チャンピオンのハルウララが勝負をしかけてきた!!   作:菊池 徳野

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1d71=56 サクラバクシンオー(運動着)

悪の組織を考えるのが一番悩みました。


バクシン。それは心の所作!(適当)

「うおおおおおぉぉぉ!バクシン!バクシン!バクシーーーン!!!」

「シミュレーターの状態は…うん、大丈夫だな」

 

シミュレーター使用者の増加に伴い追加で確保された第2シミュレーター室にて、VR機器とルームランナーによく似たキャタピラのような機器を利用するのは、我らが委員長、短距離の怪物サクラバクシンオーである。

 

山を登る時には自動で傾斜を生み出し、身体の反転に合わせて駆動方向が変化する。医療用ランニングマシンを改造して作られたそれの耐久性能検査も兼ねて行われているテストプレイを横から確認しているのは彼女のトレーナーであり、未だにバクシンオーに長距離を走らせようと画策しているやべぇ奴である。

 

「私は負けません!皆の模範たる委員長が敗北の2文字を背負うなど――――」

「すみません美作トレーナー。シミュレーターの調子は…うおっ」

 

そんなやばい熱気の中、シミュレーター室のドアを開けて入ってきた宇津木トレーナーが目にしたのは、ERROR数値ギリギリを保ちながらバクシンオーが併走しているであろうポケモンの速度やスタミナをリアルタイムで中距離相当まで弄りながら目をギラギラさせている同僚の姿であった。

 

「美作トレーナー。美作さん?美作さん!おいバカ!何やってんだ!シミュレーター壊す気か!」

「やはり根性や気持ちの変化によってスタミナの不足はカバー出来る。バイタルに異常は無し!トップスピードと比べて三割も出せていないが二の脚を使えれば…」

「うおおおおお!」

 

ペットは飼い主に似るとはよく言ったものだが、この二人の性質はお互いに噛み合いすぎてできあがったものだろうか。飼い犬と飼い主の様な関係を築いている普段の二人の姿の延長線上にあるのがこの姿かと一瞬意識が飛びそうになるが、それで目の前の光景が変わる訳では無い。

気を持ち直して、物理的に管理用のパネルからバカ(美作)を引き剥がして正気に戻そうと声をかける。

 

「何してんだよ、バカ!シミュレーターの細かい調整はこっちでやるって話だったろ!」

「宇津木トレーナー!見てくれよこの数値!試合で記録するようないい数字が簡単に出せるんだ!革命だぞこれは!」

 

興奮でタガが外れてテンションがおかしな方向にブチ上がっているバカの言葉に少しだけ心が揺れる。確かに同じトレーナーとしてサクラバクシンオーの適正距離を無視したようなこのデータは興味が無いとは言えない。

しかし既に設定されている無茶なレース内容については目をつぶるしかないが、これ以上に限界を追い求められたら恐らくシミュレーターの方に問題が起きそうなのでバカを止める方を優先する他ない。

心の中のマンボもそうだそうだと(いなな)いている。

 

「はぁっ、はあ、はっ、はっは、アナタも中々のバクシンでしたが、オェ、私の方が…」

「やっば、勝っちゃったよ」

「あぁ!やっぱり限界なんて存在しないんだよ。宇津木トレーナー、このプロジェクトに誘ってくれて感謝しかないよ!」

 

確認用の画面に映る死に体のバクシンオーと少しばかりしょぼくれたウインディの姿に心の声が漏れ出る。計測された数値は十分中距離のオープンクラスで通用する数字を叩き出していた。

その数値に興奮するのは同じトレーナーとしてよく分かるが、無茶な使い方をする方が効果的かもしれない可能性が浮上したことの方が宇津木にとっては問題であった。

 

思わぬ所でシミュレーターの有用性を示してしまった事でこの2人を手放す事が出来なくなった事実に頭が痛くなる。

助けてエル。

 

「美作トレーナー、飽くまで耐久試験は長期のものだと言いましたよね?」

「あぁ、だからバクシンオーには少し長い中距離に設定したよ」

「ちげぇよバカ。俺は流しで走ったり徒歩移動の時間をランダムで入れろって言ったの。全力で走らせてウマ娘の限界を調べろって言ってないの!」

 

たわけた同期の言葉に心からの意見を返せば、

「限界では、ありません!私は、まだまだやれますよ!」

という息も絶え絶えになったサクラバクシンオーの言葉が返ってくる。同じトレーナーとして今回の記録には思うところはあるが、必死こいて拵えた簡易シミュレーターをぶっ壊される可能性を無視することは出来ない。

 

「とにかく全力で走るのであれば私も立ち会うので事前に報告してください」

「分かった」

 

流石に言質もあるし、釘を刺しておけば問題を起こす事もないだろう。このやべぇ同期が同郷でない事実に頭痛が酷くなるのを自覚しながらシミュレーター室を後にする。

アグネスタキオンのトレーナー*1が大人しいからと同期も大丈夫だと思っていた、己の浅はかさに普段保っている大人の仮面を投げ捨てたくなってくる。

 

というかアレだけうるさいとなるとシミュレーター室を増やしたり仕切りを設置したりするべきなのではないだろうか。ぱっと思いつくだけでも4、5人は声が響くウマ娘がいる。いくらトレーナー達が自腹でシミュレーターを寄贈扱いで購入していても他に問題があるなら数が増えても意味が無い。

 

不相応にもシミュレーター周りの管理を任された自分の仕事が積み上がっていく音を耳にした気がして、いよいよ余裕がなくなってきた。

 

「理事長、予算出してくれないかなぁ…」

 

この後チームのブレイン数人と話し合った結果、サクラバクシンオーのデータを盾にして予算をもぎ取ることに成功したのだが、それはまた別の話。

 

 

***

 

 

事前に行ったテストプレイと同様パートナーにイーブイを選び、己の健脚にものを言わせて文字通り一足飛びでフィールドを駆ける。

サクラバクシンオーはプレイ前に博士(宇津木トレーナー)に聞いたガーディの生息地を目指してひた走っていた。

 

道すがら出会ったトレーナーと戦ったり彼女のメガネにかなったポケモンを捕まえたりしながら、抜きん出て強く逞しくなっていく相棒のイーブイと共に山を谷を超えてガーディがいるらしい分布地点までやってきた。

 

「地図の通りだとこの辺りですね!」

「ぶいっ!」

「カーッ!」

 

肩に乗せたイーブイとバクシンオーと共に風を切ってきたアオガラスの鳴き声に満足気に頷いて、ぐるりと周囲を見渡す。大きな道から少し離れた岩場と草原の間に居るとされている図鑑の分布を頼りに移動するが、おかしな事にポケモンの影自体が少ないような気がする。

水辺や木の上、空にポケモンの姿を確認できるくらいのもので、道中よりもポケモンの絶対数が少なくなっているように思われたのだ。

 

「あちらに車がありますね、少しお話を聞いてみましょう!」

 

大通りから外れた整備された車道も無いような所に場違いにもポツンと駐車するトラック。当然何も無いはずが無く。

 

「見られちまったからにはしょうがねぇ!」

「ちょわっ!?」

 

トラックの中から大量のポケモン達の鳴き声がする事に違和感を覚えたバクシンオーは見るからに怪しい姿の男に声をかけたのだが、目と目が合ったらポケモンバトル!の世界で穏便に事が運ぶ訳もなく、思わぬタイミングでのポケモンバトルが開始された。

 

「完勝です!」

「ぶい!」

 

そして5分と待たず鎮圧された。レベルと『てきおうりょく』の暴力であった。

怪しい男が逃げ出さないようイーブイ達に見張りを頼み、110番をすればどれ程もしない内にパトカーの音が聞こえてくる。

 

「ではこの男の身柄は此方で預かります。ご協力ありがとうございました」

「当然です!委員長ですから!」

 

そう言って帰っていくジュンサーさん(桐生院トレーナー似)に胸を張って宣言して見送る。パトカーの姿が見えなくなるまで手を振るが、また一人になったことで目下の問題を思い出した。

 

「私と共に最強を目指す方はいませんか!!?」

 

トラックの中に閉じ込められていたポケモン達が遠巻きに此方を覗いて居たのが見えた為、主にガーディ達がいるであろう方向に向かって声を掛ける。

バクシンオーの大声に驚いたポケモン達は散り散りに逃げていってしまうが、元よりこれは織り込み済みのことであった。

 

サクラバクシンオーのメガネに適うというのは実の所、彼女の大声に怯えない『ずぶとい』ポケモンや『ゆうかん』『のうてんき』などの性格のポケモン達を探す作業のことである。

 

なお、実際は竦んで動けなくなった『ひかえめ』なガーディを口説き落として捕まえる事になるのでなんだかんだ巡り合わせというものは存在しているらしい。

 

 

***

 

 

「ポケモンを使った犯罪ですか!?」

「そうだよ。躾のしやすいガーディや元々気性の荒いポケモン達を密猟して暴れさせて犯罪に使うらしい。どうも組織だって動いてるみたいだと聞いて個人的に調査してたって訳」

 

ポケモンとはバトル要素こそあれど、のんびりのほほんとした触れ合いパークの様なものだと思っていたバクシンオーにとって、割と本気でこの世界で犯罪が横行しているという事実は衝撃であった。

街に戻りジム行脚の旅に戻ったバクシンオーは2つ目のジムを目指す道中、前に出会した男とよく似た衣装を纏った人間が洞窟の中で暴れているのを見かけバトル、勝利した。その際悪い奴らと揉めていた見覚えのある男性(誰かのトレーナー)と共闘し、現在は事情を聞いている最中である。

 

「あいつら自分達の事『ブレイカーズ』とか名乗ってたけど、バクちゃんは何か知らないかい?」

「うーーーーん……すみませんが」

「そうか。いや、そうだよな」

 

サクラバクシンオーがブレイカーズ(仮称)と出会したのはガーディ達をトラックに詰め込んでいたあの男と会ったきりである。いくら頭を悩ませたところで出てくるものなどない。

 

「もしも旅先で何か彼らについて分かったことがあれば教えて欲しい。これ俺の名刺な」

「ちょわ!これはどうもご丁寧に」

 

受け取った名刺には『ウメキ探偵事務所所長イクサブロウ』と書いてある。他にも住所やら電話番号やらと書いてあるが、何よりバクシンオーの目に止まったのはその素材であった。

 

「おぉ…金色の名刺!ฅ(º ロ º ฅ)」

「ふふん、格好いいだろう?もし他にも困ったことがあれば連絡くれれば相談くらいには乗れるはずだ」

 

人が見れば趣味が悪いと言いそうなものだが、この場にはそれをツッコむ人間はおらず話は円滑に進んで行く。悪趣味な金色には不似合いな梅の花のスタンプが妙に浮いた名刺をいそいそと仕舞ってバクシンオーの目指す街の更に先を行くというイクサブロウと相棒だろうドリュウズと呼ばれたポケモンを大手を振って見送る。

 

「ところでイーブイ、私達も迷わないように彼らに着いていく方が良いのでは無いでしょうか?」

「ぶい」

 

そのことに気づいても後の祭りであり、急いで追いかけたところで洞窟の薄暗闇では目も利かず暫く足止めされる事になったのだった。

 

 

***

 

「フルダイブの良いところはこうしてご飯を食べられる事ですね」

「ぶい!」

「がぅ」

「カーッ!」

 

寮や友人達とは違った賑やかな食卓に思わぬ満足感を得て、サクラバクシンオーは隣に座るガーディの背中をさすって時間を過ごす。現在味覚関係のプログラムが不調らしく実際に食べる事はできないが、以前テレビで見たペットカフェのようだとご機嫌なポケモン達の様子を眺める。これがアニマルセラピーかといつになくリラックスしていると、テレビから恐らく『ブレイカーズ』らしき集団についてのニュースが報じられていた。

 

「むぅ…どうにかした方が良いのでしょうか」

 

元の世界ならいざ知らず、ゲームの世界で犯罪者に立ち向かうというのは無い話ではない筈だ。しかし桐生院トレーナー(警察)の様な公的組織が在る以上、子供の自分が関わって良いものだろうか。

わしわしとガーディの毛並みを確かめながらバクシンオーは悩む。正義とは?振り向かない事さ!

 

「お嬢さん、何かお困りかな?」

「あ、トレーナーさん」

「相席しても?」

 

こういう事は頼れる大人に聞くのが一番だろう。納得いかなければその反対が自分のやるべき事だと分かる、とは担当トレーナーの言葉である。

 

「なるほど。話に聞いていたけど君が『ブレイカーズ』の悪行を阻止してくれたというトレーナーだったのか」

「いえ、当然の事をした迄です」

 

委員長ですから。と続ければそのくりっとした鈴目を細めるようにして賞賛の言葉を掛けてくれる。いつものやり取りだが、言葉だけで終わったそれに少しばかり違和感を覚えた。

 

「そういや自己紹介がまだだったね。僕はユウキ。このヴァッサシティのジムリーダーだ。君の名前は?」

「ちょわっ!?あ、えーっとサクラバクシンオー、です」

「よろしく」

 

いつになく歯切れ悪く言葉を返して、目の前のトレーナーがゲームのキャラクターであったことを思い出した。物凄く自然に接してきたせいでいつものように相談をしてしまったが、よく考えたら「お嬢さん」なんて言われた時点で気付くべきだった。そんな普段は言われ慣れていない…いや、割と言われている呼び方とはいえ違和感はあったのだ。距離がいつもより遠いとかスキンシップが少ないとか、色々と。

 

ちなみに美作トレーナーはバクシンオーに脳を焼かれてはいるが、それはそれとして人一倍女の子として扱っていると一部トレーナー達からは有名であった。

 

閑話休題。

 

「お嬢さんもジムチャレンジャーなのだろう?なら僕に勝てたなら十分な力量を示したとして君の保証人になろう。そうすれば気兼ねなく『ブレイカーズ』を鎮圧できる」

「おお!それは助かります!」

 

先程までのしおらしい態度など無かったかの様に元気よく返事をするバクシンオーにユウキは気を良くしたのか店の支払いをして出ていってしまった。今日はジムに居るからという言葉を残して。

 

「うーむ、困りましたねイーブイ」

「ぶい?」

 

バクシンオーは食事処から出た後、ポケモンセンターの待合いでヴァッサジムについて調べ物をしていた。ジムの傾向とギミック、そして何よりジムリーダーのユウキについて。

 

「『水タイプのジムであるヴァッサジム、ジムリーダーユウキ。テレビにラジオに演劇に、その話術と声で人々を魅了する。水も滴るいい男!』と。せっかくですけどガーディはおやすみですね」

 

ポケモンセンターに置いてあったパンフレットに書いてある言葉を読み上げて目を瞑る。眉間に皺が寄るのが分かった。

 

水タイプと戦うとなるとアオガラスとイーブイに頑張ってもらう他無いが、相性有利を取る技は持ち合わせていない。しかも街で聞いた話では彼の手持ちのスターミーは電気技を覚えているという。

それにラジオの収録時であろう彼の紹介用の写真にはスターミーではなく見知らぬポケモンが写っている。全ての情報を揃えて戦うのが最善とは言わないが、やはりくさタイプやでんきタイプのポケモンすら居ないというのは心許ない。

 

「いえ!私達なら大丈夫です!1にバクシン!2にバクシンです!」

「ぶい!」

 

しかし取り敢えず当たって砕けろである。初心者の今は失敗もまた大切な経験。何より相棒がやる気満々な以上、トレーナーであるバクシンオーに彼を止める理由など無い。元より自由に華麗に相棒のイーブイに勝利を掴ませてやる以外の選択肢など存在しないのである。

 

「ではこのわざマシンを使いましょう。イクサブロウさんからいただいた『からげんき』のわざマシンです。たいあたりよりも強力ですよ!」

 

名刺の他に助けた御礼だと渡されたわざマシンを手に取ってイーブイに説明を始める。図鑑で覚えられるかどうかを判断することも可能だが、ポケモンに見せて嫌がられるかどうかでも判別が可能であると聞いたので試してみたくなったのだ。

 

なお、『てきおうりょく』+『威力70の技』+『レベル30』という火力の暴力によってサクラバクシンオーによるイーブイ最強伝説の1ページがまた綴られる事になるのだが、それはまた別のお話。

 

 

「ちょわっ!?イーブイがピンクになってしまいました!!?」

*1
同郷のやべぇ奴




美作 裕貴トレーナー
言わずと知れた担当に脳を焼かれたトレーナーの一人。生まれも育ちもウマ娘世界産の純度の高いヤバい奴であり、出せるか分からないがこの世界の「お兄様」と同じくらい出来た大人である。
1200m×3で3600mだ!という有名なセリフから口が回るタイプと踏んでラジオなんかをやってる設定が完成30分前に生えてきた。

悪の組織『ブレイカーズ』は調教師ことHorseBreakerから。現在BNWのトレーナー3人を幹部にしようと考案中。シンプルに悪い組織。
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