若干あらすじ時より変更があります。
鵺に運ばれる津美紀の肩にコガネが現れる。
「原則の追加だぜ! “15:05から24時間が経過した時点で点数上位6名を死滅回遊の勝者とし、他の泳者から死滅回遊における生存権を剥奪する”!」
「ふふふ。これで羂索の言っていた原則は全てね」
津美紀は微笑みを浮かべる。
軍服を着た兵士が半狂乱に銃を撃つ。
非術師であろう一般人の親子。父は子を守るように抱きしめて息絶える。子もまた血を吹き内蔵をこぼし息絶える。
その光景。津美紀は己の心が、澄み切っていくのを感じていた。
人として普通に過ごしてきた時間。無縁だった鮮明な死が渦巻く混沌とした呪い。これが紛れもなく自らの手で引き起こされたものなのだと思えば胸が熱く高鳴った。
「初めてはどんな感覚なのかしらーー」
津美紀は掌印を結ぶ。
「あっ」
声を発する間もなく満象に圧殺された兵士は臓物を撒き散らす肉塊となった。
「……案外何も感じないのね」
「津美紀ッ!」
伏黒の叫びに津美紀は振り返ると、手近なビルの屋上に降り立った。伏黒もそれに続く。
「もうやめろ……こんなことは。さっきの原則も…早く対処しなければ、津美紀も死ぬんだぞ!」
「ええ。それも私と羂索が結んだ縛りの1つ。私自身の力で死滅回遊を生き残れるか……全てを承知した上で、私は自分の意思でここに立っているの」
「だからッ、だから……殺したのかッ! 無関係な人間をーー」
「それは恵も同じでしょう?」
津美紀は心底軽蔑した視線を義弟に向ける。
「私の為に恵は人を殺した。私は私の為に人を殺した。そこに違いなど無いのに恵は私だけを悪く言うのね」
津美紀の言葉に伏黒は己の掌から力が抜けていくことを止められなかった。
「私を言い訳にして心地よかった? 何処に居るかも分からない父親と、死んだ母親の代わりに私に愛して貰らえるとでも思った?」
「もうやめろ……」
「空っぽな言葉なら信じられた? 私に優しくされて気持ちよかった? 恵は他人のくせに図々しいよ? それに気持ち悪い」
掌印を結び直した津美紀は、伏黒でさえ未調伏の2体の式神、葬虎と円鹿を呼び出した。
「術式の開示……と言っても“禪院”の恵は知っているだろうから開示するのは縛りの方。私が呼び出せる式神は一度に最大2体まで。術式を使用できるのは死滅回遊の結界内に限られる。そしてーー」
それは伏黒の指針となった言葉を津美紀が言った時と同じ笑み。
『誰かのことを呪う暇があったら 大切な人のことを考えていたいの』
リフレインする言葉は、次に紡がれた津美紀の声にかき消された。
「天元と同化した呪霊を私が認識した時点で“伏黒”津美紀は死亡する」
何処までも無感情な笑みで津美紀は言ってみせた。
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ボラードに片足を乗せた秤は遠い目で海を見る。
「たそがれるよなぁ。海の青さを知ればよ……うごぉ!」
その頭を鹿紫雲は思い切りしばいた。
「っ痛ッぇなあ! 何しやがるッ」
「糞みてぇな原則が追加されちまったじゃねぇか! 点返せよ今すぐになァ!」
「ンなもん知るか!」
「まあまあぁ。仲良くやんなよ。秤も鹿紫雲も」
仲裁するパンダ。
「テメェ等の都合を俺が勘定してやる必要があんのか?」
「あぁ? んならもう一度殺るか?」
鹿紫雲は手に呪力を帯電させると、跳躍し忍び寄っていた泳者に殴りかかった。
呼吸を合わせ秤もまた新たな泳者に呪力を滾らせた拳を振るう。
羂索の追加した原則に、ここまで見に回っていた泳者が行動を始めたのだ。
「雑魚が湧くなよッ」
鹿紫雲の呪力が炸裂させる。煙を上げる死体を蹴り飛ばした鹿紫雲に秤は背中を合わせる。
「オレの腕の代わりに掌印結べや!」
「あぁ?! 舐めてんのか」
言いながら鹿紫雲は失った秤の腕の代わりに、一瞬だけ片手で印を結ぶ。
「領域展開ーー坐殺博徒」
合わせた秤の印と共に領域展開が展開され、範囲内の泳者に情報を流し込む。
他者の掌印を利用しての領域展開。
それは鹿紫雲をして驚嘆させる神業であった。
通常の結界術の運用域を遥かに超えた絶技は、歴戦の呪術師を信頼させるに余りある。
「できんじゃねぇかよ器用な真似がッ!」
「ぶっつけ本番だが、案外できるもんだなぁ!」
確かにこみ上げる熱が秤を突き動かす。
それはまた鹿紫雲一という時代の頂点への敬意からであった。
津美紀をヴィランにすると余りに救いが失く、伏黒には悪いことをしているなと思いました。