最終回、エピローグです。
この後に数話分ぐらい、呪力シンポジウムの話を短編で上げる予定ですが、物語としてはここで終わりです。
新宿と岩手、宿儺と天元を祓った後も時計は普通に動いていた。
五条悟。日車寛見。そして伏黒恵。
3人の葬式は高専関係者のみで極秘裏に行われ、遺体は手厚く弔われた。
脹相。兄に関しては虎杖が喪主をつとめ、九相図の母方の血筋を調べてもらった。が羂索による隱蔽が成された為か最後まで辿ることが出来なかった。
そのため虎杖は他の兄弟と共に新しい墓を小高い山の上に用意してもらっていた。
菅田真奈美は、ミゲル、ラルゥ、祢木の3人の意向で、枷場姉妹と同じく夏油家の墓に埋葬される事になった。
その全てが終わった2019年 1月7日。虎杖は家入に呼び出された。
宿儺の遺体の処分と、遺灰は骨壺に収められ高専内に保管されていた。
「検査結果だが、遺伝子的に宿儺がお前の父親なのは間違い無い」
「そっか……」
虎杖は少しだけ間を置いてから、家入に答えた。
「死滅回遊を開く算段がつき、宿儺の器を造る必要に迫られた。理由を考えるならそんな所だろう」
タバコを吹かし、家入は言った。
「普通に考えれば千年も前から現代に至るまで、生殖細胞を保存する方法は無い。呪術的にな要素から考えるなら、双子であった宿儺の片割れが虎杖仁として転生し、それを羂索が選んだ。若しくは受肉の際の共振かーー」
「ごめん。もういいや家入さん。ありがと」
虎杖は言ってから、書類にサインをした。
宿儺と自分との血縁が明らかになった時点で、宿儺の遺灰の一部は虎杖家の墓に埋葬する事を決めていた。
「いいのか?」
「理由はどうあれ、宿儺がオレの父親だって事が分かったんなら」
「あっさり受け入れるな。こっちも一応気を使ったんだぞ?」
「ゴメンナサイ」
「まぁいい……もう1つ。これは医師として患者に伝える」
「何?」
「虎杖悠仁、キミの余命は後2年だ」
「……え? マジ……」
唐突な余命宣告に、虎杖はキョトンとしてーー。
■2021年 3月12日 太平洋上空
【呪霊及び呪力に対する国際シンポジウム】
「はぁぁ……………ぁ」
そう書かれた用紙に目を落とし、日下部は深くため息を吐いた。
「何度目だよ。いい加減うるせぇぜ日下部さんよぉ」
欠伸混じりに秤は言った。
死滅回遊は形骸化したものの、儀式自体は世界中を巻き込み継続している。
その影響から、日本でのみ異常な出現率であった呪霊と呪術師の存在は世界各地で爆発的に増加し、この2年間、世界は混乱を極めていた。
ファントム・パレード。
2018年末から起きた呪力の大発生を、各国ではそう呼称する。
(とは云え、それが無けりゃ日本人は今ごろ狩り尽くされて居たんだろうがな……)
楽巖寺の手腕で何とか乗り切った2年。
(今、理事長が倒れたら日本は終わりだ……分かっちゃいるんだが……なんで俺が代役なんだっ!)
これから7日間。アメリカ、ロサンゼルスで行われる世界会議には、国外へ逃亡した旧上層部のテロが予想されていた。
その為、楽巖寺は日本に留まり、日下部に白羽の矢が立ったのだ。
(真希は……理事長の護衛だし、猪野は任務。冥冥は……出てこねぇし……俺がやるしか無いのか?)
「安心して下さい。日下部さんには手を出させませんから」
乙骨は言った。
警護に就いたのは、秤と綺羅羅、そして乙骨の3名。
「はーっ……頼むぜガキ共……」
日下部は顔を隠し、再びため息を吐いた。
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■2021年 3月19日 PM12:00
北海道、神奈川、奈良、島根、山口、佐賀……6つの都道府県で呪霊が同時発生。
犠牲者16名。行方不明者21名。
その痕跡から登録済み特級呪霊、真人による呪術テロと断定。
特級術師、乙骨優太、並びに秤金次の不在を狙ったモノと推測。
裏には旧上層部による手引の可能性を考慮し……術者1名を派遣。
■2021年3月20日 AM11:21 渋谷
渋谷事変から復興の進んでいない東京。都市機能の殆どは死滅回遊の際に結界の無かった県に移動し、今の東京は首都とは呼べ無い廃墟と化していた。
「地方流入がこんな下らねぇ事で起きるなんて、想像もつかなったわ……本気で」
釘崎野薔薇は制服の裾を捲り、地下水道を歩く。
「なぁ、お前もそう思うだろ……ボロ雑巾」
人の呪霊、真人に釘崎は言った。
「ふーん。ま、関係無いね」
ニヤニヤと嗤いながら、不快な声色で真人は言った。
「ていうか、お姉さん。何で分かったわけ? オレ、残穢残した覚えないんだけど?」
「良いだろうンなもん」
「……ナルホドね。オレに分からないとでも思った?」
真人は構え、嗤う。
「その顔ッ! 前のオレにでもヤラれたんだろ? 分かるんだよ、魂の歪みが……乙骨憂太や秤金次に来られても面倒だし……今度はちゃんと殺してあげるよ」
脚を無為転変で作り変え、真人は釘崎に手で触れる。
魂の形を作り変えーー。
釘崎の左目の眼帯が取れ、その下に隠されていた血のように赤い瞳孔が真人を睨んだ。
真人の手のひらの“魂”を茨の様な釘崎の魂が貫く。
「なん……」
手に空いた穴に、真人は後ずさった。
「共鳴り……自分で叩いて“直した”んだよ。自分の魂だからな。っても眼までは戻せ無かったけどな」
魂の輪郭を捉える等というレベルでは無い。
(コイツ……魂を叩き変え……オレよりも上のーー)
「遅れたらどう責任取るつもりだ? 糞が」
「あっ、ひっ!」
狩人の言葉に、真人は兎のように背を向け逃げ出した。
「言葉は選べよ……今際の際だぞ」
釘崎は金槌を放り投げ、歓喜天印を結ぶ。
「領域展開……」
真人の周囲を腐乱した杜が包み込み、赤い彼岸花が咲く。
「曼珠沙彼岸遊廓」
釘崎の領域は必中の共鳴りと、簡易領域対策の簪が対象を貫き続ける。
その簪を媒介とし、共鳴りが打たれ、簪を再び反響し続ける。
呪いの素材として最高級の素材である“当人”に打ち込まれる呪力は、文字通り確殺の呪いとなる。
0.2秒の領域展開が終わり釘崎が金槌を手に受ける。魂と肉体の双方を潰された真人はドブの様に崩れ落ちた。
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■2021年 3月20日 PM14:45
仙台に着いた釘崎は、タクシーを乗り継ぎ駆けつけた病棟を走る。
虎杖の出生時刻は14時43分。もう過ぎている。
天与呪縛。
宿儺の器とする為、羂索は18歳で命を終えるように仕組み、虎杖に生を与えていた。
「虎杖っーー」
病室のドアを勢いよく開けた時、時計の長針は進んだ。
「よ! 釘崎」
手を挙げ出迎えた虎杖の姿に、釘崎はへたっと脚の力が抜けた。
「遅かったな」
「な、なんで…天与呪縛だって……」
釘崎は金槌で虎杖の頭を殴った。
「ッて! 何すんだ!」
「バカ! 走らせんな! マジで急いで来てやったのよコッチは!」
釘崎は病室から集まった視線に構わず、もう一度虎杖の頭を引っ叩いた。
「ちょっと、釘崎さん…それは…」
「やらせとけ。いい思い出だ」
乙骨の静止を真希が止めた。
1人用の部屋は、虎杖の最期を見送るため、高専の呪術師が全員集まっていた。
「……それよりもホントに…あんたは……」
各々、虎杖との会話を済ませている。
虎杖との面会用のイスの最後に釘崎は座った。
「18歳になった時に死ぬって聞いた時は、正直いろいろ考えたけど……ちょっとだけ寿命が延びたのは、伏黒のお陰だと思う」
「伏黒の?」
「宿儺と戦ってた時、呪力の繋がりが無くなった時間があったんだ……5分ぐらいだけど……その分、寿命が延びたみたい」
「まったく……何よそれ」
釘崎はフッと鼻を鳴らした。
「何でオレなんだって考えてたけど……今なら分かる」
虎杖は遺された宿儺の最後の指を手に取った。
「クソ親じゃないそんなヤツ。アタシは直接あったことないけど」
「否定は…できねぇ。屑だし、性格悪いし、オレだって赦すつもりも無いし……けどコイツの家族はオレしか居ない。だから最期ぐらいは看取ってやりたい」
「やらなくたって良いのよ。血の呪いなんて古臭い。放っとけ放っとけ」
ひらひらと釘崎は手で払った。
「まあ、いいんだ。オレが決めたんだし……生き様で後悔したくない」
「そういうとこ…ほんと自分勝手よね、案外」
「言われたら…そこ似てたのかも。宿儺に」
「お、おう……」
釘崎は思わず狼狽えて、そしてイスから立ち上がった。
「最後に受肉しても、1本分ぐらいの宿儺ならアタシらでも余裕で祓えるし、そこまで言うなら好きにしなさい」
最期の時は、みんなに囲まれていた。
虎杖は笑い、そして最後の指を呑み込んだ。
「うぇ……不味っ!」
柔らかな春風に病室のカーテンが揺れた。
最後まで読んで下さりありがとうございました。
宿儺の最後の呪い……マイユアファザーも通じませんでした、という事で完全に呪いの王が祓われたEndです。
もうちょっとだけ短編を出す予定ですが、一応終わりになります。
お手数で無ければぜひ感想等、よろしくお願いしますm(_ _)m