チャンピオンのハルウララが勝負をしかけてきた!!   作:菊池 徳野

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1d71=44 メジロマックイーン(白)

メジロ家はウマ娘では名門。現実でも凄かったですが、私は競馬場入口の壁画でしか名優メジロマックイーンは見たことないんですよね。ディープインパクトの引退くらいからがメインの時期なので。

改めてマックイーンの話を考えた時にどんな喋り方だっけとなり少し時間が掛かりました。


初めてのジムはチュートリアルも兼ねている

目的地の街に辿り着いた彼女は一応立て看板の地名を確認した後、ホッと一息入れる為ポケモンセンターを目指していた。

旅のお供にと選んだフシギソウはボールの中で少しぐったりとしており、ほかの手持ちたちもあまり余裕がない状態であり、回復したあとは時間的にもポケモンフードを買ってやるべきかと思考をめぐらせる。

 

そうして見慣れぬ街を歩いてポケモンセンターとついでにショップを探していると、ついっと鼻腔をくすぐる甘い匂いが漂ってきた。それは屋台で売られているクレープであり、ガレットであり、アイスの香りである。

グギュルルル…というあまり淑女らしくない音を立てる自分の腹に顔を赤くしつつ、これはゲームなのだからと他人の目を気にしないことにしてふらふらと誘われるように屋台の方へと歩いていく。

 

「いらっしゃい。何か買っていくかい?」

 

店主の言葉にええと、と逡巡の言葉を返し実際に売られている商品を物色する。するとひとつの商品に目が止まった。

 

「こちらのクレープ、他のものに比べて少し高いような気がするのですが何か特別なものなんですの?」

 

メジロマックイーン――基トレーナー名『マック』は目の前のクレープの値段が少しばかり強気な気がして店主に尋ねた。たしかトウカイテイオーと一緒に食べた時はもう少し安く、一番高くても1000円前後だったような気がしたのだが。

 

「あぁ、このクレープはポケモン達とシェアできるようになってるのさ。そこのテーブル席でポケモンの数とお客さんを足した数のクレープを提供してるから割高になるね。とはいえこれは6匹での値段だから連れている数によってはもう少しお安くできるよ」

「なるほど、そういう事でしたの」

 

確かにそれなら納得の値段設定である。むしろポケモン達の分も考えるとかなりお値打ちと言って良いだろう。

この街はお菓子の街とも言われているらしいが、意外とこういう店は手頃な値段で提供しているものなのかもしれない。

プレイの前にトレーナーからの説明にあった『リフレッシュや気晴らしとしての一面』というのはこういった部分のセラピー的なものなのだろうと一人納得していると。

 

「それでお客さん、クレープ食べていくかい?」

 

その言葉に頷きそうになったところでマックイーンは自分の相棒達の状態を思い出し慌てて否定し、ポケモンセンターに行ってからまた来ることを伝えて屋台を離れた。ゲーム的に大丈夫だとしてもマックイーンの倫理観と罪悪感がそれを許さなかった。それにプレイ前の注意事項のこともある。

 

「それにしてもリアルですわね…」

 

『マックには食事プログラムの試験も頼みたい。VR下でどのような影響があるか分からないからお腹がすいても食べるならひとつまでにするように』

という自身のトレーナーの言葉を思い出して、あの時は分からなかったが中々酷なことを言ってたのだなとあのにやけ顔の理由にようやく合点がいった。

 

「本当にあの皮肉屋が無ければ私も普段から協力は惜しみませんのに…」

 

ぶつぶつと自身のトレーナーへの愚痴を漏らしつつも目的地のポケモンセンターを見つけたマックイーンはポケモン達をジョーイさん(たづな似)に預けて、少しばかり空いた時間でジムリーダーの情報をおさらいする事にして設置されているベンチに腰を下ろした。

どこかのトレーナー似の博士から貰った図鑑にあったジムの情報を開けばフェアリータイプという余り見慣れないタイプのジムであると書いてあり、その最後にはどこぞの皮肉屋によく似た他人の写真が載っていた。

 

『ファイエタウンジムリーダーイガラシ。科学の申し子、異色のパティシエ』

「…何とも似合いませんこと」

 

どこか格好つけたその写真の表情は、気力と自信に溢れており普段の理屈っぽい様子からは想像もできない程にキマッていた。

ざっくりと目を通したそれから目を離し、未だに覚えきれていないタイプ相性表を眺めながら、手持ちの誰を主軸に戦うべきか思案する。

 

「毒タイプと鋼タイプが有効…ならフシギソウに頑張って貰いましょうか」

 

また無茶をさせてしまうが相棒の活躍の場があるのならばできるだけお膳立てをしてやりたいと思ってしまうのはトレーナーの影響かもしれない。

研究やら実験やらと何かと好き勝手している彼だが、マックイーンに関する事でマックイーンから文句を言ったことは無い。いつだって舞台を整えマックイーンのコンディションを最高まで持って行ってくれる。そういう点で彼はマックイーンが気負わずに当たり前を発揮させてくれる天才だと言えるだろう。…本人には言わないが。

 

あぁ、そういえば卒業後のウマ娘達に指導する側の目線を知ってもらいたいという話もあったがこういう部分のことを言っていたのかもしれない。なんだかんだ生徒たちのことを考えてる辺り優秀なトレーナーなのだろうな。

 

「しかし納得いきませんわ」

 

こうして思考を巡らせておけば余計な事は考えなくて済むようになると思っていたが、残念な事にマックイーンにとってトレーナーというのは大きな存在であるのだと再確認させられるだけに終わっていた。

じとりとした視線を彼が写っている写真に向ける。それでもメジロマックイーンただ一人に注がれるあの熱い視線が他所のポケモンに向けられている事にイラッとしている事実など、ありはしないのだから。

 

 

***

 

 

「マック、ゲームをやらないか?」

「突然なんですの?」

「いやなに、この間断られたアレなのだけどやはりマックイーンにも遊んでもらいたいと思ってね」

 

いつになく素直なトレーナーの言葉に読んでいた本から目を離してじっとりとした視線を向ける。エルコンドルパサーの時と違い、ここで即座に了承の言葉が出てこない辺りに二人の関係が見て取れるだろう。

トレーナーである事以外は自由なこの男の言葉をマックイーンは信用していないし、なんなら裏があるものとして受け取っていた。

 

「…………いいですわ」

「おやおやこの間とは打って変わって…どういう風の吹き回しかな?」

「貴方の作ったゲームに興味が湧いたのです。テイオーさんから聞きましたが、その、一部でかなり流行っていると」

「トレーナーの私が再三頼んだ言葉よりも友人の噂話を取るのかい?」

「ぐっ」

 

そう言われると言葉がないが、テイオーが遊べない事をごねていた姿を思い出すと自身の置かれた状況がかなり恵まれているものかもしれないと考えてしまったのは事実である。

とはいえ何も普段からトレーナーの誘いを断っていたのに理由がない訳では無いのだ。得体の知れないものに関わると痛い目を見るというパブロフの犬宜しくその身に染み付いた危機管理能力によるものが大きく、どうしても関わらせたい時は無理矢理にでも参加させてくるので基本はNOを突きつける癖がついていたのである。

 

だが今回のそれは何やら多数のトレーナーによる合作であり、テストプレイをしていたウマ娘達曰く『やらない理由がない』とのことで、マックイーンのミーハーな部分が刺激された上、ゲームのスクリーンショット機能を使った写真に写るポケモン達の姿を見せてもらって漸く『あ、このゲーム面白そう』という気持ちになったのであった。

 

「まぁいいさ、しかしトウカイテイオーからか。思ったより噂の巡りが早いな。やはり写真機能を導入したのがでかいか…数を揃えるまではあまり噂が広がり過ぎるのも…」

「それで、私は何をすれば良いんですの?」

「む、色々試して欲しいことはあるがひとまずは楽しんでくれればそれでいいさ。どうせ遊ぶならできる限りを楽しんで欲しいからお試しの機能も盛り込むつもりだから注意事項は多少あるが、基本はそれを守ってくれさえすればそれで構わない」

 

思考の海に沈んでしまうと引き戻すまでに時間がかかると話題を戻せば、これまた意外な言葉が返ってくる。勿論普段の全てがすべて問題行動という事は無いが、レースとマックイーンの事以外で熱をあげている事でまともな内容は珍しい。

 

「何か裏があるのではと勘繰ってしまいそうですわ…」

「あのねぇマック。私だって人の子だ。万人受けする趣味のひとつくらいあるし、それを誰かと共有したいと思うことだってある」

 

つい盛れ出した心の声にメジロの令嬢たるもの、という思考が鎌首をもたげたが続くトレーナーの思いがけない言葉にマックイーンが思わずきょとんと目を丸くして驚きが思考を支配した。

どうにもその表情が可笑しかったのか、にっと口角をあげてトレーナーは更に言葉を続ける。

 

「私はただ、君が見せてくれた夢の先みたいな、君の知らない感動と興奮を味わって欲しいと思っているだけなんだよ」

 

悪どい笑みを浮かべてそう言うトレーナーの言葉にマックイーンは先程とは違う意味で言葉を詰まらせた。

それはズルい大人の言葉だと切って捨てるにはメジロマックイーンは子供過ぎており(夢見がちで)、中身がない言葉と言うにはトレーナーと駆け抜けた3年間の思い出は重かった。

 

からかわれているのだと理解は出来ても本心を語っている事が分かるだけに本当にタチが悪い。

そんなマックイーンの様子に満足がいったのか笑ってトレーナー室を出ていこうとするトレーナーの後を追いかけて三年間で定位置となった彼の隣まで移動する。ご機嫌なトレーナーの姿にイラッとして尻尾を脚にぴしぴしと叩きつけて無言の抗議をするくらいしか、マックイーンが取れる手段は存在しなかった。

 

つまるところメジロマックイーンが自分のトレーナーに全幅の信頼を寄せているのは、こういった裏表の無い直接的な好意の矢印に弱いからであると言えるだろう。

 

 

***

 

 

「フェアリー対策実に結構!しかし私のフェアリータイプオンリーという言葉を信じ切れずにマリルに草技を撃つのは悪手だ。この子の特性は『そうしょく』。水タイプだが草技は効かない」

「フシギソウ、アシッドボムですわ!」

「マリル、じゃれつくだ」

 

ご機嫌なジムリーダーの声が響く中、マックイーンは自分の失態を悟る。しかしそれでも何とか立っている相棒に指示を出して立て直しを計る。それを許してくれる相手では無いと理解しながらも手を弛めることだけはできない。

激しい攻防を制したのは相手の方だった。倒れ伏すフシギソウをボールに戻して今の流れを思い出す。

 

道中問題なかったからと最高打点を狙いはっぱカッターを打ったが、それが裏目となりマックイーンの判断ミスでフシギソウは倒れてしまった。もはやどうしようも無い後悔の念が心を支配する。自身の手落ちに口惜しさが喉を鳴らすが、しかし勝負が待ってくれない事をマックイーンは身に染みて知っていた。

 

「もどってフシギソウ。行きなさいココドラ、アイアンクロー!」

 

マックイーンの言葉に飛び出すようにボールから出たココドラの強烈な一撃を受け、相手のマリルはそれこそボールのようにてんてんと吹き飛ばされ跳ね飛ばされていく。トレーナーズスクールで貰ったせんせいのツメが上手く作用してくれた事に小さくガッツポーズをする。

これでマリルは戦闘不能、1VS1である。

 

「お疲れ様マリル…さて、お互い最後の一匹になった訳だが、君はこのジムがどうして最初のジムになっているか知っているかい?」

 

相手――ファイエジムジムリーダーのイガラシの言葉に返答はせずに身構える。ご機嫌に言葉を連ねる姿に警戒心が湧き上がる。こういう時何かあるのだ、この人は。

 

「それは君たち駆け出しのトレーナーの壁となる役割ともうひとつ…」

 

イガラシは言葉を紡ぎながら、そっとベルトに下げたボールを手に取り高く掲げる、今までに見たことの無い動き。

 

「公式戦とはなんであるかを教えるためさ!!行くぞマホイップ!ダイマックスだ!!」

 

イガラシの言葉に呼応するように掲げたボールにエネルギーが集まり、抱えるには苦労しそうな程大きくなる。それを軽々と片手で放り投げる彼の姿を見て、意外と鍛えているのだと言っていた事を思い出した。

 

『マーホマホー!』

 

突如として目の前に現れた小さなビル程のサイズをした動くウェディングケーキに一瞬唖然としたが、それが鳴き声をあげた事でポケモンであることに気づきココドラに指示を出す。

 

「ココドラ、アイアンクローですわ!」

「マホイップ、ダイアタックだ!」

 

 

***

 

 

「負けたよ。まさか一度の挑戦で突破されるとは思わなかった。君は強いなマック」

「いえ、正直かなりギリギリでした。まさか攻撃しつつ素早さを下げられるとは思ってませんでしたから」

「ダイマックス技についてはトレーナーズスクールか図鑑の説明を見ておくといい。きっとこれからのジム攻略の助けになるだろう」

 

勝負の後の疲労感と勝利の余韻を味わいながらもマックイーンは(さき)の対戦の反省点を浚っていた。次はより良い結果をと考えてしまうのはアスリートの性である。

 

「それじゃあ勝った君にはこれをあげよう。スイートバッジとバッジホルダーだ」

「ありがとうございます!」

 

手渡されたキラリと光るバッジをホルダーに嵌め込み、改めて勝利の実感を噛み締める。トレーナーに聞いた時はゲームとトレーニングとどう結びつけるのかと思っていたが、確かに勝利の味を覚えさせるという点で言えばこの瞬間は堪らない物がある。

 

「次は是非チャンピオントーナメントで本気で戦いたいものだ」

「チャンピオントーナメントですの?」

「チャンピオンへの挑戦権を賭けてジムリーダーとジムを制覇したチャレンジャーがバトルをするトーナメントさ。私も本来のリーグ戦で戦うポケモン達と参加する、所謂本気のジムリーダーと戦える機会という奴さ」

 

そう言って獰猛に笑うイガラシは確かにアスリートであり、そこで漸くマックイーンは目の前の彼がトレーナーとは別人なのだと認識することが出来た。

マックイーンのトレーナーはこういう時もっと悪どい笑い方をするので。

 

「後はそうだな。今度はお客様としても来てくれると嬉しい。ジムの隣に私の店があるから良ければ帰りにケーキでも買っていくといい。バッジを見せてくれれば割引しよう」

「本当ですの!?」

「あぁ、パティスリーイガラシは駆け出しトレーナーの味方だからな」

 

キョダイマックスマホイップの姿を見た時からそうだったが、マックイーンはジム戦前に食べたクレープ屋台の店主がイガラシのミルフィーユが美味いと言っていたのを思い出したのだ。

屋台のクレープの時点でかなりの味だったのだ。ちゃんとした店のケーキだったらどれほどのものだろうかと思っていた次第である。しかもこれはゲームの世界!太る心配をしないで済むなんてなんて素晴らしい事かとうきうき気分であったのだ。

 

イガラシと別れてファイエジムを後にしたマックイーンは、足早にポケモンセンターまで移動しポケモン達を預けると帰り際に貰ったケーキのラインナップが載った広告を穴が空く勢いで睨みつけて、ポケモン達が回復するまでの時間を実に有意義に過ごしていた。

 

「ポケモン達はみんな元気になりましたよ」

「ありがとうございますわ!」

 

マックイーンはカウンターに呼び出されるが早いかほぼ同時にダッシュで元気になったポケモン達を受け取り、ルンルンでポケモンセンターを後にした、筈だった。

 

「お疲れマック。時間だ」

「え?」

「この短時間でまさかジム戦まで行くとはな。ちょっと時間はオーバーしたがこういうのはキリのいいところまでやるものだからな。リアルタイムでモニターして管理していたから身体に不調はない筈だが…どうした?変な顔して」

 

悲しいかなマックイーンのしていたのはゲームである。ゲームは一日一時間。という訳では無いが健康を考えて制限時間が存在している事は確かに注意事項として聞いていたはずである。まさか2時間以上経っているなどと思いもしなかったといえど、マックイーンから何も言える言葉は無い。

 

「あの、ケーキ…」

「何言ってるんだ。クレープ食べただろう?」

 

そう言うトレーナーの言葉を聞いて、マックイーンはプレイ前に言われていた『食べるなら一つまで』の言葉を思い出す。つまりイガラシのケーキはお預けという事だ。

 

「そんな…」

「まぁ次回までのお楽しみだと思って置けばいい。また遊んでくれるだろう?」

 

それは勿論そのつもりだが、マックイーンは既に食べるつもりでいたのだ。それをお預けされるなど、拷問以外の何物でもない。

 

「あんまりですわー!!」

 

メジロマックイーンの叫び声が響く中、当のトレーナーはここまで取り乱すなんて味覚のシミュレーター導入は危険かもしれないなと考えており、後に食べ放題だからとやり過ぎたウマ娘が居た為にシミュレーターに不具合が発生したことで次にマックイーンがプレイするまでにゲームから食事プログラムが削除されることになるとは今の彼女は知る由もないのであった。

 

ちゃんちゃん。




初めてのジムにフェアリーか?とも思ったのですがマックイーンと言えばスイーツかなと思ってキョダイマックスマホイップに活躍してもらいたくてフェアリージムにしました。
まぁまぁチュートリアルとして機能してるっぽく書けたので結果満足してます。

五十嵐トレーナーは前職に研究職を経由してトレーナーとなってる設定です。理屈っぽいけどウマ娘には真摯に接する、割となんでも万能にこなせるタイプのトレーナーです。
最近の趣味はマックイーンの我慢しているケーキを科学的に低カロリーで再現する事だったりします。
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