・筆者が最新話を読んでよかったと思った部分を取り入れています。
・若干のネタバレが有るので注意してください。
乙骨の領域が天元の結界と衝突する。
「本丸だなッ!」
東堂は言った。
既に天元には何の意思はない。
中心核に近づいた事により、閉じない領域に砕かれる呪力を外殻とした反射が、この衝突を生み出していた。
「抉じ開ける……ッ! リカッ」
乙骨はリカから受け取った刀を衝突する結界に突き立てた。
子規即是空に加えて、もう1つ真贋相愛にランダムで付与される術式は既に他のストックを破棄することで絞ってある。
それはミゲルの術式「祈祷の歌」。
呪いを跳ね退ける鼓動が刃に宿り、天元の結界を僅かずつだが確実に圧していく。
だが……。
乙骨の閉じない領域も綻んでいく。
「あと…少しッーー」
もう星は見えている。その輝きまであと15m。
「まだだ…まだっ! ボクは……今度はボクがーー」
乙骨は領域の範囲を絞り、結界を破ることに集中する。
「オレが支えるっ」
その気配に脹相は外殻を血膜で結界との押し引きを引き受ける。
「グッぅ!」
全身が粉々にすり潰されるが如き圧力が脹相を襲う。
あと9m。8m。
術式を付与した刀の刃が欠けていく。
呪力で再構築し、乙骨はリカの手を借りる。
里香ちゃんの魂は天国に居る。最後の力はもう借りた。
(…後はどれだけ返せるか……だ。ボクが…みんなに貰った分をーー)
友だちの姿を乙骨は思う。
背を押す仲間たちと……。
刀が砕け散り、鍔で受ける。それも砕ければ、柄で、それも砕ければ手のひらで。
後5m。
光が、散る。
呪霊操術は、主従関係にある呪霊の主導権を得る場合、先ずはそれを切らなければならない。
そして切った後、その主導権を即座に握れるように、夏油傑は百鬼夜行の最中、折本里香に己の呪力を付与していた。
リカの内から漏れた夏油の呪力が、乙骨に手を差し伸べるように道を開く。
しかし、それでも、なお……。
「ッグ…アアあァァァアッ!!」
全ての呪力を出し尽くし、リカが消えていく。
乙骨に訪れた限界はあと4mの地点まで呪術師達を導いていた。
その刹那、東堂のメカ丸通信が来る。
『乙骨と俺を入れ替えろーー』
返答することなく東堂は手を鳴らした。
乙骨と入れ替えられたのは、一級呪術師、日下部篤也。
「化け物(領域展開)と一緒にするなよーー」
シン・影流簡易領域が天元の結界と衝突し、即座に砕け散る。
「まだだっ!!」
日下部は呪力の濁流に飲まれ、弾き飛ばされながらも七海のナタを前に投げた。
脹相は血で残りの4人を繋ぐ。
東堂が手を鳴らし、七海のナタと入れ替わり、僅かだが一団は前に進む。
あと3m。
「シン・影流簡易領域ッーー」
東堂の周囲を覆った簡易領域が剥がされる前に、脹相は魂の共鳴から血の膜で日車と真奈美を包む。
「任せた兄兄弟(ブラザーズ)ッ!!」
東堂は呪力に押し流される。
あと2m。
残された脹相は兄弟を思う。
(俺も今からソッチに行く……壊相、血塗ーー)
そして年の離れた弟を遺す無念を抱えながら、過ごした僅かな時間を慈しむ。
「……すまんッ悠仁ーー」
脹相は己の全呪力と肉体を血に凝縮し、超新星爆発を引き起こした。
道は開けた。
真奈美は日車の前に躍り出た。
非術師と罵り、猿と蔑む。
それは自らが非術師に呪われた事と何が違っていたのだろうか。
何も違ってなど居ない。
(同じになりたかった……だけ。私達は、人間になりたかった)
夏油の事が真奈美達は好きだった。
だから側に居たかった。孤独を埋める瞬間が欲しかった。
(最期にもう一度、夏油様に会えた)
ラルゥとミゲルのおかげで過ごしたこの一瞬は真奈美には十分すぎるほど眩しかった。
「私はもう必要無いっーー行っーー」
真奈美は天元の結界に跡形もなく消滅させられる。
残された日車。天元には手を伸ばせば届くほど、遠ざかるように。
日車の手に握られた処刑人の剣が瞬く。
その技術の名を日車は知らない。
だが…日車寛見の才能……それは呪いの王両面宿儺、五条悟とも引けを取らない煌きを持つ。
領域展延が天元の肉体を日車に掴ませた。
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日車がかつて助手であった清水を連れ、大江圭太の収監されている盛岡少年刑務所を訪れたのは、11月末の事だった。
「……あれから、何をされていたんですか」
「死滅回遊に参加していた。報道もなされていただろう」
清水の問に日車は答えた。
「そういう事を聞いているんじゃないです! 日車さんはーー」
「大勢の人を殺した」
日車は清水にはっきりと答えた。
その日の面会は謝絶された。
帰り道。
「俺は大江と会うまで粘るつもりだ。その間に再捜査の手続きを進めていて欲しい」
「なんで私なんですか。日車さんが自分ですればいいじゃないですか」
「俺にしか出来ない裁判を受け持った。だから頼む」
日車は深く頭を下げた。
「……上げてください。迷惑です」
清水は言った。
軽蔑とまではいかないが、殺人者とそうでない者との境界線が二人の間には引かれていた。
日車は頭を上げ、車に乗り込んだ清水に、鞄から出した手帳を差し出した。
「なんですか、これ……」
「呪術というものを現在の法で裁くには少々困難だ。俺の知る範囲を全てこの手帳に記した。受け取ってほしい」
「こんなもの貰っても……私にどうしろって言うんですか」
「法の整備が進まなければ、呪殺は殺人とは認められない」
「自分が裁かれたいから、こんなものを作ったんですか」
明確な嫌悪が清水の顔に見て取れた。
「そうだ。だが俺個人の為に法の規定を歪める訳にはいかない。正当な裁きを下す為にコレが必要なんだ」
日車はまっすぐに清水の目を見た。
清水は手帳を受け取ると、助手席に投げた。
「私が決めます」
日車を置いて、清水の車は走り出した。
それから、日車は朝から日が沈むまで大江との面会を希望し続けた。
そして月が変わり、さらに日が過ぎ12月12日。
日車は大江との面会を許された。
「もう来るな」
「わかった」
短く。会話は終わった。
日車は大江の目を見ていた。
日車が刑務所を出ると、植えられた桜の木は冬の空に枯れた枝を伸ばしていた。
「分かんないね。あんな態度取られてまで、アイツの再審請求する意味なんてあるわけ?」
日車を迎えに来た五条悟は言った。
「別に彼の恩人になりたくてした事じゃない。あるかも知れない。無いかも知れない。ソレを決めるのは法廷であり、大江自身が決めることでもある。俺にできるのはここまでだ」
「ふーん。分かんないね。ボク高専卒だし。大学出の考えなんてとてもとても」
五条は首を横にふった。
「約束通り天元との裁判は俺が行う」
「ちゃんと有罪取ってよ。でないと日本人はともかくオレの大事な生徒まで犬死にする事になる」
「安心しろ。俺がさせない」
日車は強く答えた。
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(千年……その途方も無い時間にお前は何を感じていた?)
日車は想いを馳せる。
人は正しく。時に冷酷になる。
秤など何方に振れるか分からない。
差別し、区別し、自分とは違うと諦観し、他者を呪い、自らを呪う。
どれだけ時間が経とうとも人は変わらなかったのだろうか。
(ああ…そのとおりだ)
変わらない。人は変わらない。ぐるぐると同じ場所を回り、後悔と挫折を繰り返す。
呆れるほどに愚かでどうしようもない。
『俺が殺した』
しかし日車は見た。弱さを。弱さにある優しさと強さを。
因果応報が全自動ならどれだけ良かっただろうか。
間違えるばかりの人生をやり直し、向き合えたならどれだけ楽になれるだろうか。
けれど弱く、儚く、揺蕩い、迷いながらも進んでいけば、いつの日か本当に手で触れることが出来るようになるかも知れない。
まっすぐに見つめ、言葉を交わせる。
そんな明日が欲しいから、人は生きていける。
(俺は法律が好きだ)
夜空の星のように、その一つ一つが正しく有ろうとした小さな篝火だから。
沢山悩んでいい。苦しんでいい。間違ってもいい。どんなに辛くて、やっぱり間違って、行き詰まってもいい。
日車は飛騨の宿で虎杖と交わした約束を思い出した。
(あぁ……君と、美味いビールをやりたかった)
処刑人の剣が天元を貫いた。
目を見開き、そして……眠るようにまぶたを閉じていく。
「おやすみ」
日車は瞳を反らさずに、天元を優しく抱きかかえた。
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空が晴れた。
乙骨は眩しい光に包まれながら体を起こす。
「全て終わった」
楽巖寺は言った。
ミゲルとラルゥは大の字でいびきをかいて眠っている。
一億呪霊の姿は無く、潰れた木々がその足跡にまっすぐ開けていた。
白昼夢の様な跡を、乙骨は疲労のまま歩いていた。
「死に損なったわね。家入っ! コッチ!」
木に挟まれた日下部を歌姫がしばいた。
「ほら、さっさと手当するっ! 死ぬわよほんとにもう!」
東堂を箒で引きずりながら、西宮は空を飛ぶ。
冥冥の烏が周囲を警戒するように飛び回る。
足跡が途切れる。
その中心で眠るようなスーツの背中を乙骨は見つけた。
血溜まりの中で息絶えた日車は、穏やかな眠りの中で確かに天元という呪いを祓ったのだった。
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虎杖は宿儺と交わした視線を、五条に向け、その傍らに横たわった伏黒にも向ける。
助け出してくれた。先生は伏黒をーー。
後を託す。その縛りを守り抜いた五条の背中に、虎杖悠仁は覚醒する。
『龍鱗、反発、番の流星』
「解」
虎杖の着地に合わせて指向性を持った斬撃が地平線を切り裂き、黒い花火が飛び散った。
踏み込む脚の筋肉。そして蹴ッーー。
地面に奔った黒い花火が、虎杖と宿儺との距離を瞬く間に縮めた。
宿儺は驚愕していた。
虎杖が自らを掴まんとするその指にも、黒い呪力が飛散する。
無下限をも塗りつぶす黒。
次元を歪め、衝突する呪力と肉体が起こす現象を“狙って”創り出せる者は未だ嘗て存在しない。
黒閃ーー。
虎杖は宿儺を掴み投げ飛ばすと、直ぐ様追い縋り、その胴体にも黒閃を叩き込んだ。
土煙の中から立ち上がった宿儺が体制を立て直すよりも疾く、虎杖の黒閃による蹴りに吹き飛ばされる。
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「悠仁の中で雑ざってるね。九相図の術式」
脹相から託された兄達を取り込んだ虎杖を見て、五条は言った。
「どういうこと?」
「いや、俺は兄だから何となく分かるよ」
脹相は言った。
「有り体に言えば、アレがあーなって、引っ付いてるんだ。分かるだろ? 悠仁も」
「いや。全然わかんねぇ。先生」
「あのね。ファルのルシがコクーンでパージされたってことーー」
五条を家入が睨んだ。
「赤血操術を始めとした人体に関する術式が1つに纏まってる。ここまで密接に引っ付いてると、コレはもう新しい術式でいいんじゃないかな」
五条は言うと、鹿紫雲は手のひらを出した。
虎杖はそれを軽く殴った。
「……打感だけで言ゃあ、肉体と呪力の差を埋められそうだ。鍛えりゃ狙って黒閃を出せるようになる可能性は十分ある」
鹿紫雲は座った。
「それと新しい術式の名前は付けるべきだな。それだけでもごく僅かだが縛りとして機能する。開示もしやすくなるしな」
「え? なにそれ? 初耳なんだけど」
五条は鹿紫雲の言葉にクエスチョンを浮かべた。
「知らねぇのかよ。馬鹿じゃねぇのか」
「だってよ日下部さん」
「巻き込むなよ!」
そして五条は面白がる。
「じゃあ皆に募集しよう! 術式の名前を!」
という事で、五条は次々と風潮して回る。
「黒閃が出しやすくなるなら…黒閃操術でいいんじゃないですか?」
乙骨憂太。
秤と冥冥はパチ屋。次に聞いたのは楽巖寺。
「知らん」
次、東堂。
「超飛翔高ーー」
却下。次、真希、パンダ、狗巻。
「黒閃操術でいいだろ。面倒くせぇ」
「黒色波動拳ってのはどうだ?」
『黒閃操術』
其々の回答を受けて。
「なんかあんま盛り上がらなかったね。いいんじゃないのもう黒閃操術でさ」
飽きた五条はさっさと乙骨との修行に戻る。
「脹相は……なんて名前がいいと思う?」
「そうだな……なぜ。俺に聞く?」
虎杖は胸に手を当てた。
「やっぱり今、ココに居るのは俺の兄貴だし。脹相も俺がいちばん辛いときに側に居てくれたからさ……」
その言葉に脹相は涙を流した。
「ああ! そうだな! 九相図スペシャルでどうだ?」
「聞いて悪かったよ、兄貴」
「くっ、いや、まて……まだ、まだチャンスをくれ悠仁……」
兄としての威厳を示す機会を、脹相は逃さない。
「呪力を…そうだ、こういうのはどうだろうかーー」
脹相の考えた名前は、黒閃操術よりは捻りがあって、語感も良かった。
「よし、じゃあ。それにする」
虎杖が笑うと、脹相はまた涙を流した。
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呪いの王を前にして、虎杖は自らの全てを使う。
「俺の術式は自らの身体能力と呪力操作を向上させる事で、呪力と打撃との衝突を操る」
七海の術式の刻まれたネクタイを手に巻き握りながら、虎杖は言った。
「見れば分かる」
忌々しく宿儺は吐き捨てる。
「両面宿儺…お前を祓う術式の名は……廻戦」
虎杖の呪力が腕に滾る。
呪力を全身に廻し戦う。兄貴たちから虎杖へと刻まれた生得術式。その名をくれたのもまた兄弟。
「呪術“廻戦”」
兄から託された術式の名を虎杖は開示した。
My Name is KAISEN……をやりつつ最新話の良かった点を取り入れてみました。
「Hey You」=「Hru You」=「祓うお前」=「お前を祓う」
「My Name is KAISEN」=「術式の名は廻戦」
と誤訳したと妄想しました(笑)