原作最新話のネタバレが多少あります。
単行本派の方はご注意下さい。
サウナから上がった虎杖は自動販売機でご当地サイダーを買う。
「あぁ〜、やべぇ……マジで死ぬかと思った」
売店に向かった東堂達のような元気は無かった。
サイダーを飲み、ソファーに座る。
「若いからと言って無理をするものでもない。まあ、若いから無理ができるんだがな」
日車は言って、虎杖と同じサイダーを買った。
浴衣を着た日車は、サイダーを一口飲んでから手帳を開いた。
「それなに? 何時も持ち歩いてんの?」
「あぁ、これか。死滅回遊が終わってからだ。呪力と呪術が知れ渡った今、呪術師による犯罪を現行法で裁く為の法の改正と新たな解釈は必要になる。だから、思いついた時に直ぐ書けるように、な」
日車の開いた手帳の白紙は既に三分の一程になっている。
まだ、死滅回遊が終わってから三日しか経っていないにも関わらず……。
「日車は死にたいの?」
「ん? なぜそう思う」
「それ……自分が裁かれる為だろ? だったら……」
虎杖は口を濁した。
「裁かれる…か。そうだな。裁かれるだろう。俺は人を殺した。その罪は償わなければならない。…一度俺は法を見限った男だ。だが、こうして書いていると思う」
日車はまっすぐに虎杖の目を見た。
「俺は法律が好きだ。単純に、法の解釈と向き合うことが好きだった。そこに正義があると信じられているか、まだ自信はないが……命を懸けてやり遂げたい」
日車は言った。
「前までは死にたかった。だが、今は裁かれる為に、罪を償って……生きたい。そう思うよ」
「そっか。なら良かった」
「フッ。まあ、単純に考えれば数十年は出られないだろう。今はコレだが……俺が赦された時には、君も大人になっている。その時は酒を飲もう」
「おう!」
虎杖と日車は、サイダーの缶で乾杯した。
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女湯。
「だ~か~ら~! 辛気臭いって言ってんの解んない?」
酒をしたたかに煽った歌姫は、真希に絡む。
「臭えよ…離れろっ……」
「うぇえ!! 真希がいじめるぅ〜!」
歌姫は西宮に泣きつく。
「あーあ。ばかになっちまったなぁ」
家入は言いながら、すすっと温泉を泳いで離れていく。
憂憂とさっさと帰った冥冥を除く、呪術高専女性部。
2人の大人と2人の学生。
「……前は答えなくて悪かった」
「ん。いいよもう。真依はあなたと一緒にいる事ぐらい分かってるから」
髪を下ろした西宮は言った。
「そーよぉ! 真衣ぃ! どぼじでぇ! どぼじで……ぐぼぼっ」
戻ってきた家入に沈められ、歌姫は湯の華に泡と消える。
「呪術的に言えば、双子の魂は同一人物として扱われる。夢のない言い方をすれば、消えない傷。良く言えばロマンチックだな」
家入は沈んだ歌姫の上にのしかかる。
「んなもんでもねぇよ。クソ悟の野郎……初めての正論がアレってのは堪えんだよ」
「いいじゃないか。あのバカも少しは大人になれたんだよ。年の功ってやつだな」
「それって、いいことなんですか? 年を取るってーー」
「さぁな。だが悩むのも悪くないって思えるように成る。私はね、そうなった」
西宮に答えて、家入は言った。
「はぁ……マジで馬鹿みてぇだな、いや馬鹿なんだよ、アタシは」
真希は両手を広げ、露天風呂の石にもたれかかる。
「生きてる限り、やり続けなきゃなんねぇ。ケジメをつけるにゃソレしかねぇ…分かってんだよ。んなことはとっくに」
「独りで悩むな。話せるやつを探せ。生きるっていうのはそういうことだぞ少年少女」
家入はニヤニヤとして言った。
「聞いていいか……西宮、真衣のこと。京都校の奴らのことも」
「うん。私も話す。みんなのこと」
真希と西宮は言い合って、笑う。
「いいねぇ。青春だ。あと恋愛があれば完璧だ」
「っていうか! そろそろ不味くないですか!」
「そういや泡の数減ってんな」
「ほほう」
家入がのくと、プカプカと歌姫が湯面に浮かび上がってきた。
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「菓子は好きか?」
旅館の売店で、パンダを抱いて楽巌寺は言った。
「あぁ! 大好きだ」
パンダは答え、旅館あるある……謎に固いスティクアイスを選んだ。
「お前は本来、生かすべきでない。夜蛾の忘れ形見よ」
上層部の生き残りがパンダの秘密を知れば、新たな犠牲の火種となる。
「そうだよなぁ。やっぱり……あぶねぇもんな。オレ……」
落ち込んだパンダに、楽巌寺は謎に固いスティクアイスの袋を破って、アイスを渡した。
「今なら虎杖悠仁の処刑を見送らせた五条の心も判らんでもない。お前には友も居る。今はまだ、ワシも判断を下せぬ」
楽巌寺はもう一本買っていたアイスを噛んで……噛むのをやめて舐めた。
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日が暮れ、夜になる。
「どうだった? 悪くないでしょこういうのもさ」
五条は風に当たる鹿紫雲に話しかけた。
男部屋では絶賛、枕投げ大会が行われている。
が、東堂の戦略を読み切り、第一戦を勝利した鹿紫雲は部屋を抜け、飛騨の夜を歩いていた。
「……フッ。阿保が。んなもん足しになるかよ」
「強者故の孤独ってやつ? かっしーって中二病?」
「おい…」
「ごめんごめん。けど、分かるよ。そーいう気持ちはオレにも」
五条は言った。
「侘しさって言うのかな? 同じ人間だと思えない。周りに居るのはオレより弱い花ばかりだってね」
鹿紫雲は舌打ちをする。
「強いとか弱いとか、結局のところ其れだけで生きるには人生って長いし。独りで出来ることなんてたかが知れている。友達ひとり助けられなかったんだからね」
五条は冬の夜空を見上げて言った。
無数の星の間には夜が広がる。
「お前の人生談に興味はねぇよ。雑魚と群れてなにが楽しい?」
「お互い様だね。かっしーの人生訓に僕もキョーミ無いよ。でも……あんがい悪くないだろ? 孤独じゃないってさ」
五条は構えた。
鹿紫雲もそれに応じ、両腕を構える。
「術式は無し。先に1本を取った方が、宿儺と先に戦う。それでどうかな?」
「ソレでいいーー」
勝負は一瞬だった。
五条の拳を掻い潜り、鹿紫雲の拳は五条の顎を捉えた。
「あらら」
「……俺が先に宿儺とやる。ったく。莫迦だな、お前は」
鹿紫雲は言って笑った。
本当に敗けていたのはーー。
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朝食の後、会場をそのままには映写機が運び込まれた。
暗くなった部屋の壁に、写真が映されていく。
「では、皆様…ワタシがここで調べた“両面宿儺”について、報告をしたいと思います」
伊地知は言って、話を始める。
「我々が今、呪いの王と呼ぶ両面宿儺……彼は正確には、両面宿儺の名を解する“名も無き呪術師”です。本来の両面宿儺は、ここ飛騨を中心におよそ1600年ほど前に伝承される鬼神として広く知られています」
「それはもー知ってるよ。他の無いの?」
五条がチャチャを入れる。
「九十九ノートに遺されていた記述を分析しました。すると符合することが1つ……魂についてです」
「魂?」
「えぇ。飛騨に知られる両面宿儺は、双子の豪族であったとするのが通説です。九十九は一度だけ、高専からの命令を受け入れ、ここ飛騨に“特級呪物”両面宿儺の指を回収に訪れた事がありました」
画面にその際に回収した指の写真が映された。
「天元様と宿儺の関係を知り、ある程度の予測を持って彼女はここを調べ、呪術の痕跡を見つけたそうです。それが呪物化……両面宿儺の指以前に、この地で行われた儀式によって生み出された忌物……製造の為に生贄とされたのは番の魂……つまり双子であった、とされています」
痕跡A、痕跡B。虎杖には、よく見てもなにが何やら解らない林の写真と、岩の写真。
そして続くサーモグラフィの写真は、どこ無く呪力の形に見えなくも無かった。
「…これドルゥヴ・ラクダワラ…死滅回遊の泳者の領域に似ていますね」
「!」
乙骨の言葉に、視線が集まる。
「あ、いえ。似ているだけで…関係性は判りません」
「発言するときは手を挙げなきゃ。ねぇ」
五条を無視し、話は続く。
「ここからは……九十九の考察を交えます。彼女は1度目の死滅回遊が天元と羂索、2人が引き起こした大規模な儀式であった、としていますが、小規模の物は古来世界中で、民間信仰を含め各地で行われていたのではないか。それらを統合する為の儀式が、死滅回遊であり……目指したのは不死を追い求めた人類全体が負った呪い、呪術なのではないか、と」
伊地知は続ける。
「民間伝承による不死儀式、呪物化。その契約が人類の中に少しずつ魂と呼ぶべき“ナニカ”を知らず知らずの内に広め、廻る事により呪力は生じ、生きとし生ける物へ芽生えたのではないか……両面宿儺もまた、ここにかつて居た双子の魂が流転し、生まれい出たのではないか……九十九の考察と、ワタシが再度行った調査の結論は以上です」
暗幕が上がり、朝日が差し込む
「あのさ。これって結局何も解んなかったって事じゃないの?」
「いや。そうでもねーよ。宿儺が双子、かつ双生児だった場合、何となく最強とやらになった理由がわかるだろ?」
家入はタバコに火を付け言った。
「天与呪縛。双子に生まれ分かたれるハズだった魂と呪力が“そうならずに”生まれた。勘違いを恐れず言えば、真希と真衣が一緒になってるようなもんだ。フィジギフの肉体と構築術式、呪力も単純に増えるだろうし」
「確かにな。足し引き0…じゃなく足し掛けしたってことだろ? 狡だなそりゃ」
真希は続ける。
「だとすりゃあ、魂は何処かに残ってる。アイツが釈魂刀に残ってるみたいにな。私が死ぬまでは……奴もそうなのか?」
「そこは分からんだろう。在るかも知れないし、無いかも知れない。飽く迄も九十九の考察であることを踏まえるべきだな」
東堂は言う。
「まぁ、強さの理由とかどうでもいいだよ。要は宿儺を祓う情報が欲しかったんだけど。けど、よくやったよ。あんまり無理させても仕方無いしね。伊地知も休むといいよ」
五条は言った。
「あ、ありがとうございます! よかったぁ……」
「たまにはいいでしょ……ん? 悠仁、どうしたの?」
少し考え事をしていた虎杖に、五条は訪ねた。
「あぁ、別に大したことじゃ無いんだけど。宿儺、アイツの本当の名前は…多分、堕天。そう天使が言ってたの思い出したんだ」
「ナルホドね。じゃあそっちでも洗って貰おうかな。収穫在るかもしれないしね。前言撤回。伊地知、仕事ね」
「え……」
ポンと五条に肩を叩かれ、伊地知はフリーズした。
宿儺関連の考察と、死滅回遊の考察は、あくまでも後の展開のフレーバーだと思って下さい。