間隔ががが……となりましたが、真希VS蝗GUYです。
個人的に見たかった展開を!という感じです。
禪院甚爾……いや、伏黒甚爾の名を真希が知ったのは、一億呪霊と、両面宿儺の討伐の後だった。
フィジカルギフテッド、天与の暴君、鬼神。そうあだ名され、恐れられ、禪院家に産まれた忌み子。
どうすれば超えられる?
真希は考えた。
自由にこの世界に存在する。それだけでは、五条悟にさえ一度は勝利した鬼神を超えることは一生できない。
どうすれば超えられる?
そればかりを考える。
なぜ超えたい。どうして超えたい。
女だからか? それとも禪院の血がそうさせるのか?
……違う。
真希は思い浮かべる。
パンダ、狗巻、西宮、釘崎。
呪術師として、禪院家を滅亡させた自身の呪を、禊ぐ事を受け入れてくれた仲間たちを。
自身の意味を肯定してくれた乙骨憂太をーー。
そして何よりも。今も自分を見続けてくれている“もう一人の自分”に。
全部壊して。
呪いでなく。その言葉を祝福としなければならなかった。
かけがえのない妹の為に。
だから超える。超えてみせる。
いつか穢れを払い除ける為に。
(全部、壊す。私自身の限界も! この世界の原則もーー)
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吹き飛ばされた蝗GUYは、ベースボールスタジアムの壁に土煙を上げる。
「呪力は2から……ま1の゙呪力ってのが何なのか分からねぇが、一般人の呪力は1とするならって話だがな。じゃねぇと日常生活の何処かで“黒閃”を打つやつも出てくるだろ?」
「……言葉の意味がわかりませんね。何が言いたいのですか?」
立ち上がった蝗GUYは、埃を払いながら、顔の傷を反転で治す。
「テメェら呪霊の呪力は必ず2以上だって話だ。なら呪具との違いは無い。頭を使えばすぐ分かった事だったがな……回り道ばっかりだよ私は」
真希は両の拳を構える。ナショナル・パークのライトアップに呪霊の影は浮かばない。
バッターボックスに蝗。迎え撃つ真希はクローザー。
「蝗害の際……我々、飛蝗は飛翔する為により強い翼を授かり、そして最も進化するものが何であるか、アナタは知っていますか?」
「虫博士じゃねぇんだよ。他所で聞け」
「脳……デスッ!!」
蝗GUYの凄まじい脚力と、羽撃きが突風の如く吹き荒れる。
大気の流れを感じ取り、真希は呪霊の一撃に素早く身を躱して対処する。
「ババッ!!」
しかし、翻った蝗GUYは口から黒い液体を照射する。
(受けても……いやーー)
真希は触れた刹那に蝗醤油を足場に上空へと駆け上がる。
「見抜いたまでは褒めましょう! デスがやはりアナタは愚かな猿だ!」
羽根の羽撃きが音を反響させる。
「私は使命を持って! この聖戦に殉じる! 世を統べるは呪か! 肉か! それが今こそ発揮される!!」
「下られねえ、使命感だなッ! 呪霊の分際がーー」
「空中で私に勝てる見込みが有ると思うのかッ!!」
「大アリだ、クソ呪霊っ!」
真希は蝗GUYの4本の腕を素早くロックし、複雑なサブミッションに呪霊の身体を絡め取る。
「羽に呪力がっーー滾ってるだろうがッ!!」
呪霊自身の呪力を使い、祓う。それに最も適した攻撃方法は、関節技による部位同士の消耗。
そしてーー。
大気という足場を蹴り加速する。
「ガバ! ガババッーー」
動こうと藻掻くほど、掛けた関節技は呪霊自身をヤスリの様に、こそぎ、重力の加速は接地した際、その全身に宿す呪力同士を衝突させる。
(見える。触れられる。だが祓えない。だからこそ、たどり着いた)
かつて真依が見ていた世界を感じ取る。知らぬまま、その恐怖に差し伸べた手を、今度は自ら壊すためにーー。
「ディオスクロイ・バスターッ!!」
スタジアムにその一撃が炸裂する。
砂塵消し飛ぶ爆風が、ダイアモンドの中央から、客席へと。砕け散ったガラスの欠片が夜景を映し舞い散った。
「チッ……」
蝗GUYの自切した四肢を、真希は投げ捨てる。
「掛かりが甘くなったな」
全身の甲殻に負ったダメージと、四肢の反転によって、息の上がった呪霊を真希は嗤う。
「……そんなに嬉しいか。私に傷を与えたことが」
「あ?」
「呪力を、呪を、貴様ごときが! 人間風情ガッ! 超えル事など有り得ぬのだッ」
牙を剥き、蝗GUYは呪霊の本性を表わした。
無数の黒い血管が、ヒビ割れた身体を覆い尽くす。
「呪ダけが! この世ニ神が与え給ウタ心理と知れーー」
2つの掌が三角を作り、さらに2つの腕が頭部を中心とした三角形を形成する。
「領域展開ッ!!」
広大な砂漠が、真希に向けて放たれる。
茫漠とした、渇き、乾き、渇き。
「ローカスト・ダメージ・エクソダスッッ!」
展開された結界に、蝗GUYの呪力が満ち満ちる。
「キサマの技ハ! 私自身に当てル呪力が無ければ無意味ッ! 領域内は我が体内ッ! 我が身肉ッ! キサマの囚えル我は無いッ!!」
真希の回避する先に、無量の蝗が飛び狂う。
蝗GUYは、天与呪縛の性質から、真希に自身の必中効果が必ずしも発揮できるわけではないと判断し、領域内から必殺効果のみを残し展開させた。
飢える無限の蝗と、その身が宿す毒素。例え強靭な肉体を持っていたとしても、その全てを捌き切ることは不可能。
「死ネッ!!」
蝗GUYの拳が、真希を吹き飛ばす。
「呪いト、肉体ッ! その戦いハ! ノロイの勝ちダーー」
呪霊は勝利を確信し、笑う。
歯を剥き、肉を喰らう為に。同胞たる無量の蝗が、猿を喰らうべく羽撃く。だが……。
「ずっと…不思議だった」
真希を前にして、見えない壁に阻まれるように、蝗は動きを止める。
「お前等が領域を展開した時……なんで私を入れられるのか」
「ナンだと?」
「呪力もねぇ、土塊と変わらねぇ、なのに領域に私を閉ざせる。妙だと思ったが、理解したんだ」
砂漠が、真希の足元から消える。
(私は持っている。私自身の心を……感情を)
呪いの力。呪力は人の心の発露。心の力。
(だから包める。だから呪力は、呪霊は、私に触れることも、私が触れることも出来る)
降霊術によって降ろされた伏黒甚爾の魂が、術者の肉体と術式を塗り潰したことを、真希は知らない。
だが、分かる。
それだけが、性差が生む力の差を埋める“私達”に授けられた天与だと。
「心象領域は誰もが持つ! 私も! テメェらと同じようになッ!」
真希という魂を常に知覚し、共に寄り添ってくれた半身が、鍛え抜いた心象風景。心を、呪力に沿わせて拡張させる。
呪術における最終奥義……水面に自分自身の姿を映す。絵の具は無くとも、キャンバスさえあれば“水”で絵は完成できる。
他者が発動させた領域内を、自らの魂と心で塗りつぶすことで発動する。
天与呪縛の最終奥義ーー。
真希は両手の拳を突き出した。それは十種影法術、最後の切り札と同じ掌印。
「領域、展開ッ!」
壊れていく。呪いが生み出した、風景が……領域が……無の中に。
「必罰禍福(ひつばつかふく)」
再び、二人の戦いの場はナショナル・パークへと姿を戻す。
結界の範囲を示す光の円だけを残し、剥がれ落ちた領域に貼り付けられるのは、天与呪縛そのもの。
汎ゆる術式が無効化された上でーー。
「がはーっ! このっ、ニンゲン…風情がぁあ!!」
呪力を持たない肉体の代わりに、領域を維持する呪力負担は“発動者”が背負う。
「ハッ! 呪霊風情がッ!」
呪力を削られ続ける蝗GUYは、歯茎を噛み拳を突き出す。
真希はその腕を、両脇に抱え上げる。
領域内での攻撃は……絶対に“当たる”。
その大原則は呪力を持たない真希の攻撃を、呪霊の肉への物理的なダメージとして直撃させる。
「終ル…コトなど!!」
虫の腕が無残にもげる。
腹による追撃を、真希のローキックが脚ごと引き千切る。
最後の攻撃……醤油と同じ。蝗害を引き起こした飛蝗は、その雑食性故に、毒素を宿す。
しかし、それは領域の崩壊と、呪力の消滅と共に霧散する。
「……ふぅ。片付いたがーー」
何かの気配を察知し、真希は振り返った。
白と黒。
「なんだパンダか……それに」
釈魂刀を抱えたパンダは、グッと奥歯を噛む。
その奥には、一人の子供の死体が転がっていた。
「……他に手はなかった」
パンダは振り絞るように呟いた。
「子供だった……利用された……子供だったんだッ」
「まだ終わってねえんだ。そんな顔するな」
真希はパンダにそう言って、僅かな逡巡と共に目を伏せた。
次回は呪術観戦と、パンダの戦いの予定です。
秤と乙骨のバトルもアイデアは有るので、早めに投稿できたら……と思います。