if呪術 ネット意見取り入れ小説バージョン   作:パワーボム

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死滅回遊に一区切りをつけます。


死滅回遊合同葬儀〜サウナ回

羂索によって引き起こされた呪術テロ、死滅回遊。

 

その死者を弔う為に選ばれた土地は飛騨高山。

雪で覆われた優大な景色に、晴れた11月の冬空が広がる。

 

檜で立てられた櫓に火が焚かれる。

 

呪術師として正装をした五条悟と、狗巻棘が祝詞を唱える中、庵歌姫が神楽を舞う。

琵琶を奏でる楽巌寺嘉伸。

葛篭を打つ東堂葵。冥冥が操る烏が榊の枝を咥えて飛ぶ。

 

荘厳な風景と合せ、虎杖は息を飲んだ。

 

「呪術って感じがしねぇだろ?」

 

仮設された畳に座る虎杖に、日下部が言った。

 

「呪うってのは、同時に祈るって事でもある。誰かの幸せを願うのも、不幸を願うのも根っこの部分じゃ同じだ。恐と執着。いわゆる我欲がそうさせる」

 

「だから、気持ちの整理をする必要があるんだよ。虎杖くん」

 

乙骨は言った。

 

「先輩……」

 

「僕も今回の死滅回遊では沢山の人に助けられた。高羽さんもそうだし、享子さんに…石流さんも」

 

乙骨は祈るように言った。

 

確かに犠牲って言葉で片付けられる程、安くは無いのかもしれないけれど……でも死者の意味を決めるには、まだ早いと僕は思うよ」

 

「その子の言う通りだ。虎杖悠仁」

 

その声に虎杖は振り向いた。

 

「日車っ……来てくれたんだ」

 

憂憂はパンパンと布を叩く。

 

「君もな。生きてくれて良かった」

 

乙骨が席を譲ろうとしたのを日車は手で止めて、虎杖の後ろに座る。

 

「死滅回遊という儀式が世界に与えた爪痕は癒えることが無い。だが俺は俺に出来ることを先ずはしようと思う」

 

日車は言って両手を合わせる。

 

五条が火に焚べたのは、死滅回遊の直接の犠牲者名簿……述べ342,189名全ての名が煙となって天へ登っていく。

 

「位相、黄昏、智慧の瞳」

 

五条が唱え、中空に蒼が出現し、空間を歪める。

 

「位相、波羅蜜、光の柱」

 

続いた詠唱に、赫が現れる。

 

「九綱、偏光……烏と声明。表裏の間……虚式『茈』」

 

普段とは違う指に弾くのではなく、撫でるよう空に送られた茈がふっと一陣の風となり、揺らぐ火はかき消される。

 

これが犠牲になった全ての人の供養になるか、虎杖にも判らない。

それでも決意と、遺された意味を考え、死を悼むことを知る。

 

両手を合わせ、目を閉じれば鼻が煙る。

時間は流れ、無限にある訳では無い。しかし虎杖はこの数瞬の祈りを、生涯忘れること無く魂に刻み込んだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はい! それじゃあ今日はゆっくりと休もう! 宿は取ってあるから、自由に温泉でも浸かって明日からまた修行だ!」

 

儀式を終え、飛騨の山から下山した全員に五条は言った。

緊張の糸が切れた様に、それぞれ気持ちの整理を付けた生徒と呪術師は各々、町に出る。

 

「ふぅ…ワタシも少しは」

 

今日までのセッティングをした伊地知は腰をこんこんと叩く。

 

「あ。伊地知は調査よろしくね」

 

「……え?」

 

五条悟に伊地知は振り返った。笑っていた。悪魔が。

 

「なんの為に飛騨を選んだと思ってんの? 宿儺の伝承調べるためでしょ? やる事は全部やりたいんだからさ。伊地知も遊んでないで、しっかりやってくれないと困るよ」

 

「いや…困るのは…ワタシで五条さんでは……」

 

「じゃあ。頼んだから」

 

ひらひらと五条は手を振って去っていく。

 

「あ、あの……」

 

「ワシも久しぶりの余暇じゃ。湯に浸かるとしようかの」

 

楽巌寺は声を無視して、歩き出す。

 

「あ……あの……」

 

「私達も行こうか。真希もいつまで拗ないの」

 

「はい!」

 

「別に拗ねてねぇよ」

 

歌姫は、真希と西宮を連れ、古めかしい町並みを歩いていく。

 

野郎は残るはずもなく。

 

「ワタシしか……」

 

寄る辺なき伊地知の肩を叩いたのは、日車だった。

 

(この人は…やはりーー)

 

同族だけが放つ臭いを伊地知は初めて会った時から日車に感じていた。

無理難題を押し付けられながらも、それに答えなければならない立場にある……選ばれた男だけが持つ、通称「貧乏くじ」の臭い。

 

(共に苦楽を、主に苦を共有する同士。ワタシが求めた相方。それはこの方だ)

 

伊地知は天に感謝した。

それは仮初の安寧であった事も知らずに。

 

「すまないが、どこかいい湯を教えて欲しい。俺もしばらく温泉に浸かって考えたいことがあるんだ」

 

「え?」

 

「いや、君が知らないのであれば仕方が無い。自分で探すとしよう。呼び止めて悪かった」

 

ポンポンと2度肩を叩き、日車は伊地知を置きざりにした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(コレってーー)

 

それは20分が過ぎた時点。30分を過ぎた時点で、虎杖の感じた疑念は確信に変わった。

 

誰もサウナから出ようとしないのである。

 

誰も!! サウナから出ようとしないのであるッ!!

 

鹿紫雲一。東堂葵は仁王のように両手を組む。

2人は密かに簡易領域を展開していた。

薄く張った呪力は、熱との間に層を作り、2人の温度を適温とは言えぬまでも汗を快適にかける程度に保っている。

 

鹿紫雲は最初に出ることにより生じる敗北感が許せない。

 

東堂はブラザーとして、虎杖より先に立つワケにはいかない。

 

プライドの為に。

 

「……なんか、生暖かい気がしますね。ドア開けたほうがいいんじゃないですか?」

 

世間話をする“フリ”をして、乙骨も密かにリカを使い、売店から氷を持ち込んでいる。

 

空気読みからの行動。より長くサウナに居続けるため、五条悟に次ぐ異能は、その才を存分に披露したのだ。

 

「ああ?! 熱が熱くなんねぇだろうが」

 

単純にサウナ好きな秤は言った。

 

「ふっ。まあ、たしかに……ふぁあっ……この程度ではな」

 

脹相は欠伸を幾度もしている。

無論、無意味にしている訳ではない。

赤血操術による血液の循環により、熱を口腔に集め、欠伸と同時に排熱しているのだ。

 

兄としての威厳とサウナ道を悠仁に示すために。

 

呪術戦の極意を秘めし者たち。

 

全ては“最初の脱落者とならないために”。

 

戦場の如く、水面下で絶技が繰り広げられていた。

 

「オイ! 虎杖っ! 熱足んねぇんじゃねぇか? “水”足してけよ」

 

(ウソだろーーなに言ってんだ、かっしーっ!!)

 

鹿紫雲は汗を流しながらも、虎杖に催促する。

 

最も光熱を発する岩盤に虎杖を誘導し、追い詰める罠。

 

東堂も脹相も、虎杖にブラザーとしての威厳、兄として威厳を見せようと助け舟は出さない。

 

乙骨憂太……五条悟に次ぐ異能は不動。

 

「たく遅いなぁ……」

 

(まてまてまて! 先輩っ! 待てってーー)

 

悪魔のような影が、秤の顔にかかる。

 

それは魔そのもの。魔法陣から悪魔が降臨する。

湯気という魔物が……。

 

「ぐっ……おっ……」

 

圧倒的な汗が虎杖の肌を伝う。

殺される。死ぬ。このままでは……。

 

冷気が肌に優しく。

 

「なんだ。全員ここだったのか」

 

日車寛見は、ダルそうな気配と……ペットボトルを手に入ってきた。

 

健康志向の日車は、無理な整いなど求めていない。

 

故に飲料水を持参したことに悪意は無く……無邪気だった。

 

「ふぅ。色々と巡ってみるものだな。久しぶりに整ったよ」

 

ごくごくと、日車は水で喉を潤す。

 

(ズルだろ…狡だろっ! それはーー)

 

今の虎杖にとっては喉から手が出るほど欲しい冷水。

あろうことか、一切の躊躇もなく、日車は飲み干していく。

 

生命の水を。

 

さらに、僅かなドアの開閉を利用し、今一度リカを引き入れた乙骨は、手のひらに握りしめた氷を、わざと虎杖に見せる。

 

明らかなマウンティングだ。

 

先輩後輩の関係を悪化させかねない蛮行に、虎杖の血液はさらに熱くなる。

 

ニヤニヤとした視線が虎杖に絡みつく。

 

(あぁ……そうか。こいつ等はどこまで行っても“呪い”なんだーー)

 

敗者を笑うため、威厳を示すため、思惑は異なれど間違いなく呪術師がここに居るのだと虎杖は思った。

 

(自然に…出るきっかけを……やべぇ…マジでこのままじゃ……)

 

「おっ! なになにみんなもここに来てたんだ……あ、あれ? あれ……おーい! ボクと話さないのー!」

 

五条がドアを開けた瞬間、ぞろぞろとサウナを出た。

 

(使うだろ! アンタは無下限っ! 無効だ……この勝負はノーカウントっ……!)

 

虎杖、乙骨、東堂、脹相、鹿紫雲が勝負を諦めたのは、虎杖と同じ理由だった。

 

「うっす ! 五条さん」

 

「何だったんだろうね……あれ」

 

キョトンとして、五条はサウナ椅子に座った。

 

 

 

 

 

 

 

 





バトルまでもうしばらくかかりそうですが、意味のあるストーリーを積み重ねていきますので日常回をお楽しみ頂けたらと思います。
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