領域展開。
「宿儺は他人の術式も使う」
「ああ。見えてる。術式は俺が捌く。虎杖はオフェンスだ」
「了解」
短く答えて、虎杖は宿儺に向かう。
『龍鱗、反発、番の流星』
「柩開」
宿儺は腹の口で呪詩を唱えながら、柩から次の術式を取り出す。
(単純な術式では即座に無力化される。しかし六眼を得た今、複雑な術式も同様か)
選び出した術式で、伏黒の影に触れぬ様、宿儺は空間を掴み引き寄せる。
「解」
斬撃は虎杖を牽制する為に、そして左の拳に宿した宇守羅彈で伏黒の存在する空間を叩き割る。
ビキィーーー。
「黒閃ッ!!」
虎杖が解の刃を迎撃すると同時。その指向性を持たせた黒閃の“歪み”が宇守羅彈にまで届き空間の破壊を相殺する。
(虎杖悠仁め、黒閃の歪みまで支配するかーーッ)
六眼と異形の瞳が交錯する。
伏黒の影が牙を持つ。
「玉犬」
防ごうとした宿儺の手は中空を切り、犬の影が宿儺を吹き飛ばした。
(オレに触れた部分のみ実体を持つ影。破壊は不可能だな)
影が主の元に戻る。
虎杖が駆け出し、拳に呪力を宿す。
「ッーー」
「チィ」
宿儺と虎杖の拳が衝突する。
呪術廻戦による黒閃を経て、宿儺は己の手にも又……黒い火花を宿していた。
黒閃と黒閃。空間が歪み、衝撃に挟まれた境界面が宿儺の腕をもぎ取った。
(やはり狙って打せるものでは無いな)
無理な体制から、気まぐれに宿った黒閃に宿儺は確信する。
(虎杖悠仁、そして伏黒恵……並び立てばオレを越える)
手心も、油断も、慈悲も、慈愛も、何一つ込めるつもりは宿儺には無い。
「柩解、森征掌握」
宿儺は反転で治癒させながら、地面に両の右手を触れる。
(先ずは分断し、一匹ずつ殺す)
「極ノ番、森羅万生」
宿儺が流し込んだ呪力により、廃墟と化していた新宿が森林の緑が包む。
「虎杖ッ」
交流戦に乱入した特級呪霊、花御と同じ術式を柩から取り出し、宿儺は自身の呪力を植物に分け与える事で急激な森の生成と同時に、虎杖と伏黒を物理的に分断した。
(やはり物理的な現象への適応は範囲が限られているな)
受肉の経験。魔虚羅の適応。六眼を加味しても、呪力を帯びていない物質現象への適応は、同じく物理現象を現実世界に出力する必要がある。
「領域展延」
宿儺は呪力を纏い、伏黒に向かい猛突する。
「くっ……」
影の獣が宿儺に絡む。
それを展延を拡張し、落花の情で迎撃する。
「詰みだ。伏黒恵」
(流石は呪いの王、だがーー)
宿儺の背後、影は一直線に伸びて虎杖の道標となる。
「今だッ! やれ!」
「閃血」
虎杖の手のひらに圧縮された血液のレーザーが発射され、宿儺に触れた瞬間に黒い火花を散らす。
(ッ! 己の血をも黒く染めたかッ)
宿儺の腹の半分が吹き飛ぶ。
反転の負荷と、展延と落花の情の維持、出力の限界に達した宿儺を影の爪が吹き飛ばす。
4つの目が閃を帯びる。
空中へと活路を見出し、木々を蹴り登った宿儺の頭上を虎杖の影が遮る。
「勝手に見上げるな」
「ならば見るな。虎杖悠仁」
虎杖の意趣返しに、宿儺は呪いの種子を生成し、弾丸として撃ち込む。
伏黒の影が、ソレを遮る。
呪力を栄養とする種子に適応し、影はそれを枯らす。
黒閃の拳が宿儺を容易く撃ち落とす。
地ち打ち付けられるも、即座に体制を立て直した宿儺に、虎杖の放った閃血の残滓が、超圧縮される。
兄、脹相の奥義、超新星。
「柩開、赤血操術」
しかし、宿儺はより多量の血を解き放ち、虎杖から血の操作権を奪い取る。
「閃血ーー」
横薙ぎに赤い一閃が森林を切り裂いた。
(自分から森を捨てた?)
だが宿儺の一挙手一投足は、虎杖の疑問を呑み込ませる。
「柩開……精錬鐵術」
鉄塊を創り出した宿儺は森に代わり、刃、鎖、斧、鉾……鉄によって生み出される汎ゆる武器で新宿の街を埋め尽くす。
「伏黒ッ」
血を空中の足場にした虎杖が放った閃血を伏黒は握る。
「悪い。助かった……だが、何が狙いだ」
虎杖と同様に伏黒も宿儺の行動を訝しむ。
宿儺は鉾と斧を握る。
「こちらから行かせて貰おう」
宿儺は剣山の如き地を平然と駆ける。
「玉犬」
伏黒と虎杖も、刃の森に降りる。
『龍鱗、反発、番の流星』
「いい加減うるせぇぞーー」
虎杖の閃血を宿儺は展延と落下の情、そして。
「シン・影流、簡易領域」
簡易領域による多少の出力上昇を利用し、黒い閃血を宿儺は防ぐ。
「この武器は術式を使わない為か。なら」
伏黒は虎杖を援護する為、その背後に回る。
瞬間、宿儺は展延を流れるように解除する。
((フェイント!!))
虎杖と伏黒は思考を同じくする。
「解」
斬撃が二人に降り注ぐ。
玉犬が取り囲む。
精錬鐵術によって生み出した鉄鉾を握る宿儺の腕。
虎杖の拳が纏った黒閃はその腕を軽く吹き飛ばす。
(コイツ……捨てた……腕ごと)
宿儺は腕を守らず、捨て、生み出した一瞬。
「しまっーー」
伏黒の腹の中ほどまで、斧が深く切り裂く。
「……掴まえた」
伏黒の六眼が輝く。
影の反転が、傷ごと斧を固定する。
手を離すのが遅れた宿儺の目に、虎杖の拳が迫る。
「黒閃ッーーーー!!!!」
顔面を殴り飛ばされた宿儺は、刃に身を斬られながら地を転がる。
「柩解……遠吠呪砲、極ノ番」
『亞砲(アホウ)』
腹から発せられた声に、一瞬にして木々も鉄も、粉々に砕け散る。
「闇より出でて闇より黒く」
『その汚れを禊ぎ祓え』
宿儺は残していた鉄骨を、地面に打ち付け帳を下ろす。
半径200m……その範囲内にある“人間以外の可燃物の出入り”を制限する帳。
“鉄粉と木粉”に視界が曇る。
「こうだったなぁ…虎杖悠仁」
呪力の矢を宿儺は構える。
「竈開(カミノフーガ)」
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伏黒恵を確実に殺す。
宿儺はそれだけに目的を絞り、適応を見極め機を待った。
(反転による治癒を選ぶか? それともこの火種を選ぶか?)
反転を選べば着火をする。
熱波を防げたとしても、酸欠と一酸化炭素中毒に適応する事は不可能だ。
火種を選べば反転の暇を与えず虎杖ともども解で押し切る。
(積みだ。貴様らの)
勝利を確信した宿儺に伏黒は笑う。
そしてーー。
「後は……任せるぞ。虎杖」
傷を癒やさず、影を伸ばさず、薬師如来天の掌印を結ぶ。
「領域展開」
第三の選択を伏黒は選んだ。
「愚か者め」
最も在り得べからず選択に宿儺は簡易領域を展開する。
「嵌合暗翳庭」
血に濡れたまま、数刻の維持しかまま成らないであろう領域。
そこに活路など有ろう筈も無い。
式神を失い、術式の本質であるグラデーションのみと成った影法術。
玉犬の牙と爪では六眼による呪力消費の軽減と緻密な呪力制御を以てしても、宿儺に致命傷を与える事は不可能。
「!」
しかし宿儺の思惑に反し、伏黒の領域は簡易領域を消し去った。
完成した嵌合暗翳庭。その領域に付与されたグラデーションは、汎ゆる呪力に適応し消失させる。
空間内の呪力を全て消失させた伏黒の目から、六眼の輝きが消える。
流れる血を止める術は最早無い。
信じるのはただひとつ……。
「決めろ……虎杖」
呪力の無い勝負なら虎杖悠仁は誰にも負けない。
伏黒の決意を背に虎杖はファイティングポーズを取る。
この領域内を支える唯一の呪術的要素である伏黒の掌印。
呪力消失闘技場……そのルールを宿儺と虎杖は同時に理解する。
宿儺を殺す。それが虎杖の勝利条件。
伏黒の掌印を解く。それが宿儺の勝利条件。
ゴングは無い。
有るのは3つ。
呪力ゼロ。拳のみ。勝者あり。
エネルギー…吸収…アリーナ…