死滅回遊後の復興を意識しているので、やはり大きな呪術戦が難しいな、とは書いていて筆者も思っています。
・海外の呪術師は発生原因から、死滅回遊の延長線上の様な術式が多くなっています。
銃と車と美女が出てくる。
リチャードにとって愛国心とは007、ジェームズ・ボンド。
(呪力という未知の力。我が愛し大英国をその流れに飲ませはしない)
「私の術式は単純です」
リチャードは片手の握りを弛める。
裸体ゴリラが穏やかに、地に着地する。
「握る間だけ、物を浮かすことができる。その重さはーー」
「貴方の体重とほぼ同等……ですね」
少女の言葉に、リチャードは「ほぅ」と感嘆する。
「それは正解です。半分ずつ。重さは均等に分けられる」
リチャードが再び拳を握り、再度浮き上がる。
(術式の開示はすんだ。これで+5kg……浮かせる事が出来る)
ファントム・パレード以降、英国の呪力に関する基本的な知識、能力に関しては手探りな状態だった。
(移民。EU圏の派閥争い。ウクライナ侵攻に加えて……呪霊の誕生)
宙に浮き、リチャードは箭島を見る。
大呪力時代の幕開けが目前に迫った今『呪霊操術』を手に入れるアドバンテージは、最高のヒーロー、007を生み出した祖国へリチャードが向ける愛国心そのもの。
「なんとしても……Mr.ヤジマは頂きますよMs.サムライガールーー」
片手の握りを解いて、
「Fly me to the moon And let me play among the stars♪」
リチャードは歌を口ずさみ、それを呪詩として、術式のポテンシャルをさらに引き出した。
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「ぎやぁああああ!!!!」
平日の昼間、全裸の男がフワフワと浮かぶ姿に団地内から悲鳴が上がる。
「なんなんだよ! 何が起きてんだっ!」
後ろで訴える箭島の脚を払ってこかせると、輝沙は砂鉄を纏め鉄の杭を創る。
「闇より出でて闇より黒く、その汚れを禊ぎ祓えーー」
その4本の杭で、箭島の服をトトトっと地面に打ち付けると同時に帳を下ろす。
「話は後でします。今はじっとしていてください」
『待てよ! 何言ってんのか、全然わかんねぇよ!』
結界をドンドンと箭島が叩く。
空中に浮かせた、傘立てを蹴り。
(速いーー)
「Let me see what spring is like♪」
加速したリチャードの拳が輝沙を捉えた。
「On jupiter and marsuuureeeeyyyy!!!!」
団地の一室に吹き飛ばされた輝沙を、リチャードは即座に追いかける。
家主の出払っていたリビングと玄関を繋ぐ狭い通路に、輝沙は自分の靴先を鉄で床に刺して固定する。
(これで私は浮かされない。でもッ)
「In other words, hold my hand」
リチャードは手を握り、リビング側の液晶テレビを浮かせ空に振り回す。
箭島を地に縫い付ける為に使った鉄は約600g。日本刀に見せかけた砂鉄の重量は平均的な刀剣の長さを維持する為には、2kgは必要だ。
「シン・影流、簡易領域っーー」
短くなった刀を振り輝沙は液晶テレビを切断する。
だが半分になった画面の片方は、そのまま簡易領域内を飛び、リチャードの姿を輝沙の前から隠した。
「In other words darling kiss meeyyyy!!!」
自動迎撃よりも素早く、テレビ画面ごと輝沙は腹を殴られ吹き飛ばされる。
(痛っーー)
杭が抜け、体の固定が外れ、すかさずリチャードは輝沙を狭い室内に浮かせ、ドロップキックをお見舞いする。
鈍痛を感じながらも、輝沙は鉄の鎖を生成し、リチャードと自分を繋ぐ。
「ナルホドね。確かにそれなら浮かせられないが隙だらけですよ」
歯を見せたリチャードは、キッチンに散乱した包丁を浮かせる。
「Fill my heart with song And let me sing forever morennuuu!!」
投げるように加速した先端を輝沙は鎖の一片で抑え、リチャードはそれを押し切る形で膝蹴りを食らわせる。
離れる少女の体を、鎖ごと引き寄せる。
「トドメですーー」
(両手が握られたッ)
輝沙はその一瞬に砂鉄を刃に戻す。
呪術師としての技量は引き算で決まる。掌印を、呪詩を、舞いを……呪いの儀式を省略し、如何に100%の運用をするか……そして必要に迫られた時、105%で呪いを廻せるか……単純な技量ほど、呪術師としての素質が試される。
(釘崎さんの教えは、私の中で全部使いますーー)
輝沙の生得術式の1つ……精錬鐵術は、呪力で生み出した鉄を自在に操る術式。
形を保たなければ両手を自由に“空けられる”。
普賢菩薩の印を結び、輝沙は術式の精度を上げながら、小刀を宙に操る。
だがーー。刀は無常にも浮かされる。
「You are all I long for All I worship and adore♪ ザンネンです」
呪詞を唱える事でリチャードは足の指を握る事でも、術式を発動させられる。
「そうでもないです」
輝沙は微笑む。
掌印は刀の軌道を制御するための物ではない。
自らが新たに生み出す鉄を、即座に利用可能な強度にする為にーー。
「針鼠」
輝沙の作り出した鉄の刃がリチャードの両足の指を斬り落とす。
掌印は必ずしも手で創るものではない。
保守派の影響を受けていない海外の呪術師なら、脚による形もある事は、同じく保守派の影響を受けていない輝沙にも想像は出来ていた。
『相手の嘘を見抜き、自分は嘘をつけ』
修行中、釘崎野薔薇に何度も聞かされた言葉を、輝沙は思い出す。
「In other words, please be trueuuuuuuuuuuuuu!!!!!!!
」
怒りに身を任せ、リチャードは拳を握り、輝沙の創り出した全ての鉄を浮かせる。
「In other words I love youーー」
勝負は一瞬で付いた。
リチャード右手を、天井から落ちてきた鉄の刃が斬り落とし、返す刀で輝沙は左の指を全て切り落とし、両脚の腱を断つ。
「反転術式が使えるなら、私の負けです」
血に濡れた大男は、荒く息を吐きながら、自らの血の中を泳ぐ。
使えないのなら……勝負ありだ。
「っ……何時ーー何時、天井に…っ」
「簡易領域を成立させる為に縛りを結ぶ呪術師は多いけど、それは自分を苦しめるだけです。だから師匠と考えました。“手順を省略する時だけ”帳を下ろす時と同じことをすると」
縛りではなく、下準備。
常に使うわけではなく緊急時だけ、僅かに自らに不利を課す。
箭島勝の部屋に飛び込んで発動させた最初の簡易領域……その時だけ、輝沙は床に数本分の釘を打ち付けていた。
「ごめんなさい。後は“任せます”」
輝沙は残酷に、リチャードを生かしたまま部屋を出る。
「……クソ。007には成りそびれたか……」
血溜まりにリチャードは横たわる。
箭島勝を狙っているのは、英国だけでは無い。
傷ついた諜報員を他国の刺客は見逃さない。
(サムライガールが私を生かしたのは……餌にする為だ)
そう判っていても、リチャードが死ぬまでの数刻は刺客の脚を引っ張る……呪霊操術を他国の手に渡さないために。
「俺の心まで利用するとは……」
(師匠……と言っていたか?)
「一体どんな教育をガールに施したんだ」
血溜まりの中で、思わずリチャードは大声で笑った。
書いている内に輝沙は筆者の想定以上に危ない奴になってしまっいました。
オリ主の手綱を握るのは中々難しいですね……。
ある新しい呪術戦の主役としての役割を輝沙に与えつつ、釘崎には師匠らしい大規模バトルをと考えています。