派手さに掛けるという意見も有った宿儺戦。
本作では地味さは頂点を極めた者同士ゆえの、基礎同士のぶつかり合い、策と策のぶつかり合いとしてみました。
■12月7日
五条は高専の呪術師たち全員を呼び出した。
各自には既に五条家、加茂家、禪院家がひた隠しにしてきた秘伝の全てを開示している。その上で、五条は問た。
「……宿儺は僕が祓う。けど、無策で挑む程僕も自惚れちゃあいない。アイデアを出して欲しい」
集まった生徒、そして教師達に緊張が走る。
「自惚れて無かったのか?」
日下部は思わず全員の意見を代表して口にした。
「あのね。僕のことどーいうやつと思ってたわけ日下部さん。それにみんなも」
「クソ目隠し」
「ばか」
「あほ」
「ツナ」
「そ、そっかあ〜」
積み重ねた信頼の無さに、五条は流石にショックを受ける。
冗談はここまで。
「宿儺は千年前、呪力全盛の時代、当時の呪術士が総出で挑み……退けられた紛う事なき呪いの王……無傷で終われるとは思ってない。だから、みんなに頼ってるんだ」
五条は頭を下げた。
「お、おい! 何もそこまで……」
日下部は戸惑った。
そもそも五条が“誰かを頼る”など、今まであり得ないことだった。
「そこまでする相手なんだよ。両面宿儺は」
場が静まり返る。静寂を破ったのは、乙骨だった。
「少なくとも…魔虚羅という式神…それは宿儺にとって切り札の一つのはずです」
「だろうね。僕の無下限を突破できるし、蒼、赫、茈、それに無量空処も適応されれば破壊される。一番のジョーカーだ」
「その適応の方法は判りませんが、例の御前試合を書き残した書物から推察するに……無下限に適応するには相応の時間がかかるんじゃないですか?」
乙骨は言った。強力な式神を扱うという点では、十種影法術とリカは似ている。
「確かにね。ならあんまり使わず、基礎の基礎で押し込むのが最適ってことか」
「はい。全ての術に適応した後か、相応に追い詰められないと出さないと思います。それ以外のタイミングは自分のアドバンテージを失うわけですから」
五条は乙骨の言葉を考える。
「……簡易領域。宿儺はそれを知ってんなら、使えるとみて間違いないだろう」
「知ってるよ。日下部さん。でも、そういうのでいいんだ。何でも良い。使えるものは使うつもりだし、呪術は引き算。基礎を省略するのが当たり前。けど逆にそこで足元掬うしか勝ち筋なさそうだからね」
「宿儺の御厨子、オレが分かる範囲なら……」
日下部、虎杖も自分の考えを語り始める。
五条はそれらを精査し、宿儺との戦いをシミュレートする。
その作戦会議を終えたあと……五条は伊地知と、綺羅羅を呼び出していた。
「結界を貼る役。伊地知に頼むよ」
「なぜ、私なんですか。他にも信用できる人間は居ます」
「お前が一番信用できる。言わなきゃ分かんないかな?」
五条の言葉に、伊地知は奮い立つ。
「あの、 私はーー」
「綺羅羅にはやってもらいたい事がある。これもお前にしか任せられないけど、巻き込まれて死ぬ可能性も十分ある。それでもやって欲しい……大人が子供に言うことじゃないんだけどね」
五条は、伊地知と自身だけが知るモノを綺羅羅に教えた。
「…それを私に…ですか……」
「他の奴じゃ宿儺は隙を作らない。お前にしか頼めないけど、嫌なら辞退していいよ」
「わかりました…やります! やるけど……金ちゃんには教えていいですか。最後になるかも…知れないから……」
「いいよ。けど金次には他の誰にも教えないように縛りを結んで欲しい。何処で宿儺が見ているか分からないからね。それと、その都合上、今日から新宿の近くで待機していてほしいんだけど、いい?」
「はい!」
綺羅羅は強く応える。
五条は生徒の肩と、同僚の肩を叩いた。
「任せたよ。二人共」
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呪いの王は思考する。
範囲外に逃げた五条悟を捕えるため、再び領域を広げるか否か。
(否。だろうな。奴の方が先に術式が回復する。であれば、今度はオレの領域が奴に“囲われる”)
宿儺は領域を解除する。
瞬間、五条は蒼でワープする。
「術式の復活は早いよッ! オレは眼が違うからな!」
五条は宿儺の腕を脚でロックし、銃口のように赫を構える。
「さよーなラッ!」
反転の暇を与えぬ為に零距離から頭部に向けて放たれた赫。宿儺は展延で受け、なおも吹き飛ばされ、街が崩れ、ビルがなぎ倒される。
瓦礫が降り注ぐ中。宿儺は簡易領域を展開させる。
展延は術式の中和は出来るが、必中効果の中和は簡易領域が勝る。
五条に無下限が戻った今、宿儺が最も警戒するのは、必中必殺の無量空処。
五条もまたそれを熟知する。
(宿儺が魔虚羅で消し去りたいのは、オレの無量空処。次に蒼)
「使わねぇよ! どっちもなァ!」
五条は展延をし、宿儺に接近戦を仕掛ける。
術式が焼けた好機。だが手札の切り方を間違えば、即死に繋がる。
無法を押して通れるのは格下相手。同格の対決は、絶技や秘技が勝敗を分けるものでは無い。
基礎を極め、先を制し、後を詰めた方が勝者となる。
「ならば遠慮はせぬ」
宿儺は五条から距離を取り掌印を結ぶ。
「!」
(術式の回復にはまだ早い……反転かーー)
宿儺は自身の脳を破壊し、即座に反転させる事で、高速の術式復活を成し遂げる。
「「領域展開」」
「無量空処」
「伏魔御厨子」
同時に両者の領域が再び展開される。
範囲を絞り外からの破壊に備えた五条に対し、宿儺は“鹿紫雲一の魅せた”数ミリの領域を発動させる。
「残念だったなぁ……ケヒ」
宿儺の身体にプロジェクションマッピングの様に、御厨子の堂が浮かび上がる。
「器用だね…ホントに厄介だよ!!」
領域内での格闘に、両者の戦いは移行する。
付与した御厨子は、宿儺の掌打と共に発動し五条を襲う。
切り裂かれる肉。領域のバフが無ければ、五条さえ真っ二つにされかねない程、洗練された御厨子の刃。
「キサマもなぁ!!」
押し付けられる刃が五条を圧する。
全身が切り裂かれる中で、五条は領域内のグラデーションを僅かに変化させた。
(気持ち蒼強めーー)
宿儺出なく対象は自分自身、より身軽により早く領域内を移動し、五条は領域を崩し構える。
「シン影流・簡易領域ーー」
宿儺を領域ごと捉え、術式の必中を中和しながら、自身の脳を破壊し再生させる。
その凄まじい負荷の中で、五条は術式を復活させると同時に、日下部を真似、自身の簡易領域に迎撃プログラムを組み込む。
(宿儺はマニュアルにより纏う領域の刃を移動させる!けどね)
六眼。
五条悟のアドバンテージは、宿儺の領域の濃度から刃を見透す。
蒼と赫。拳の中で五条は極小の2つを合成し圧縮する。
(脹相が言っていた極小のうずまき。アイツにできてオレに出来ない訳がない)
宿儺を欺くため、五条は格闘戦を迎撃プログラムに任せる。
(オレも宿儺も術式拡張能力は金次に劣る)
刃に身体を刻まれながらも反転し、五条は宿儺を誘い込む。
次第に五条は圧され、反転を超えて解の刃の傷は深く。流れる血は熱く。
(憂太はアイツから傑を取り戻してくれた)
自身と並ぶ為に力を尽くし、共に戦う、聡く強い仲間。
(だけどオレは教師だ。教え導き背中を見せ続ける。そう簡単に並ばせない!そう簡単に追い越させない!最強で最高に格好いい五条先生で在り続ける!!)
その顔で自身を刻む呪を祓う。
(そして恵と悠仁を……オレと傑のようには絶対にさせない)
若人として、一人の友として、決別も後悔もなく、これからも過ごして欲しい。自分たちの意思で生き方を決められる。そんな青春を謳歌して欲しい。
五条は誓う。
(死んでも勝つーー)
五条の六眼は、遂に宿儺の領域に隙を見出した。
「虚式・茈」
宿儺の防御は間に合わない。
拳と共に放たれた仮想の質量は、宿儺の領域を崩壊させ、その肉体を空へと打ち上げた。
「五条悟ッ!」
「領域展開」
体制を完全に崩した宿儺の掌印は遅れ、五条の領域は三度目にして、呪いの王、両面宿儺を完全に捉えた。
無量空処。
無限の情報が宿儺の脳に瞬時に送り込まれ、その肉体を停止させる。が……。
「布瑠部由良由良」
宿儺の影から現れた法輪から、魔虚羅が現出し、領域を切り裂いた。
「クソッ……」
魔虚羅による領域の破壊。その影響は五条の脳にまで及ぶ。
宿儺の領域で刻まれた事による反転の出力低下も相まって、複雑な再生は不可能だ。
「中々よくやったと褒めてやろう」
宿儺は五条を嗤う。
「貴様の領域は厄介だ。オレも少々策を巡らせて貰った……魔虚羅の法輪を影に沈め、脳に貴様の領域を受けながら適応を待つ。損傷を負った脳は破棄し、反転させてもらったがな」
魔虚羅の法輪を宿儺は自身に背負う。
「最後は少々賭けであったが……全身に貴様の領域を受ける事で魔虚羅は完全に適応した」
即席の縛り。宿儺は言語野以外を無量空処に晒す代わりに、呪詩を唱え、魔虚羅を呼び出した。
「クククッ…残る貴様の無限とやらはオレ自身でゆっくりと適応するとしよう」
宿儺は掌印を結ぶ。
「じゃあな最強。オレと同じ時代に生まれなかっただけの、凡夫」
宿儺の鼻から血が垂れ、発動した領域が崩れさる。
「ッーー」
がら空きの顔面を、五条は思い切り殴り飛ばした。
「しっかり効いてんじゃねぇか!!」
宿儺は即座に体制を立て直した。
結界術を司る脳の部位への深刻なダメージ。
五条より重篤なそれは、領域は愚か、展延、簡易領域等の結界術全般の運用に支障をきたすレベルのものであった。
「いいだろう。ここから先は呪いとして、全霊を以て貴様を刻んでやる」
「ハッ! 間違いをちゃんと認めねぇと成長できないんだよッーー」
宿儺の解を五条は避ける。
背後でビルが真っ二つに裂ける。
「脱兎」
無数の兎が五条を遮る。
五条は蒼のワープで兎の群れから逃れ、新宿を縦横無尽に移動する。
(ラウンド2。予定外だが、想定内だ)
蒼と赫。宿儺は無下限へ魔虚羅を適応させる為、五条にそれを引き出そうとする。
「蝦蟇」
五条へ宿儺が伸ばした影から、蛙の式神が舌を伸ばす。
「恵の術式頼みとは、随分と格が下がるね宿儺様はーー」
五条は蛙の上在るに法輪を見逃さない。
無下限に適応するために、宿儺は形振りを構わない。
その点に関しては“五条も”宿儺と大差は無い。
蛙を蹴り飛ばし、五条は宿儺に接近する。
「あと三回、法輪が廻れば魔虚羅は無限に適応する」
「スリーカウントも要らねぇよ!! ワンダウンでKOしてやるよ、呪いの王ッ」
五条は宿儺を蹴り飛ばす。
術式は使用しない体術のみの攻撃に、宿儺はモールの中に転がった。
「ッ」
其処に在るはずの無い呪具の気配に、宿儺は意識を僅かに割いた。
千年前、宿儺が愛用した特級呪具『飛天』。
反射的に手を伸ばし、が、宿儺の手は飛天に届かない。
奇しくも『星』の名を持つ術式は、相対する五条の無下限に酷似し、故に宿儺の思考は後手に回る。
(あの小姓かーー)
宿儺とは違い、星間飛行の“正しい移動”を行った五条の手に飛天が握られる。
「下らねぇ事で身バレするからだよ堕天クンっ!」
五条は飛天を全力で振る。
「伊地知が探し出してくれたよッ! 堕天クンと宿儺様の名前からなぁ!!」
刻まれた術式効果は爆風。
宿儺は紙のように吹き飛ばされる。
「ソッチも恵の術式使うんだ! コッチもいいでしょこの位ッ!!」
「チィッ!!」
宿儺はまたしても見誤った。
五条悟は決して他者を頼らぬと。
五条を送り出す回で綺羅羅の事を書き忘れてたけど、結果オーライ。宿儺の武器を五条に渡すストーリーに繋がったから良しとするかな。(初めての自爆です)
前回出た簡易領域発生呪具も、メカ丸の簡易領域の基礎に成った物があるのでは……という独自設定です。