灼き焦がす日輪の炎刀   作:軋島枷臣

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お館様

 

シュルシュルと目隠しを解かれる。突然入ってきた日の光に目をしぱしぱさせながら、眼前の景色に息を吞む。目の前に広がるのは大きな日本庭園。暖かい日差しが差し込むそこでは、日向ぼっこができそうな心地よい日が射している。そして...

 

「君が暉暈縁優(てりくまよりまさ)、だね」

 

「...はい」

 

彼が当代産屋敷家当主、産屋敷耀哉。その声はどことなく、まさに今の太陽の光のように心地よい。

 

「槇寿郎から話は聞いてるよ」

 

そう言って、ふ、と微笑む。

 

「僅か一年で、下弦を討てるまで強くなったんだね」

 

「いえ。俺は...倒してなんかいません」

 

「報告ではそう聞いていたんだが?」

 

そう疑問を(てい)すお館様。

 

「俺は...仲間を...守れませんでした」

 

唇を噛み締めて、言う。

 

「倒してなんかいません。彼らが必死に足掻いた結果を、俺が運良く手にしてしまっただけです」

 

必死に鬼を倒そうとともに戦った仲間。無残にも引き裂かれてしまった仲間。自分はなんて無力なんだろう。表に生きる人のみ守れれば良いわけではないのに。

 

「彼らはそうなることを含めて君に託したんだ。民間人を一人も死なせなかった縁優の力だよ」

 

お館様はそう言って俺の頭を撫でた。

 

「あ、あれ?」

 

その瞬間、堪えきれなくなった何かが溢れ出した。

 

「君はずっとそうやって押さえつけてきたんだね。生き残った自分に泣くことは許されないと」

 

そう言って彼は優しく、優しく頭を撫で続けてくれた。

 

「君には痣があるんだろう?」

 

(しばら)くして、お館様は静かに口を開く。

 

「はい」

 

「それは生まれつきかい?」

 

「親は、そう言っていました」

 

「そうか...少し、昔話をしよう」

 

そう言って、静かに語りだす。

 

「一人の剣士の話を」

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

まだ日本という国が、細々(こまごま)とした国に分かたれていた戦国の世。

 

『始まりの呼吸の剣士』がいた。

 

彼の肉体は神の寵愛を一身に受けたように強靭で、疲れを知らない頑強さを持っていた。

 

彼は妻子を殺された(のち)鬼殺隊に入り、独自の『呼吸』という技を生み出した。

 

その頃の鬼殺隊には今の様に全集中の呼吸は存在せず、生身の純粋な力で鬼の頸を切っていた。

 

始まりの呼吸の剣士は自分の呼吸を隊士へと伝授し、元々有った『型』を『呼吸』へと昇華させた。

 

しかしその後始まりの剣士はあと一歩のところまで追い詰めた無惨を取り逃がしてしまい、また鬼殺隊に在籍していた兄が裏切り鬼となったことで、その責任を取らされ鬼殺隊を去った。

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「彼には、君と同じ形の痣(・・・・・・・)があったらしい」

 

「つまりお館様は...俺と、彼に何かしらの関係があると」

 

「そう思っているよ」

 

それを聞いた瞬間、分不相応だと思った。俺は下弦にすら手古摺(てこず)るような実力だ。彼には遠く及ばない。

 

「たとえその点を抜きにしても、私は縁優に期待しているんだ」

 

「?」

 

「たった12歳のその小さな体躯で、惡鬼を滅する。それがどれ程困難で苦しいことか」

 

慈しみを籠めた目で、お館様はこちらを見つめる。

 

「私は君が、君こそがこれからの鬼殺隊を牽引していく存在だと思っているよ。だから、どうか自分を信じて、自分を大切にして欲しい」

 

「はい」

 

バッ、と再度片膝を立てて頭を下げる。

そして固く誓う。もう、誰も取り零さないと。





~明治コソコソ噂話~
縁優が重傷を負っていたのは、ほかの隊士を守りながら戦っていたため。
一対一の戦いであれば、軽傷で済んでいた。
しかし縁優は、自分が守れなかったと深い自責の念に駆られている。
このことは彼の中で、大きな転換点となった。
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