if呪術 ネット意見取り入れ小説バージョン   作:パワーボム

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時間が空いてしまいましたが、Afterストーリーの最終話です。


【オリ主注意】釘崎After⑬春は進む

(クソッ)

 

五条伸也は、戦場から遠く離れながらも肌に感じられる呪力に汗を流す。

特級呪術師……同家に生まれ、現代最強の呪術師と称された五条悟と同じく、隔絶された圧倒的な暴。

 

(釘崎と繁縷だけで勝算があるのか?)

 

この数年、呪術界は大きく変わった。

御三家という枠組みも、そこに在した“五条家”も新たな流れの中に取り込まれ変化した。

 

自分の様に呪術師として未熟な人間は補助監督として、サポートに徹さざるを得ないように。

 

(好き好んで、こんな仕事をしているわけじゃない。俺は……これ以上は付き合いきれない)

 

五条は車を止める。

 

「どうしっーー」

 

助手席の少年に、伸也はスーツのポケットから取り出した銃を向ける。

 

「……悪く思うな」

 

「ぅ……ッ!」

 

車のドアに手をかけた箭島は、窓ガラスが割れる音で、動きを止めた。

 

「動くな。狙いが外れれば、無駄に苦しむ事になるぞ」

 

「っけんな……ふざけんな! なんでオレが殺されなきゃならないっ!」

 

「説明した筈だ。呪霊操術は存在するだけで、多くの人間を危険にさらす。ここまで処分を保留したのは、釘崎野薔薇の判断を仰ぐためだ。だが……今ヤッてる奴は尋常じゃねえ。戦いがどう転ぶか分からねぇ以上、お前が死ねば少なくとも呪術界はそのリスクを回避できる」

 

「何なんだよ! オレがなんで殺されなきゃならないんだっ!」

 

「呪霊操術が死滅回遊を引き起こした術式だからだ!」

 

伸也の言葉に、箭島は唖然とする。

 

「…なに……言って」

 

「大勢死んだ。この世界をクソに変えた。それが呪霊操術という術式だ。だからお前は死ぬべきなんだよ」

 

「そんな……そんなこと……」

少年は言葉をなくす。

 

(分かってるよ。お前の考えてることは)

 

「自分は関係ない。そうだ。お前は関係ない。生まれ方を選べる奴は居ない。生き方も! 仕事も! 自分の望んだように生きられる奴なんてほとんどいねぇし、理不尽な事ばっかりだ」

 

(だから…“仕方ない”だろうが)

 

「なら…なんで」

 

箭島勝の目が伸也に疑問を投げかける。

わかる。わかってしまう。だから……聞くな。

 

「なんで“あいつ”はそれを言わなかったんだよ」

 

「言えるわけ無いだろうが……死滅回遊で、お前は家族を殺されたんだぞ」

 

そう答えてしまった伸也は、銃を下ろした。

 

「輝沙の、繁縷の家族も死滅回遊で死んだ。アイツはお前を殺す覚悟もしてきた。他人を殺す覚悟も、呪術師になった時に……」

 

半端だ。ガキ以下の覚悟しか自分には出来ない。斜に構えた温室育ちの坊ちゃんに、一度切れた殺意という糸を繋ぐ方法は思い付かない。

 

「昨日には……もう戻らないのかな」

 

「戻るわけねぇだろ、ガキが」

 

箭島の言葉に、伸也は言った。

 

「……そう、ですよね……」

 

手を組んで、箭島は俯いた。

始まったばかりの春休みにはもう戻れない。

 

(敬語使うなよ)

 

「クソ…クソッ! 糞! 糞っ!」

 

ただの学生に、子供に、使われて当たり前のその言葉づかいに、伸也はクラクション長く鳴らす。

 

思いついてしまった。再び箭島へ殺意を向ける為の最低の手段を、糞みたいな言い訳を。

 

「助けたいか?」

 

「は?」

 

「助けたいかって聞いたんだよ! お前を助けようとした奴らを! 輝沙を!」

 

答えるな。頷くな。頼むから。

 

ブーッ!と鳴り続けるクラクションの中で、箭島は頷いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

鉄の盾に身を隠した釘崎は簡易領域の流に身を委ねる。

 

特級レベルの相手に視界を防ぐことは莫大なリスクを伴う。

 

(信じろ。私自身をーー)

 

鉄の盾がへしゃげ、それ越しの打撃に釘崎の身体が浮き上がる。

 

「くっーー痛ッぇだろうがッ!!」

 

吹き飛びながら、釘崎は地中を貫いた簪でボルフを狙う。

 

(テレフォンパンチは、効くわけないか)

 

完全に読み切られたソレをボルフが躱し、釘崎は体勢を整える。

だがボルフもまた追撃の手を緩めない。

 

釘崎は展延を纏ったボルフの拳をいなし、防御に全神経を研ぎ澄ませる。

 

気を抜けば即死。択を誤れば即死。

一挙手一投足が、自らに死を迫る感覚に釘崎は息を荒くする。

 

「くッーー」

 

ボルフの掌打が滑り、追い付かなかった迎撃の打ち漏らした一撃が、釘崎の腹に入る。

 

左肋骨にヒビ。だが釘崎の自動迎撃を抜くために、無理な体勢からの拳は、ボルフに対して隙らしい初めての隙を生み出した。

 

コンマ数秒の攻防。釘崎の右手には金槌。

 

(こっちの領域展開が不可能と判断したタイミングで、押し込んだ。流石ね……だがーー)

 

声を飲み込み、釘崎は術式を発動させる。

こちらも腕に力は入っていなくとも、人体を媒体とし、魂と肉体双方へと放たれる共鳴りの威力と激痛は、常人であればショック死をしかねない程度の殺傷力を持ち得ている。

 

そう、持ち得ている。ハズだ。

 

即座にボルフは切り返し、釘崎が術式を発動させた一瞬を好機と捉えたように蹴りが釘崎の左腕を圧し折った。

 

行き掛けの駄賃の共鳴りは、確かにボルフの脚を伝い、全身に激痛をもたらした……ハズだ。

 

それでもなお、止まらない。

 

「バケモノねっ! アンタはッ!」

 

腕が上がらない。が自然と金槌を、落とすにはいい機会だ。

指先はまだ動く。拳印は下で組むより他にないか。

 

(後は隙だ。決定的な隙。0.5秒は欲しい)

 

「痛みを感じないわけ?」

 

「問題ない。呪力による身体コントロールの範疇だ」

 

「あっそ……呪力による肉体強化はバカ目隠しレベルかよ」

 

「これが最後だ。箭島勝を諦めろ。そうすれば命だけは見逃そう。あの少女も、既に限界なのだろう?」

 

輝沙の盾は先程の一撃で砕け、霧散していた。

 

「そうかもね。でも私の命が助かったところで、意味ないのよ。仕事終わりに美味いビール飲んで、しこたま寝る。そこに後味の悪さなんて残ってたら、人生最低の日にしかならねぇんだよ」

 

人生最低の日。呪術師としては何日も経験してきた。

真人に頭を崩されてから目覚めるまでの日々。

他の奴らが、虎杖が、伏黒が、真希さんが、奔走し、バカ目隠しが戦い、世界を守った。

 

後に知って、そんな1日に悔いを残して、引きずった。

 

「だからもうさせたかねぇんだよ。んなもんを、まだ学生の内から、それがOBの務めだからだ」

 

釘崎は手のひらを絡める。歓喜天印を作り、刹那を制するために。

 

「諦めろ。光は、領域よりも速い。チェルノボーグーー」

 

「ッ!?」

 

この戦場に初めて現れた明らかな異物。4級呪霊以下の数匹の蝿頭。

 

「びぃいい!!」

 

乱入者に釘崎とボルフは同時に解答へと辿り着いた。

 

“箭島勝は呪霊操術に完全に覚醒した”

 

猶予を失ったボルフはしかし冷静に蠅頭を一瞬にして散らす。

 

チェルノボーグの光は、釘崎野薔薇の領域展開を超える速度で即死を与える。

 

「終わりだ」

 

「それはどうかしら……切り札は最後まで取っておくものよ!!」

 

シャッターが切られる。

 

人体を即死させるだけの放射線。それは確かに、釘崎に向かって放たれた。

 

呪力による相殺は不可。展延をしながら領域展開も無理。

 

だから釘崎は委ねた。繁縷輝沙のもうひとつの生得術式に。

 

……本来、その術式の使用には汎ゆる呪力の流れを見ることの出来る特別な“目”が必要とされる。

 

それを持たなければ莫大な呪力消費量も相まって、無下限呪術は無用の長物でしかない。

 

(だけど輝沙はもうひとつ術式を持っていた)

 

鉄を生み出し操る。

 

自身の呪力で創り出した砂鉄を媒介として発動される輝沙の無下限は、周囲の光を屈折させ一瞬だけ姿をくらませることが出来る。

 

無下限呪術が生み出した弱者の陽炎は、釘崎に及ぶはずであった放射線を空に散らした。

 

呪霊操術。そして無下限呪術。

2つが生み出した一瞬がこの戦いの最後の告げる。

 

「領域展開。曼珠沙彼岸遊廓」

 

流れるように、腐敗した社と、彼岸花が咲き乱れる。

 

「……簡易領域」

 

ボルフの足元に円が発生する。

 

(やっぱり……最後まで、そっちを選ぶか)

 

咲き乱れる。彼岸の花は、簪と共鳴りのエチュード。

 

簡易領域に対しては、触媒となるべく簪が打ち込まれ、反芻する共鳴りが、その、魂と肉体をずたずたに引き裂いてゆく。

 

釘崎の……領域が崩れた時、血に濡れた大男は膝をついて倒れ落ちた。

 

「私たちの……勝ちだ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

あの村で、死者を弔える人間は俺一人だった。

幾日もかけて、ひとりひとりを墓へと埋葬し、その名を刻んだ。

 

「聞いてもいいかしら」

 

「なんだ」

 

無防備に横たわったボルフに釘崎は尋ねた。

 

「貴方の術式は自然界に存在する放射性物質を利用し、あの式神の通り道を領域として扱う事で、指向性を持たせる……」

 

実体が存在せず、かつ呼び出した式神をボルフは戦いの中で一度も動かさなかった。

 

最初は釘崎も、それが縛りの可能性も考慮したが……クリミア半島の村が今もなお立ち入り禁止とされている事から考えれば、放射線は残留すると考えるのが自然だろう。

 

「呪力を放射線に変えるのは拡張術式。そして、その運用しかしなかったのはーー」

 

「半減期を操れるのは、呪力を変化させた場合に限られる」

 

(やっぱりか)

 

「最後まで領域展開を選ばなかったのは、拮抗した時点で放射線を操れなくなるから。ずっと手加減されてたわけね」

 

「もう二度と……大地を何百年も汚染したくなかった」

 

道端のたんぽぽを見つめるボルフの言葉に、釘崎は膝を落とした。

 

「私は手加減できなかった。流石にそんな余裕も実力も無かった。一人じゃあ、毛ほども勝てる見込みは無かった。自分の弱さに腹が立つわ、我ながら」

 

釘崎はボルフの手を握る。

 

「……これは“縛り”よ。これから話す事を私は全て実行する。私は芻霊呪法を介し、箭島勝の呪霊操術に縛りを課す。呪霊操術の使用が許可されるのは対呪霊に対してのみ。日本呪術界はこの縛りを遵守し、また国際法の定める“呪力に関する国際条約”に従う」

 

「……フッ、フハハハッ」

 

ボルフは声を上げて笑う。

 

「ああ。それでいい。済まなかった。俺の国の事情に、お前たちを巻き込んでしまった」

 

「小難しくしとかないと後で政府の解釈で軍事利用されかねないから、条文を考えてもらうのも大変だったわよ? 子供ひとりを真っ当に青春させる。それだけの事にも大人は必死こいて、アホみたいな人手を動かしている。それでも取り零す方が多いし、だからこそ一人で何でもやろうとしている貴方には任せられなかった」

 

圧倒的な力に対する責任から、ボルフ=ボールヌイは逃げ出さなかった。

 

「人間は歯車なんかに成れない。どんなに公平公正で居ようとしても、一人で生きてる奴なんてこの世界の何処にも居ない。仮に居たとしても、そんなのは生きているとは言わない。死体と同じよ。糞食らえだわ」

 

「手厳しいな、だが……俺の意識を最後まで残してくれた事は感謝する……チェルノボーグを暴走させずに……逝ける」

 

「……私たちは同じ呪術師。呪いを祓うのが仕事で、そこに国とか関係無い。だからホントに、最初から頼ってくれても良かったのよ」

 

「そうだな」

 

ボルフは呟いて息を引き取った。

 

「さて…最後の仕上げね」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

呪力切れを起こした輝沙が目を覚ます。

 

「まだ息は有るわね……無理させたわ。ごめんテッサ」

 

「……はい。流石に、死ぬかと思いました」

 

釘崎に輝沙は微笑んで答えた。

 

「身体の被爆は進行を抑えながら、家入さんの反転と、私の共鳴りで少しずつ治すけど……多分死ぬほど痛い思いをして貰うことになる」

 

「前に一度、経験してますから……大丈夫です」

 

輝沙を抱き抱えて、釘崎はジープの後部座席にそのまま寝かせた。

 

「……どうも」

 

「ドーモ」

 

運転席に座る見知らぬ外国人に、輝沙は首を動かしてお辞儀する。

 

「よし。おい! 釘崎組っ! あんたらはとりま周囲を警戒。まだ他の奴らが残ってるかもしれないから」

 

「はいよ……ったく」

 

「やめなさい。もう慣れるしかないわよ」

 

アレックスを小突いて、ティアは車から離れて行った。

 

「で、アンタが箭島勝ね」

 

伸也に連れらた少年に釘崎は目を向ける。

 

「は、はい……」

 

「アンタは別によし。問題は……おい五条家」

 

「ぅ…」

 

顔を青くした伸也の襟首を釘崎は、掴み上げた。

 

「お前なーーーに呪霊操術使わせてんだよ、ああ?! マジでぶち殺すぞッ! ボンボンがッ!!」

 

「あ、あの状況で他の選択は、無理ですっ! それに術式の覚醒は」

 

「それに、じゃねえんだよ。言い訳はナシ。後で伊地知さんに報告書出すから。書類の手続きはテメェでしろよ?」

 

「……わかりました」

 

伸也の首を放して、釘崎は再び勝に目を戻す。

 

「呪霊はクソ不味いって聞いてるわ。それマジ話?」

 

「はい……不味かったです。吐きそうなぐらい……」

 

「等級による無制限の捕獲に縛りも入れるか……そうしたら多少味はマシに出来ると思う。それと」

 

釘崎はスマホの画面を勝に見せる。

 

「これ、あんたの呪霊操術の使用制限ね。理事長の印も貰ったし、総理大臣の署名も……確認したわね」

 

「はあ…?」

 

「生返事するな、YESね。オッケーね。これ縛りだから」

 

「いや、縛りとか言われても、よくわかんないし。それにちゃんと確認してからでないと、後で変な請求とかされても…!」

 

「だーーっ!! 最近のガキは小賢しいっ! いいから素直に頷け! でないとあんた助けられないんだからッ!」

 

釘崎の言葉に、勝は一歩引く。

 

「なんで……そこまで、するんですか……オレはまだ呪術とか全然知らないのに、なんで」

 

「それが仕事だから」

 

釘崎は答えた。

 

「糞ほど忙しいし、給料使う暇ないし、マジでよく考えたら糞以下の雇用状況だけど、私は呪術師を仕事に選んだ。だから、アンタを助けるのも仕事だから。訳わからん善意の押し付けに感じられるかも知れないけど、私からしたらコンビニでレジ売ってる店員と対して変わらないわよ」

 

仕事だから一生懸命にやっている。ボランティアでもなければ、特権意識や慈悲でも無い。

 

『テメェの人生仕事かよ!』

 

今、過去の自分にメチャクチャ刺された。

 

(まあ、あの時のイメージとは……違うからいいか。別に)

 

金を稼ぐ。それから時々はオシャレして、寝て、食って、酒飲んで……次の日に備える。いつか呪いを全て祓えたなら、不用になる仕事を、その日が来るまで延々と。

 

(それでも悪いことばっかりじゃないし。やってて良かったと思えるなら、それもやっぱり私自身なのよ。悩んでいいし、迷ってもいい。そういう自由は大人になった今だから分かる部分も多少ある)

 

「だから、早く済ませたいわけ。Understand?」

 

「わかり…ました」

 

勝が頷くのと同時に、釘崎は金槌で共鳴りを軽く放つ。

術式によって結ばれる縛りは、決して破ることは出来ない。

 

「よし。これで終わり。はーっ、疲れた疲れた」

 

「あ、あのーー」

 

「?」

 

「ありがとうございます」

 

「ん。どういたしまして」

 

釘崎は身体を解しながら、微笑んだ。

仕事に見合うだけの報酬は、ここにもある。

「あ……言い忘れてたことが一つあったわ」

 

「?」

 

「アンタの進学先、こっちで変更しといたから」

 

「えぇ……」

 

「なによ。私の母校が不満? 仕方ないでしょうが。呪力の扱い方とか色々と学ばせないといけないんだから」

「じゃあ、それは」

 

「呪術高専東京校。それが4月からアンタが入学する学校の名前よ」

 

釘崎はその名前を告げた。

春は少し前へ進む。




長くなりましたが、これで釘崎の後日談は終わりです。

次は乙骨と秤のAfterストーリー予定です。
不定期の更新が暫くの間続くと思いますが……目にした時に軽く読んでもらえたらなと思います。
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