if呪術 ネット意見取り入れ小説バージョン   作:パワーボム

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リアルが少しごたついて……間隔が空いてしました。
申し訳無いですが、エタることは無いです。完結までもう少し続きます!


【オリ主注意】釘崎After⑫生きとし生けるものへ

ふと思い出すのはダーチャの土をいじる父の手と、それを手伝う母の手だった。

自分が物心ついたときから、それは生活の中にあり、ごくありふれた営みだったのだろう。

 

冬夜に見る暖炉の火は、薪が崩れるたびに影は形が変わり、積もる雪が恐ろしく感じられた。

そんな日には決まって、ジャガイモのガレットを母は作ってくれた。

 

 

だから雪の音の静けさを恐れても、その影から次第に孤独を見ることはなくなっていた。

 

私は少年時代、あまり本は読まなかった。それよりも外で遊ぶことを好んだ。

週末になると両親は私を連れてダーチャに行く。

 

最初には見るだけだった両親の手が、次第に近づいたのは、野菜を育てる手伝いを始めたからなのだろう。

 

私は土の匂いが好きだ。太陽の光も。生きている全てが好きだった。

 

『お前は優しい子だ。その分、苦労する事になるかもしれないが、決して神様を恨んではいけないよ』

 

枕元で何時かの夜に母はそう言って額にキスをしてくれた。

夜の眠りは安らぎに満ちていた。

 

私は人と話すことが好きだった。だが初恋は、昼間に降る雪の記憶の足跡にあった。

 

初な頃、彼女に話しかける事は苦手で、私の好意に気がついていた友人にはよくからかわれた。

 

父と、酒を初めて飲んだ時は私の方が先に酔いつぶれてしまった。

その時の話をするたびに、年老いていく父の手の、あのゴツゴツとした年輪は、小刻みに笑ってくれた。

 

クリミア半島へ私が向かう事になった日の夜も……父は同じように。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……我々は、征服者ではなく、解放者だと。これでなぜ言えるのですか」

 

クリミアに派兵されたボルフが、そこで行われている弾圧に苦言を呈したのは、気心がしれたヴェチェミンコ少尉だったからだ。

 

「気持ちは分かるが、ボルフ。口にすることは感心しないな」

 

「大なり小なり、この国で暮らす人間なら同じ様な思い出を持っているはずです。我々と、彼らに違いはない」

 

「ではどうすれば満足する? 都市部ならまだしも……村人は歓待などしてくれない。それが現実だ」

 

「私が話をします」

 

ボルフが言うと、茶化すように同僚が肩を押した。

 

「いいじゃないですか、少尉。俺たちも、コイツが話をつけてくれるなら、仕事が減るし給料が貰えるんですから」

 

「フッ。全く……責任を取るのは私だぞ? 気楽に言うが時間をかければ、本国から別の部隊が派遣されるだろう。あまり猶予はない。承知の上なんだな」

 

「はい。私もヴェチェミンコ“准尉”とは呼びたく有りませんから」

 

隊にドッと笑いが起きた。

ボルフは配備された小銃と、ヘルメットを外す。

 

「夕方に一度もどります」

 

……村の入口に座り込んだボルフに対する村人の反応は冷ややかなものであった。

 

他村の様な表立った反対運動が無いのは、部隊が村から離れた場所に展開されていることもある。

 

他人の家に土足で上がり込んだ人間を歓迎する者が居るはずがない。

まして銃を持てば尚更に。

 

仕方なく、その日は夕方まで時間を潰す為に、文字遊びをしてから部隊の待機するテントにボルフは戻った。

 

2日、3日、時間が過ぎてもボルフに話しかける者は居なかった。ボルフもまた、村人に話しかけなかった。

 

拾った木の枝で地面に文字を書き、それで暇をつぶす。

 

「ずっと、何をしているの?」

 

4日目の正午。

ボルフに話し掛けたのは、一人の少女だった。

プラチナブロンドの髪の。

 

「文字遊びだ。縦横の配置を毎日変えているが、基本的なルールは現在の短針分、マスを進み、進んだ先の文字が母音であればそれを使う。子音であれば母音によって発音できる列までを縦横いずれかで結んで先ずは最初の文字を作る」

 

ボルフは切り分けたマスを進み、選ばれたАで枝を止める。

 

「次に、長針の時刻を……4分か。ならAから4列目の文字を選ぶ。次はコインを使い、最初に表が出たら連続した数分横列を、最初に裏がでれば連続して裏が出た分に縦列を……その後に表裏の連続が途切れるまで続けて、縦と横の何方か、もしくは両方を移動する。それを繰り返して行い、単語を完成できればその文字数を点数にする」

 

ボルフは10ルーブルを指で弾いて数を決め、棒を動かし、文字を作る。

 

Аврора……オーロラ

 

「これで6点だ」

 

「……何が面白いの?」

 

少女は怪訝な顔で言って、ボルフから棒を取った。

 

「わたしもやってみる。何時?」

 

「12時15分」

 

「15も横にマスが無いよ?」

 

「なら、1か5を選んでいい。最初の発音はA。次は…ёか、лだな」

 

「ならл。コイン貸して!」

 

少女はコインを投げて、表、表、表、裏、表。

4つ戻ってаを選ぶ。

 

Ала。

 

表、裏。

яかp。p。次はpかн。

 

「……終わり? 作れない」

 

「なら点は無しだ。残念だったな」

 

「ケチ。名前は?」

 

「ボルフ=ボールヌイ。キミは?」

 

「スレーニ。スレーニ=カルチェラ」

 

スレーニは笑って言った。

 

「次はもっと分かり易い遊びにして。そしたらまた来てあげる」

 

「考えておく」

 

ボルフが答えると、スレーニはとっとっと駆けていった。

 

5日目も、スレーニはやって来た。

そして6日目になると、村の老人たちをスレーニは連れてきた。

 

1週間が過ぎ、村の少年たちも、女性や男たちも、ボルフに話しかけてくるようになる。

 

「ボールヌイ……君の友達をどうにかしてくれ。我々は見世物ではないんだ」

 

10日目。村長であるイゴールはそう言った。

ボルフがその手を握り、村に隊が受け入れられた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一ヶ月が過ぎた。

 

「ボールは、お酒をあんまり飲まないのね」

 

ダーチャの手入れをするボルフに、スレーニに言った。

 

「ああ。強くないんだ。父にも負けた」

 

「そう。でも良かった」

 

トマトの実をハサミで採って、スレーニは言った。

 

「……あなた達は、わたし達に手を出さない。他の人たちはそうじゃない。みんな悪口言えてるもん。他の村は街もホントは……良いことしか言っちゃいけないんでしょ?」

 

「済まない」

 

「どうしてボールが謝るの? 美味しいガレット作ってくれるのに」

 

「……俺たちの銃はテントに置いて来た。だが、持ち込むことを望まれている。恐怖が有れば……あの男は安心できるからだ」

 

「一番偉い人なのに。怖がりなんだ」

 

「彼を選んだのは俺たちだ。だから、済まない」

 

ポンと投げられたトマトを、ボルフはとっさに手で止めた。

 

「今日はボルシチが食べたいな」

 

「分かった。キミのお母さんにも伝えるよ」

 

ボルフが笑うと、スレーニにも笑った。

 

夏の太陽が眩しい日だった。

 

「知ってる? 今年の土は良い土だったんだって。雨も、ちょうどよかったんだって」

 

農園に咲いた白花を、スレーニは優しく撫でた。

 

「きっと来年はもっと良くなるね」

 

少女が立ち上がった時、ボルフは泣いていた。

 

「俺が、俺たちが居てもいいのか? またここに」

 

「うん。みんなも、分かっているから。あなた達が優しいこと。他の、ロシアの人達も本当は優しいことも……Спасибо。ボール」

 

「ああ、有難う。あの日、俺と話をしてくれてーー」

 

『область(領域)』

 

ノイズの様な音がする。

 

『Развертывание(展開)』

 

灰色の雨が降る。暗く淀んだ、鉛のようにいつ落ちてくるかもしれない空と雨が村にある全ての命を突き抜ける。

 

「きれい……」

 

スレーニは呟くように言って、そのまま息絶えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

唖然とする釘崎に、ボルフは歩み寄る。

 

「人間は力を持てばそれを誇示したくなる。振るわなくいい暴力を振るい、他者と自らを傷つける。だが、望まない力に振り回されることを、ましてや他人に強要されるべきではない」

 

「それが…分かっているのなら、ここで止まりなさい。後は“私たち”の問題よ」

 

「残念だが、それはできない。これ以上、祖国に血を流させる訳にはいかない。だから引いてくれ。後は“俺”が解決する」

 

(俺……か。だから引けないのよ)

 

釘崎は思った。

ここに居るのは独りの人間で、誰よりも呪われた“呪術師”なのだろう。

……人が持つにはあまりに強大な術式。その呪いをただの背中ひとつに背負えば、それは歯車のようなものに成らざるを得ない。

 

「人間は、そんな大層な物になんて成れない。どこかでかけ違える。神様なんてこの世界には居ないのよ」

 

「そうだな。チェルノボーグ」

 

黒いマントが現れる。

 

全て理解した。

この術式は……拡張術式として“しか”運用されていない。

 

(“私”は絶対にこの人に勝てない。だけどーー)

 

「“私たち”なら絶対に勝てるッ!」

 

釘崎は展延を解いて、術式を発動させる。

 

シャッター音を遮るように鉄の盾が釘崎に向う見えない光を遮った。

 

「あの少女か」

 

ボルフは呟き、呪力を纏う。領域展延。

それに対して釘崎は簪を地面に打ち込む。放射線(術式)は全て輝沙に任せる。

 

「シン・影流ーー」

 

簡易領域。

釘崎はその範囲にボルフを捉える。

 

領域展延によるバフは、簡易領域を遥かに上回る。だが簡易領域は円状に広げた結界故に、自ら組み込んだプログラムを内側に再現することが可能になる。

 

(私の意識で追いかけたら、体術の差で勝ち目は無い)

 

何時訪れるか分からない刹那の好機。それまでは、反射神経で攻撃を捌く。

 

釘崎の意識より先に肉体が自動で動く。

鉄の盾に隠れたボルフの拳の軌道を受け流す様に骨で動く!

 

(展延を解いたッ。術式が、来るーー)

 

黒い神の光を、再び盾が遮った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

急激な被爆による体調不良が、好転する場合がある。

放射線障害は、生物の体細胞が破壊されることによって発生する。

 

局所的な代謝の低下が持続し全体の生理活動が鈍化することにより、低くバランスが保たれ“容体は一時的に”回復傾向となる。

 

輝沙の身体は、今その状態にあった。

 

手足は動かないが、術式の使用は問題なく行える。しかも呪術の根源である“死”へ身体は向かった状態で。

 

(……好都合です。これなら、呪力効率が格段に上がる)

「光は全て私が引き受けます」

 

近く並び立つのでなく、遠く、釘崎が離脱させてくれたからこそ共に戦える。

 

(わたしの、もうひとつの術式は、あの人にとって最後のジョーカー。使えるのは1回だけ)

 

それまでは鉄の操作に全神経を集中させる。

 

「だから、勝って下さい。釘崎さんーー」

 




次回は決着まで行けたらなと思っています。
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