縛り縛りをすると普通に自縛するよね、というお話です。
因みに縛りの部分は、雰囲気なので流し読みでオッケーです。
投射呪法ーー。
自身の動きを予め脳内で制作しトレースする事でアニメーションの様に自在な行動を可能にする術式。
本来、秒間24コマの制作が必要とされるコマ打ちを、朴は秒間10コマにすることで作業効率をアップさせた!
(通常では扱えないこの術式に加えた1つ目の縛り……そして)
朴の動きに反応し、釘崎の簪が尖く向かう。
(早いっーーだが、無駄だね)
予め読んでいたその軌道を、カクついた動きで朴は躱す。
「僕の投射呪法は、すでに君達の想像を遥かに超えている!」
「?!」
投射呪法に朴が加えた縛り……1つ目は秒間のコマ数の変更。
2つ目は触れた相手に対し発動した際、自身と同様の効果を相手に付与し、そのコマ割りが不正確であった場合は1秒間フリーズを起こす本来の機能から、相手のフリーズの代わりに、朴が脳内でその1秒間の絵コンテを制作し、相手の動きがそれに添った場合、それを元に原画とする縛り。
3つ目の縛りは原画を作ることに成功した後に術式の開示を行うこと。それは動画のチェックと、打ち合わせ作業。
そしてそれら複数工程の作業を全て終えた時点で、相手のアニメーションの1話分に相当する、以後24分間の行動を朴が支配することができる。これが4つ目の縛り。
(どれほど相手との実力差が有ろうと条件を満たした時点で僕の勝ちは決定する)
「僕の術式が発動した時点で、キミに与えられるのは秒間10コマを想像する時間! キミはその時間内にーー」
「……ナシが長ぇよ」
不機嫌に顔を歪めた釘崎の拳が、朴の顔面にめり込んだ。
「あぁああっ゙っ゙!!!」
まるでトラックに轢かれたような衝撃と共に、朴の体はボロ切れの様に吹き飛んで、昏倒した。
「……何だったんだよコイツ」
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「大統領、朴李子が……敗れました」
韓国大統領は頭を抱えた。
「動くな、とは伝えて無かったのか?」
「いえ、命令は確かに……」
「では独断で動いたのか……」
言葉を無くし、大統領は椅子に深くもたれきった。
ファントム・パレード。ウクライナ侵攻。そして日米安保の改正。
停戦中とはいえ北からの侵攻が何時行われるのか分からないこの状況下だからこそ、形だけでも“呪霊操術争奪戦”に臨む意味があった。
複雑な手順を踏むとはいえ、朴李子の術式は“発動さえ出来たなら”大隊戦力に匹敵する……屁理屈では有るが、特級術師という国際的な新しい武力の肩書を抑止力とする為には、張り子の虎にも縋り付かざるを得ないのが実情だった。
「……北は攻めてくると思うか?」
「……」
秘書はその問いには答えない。
何処で誰に録音されているか分からない。大統領を補佐する者の身の振り方としてはそれが正解だ。
「ヤツにもそれぐらいの判断力が有ればな……米国に連絡を取る」
やれることをやるしか無い。
与えられた手札の中で。
結局のところ、どの国もそれに代わりは無いのだ。
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動かなくなった呪術師を置いて、釘崎は簪を足場にしてビルの下に降りた。
「終わったようだなMrs.」
釘崎が戻ると、エリックファースト社所属の4人の民間軍事会社社員のひとりが怯える様に言った。
「ドーンさん。そんなに怯えないでくださいよ♪もう縛りを結んだ仲なんだしっ。ではエリックファースト改め、釘崎組と言う事で安全運転よろしく♡」
助手席のドアを金髪の青年、ミック・ドーンは急いで開き、釘崎を迎え入れると、運転席に駆け足で飛び乗った。
「俺たちが協力できるのは、対呪術師に関してのみだ……呪霊には一切関わらない……それでいいんだな」
「オッケーよ。素人に手出しされる方が危険だし。3級術師程度との対人戦なら、武器を持った人間を制圧するのと大差無いから任せるわ」
中国系アメリカ人、ハリソン・リーに釘崎は応えた。
「オレ達もこんなくだらねぇ事で……クソったれが」
「アレックス、聞こえるわよ」
ハリソンの隣の後部座席の2人。黒人のアレックス・ランドに、ティアは耳打ちする。
「再就職先は呪術界(コッチ)が手配するから安心しろって言ってんだろうが。それに人殺しの傭兵より、呪いを相手にする方がよっぽどスリルがあると思うけど?」
「そのスリルとやらの為に、呪術師をやっているのか? ハッー!」
吐き捨てるようにアレックスは言った。
「ちょっとやめなさいアルっーー」
「分かったよ。悪かった。周辺警戒、OK?」
ぐいとティアに袖を引かれ、アレックスは渋々小銃を小脇に構え直し、車窓に油断なく気を張った。
「切り替え早いわね。流石に場慣れしてるわ」
傭兵の練度に釘崎は安心して目を閉じた。
「あんたらが戦争してんのと同じで大した理由は無いし……そういう仕事だからしてるだけよ」
ビルの上から確認した遠目でも分かる2つの呪力。
伊地知を通じて共有された情報から、1つはQ:lの呪詛師。そしてもう1つはボルフ・ボールヌイのもの。
(この2人はさっきのアレとは明らかに違う)
市街地での呪術戦は、多くの犠牲者を出す可能性が高い。
(乙骨先輩がフリーになった今、焦れればそいつ等に無理を承知で動かれる。それなら……テッサの判断が正しいわね)
最小限の犠牲で済ませる。
炎溶呪式と、黒い神。
情報が正しければ、双方共に広範囲の破壊と殺戮が可能な術式に他ならない。
(10キロ……最低、それだけは街から離れる必要がある)
「ほんと……ままならないわね。呪術師は」
釘崎はため息をついた。
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次第に建物が減り、周囲から人気がなくなると、釘崎は車のバックミラーを見た。
車を運転する女と、下品にダッシュボードに足を上げた男の二人組。
「仕掛けてくるな」
ハリソンの言葉にピリ付いた空気が車内に籠もる。
「次のカーブで動くから。巻き込まないつもりだけど、死んでも恨まないでね」
「……ああ」
(流石プロ。まあ、あの女ひとりぐらいなら、任せられるかーー)
車体がカーブに差し掛かると同時に釘崎は助手席のドアを開いた。
振り下ろされた炎の刃を呪力で受け止め、簪を助手席に撃ち込む。
だが、釘崎と同じように車から飛び出た男は、軽々と釘を焼き切った。
釘崎の横を女の乗った車がそのまま走り抜ける。
「あ? なんだ。ネーチャン。スキ見せねぇんだ。補助なんとかっーツレじゃねぇのアレ?」
大蛇はポリポリと頭を掻きながら言った。
「ツレじゃねぇよ。行き当たりの民間人だ」
「まブッ殺す事に代わりねぇけどな」
「……クズだな。お前は」
釘崎は金槌を振り上げた。
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箭島を先に行かせると、輝沙は刀を握り道路の真ん中に立った。
(少しでも時間を稼ぐ)
相手が仕掛けてくるギリギリのライン。
ここを超えたら、強硬策に出る。その直前だと判断した。
(Q:lの呪詛師……それともーー)
青のレクサスから姿を見せたその男の気配に、輝沙はゾッとした。
(呪力の質が違う……)
乙骨憂太。秤金次。
それら国家転覆が可能な術式を持つ者特有の得体のしれない呪力。
呪いそのものーー。
「ボルフ・ボールヌイ……っ」
「де́вочк|а (ヂェーヴァチカ)か……警告する。道を開けてくれ」
ボルフの言葉に大して輝沙は時間を稼ごうと、喉に詰まった。
恐怖。そして少女の決意を、特級呪術師は決して見逃さない。
男は静かに目を閉じた。
「そうか……残念だ」
黒い式神が現れる。
「精錬鐵術っーー」
即座に全てを判断して、輝沙は刀を捨て鉄の盾で自らの視界を塞いだ。
手脚は守り切れない。
涙が溢れた。
「ごめんなさい……」
『Извините 』
少女が呟くような式神の声の後。
カシャ。
シャッターを切るような、そんな小さな音がした。
青白い光を見た烏が堕ちる。
輝沙に光は“見えなかった”。
チェレンコフ光。
その青白い発光は、水などの遮蔽物がなければ、直接眼球に投影された際に初めて見ることができる放射線の輝きだった。
「鉄か。苦しませるつもりは無かったが……済まない」
輝沙の鼻から鼻血が垂れた。
「あ、ああっ……」
チェルノボーグの放った放射線により、重度の急性放射線障害を負った輝沙の手脚は意志と関係なく膝を折った。
特級に相応しい術式と考えた時に、放射線を利用する呪術という……核の呪いです。