チャンピオンのハルウララが勝負をしかけてきた!! 作:菊池 徳野
今回の登場ウマ娘は
メイショウドトウ
ビワハヤヒデ
他
※ダイスは振ったのですがかなり前なので数字が一致しない為表記は廃止することにしました。
「カァ」
ひとつ、ヤミカラスが鳴いた。特段意味の含まない生理的な鳴き声である。その時の機嫌によって声は高かったり低かったりするけれど。
「クゥーク」
僕や仲間を呼ぶ時彼はこうやって鳴く。心配だったり呼び掛けだったりそのニュアンスは時々によって違うけれど。僕達という群れを率いるボスとしてヤミカラスはよくこうやって鳴くのだ。
「クヮァー!!」
そうやって精一杯の威嚇をする声に頼もしさを感じたのは何時からだったか。そんなキミを追いかけられない僕の惨めさに泣いたのは何時だったろうか。
「悲しすぎますぅ!!!」
「クワァ」
「何で2人が離れ離れにならないといけないんですかぁ!!」
「クワァ」
びゃあびゃあと泣いて綺麗な顔をくちゃくちゃにするドトウの声をBGMにして先程の映画を思い返す。
動物と少年の心温まるストーリーというのは在り来たりな内容だが、ことポケモンというカテゴリにおいてはその限りでは無かった。
如何せんバトルや冒険という非日常的な内容が当たり前の世界観において、動物、もといポケモンというのは愛玩動物ではなく相棒である。
此度の映画では彼らは幼い頃より一緒で苦楽を共にしていた。在り来りなそれを丁寧に描いた其れは感受性の豊かなドトウの様なウマ娘の涙腺を破壊するのに十分な破壊力を持っていた。今彼女を慰めている手持ちのヤミカラスと普段から接しているのも理由の一つだろうが。
かく言う私も少しばかりうるっときてしまった。ポケモン故のバトルアクション要素も十分であったし、ブライアンはあまりこういった作品は好まないだろうが勧めてみるのも悪くないだろう。
「ポケウッド侮りがたしといったところか」
同室のテイエムオペラオーが『銀幕のスタァデビュー』を果たしたのだと楽しげに言っていた時は失礼ながら素人の作品だろうと甘く見ていた物だが、現実、短編で数も少ないとはいえ素人仕事とは思えないクオリティの作品を見せられて考えが変わった。未だ本数は少ないが、これから上映されるであろう彼女の主演作というのも期待して良いかもしれない。
「すみませんハヤヒデさん。騒がしくしてしまって」
「いや気にしないで欲しい、私はこの性格だからな。ドトウのように感情を素直に出す姿を見ると心の整理ができてありがたい。何より映画の感想会というのは良いものだからな」
落ち着いたのか申し訳なさそうにするドトウに構わないと声をかける。
当然言葉にしたことも嘘では無いが、何より普段であれば映画鑑賞の間、チケットが泣いているのを私とタイシンの二人で宥め透かしているの事が多いので騒がしいのは慣れているというのもある。映画をじっくり見られたのだから感想会ぐらい姦しくてもよいだろう、というとものだ。
「しかし、首飾りが光ってドンカラスに進化した時はこれからも共にあるのだと思ったが」
「そうですよね。トレーナーの力不足だからって、離れ離れになっちゃうのは悲しすぎます」
落ち着いたとはいえドトウは未だに映画の内容に引き摺られているらしい。いや、中央トレセンのウマ娘であればトレーナーとの別れという題材は来るものがあって然るべきなのだろう。移籍や卒業など、別れの機会は我々の人生の岐路として多々あるものだから。
私も学園を去っていくウマ娘の背中を見た記憶は生涯忘れられないだろう。
「しかし最後離れ離れになったと言うが、引き取られたドンカラスの公式試合、客席に彼らしき姿があったようだが」
「えぇぇ! 本当ですか!?」
「彼らのその後が語られている裏で流れていたムービーの右側の客席にな。それにドンカラスもトレーナー側ではなく客席に向かって鳴いていたぞ『クゥーク!』と」
「ああぁぁぁぁ、救いはあったのですねぇ!!!」
ひぃんとまた違う種類の涙を流し始めたドトウを宥めつつ彼女の手持ちであるヤミカラスを観察する。
ポケモンはこちらの言葉を理解している節があるが、このヤミカラスからは特に知性を感じる。泣いているドトウへの適切な相槌もそうだが、より明確に言葉を理解している様な雰囲気がある。今もドトウの言葉に返事をしているし、
「くわぁ〜」
「ううぅ、良かったです」
彼、今あくびしなかったか?
まぁ、いい。そういう個性なのだろう。動物全般に舐められているドトウとはいえ手持ちのポケモンから下に見られているなんてことはあるまい。
……ないよな?
「ガァメ」
「む、君も気づいていたか」
「ガメガメ」
「あぁ、他の作品も楽しみだ」
私たちはポケモンの言葉がわかる訳では無いが、ニュアンスとでもいうのだろうかそういう物で会話を成立させている。そしてそのニュアンスが大きく外れることはあまりない。
「しかしこの交流スペースというのはいいものだな。学内SNSでの交流も悪い訳では無いが、直接誰かと話せるというのはまた違った良さを感じるよ」
「そうですねぇ。皆さん思い思いのポケモンさんを連れていますから知らないポケモンさんにも出会えますし」
今も何人か交流スペースのロビーに居るのが見えるが、一人に1匹ポケモンが着いているようだ。あまりにも大きかったりすると連れてこられないので、抱き上げられるサイズのポケモンを連れている者も多い。
……あの卵のようなポケモンは知らないポケモンだな。
「確かにな。とはいえ私が連れているのは最初に貰ったカメックスだから目新しさもないだろうが」
「え? 最初に貰える水タイプはクワッスさんじゃないんですか?」
おや?
「所謂御三家と呼ばれるポケモンはフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメではないのか?」
「えぇ!? ニャオハさん、ホゲータさん、クワッスさんでは?」
あれ?
2人して首を捻り、少しばかりの沈黙が流れる。
「……もしや最初の御三家はランダム性がある?」
「そうなんですか!?」
「確かに言われてみれば皆色んな相棒を選んだのだなぁと思っていたが、最初に貰ったポケモンを相棒に選ぶ人が多くなるはずなのにバラバラなのは不思議だと思っていたんだ」
ポケモンはその姿は愛くるしい物から格好いい物、奇抜な見た目の物と幅広い。当然道中出会ったポケモンに心奪われることもあるだろうが、まだ生徒に広まって日も浅い。
そうなると、考えてみれば共に旅立ったと演出された初めてのポケモンに愛着が湧くウマ娘が多くなるのは至極当然の話だろう。
「ちなみにドトウは誰を選んだんだ?」
「私はニャオハさんです。今はマスカーニャさんですが」
「私はゼニガメだな。今はなみのりも覚えて旅に欠かせない存在になっているよ」
「ガァメ!」
先程まで大人しく話を聞いていた相棒が胸を張って自己主張をする。真面目な性格の彼も褒められる事は嬉しいらしい。
「一度学内SNSの掲示板機能なども見てみた方がいいのだろうな。図鑑登録されていないポケモンの分布なども調べられるらしい」
「それならここの交流スペースでも見えるらしいですよ。普段のプレイだとゲームの間は掲示板への接続はできないんですけど」
「ほう、ならちょうどいい。目ぼしいものが無ければ映画の感想について調べてみようか」
スマホロトムにお願いして目的の掲示板にアクセスすると、トップ画面の注意事項を軽く読み飛ばして注目トピックスに挙がっているスレッドのタイトルに目を通していく。ちらほらと興味を惹かれる内容もあるがこれというものは無い。
『ポケウッド作品の公募疑惑』
『ヤミカラスの進化条件検証スレ』
『ジムリーダー対策と有効なポケモン』
『なつき進化研究所』
『ポケモンの分布と朝昼夜の関係』
『わらしべイベント(?)ポケスロンを駆け抜けろ! について』
『非公式トレーナー”ぼくにんじん君”の闇』
昨日実装されたポケウッドについての話や先程見た映画に関連した話、ポケモンの進化条件などスレッドの内容は多岐にわたるようだが、私が目に付いたのは、
「「なみのりピカチュウ?」」
ドトウと声が重なる。スクロールする画面を一緒に見ていたとはいえどうやら気になる見出しは同じだったらしい。
「ピカチュウってなみのり覚えるんですか?」
「いや、少なくとも私のピカチュウはダメだったと思うが」
「ですよねぇ。ピカチュウはでんきタイプですし」
2人とも頭に疑問符を浮かべながらスレッドを開くと初めの投稿に写真が1枚張り付けられており、そこにはピンクのサーフボードを使って波を乗りこなすピカチュウの姿とそれに引っ張られるように水上スキーを楽しむゴールドシップの姿があった。ポケモンとはいえそんな推力が出るのか……。
「……何をしているんだ」
「わー凄い! 上手ですねぇ」
純粋に驚くドトウには悪いが、つい眉間に手が伸びてしまう。
おそらくスマホロトムに撮ってもらったのだろうがキメた姿が妙に様になっている。あぁ、そういえばタイシンが攻略仲間だと言っていたような気がする。とにかくイベント関係を探すのが好きなのだとか。
「さては他にも色々やっているな?」
そう思ってスレッドを遡るとゴールドシップ発信らしき投稿がいくつか散見された。
光る木の実や虹色の羽、頭を貝に噛まれたヤドンや見た事ない岩のような魚のポケモン、アルファベットによく似た文字の掘られた壁画の写真などなど。明確な答えは書いてないがヒントになるような写真や投稿が沢山あったが、これは流石に意図的なものだろうな。
「冒険を楽しむアナタへ、か」
「素敵なことばですねぇ」
撮った場所や状況なども書かれていたが、どの投稿にもそんな言葉が添えられていた。
「私達も冒険に戻るとしようか」
勝負服ではなくトレーナーとしての衣装を身に纏う間、私達は冒険を楽しむ一人のトレーナーである。
「ではまた。次に会う時はバッジのひとつでも増やしておくとしよう」
「はい! 私ももっと冒険してきます」
相棒をボールに戻して立ち上がり、お互い軽く言葉を交わして交流スペースを後にした。どこかしょもしょもとしていたドトウもとっくにペースを取り戻していたようで安心した。
「夢と冒険とポケットモンスターの世界へ、だな」
仮想現実とは思えないほど作り込まれた世界に身を投じながら思う。やはり食事機能が廃止されたのは残念でならないなぁと。
休憩スペースでデザートでもつつきながらおしゃべり出来れば言う事なしだというフィードバックが多数寄せられるのは少しあとの話。
という事でジムバッジ関係ないポケウッド周りのお話とかこれから出てくるかもしれないウマ娘の設定周りのお話でした。
トレセン内の掲示板ネタって結構ありますけどこういう感じで外から眺める(引用する?)みたいな感じではあんまり見ないですよね。やっぱ情報の正確さ的に使いづらいのかな。