭場開くのは駄目だから。後で本気ビンタね」
「う、ウッス……」
「綺羅羅は、連帯責任だ。高専全部清掃、僕の目で見てキレイになってなかったらやり直しね」
「えぇ……」
綺羅羅はガクッと肩を落とした。
「棘。今回のことで、自分の役割がわかってきたと思う。憂太たちと違って、これからは政治的な役割もやってもらうつもりだから。ゴメンけどね」
「いくら!」
狗巻は頷いた。
「桃も同じだね。そこら辺の事は、歌姫に教えてもらってよ」
「は、はい……はい……でいいのかな?」
「いいわよ。そこは」
ひそひそと言った西宮に、歌姫は応えた。
「パンダは……小さくなったね」
「まあ仕方ねぇけど。これでもう当分は戦えないなぁ」
「あー。動くマスコットとして、広報頑張って。次、悠仁〜っ!」
雑にスルーされたパンダを慰めるように、狗巻と乙骨がぽんと肩を叩く。
「宿儺が起こしたことを気に病む必要は無いよ。僕と恵の責任だ」
「……」
「悩むなって言うのも無理だろうけど。1つだけ聞いておくよ」
五条は虎杖と目線を合わせた。
「宿儺は殺す。恵はその過程で死ぬようなら仕方ないと僕は考えてるよ。全力でやらずに勝てる相手でもないからね」
「わかってる…けどーー」
「恵を助けたい。なら、強くなれよ。俺の足を引っ張らないぐらい。そうしたら認めてやる」
何時になく真剣に、五条は虎杖に言った。
「悠仁の時とは状況が違う。けど、恵は『それでも死なせたくない』って俺に言ったよ? 悠仁はどうなの、そこんとこ」
「オレが宿儺を祓う」
「よし! それなら口先だけで終わらないよう、昼からは修行だ。恵のことはそれから決めよう。後! 憂太と秤もな!」
「は、はい!」
「うっす!」
乙骨、秤はそれぞれ応えた。
「最後は……真希か」
五条は蒼で真希を吸い寄せると、その腹を思い切り殴りつけた。
「ぐっ…は……ッ」
「先生ッ! 大丈夫ですか、真希さーー」
「憂太は下がってろ。ボクは怒ってんだ」
「……っぐ」
五条はしゃがんで、真希の目を見た。
「当主に成って、禪院家を見返すんじゃ無かったっけ? それって、ボクの聞き間違いだったのかな?」
起き上がろうとした真希を、五条はもう一発殴る。
「ぐぅ…クソ…目隠しが…」
「話そらすなよ。今は隠してないでしょ。家風がどうあれ、禪院家は呪霊を祓って非術者を救ってきた。それを全部壊したお前が何か言えるとしたら、相応の仕事をした後じゃない?」
「あぁ! やってやるよ! テメェに言われる必要ねーー」
3回目の拳が、真希を吹き飛ばした。
「じゃあやれよ。一生賭けてでもな」
五条は言って立ち上がった。
「じゃあ話は終わった所で! はい! みんなそれぞれの仕事を始めましょー!」
五条の仕切りで、その場は終わった。
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東京都市部はほぼ壊滅し、今は郊外にほとんどの人間が避難している。
他の邪魔が入らないよう、五条が連れてきたのは、乙骨と虎杖、本気ビンタされた秤の三人。
「ダメージ転送されんじゃなかったのかよ」
「戦闘じゃないから……じゃないですか」
「ふふ。教師の愛の鞭は届くということだよ」
五条の言葉に場が白ける。
「……じゃあ先ずは、どれだけ強くなったのか。みんなの今の実力を見せてもらおうか」
術式有りの五条から一本取る。それが3人に与えられた課題だった。
(本気だ)
最強の呪術師の本気の呪力に、虎杖は気圧される。
「領域展開」
秤は掌印を結んで、坐殺博徒を発動させる。
「そうそう。そういうこと。で、ここからどうするーー」
虎杖は動き出し、拳を握る。が当然、五条には届かない。
五条は虎杖の腕掴むと、素早く2発の掌打を放つ。瞬間、乙骨は顕現させたリカの腕と共に、五条を背後から急襲する。
(リカは宇守羅彈を付与している。これなら先生にも届くかーー)
だが触れるよりも早く赫の放散が乙骨を吹き飛ばした。
「虎杖と憂太はこれ、KO判定でない? それと、金次はここからどうするつもり?」
「あっ……五条さん。それはーー」
五条は残った秤を順当に殴り飛ばした。
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「お疲れ様ー! そっちはどういう感じ? 日下部さん」
日暮れ、元気いっぱいの五条は、高専内で西宮と狗巻の修練する日下部に話しかけた。
「あまり良くねぇな。簡易領域は見せて覚えてもらうしかねぇし」
「初日はこんなもんでしょ。こっちも成果なし!」
ボロボロに疲れ果てた虎杖を支える脹相。
綺羅羅に支えられる秤。
乙骨は疲労はアレど独りで歩ける。
修行の初日を終えて、3人は1度も五条から一本を奪えなかった。
肉体的なダメージは無いが、呪力消費による疲労は身体に残る。
筋肉痛の様な痛みと共に。
「……オイ。さっきから見てりゃあテメェ等雁首揃えた間抜けか?」
独り座っていた鹿紫雲が言う。
「あ? 部外者だろお前は鹿紫雲」
日下部が強気に出たのは、生徒たちの前だったからだ。
ダメージを受けることも無い。
「苛つくんだよ。簡易領域だの、見て覚えろだの」
「ふーん。ナルホドねぇ。みんなチューモク! 特別講師の鹿紫雲先生が何かアドバイスしてくれるそーです!」
五条は鹿紫雲を煽るように手を叩いた。
「殺すぞ。六眼」
「1ヶ月後にね。やるなら」
鹿紫雲は舌打ちする。
「おい、いいのかよ五条。コイツ敵か味方かも判んねえんだぞ!」
「大丈夫だよ。1ヶ月間動けないのは、鹿紫雲も同じなんだ。それに……」
こそっと日下部に耳打ちする。
「教育初心者の間違った教え……それを正せば僕らの株も上がるでしょ?」
「ほう。お主も悪よの〜」
「いえいえ、日下部様ほどでは……オッホホホ!」
「……なにやってんだ。あれ」
虎杖は言って、鹿紫雲に戻る。
「おい呪言! 簡易領域の事は忘れろ。イメージするな」
「ツナ!」
コクリと頷く狗巻。
「お前が呪言を使うのと同じ感覚だ。それを想像しながら、1メートルでいい。呪力を添わせろ。掌印は……」
(やってるやってる。なんて声かけよっか日下部さん)
(恥かかせようぜ。第一声で……)
教師陣がひそひそ話をする。
手本としたくない大人が見る中で、狗巻が掌印を結ぶと、球形の結界が出現した。
「よし。やっぱ彌虚葛籠はできたな」
「ええ!!!!」
「な、なんでぇええ!!」
五条と日下部、大の大人は恥ずかしげなく声を上げた。
「簡易領域は馬鹿でも時間かけりゃ覚えられる。が、彌虚葛籠は逆に時間をかけても“習得できないやつ”は一生習得出来ない。代わりに、覚えられるやつはスグに覚えられる。無論他の結界術同様に練度に差はあるがな」
「いや、理屈! オレが知りてぇのは理屈の方だよ!」
「そうそう! これじゃあ僕ら雁首揃えたバカみたいじゃん!」
「呪言使いは無意識に自分の術式範囲を身体が覚えてる。後は強いイメージさえ持てれば、円の簡易領域より、球の彌虚葛籠が覚え易いに決まってんだろ? ンな事も知らねぇのか?」
「く、くそ……」
「こんなはずでは……」
「次。付喪操術!」
「は、はいっ!」
西宮が前に出ると、日下部と五条は元気を取り戻す。
(さっきのは棘が特別だっただけだよ!日下部さん!)
(よし、そ、そうだよな…ここで一発今度こそかまそうぜ)
「またボソボソやってんな」
「見るな悠仁」
脹相は虎杖の顔を鹿紫雲に戻す。
「想像しろよ。お前の周りには猫がいる。猫玉だ。お前は浮かびたいが、そいつ等が邪魔で飛べない。どうする?」
「えっと、えっと……な、撫でます!」
「0点だ。魔法で浮かせよ魔女っ子だろうが!」
「わ、分かりました! 魔法で浮かせますっ!」
「よし。魔法を呪力に置き換えろ。自分の中で、集中してーー」
(わけわかんない事言い出したぞ!)
(これは勝機だね!)
「集中…集中して……」
「ッ今だ! 掌印結べ! 猫祭りだッ!」
「猫祭りっ!」
ブワっと西宮の周りに球の結界が出現する。
「えええええっ!!!!!」
「な、ななななっ! なんでえええ!!!」
「……」
「もう見るな。悠仁」
鹿紫雲は一息つくように座る。
「あ、ありがとうございますっ!」
「たらこ! いくら!」
西宮と狗巻は頭を下げた。
「死滅回遊……あれだけデケェ結界が張られたんだ。術式と、ある程度の結界術を使えりゃあ、呪術師なら身を護る術を身体が自分から探し出す。そういうもんだ。覚えとけ」
「はい! 先生っ!」
「うに!」
ポリポリと頭を鹿紫雲はかいた。
一方立場を失った二人の教師は、魂の抜け殻のように立ち尽くしていた。
次回も修行パートになると思います。