一億呪霊に引き寄せられた呪霊と、高専側の戦いその①。
狗巻、西宮、猪野を無理の無い範囲で活躍させます。
ラルゥの術式、身心掌握。
仮想の巨手を呪力によって生み出し、対象を掴むこの能力は後に控えるミゲル同様、領域展開によって真価を発揮する。
通常、領域は外からの攻撃に脆く、内からの攻撃に強い。
しかし月変罰仕はその術式の都合から、おさわり厳禁の張り手が領域全体を支えとし、頑強さに関しては他の追随を許さない。
だがーー。
「くっ……これほどなんてーー」
ラルゥをして、一億呪霊の呪力は濁流の如く荒れ狂う。
身心掌握の仮想の手を通じ、ラルゥに届くダメージは1/10。にも関わらず領域展開後、僅か10秒でラルゥを襲う激痛は、ダンプに跳ねられるような衝撃となって髄まで響く。
(まだよ…まだまだ……)
掌印と、呪力をひねり出す。
ラルゥがここに立つ理由はたったひとつ。
「傑ちゃんのお墓参りをーー家族でするのよッ!」
言葉とし、愛の腕が呪力を高める。
「無理に引き受けるなッ! 一部を崩して中に引き込めッ」
東堂の声に、ラルゥは結界の外殻に穴を開ける。
「ッ」
反射的に動いた日車を東堂は静止する。
「日車は動くなッ!脹さんっ!」
「ああ! 葵くんっ!」
虎杖という兄弟を通じ、共鳴した2人の拳が呪力を祓う。
「ぼさっとしないのよっ! 真奈美ちゃんっ!」
はっとなった真奈美は、占星技術による天元の座標特定を行う。
「流されている! 右に40度ーー」
「了解よっ!」
手のひらの形をした領域が、呪力の奔流を掴む。
(もって、あと60秒といったところかしらーー)
呪術師が手を取り合う。
猿と非術士を呼びながら、そんな世界を夢見ていた夏油は、確かに間違っていたのだろう。
なぜならその理想では集まらなかった者たちが集い、同じ夢を見て集結したのは、間違いなく一億の呪いを祓うためだったからだ。
(優ちゃんは間違っていた。けれど……人は正しいだけでは生きていけない。当たり前だけど、それが現実)
ラルゥは夏油の人となりがただ好きだった。
正しいからでは無く、儚く、壊れることも、狂うことも出来なかった夏油を支え、ほんの僅かでも力になりたかった。
(運命と呼ぶべき歯車があるとすれば、とても意地悪……傑ちゃんではなく、私をここに導いたのだからーー)
全ての始まり。親友と別れ、道を違え、青い日に鎖されたきっかけに。
「 天元ッ!夏油一家を! 舐めんじゃないわよッ!」
ラルゥが雄叫びを上げ、呪力の中を領域が突き進んだ。
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一億呪霊の誕生の余波、呪いの大移動は、各地の呪霊を活発化させ引き寄せる。
等級に統一性は無い。烏合の衆。但し特級呪霊も含まれる。
「伊地知……うしろは頼んだぞ」
「任せてください」
日下部は歌姫と楽巖寺、綺羅羅。そしてミゲル、乙骨を閉じる伊地知の結界を最終防衛ラインと決め、先ずは数の優位を篩にかける。
「ふぅ……思いきやれ! 狗巻!」
日下部の檄に、狗巻は動き出す。
呪言師の素質は鹿紫雲一に教えられた彌虚葛籠を通じ、結界術としても開花した。
(憂太の呪力は無駄に使わせられない)
狗巻は無数の呪霊と自身を中心に広がるであろう声の反響のイメージをする。
(あの時はいっしょに戦えなかった)
夏油傑の百鬼夜行。
あの夜の後悔を今ここで返す。友達として狗巻棘が、乙骨憂太に。
(その為にーー)
「爆ぜろ!」
呪力のドームが幾千の呪霊を祓い退ける。
2級以下は問答無用に。結界としての性質を得た呪言は、伏黒の不完全な領域に近い特徴を備えた。
同格以上の相手には必殺とまではいかないが、格下相手であれば問答無用に祓う事ができる。
「やるじゃないか!それでこそ一級術師だ!」
冥冥の烏のバードストライクが、空を飛ぶ呪霊に命中する。
狗巻は冥冥の推薦を受け、理事長はそれを受理した。
呪術界の中核を担う呪術師として認められ、狗巻は一級呪術師へと昇格していた。
そしてもう一人。
「獬豸っ」
一級術師として初任務。七海のナタを手に猪野はドリルを呪霊に放った。
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(七海さんの武器をオレが使うことに誰も反対しなかった)
五条との会話を思い出す。
“七海はお前を一番信頼してたよ”
(十分だろッ)
覚悟完了。猪野は一級呪霊をナタで切り裂く。
「西宮ッ!」
背後の気配を空の少女に伝える。
「わかってますッ! 鎌弐断ッ」
猪野を援護し、箒の風が準一級相当の呪霊を祓う。
西宮もこの戦いで一級術師への昇格がかかっている。
推薦は井野から。
もはや等級など意味をなさず戦うより他に道はない。しかし、だからこそ楽巖寺と歌姫は重視し、各々の昇格と推薦をこの戦いにかけさせていた。
「それは明日があるってこと! どんな呪いも祓えるって信じるってことっ!」
西宮は空を旋回し、冥冥の烏と共に次々と宙の呪霊を祓ってい、再び猪野と合流しーー。
《……開展域領》
ノイズのような不気味な声が響く。
登録済みの特級呪霊…化身玉藻前の領域が、猪野と西宮を捉える。
「本番って所か」
猪野は構え、西宮も頷く。
登録済みの特級呪霊の術式は把握している。
殺生石殺。領域に取り込んだ人間を石に封じ込め、その生命を奪い取り自らの呪力と変換する。
オーソドックスな即死領域。
当たれば終わりが当たってくる。
術式の発動は刹那。
西宮は猫カフェをイメージする。
(猪野さんとは偶然に同じカフェに来た……と思い込むっ!)
掌印を結び、徹底的に考えるのは猫猫猫猫!
「彌虚葛籠ぁッ!」
猫耳つきの球結界が、猪野と西宮自身を即死の必中を中和する。
「?い無せ殺に実確ぜな」
玉藻前は自ら動き、彌虚葛籠の中へ。
「悪いな…ここは2人乗りなんだ……竜」
来訪瑞獣の切り札が化身玉藻前の腕をもぎ取り、領域が崩れる。
「別に違いますからッ!」
玉藻前が反転で腕を治すよりも速く、箒でギュンと飛び急停止。
位置エネルギーに投げ出されながら、西宮は箒を振りかぶる。
一撃必殺……付喪操術に足りなかった威力を補うこと。
シン・影流の居合と、江戸時代仕込が合わさり生まれた新技。
(無駄にしない。私の経験値の…何もかも!)
交流戦。渋谷事変。死滅回遊。偶然だろうと何だろうと、生き延びた呪術師の意地は呪力に宿る。
「超必殺の…… 猫抜刀ッ!」
自分自身の手で扱う事で鋭さを増した風は正に一陣の刃。
猫の爪は尖っている。
後の呪術界を背負う覚悟と共に、西宮が研いだ爪は特級呪霊を祓ってみせた。
宿儺は無理でも、再生怪人ぐらいは何とか祓える……位がベストかなと思いましたのでストーリーはこんな具合に調整をしてみました。
次回はアツヤ、家入、冥冥といった年長者組の活躍予定です。