タイトルの通り、乙骨メインですが、秤、真希のストーリーも同日進行するお祭り的なのを予定しています。
■2023年8月17日 呪術高専東京校
(ガキ共は夏合宿を満喫中か……)
日下部はひとり、冷房の壊れた職員室で団扇を扇いだ。
ここ数年、呪力に目醒める人間の数は着実に増え、今や東京校に通う全校生徒は異例の23人にまで増加している。
(まぁ、今年が肝だな。箭島勝が順調に育てば……数年後はかなり楽ができる!)
これまでの教育方針を改革した高専では、可能な限り1年生は任務に着かせず基礎を教え、2年、3年と等級相応の任務に着かせ、4年に成れば進路を決めてもらう。という形に落ち着いていた。
「よぉ。暇してんな日下部」
「真希かパンダはどうした?一緒じゃ無いのか」
「ん。いや、連れてたが……」
「おい! 真希っ! やべぇもん見つけちまったぜ! これ見ろよコレ!」
慌てた様子で扉を開けたパンダの手は、手に便せんを持っていた。
「『狗巻先生へ』って…んだこれ、ラブレターかよ」
「モテてんなぁ! 棘のやつ」
「いつまでも学生気分でいんじゃねぇよ。戻しとけ」
「はーあ。良いじゃねぇかたまにはよぉ」
真希に小突かれて、パンダはしょげたようにトボトボと出ていった。
「1年の誰かだ。狗巻が担任だからなぁ……たく、どいつもこいつも狗巻センセイ推しかよバッキャローっ!」
「日下部……」
哀れむように真希は言った。
「んで、何の用事だ。任務なら猪野に言えよ。学生引率してんのアイツなんだからな」
「……例のテロの予告。あれマジかも知れねぇ」
「あ? あの警察に来たってやつか? 東堂に聞いては居るが……」
それはちょうど1週間前に警視庁に送られてきたFAX予告のコピーを真希は机に置いた。
『我々は愚鈍な世界に対して反抗をする者である。現状を変えたいと望む者は受け容れる。力こそが世界を律する唯一の理で有ると示す。神は世界を1週間で創造した。我等もそれに続き、呪の道を示す。十ニ人の共同体』
「このFAXの送信元はブラジルの架空オフィス……が調べてみりゃあQ :lの活動を支援していた形跡が発見された」
「Q:lっつう事なら旧上層部の……いや、それも壊滅したハズだ。生田目は死んだ。その義理の息子も」
「だから怪しいんだろうが。Q:lを支援していた奴らが一枚噛んでる。少なくとも理事長は大規模な呪術テロが再び起きる可能性を考慮してんだよ」
「話は分かった。だが具体的な目標や、狙いもここには書かれて無い。これじゃ防ぎようがねえだろ」
「馬鹿か?」
「あ? んだと真希ッ」
「難しく考える必要がねぇんだよ。本気でテロる奴等なら、テメェらの主義主張を声高々に唱えるのが目的だからな」
「あ……」
「……確証があるわけじゃねぇが、わざわざ日本に送り付けて来たのは“ツテ”を知ってるからだろ?」
真希に言われ、日下部はハッとする。
「十二だの神だのと来ればキリスト教関連……南アフリカ最大の都市……“ヨハネ”スブルクか」
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■同日 南アフリカ ヨハネスブルク
「っていう話だけど、どう思うミゲルちゃん」
街が一望できるホテルの屋上で、登り切った朝日を背にラルゥは言った。
ビルの窓ガラスが反射する。
「日本との時差は?」
「約7時間ね」
「……FAXの送信時間は?」
「日本時間で14時ピッタリ。葵ちゃんからはそう聞いているわ」
ひりつく空気にミゲルはキレる。
「あらやだ。ビンゴみたいね」
正面に現れた気配に、ラルゥも戦闘態勢を取る。
「呪霊風情が舐めやてやがるのか?」
「ミゲル・オドゥオール。隙は有りませんね。流石です」
パンパンと4本の腕で拍手をする異形の姿。
「仮面ライダーに居たわね。あんなの」
ラルゥはその姿に初見を述べる。
バッタの顔に、靭やかに均整の取れた肉の鎧。
二つの羽がまるでマフラーかマントの様にも見える。
「私は虫の皇と書いて蝗。そこにGUYを足し、さらに後にRX2と書いて、蝗GUY=RX2(リターン・テン・ツヴァイ)と申します」
「10なのか2なのかハッキリしないわね……蝗の呪霊かしら?」
「それはご覧の通りです。近年この辺りで蝗害が発生した事は周知の事と存じています。その恐怖が私という存在を生み出したのです」
「グダグタと煩い虫だな。さっさと来いよ」
「えぇ。では行かせてもらいましょうーー」
蝗GUYの脚に力が籠り、刹那に姿が消えた。
その速度はラルゥでさえ反応が出来なかった。
「ミゲルちゃん!」
蹴り上げられたミゲルは、蝗GUYの脚を腕でロックする。
「言うだけは有るな呪霊ッ!」
「貴方も流石ですねッ!」
4本の腕がミゲルに振り降ろされる。
それを捌き切り、ミゲルは蝗GUYと共にビルの下へ落ちていく。
「コイツは俺が相手をする」
周囲に現れた無数の呪霊を、ラルゥは巨手ではたき落とす。
「! チッ! まだ居たのねっ!」
潰した呪霊をラルゥは見る。
それは頭部が肥大化した赤子の様な姿をしていた。
「ベビー…ならーー」
「ワタシの赤チャン。私の……ワタ、わた、わたしのののの」
女の形をしている事だけは、辛うじて分かるその呪霊に、ラルゥは向き直る。
「マミーが居るのは当然よねッ!」
ラルゥは女を腕に掴む。
「硬いッ! 特級呪霊のようねっ!」
そのまま放り投げ、追撃に飛びかかったラルゥに向けて、空中の呪霊の股ぐらから無数の胎児が湧いてくる。
「キショ!」
「赤、あか、アカあ、あか、ああ、あがあがあああっアアア!!!」
女が絶叫する。
胎児の群れに視界を封じられたラルゥは、咄嗟に簡易領域を展開させる。
その判断が功を奏す。
胎児の中に感じる別の呪力。その起こりは、爆破のメカニズムを想起させる。
「ッーー」
仮想の腕で、自らを跳ね上げる。
「ミゲルちゃん! 呪霊は囮だわっ! コイツ等の狙いはーー」
ラルゥの声は、街の爆発にかき消される。
無数の火の手が上がり、ビルが崩れ塔が倒れる。
砕けたガラスと、悲鳴が街に木霊する。
ラルゥは歯ぎしりをして、ホテルの屋上に着地した。
呪霊の気配は既にない。
「……やられたわね」
「クソが。逃げやがった」
合流したミゲルは、怒りに血管を震わせる。
「3匹……いや計画性から考えると爆発させたのは、呪霊ではなく呪詛師の可能性もあるわね」
「4だ。気配が消えるのが早すぎる。憂憂の様な術式と考えるのが自然だろ?」
「……たしか『十二人の共同体』だったかしら?」
「ああ。だがそれがブラフの可能性は有ると思うか?」
ミゲルの言葉にラルゥは考える。
「いや。無いわね。ただし多くもない。自分たちの主張を押し通すつもりなら……数を偽るよりも仲を取り持つ方が有利だから」
その答えに賛同するように、ミゲルはサングラスをかけ直した。
「まあいい。次は全員殺してやる」
「そうね。でも先ずは被害の確認と、対策が先だわ。行きましょう」
烟る街に拳を握り、二人の呪術師は日に向かった。
2020年頃、アフリカの蝗害がニュースになったな……という事で蝗GUYがパワーアップして戻ってきています。
他の敵はオリ特級呪霊や、呪詛師が主になるかと思います。