存在が示唆されていた特級呪霊、トイレの花子さんVSアツヤ&祢木。
花子さんの能力は、教師として日下部にとっては辛いであろう事から連想して生み出しています。
(猪野ヤロウ、問題なく特級呪霊を祓えるようになりやがって)
日下部は刀を振りながら、僅かにそちらにも意識を向け、再び戻す。
(雑魚は狗巻が祓ってくれている。必然、こっちに残るのは一級〜特級呪霊だが)
シン・影流簡易領域が4体の呪霊を包み、日下部の刀がそれらを切り刻んだ。
「うしっ!」
(歌姫と理事長のバフが効いてる。なんとか拮抗勝負にまで持ち込めているが)
日下部は頭の中で現状を確認する。
一億呪霊に突入した組を除けば。
伊地知の結界を中心にすえ。
狗巻の呪言と、護衛の冥冥。その烏は各呪術師を援護し、後背の呪霊を西宮と猪野が。
そして主戦場となる前方を、日下部と夏油一派、祢木が補っている。
……その祢木が土壇場で裏切る可能性を考慮し、日下部は簡易領域の中に彼を入れていた。
「チッ、裏切るわけねぇだろ! 信用しろ」
祢木は舌打ちをする。
「ふん。こんだけ離れりゃ今更出来ることもねえだろうしな」
日下部は意識を目の前の呪霊だけに向ける。
祢木も日下部と同じく術式を持たない呪術師。ダイレクトに実力が反映される分、結界から距離が離れればわざわざ意識する意味もない。
「ちゃんと役割果たせよ」
「分かってるよ!」
一級術師の日下部と比べれば劣る祢木だが、ある程度の戦力にはなる。
呪霊を祓い退ける2人に……。
『日下部。そっちにヤバ目のやつが向かってる』
「あ?」
冥冥からの通信。
『トイレの花子さんだ』
ざわつく呪力をいち早く察知した日下部は、反射的に祢木を突き飛ばした。
瞬間、学校の廊下に日下部は立たされる。
「……クソ。何かばってんだ……」
頭を抱えて、日下部はしゃがみこんだ。
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特級仮想呪霊、花子。
いわゆる『トイレの花子さん』は登録済みの特級の中では、出現時の被害者も2〜3名に留まることが多く、現れたとしても二級、準一級相当の実力者でも問題なく祓える呪霊だった。
それでも『特級』として扱われる理由は、その術式の特性上、最初の被害者の多くが死亡しているからに他ならない。
学校の七不思議……花子さんの術式は、子供たちの学校に伝わる噂を媒介とし、学校に伝わるルールを守らなければ発動する。
噂の当たりが付けば簡単に対処できる。
しかし最初の被害者はルールが紐づけられた学校を知らない。故に“ほぼ確実に”呪殺される。
「簡易領域も使えねぇか……やっぱりそうだよなぁ……」
登録された通り、簡易領域では防ぐことの出来ないタイプの領域だ。
「通信も切れてるな……ふぅ」
タバコの火を付けようとして、日下部は思いとどまった。
(学校でタバコを吸うな……ありそうだな)
「ガキの考えることなんて分からねぇよぉ…おじさんにとっては何年前だと思ってやがるんだ」
あからさまなトイレは無視し、取り敢えず廊下の側の教室を開ける。
(小学校で間違いねぇな)
5年A組と書かれた教室の様子から、どうやらどこかの小学校であることは間違いないようだ。
(……花子さんの攻略は最初が肝心だ。そこを間違ってたら、必ず殺される)
「花子さんに会えば助かるか…会えば殺されるか……どっちだぁ」
机にしまわれた教科書とノートをめぐり、ヒントを探す。
落書き。さんすうドリルに国語ノート。
「だめか。ヒントはなぇな……」
あらかた教室を探り終えた日下部は、廊下に出て次の教室……そこも5年A組。
「なるほどな。ある程度は分かってきたよ。花子さん」
今回のルールは、どこかの学校の5年A組とそこにあった七不思議が基礎となっている。
「学年縛りっつーことは……大体クラスメイトの誰々さんがっつー話だろうな」
(こうした負の感情の発露になりやすいイジメの痕跡が教室に無いってことは……花子さんに助けて貰ったって線は若干薄い)
「なら花子さんに“会うな”それが原則だ」
会わずに領域を出れば、花子さんの本体を祓える。そうだと決めてかかる。
「事故から花子さんに殺されたって噂になった……トイレなら水関係、溺死が怪しいか?」
雨の線もある。例えば自動車事故の日に雨が降っていた……。
「考えてもキリねぇな。会ったら死ぬ系は……会わずに出ろだ!」
日下部は窓ガラスを突き破って教室の外に出た。
ガラス片を浴びながら、植木に向かって落ちる。
落ちれる。出れるということなら……。
「第一関門はクリア!」
着地した瞬間。
領域の景色が切り替わる。
雨降りの横断歩道。信号は青。
(くっ……交通事故かよッ!)
日下部は瞬間的に判断を迫られる。
花子さんと交通事故。結びつけるのは雨という天気。
子供たちの中で水と身近な死が結びつき、花子さんに出力され、七不思議となった。
背中に気配を感じる。花子さんが背後に居る。
どこかの学校で5年A組の生徒が事故に遭う。それが子供たちの中で「花子さんに突き飛ばされた」と噂となり広がった。だいたいはそんな所だろう。
(最初にトイレに入ってたら…即死だったな)
術式が次の段階に移行したなら、与えられた選択肢の中に逃げ道があるということだ。
(振り向くのはまず確実にアウト。残るは信号の色……青で進むか、赤で止まるか)
考える迄もない。大人としてどれだけ不甲斐なかろうとも。
「子供の死因なら……信号無視だろ!」
横断歩道の色が赤に変わると同時に、日下部は駆け出した。
通い馴れた道にも死は転がっている。
子供たちにとって癒えない傷が呪いとして拡散され、誰かを呪う。
一歩一歩が鉛のように重たい。
呪術高専の教師として、子供たちに教えてきた。
呪いに殺される生徒も居た。忘れた日は一日たりとも無い。
命日には墓参りに行く。行きたくないが、それでも行く。
「教師だってなぁ! 大人だったなぁ! 辛いんだよッ!」
日下部にワゴン車が突っ込んでくる。
(間違えたかーー)
身を庇った瞬間、領域が崩れ、岩手の山中に不釣り合いな制服と赤いスカートの女の子が目の前に現れた。
「わすれろや」
花子の腕が伸びてくる。
シン・影流簡易領域。
日下部の拡げた結界が、脆く崩される。
(そっちもかよ……)
ルールはまだ続いていた。花子さんによる理不尽な死から逃れる最後のピースは、子供らしい現実逃避。
クラスメイトの死を忘れて、進級し、成長するとこ。
大人になるほど出来なくなるか、出来るようになる「忘れる」ということ。
日下部は前者だった。
「でりゃああぁあ!!」
祢木の侵入が、出口まで迫っていた領域のバランスを崩した。
「わすれろや」
花子の腕は祢木の首も掴む。
「忘れるっ……訳ねぇだろッ! オレは夏油様の…意思を継ぐ……」
「わすれろや」
花子の力が強まる。祢木の首を折るために。
「継がなくていいっ! ンなもんーー」
今度こそ、シン・影流簡易領域を発動させた日下部は、花子さんの首を飛ばした。
「げはっ…くっ……」
「……継がなくてもいい。夏油の戯言なんてなぁ、笑っちゃうぐらい幼稚なんだよ」
「くそ…ざっけんな……よ」
「けどな、夏油が居たから、今オレは助けられた。だから忘れる必要なんかねぇ。サンキューな」
日下部は息を整え、刀を構えた。
「まだへたばるな。テメェは自分の意思でココに来てんだろ…やってみせろ祢木」
「上等だッ!」
日下部に発破をかけられ、祢木は奮起した。
アツヤ単体の問題点は宿儺戦に凝縮されていると思うので、分断して単体のエピソードにすればそれほど違和感ないかな?
祢木も原作では回想もなく死んでいたので、活躍を盛りつつ夏油の家族だったんだろうな……という点を膨らませてみました。