チャンピオンのハルウララが勝負をしかけてきた!! 作:菊池 徳野
今回の登場ウマ娘は
メジロライアン
1に筋肉。2に信念。3、4も筋肉。5に健康。
トレーナー室の壁に貼られた習字紙には荒々しくも書き手の丁寧な性格を感じさせる文字が書かれている。
書き物机の上に置かれたハンドグリップや床に敷かれたヨガマット、もはや使い古されたと言っていい程年季の入った5キロのダンベル。
そう、ここはメジロライアンのトレーナー室である。
メジロ家の関係で交流のあるメジロマックイーンのトレーナーが初めて訪れた際に「男子校の部室の匂いがする」と言わしめたわかりやすい部屋であるが、本格的にライアンのトレーナーをするにあたり清潔感や消臭に気を使った結果最終的に「綺麗なゴリラの檻」という評価に落ち着いている。
その評価に対しメジロライアンのトレーナーは『それもまたメジロ』と返答したという。その話を聞かされたメジロマックイーンはキレた。さもありなん。
さて、そんなフィジカルに特化したようなトレーナー室であるがトレーナー本人は実はそこまで脳筋では無い。いや、鏡に向かってポージングしたり読み物の際にダンベルで腕を鍛えながら読んだりしてはいるのだけれど、なんというか理論的で理性的な男なのだ。
様々な論文からトレーニング(自身とウマ娘両方)を閃き学び実践する柔軟さと地頭の良さを見せ、根性論に理解を示しつつ身体の状態を的確に判断できる観察眼を有する。ライアン限定ではあるがウマ娘のメンタルの状態を一目見ただけで理解する能力もあり、中央トレセンにおいてもトレーナーとしての評価はかなり高い。
実際後輩のトレーナーたちからは慕われており、彼に憧れを持っている者も少なくない。が、飲みの席などで育成論やコツなどを聞いても
「それもまたメジロだからだ」
と核心については言いたくないのか、或いは本心なのかよく分からない事を言う為、サブトレーナーが付くなどの派閥らしいものは存在していない。変人と天才は紙一重なのだろう。
あの人と一番仲良いのアグネスタキオンのトレーナーさんだし、とは後輩達の共通認識である。
そんな筋肉と
「『ねむる』『ねごと』と『あくび』『なまける』のコンボを使えばかわいさコンテストはイケるな。やはりカビゴンの可愛さは元々設定されたものだったか」
それがポケモンコンテストである。自分を磨きウマ娘を磨き、ポケモンの魅力を磨く。それはあまりにも自然で当然の流れであった。
ウマ娘との話題に困らないようにと学園側から用意されたトレーナー用のVRヘッドセットには、よりお手軽にゲームとしてのポケモンを楽しめるようにデータが入れられている。
あくまでもケアやトレーニングの一貫として用意されたウマ娘用のゲーム機器は持ち運びや個室での利用が出来ないようにされているのだが、大人ならいいだろうと判断され開発陣以外のトレーナー達の手元にも渡ったという経緯がある。
勿論理事長は一番最初に手に入れたし、なんだったら物足りなくて自分用にクソ高ゲーム機を理事長室に新しく買おうとしてたづなからお叱りを受けているが、軍配は理事長に上がっている。
それに伴い学生達に回る前の試作グッズなどもトレーナー間では出回っており、グッズ開発の企画案と使用感を求めて様々な物がトレーナーの手元には存在している。
──閑話休題。
そんな訳でストイックな雰囲気の漂っていたトレーナー室には、現在可愛らしくもどこか力強さを感じる試作品のポケモングッズが散見されている。メジロが見たら「あぁ、”ライアン”のトレーナーの部屋だな」と思われること請け合いのプチファンシーさを内包していた。
「む、ポロックが足りてないな。仕方ない」
ポケモンのコンディションをあげるために使用されるポロックは、ゲーム内にあるきのみブレンダーを使用することで作成できるアイテムである。
たくましさやうつくしさなど、5つの項目が上がる対象となっており、元のゲームではタイミングよくボタンを押す事で最大4人まで同時に遊ぶことが出来るミニゲームの結果と入れたきのみの種類によって、ポロックのクオリティや効果が決まっていた。
しかしそれは本来のゲームでの話である。
「五十嵐トレーナー、宇津木トレーナー。今お時間はあるだろうか?」
「榊トレーナー、コンテスト用のポロックですか?」
「可愛さコンテストやってるんでしたっけ。3人でもまぁまぁのポロックは作れるでしょう」
こともあろうにスペックだけは優秀な大人たちが集まった結果、きのみブレンダーは今、トレセン学園の休憩スペースに設置されていた。
「「「レッツ、きのみブレンダー!!!」」」
中央トレセン学園は本日も平和である。
「格闘ジムかぁ」
ある意味当然かもしれないが、メジロライアンのトレーナーはポケットモンスターの作成において、モーションアクターとして関わっていたらしい。
技術方面でも手を貸していたと聞いた時は勝手ながら誇らしく思ったものだが、本人がゲームに登場しているとはポケモンを知らなかった当時は思いもしなかった。
言われてみれば一時期「俺の筋肉を求める声が聞こえた」とか何とか言っていたような気がするが、それで全てが分かるほどライアンはトレーナーの事を理解していない。否、できないでいる。
そんなライアンのトレーナーはポジティブで知的で身体を鍛えるのが好きで、それでいてとてもバカな人である。
「「守秘義務だ!」とか言っていたけどたぶんここだよね」
見るからに和風の道場に、看板にはよく分からないこの世界特有の文字が書かれているが、スマホロトムが翻訳してくれる。
「ここはカンプシュジムロト! 格闘タイプのジムで、武の道を目指すトレーナー達の修行の場でもあるロト」
「ありがとうロトム」
カタカタと腰に下げた手持ちのボールが震える。ジムと聞いてやる気が出たのか、相棒のバシャーモは今日も元気いっぱいである。
バッジホルダーに輝くジムバッジと倒したブレイカーズの幹部の数がライアンとてもち達に自信と勇気をくれていた。
「じゃあ行こっか」
たのもー! と少しテンション高めにドアを開けると、そこには畳を敷いた道場が広がっていた。そしてガランとした道場には予想通り一人の男が胡座をかいて瞑想か何かをしている。
(うちのトレーナーだ……)
見たところ他のジムトレーナーの姿は無く、トレーナーもどうやらライアンの声が聞こえていないのか瞑想を中断する様子は無い。
「あの、すみません。ジムチャレンジに来たんですけど」
「む、すまない。気が付かなかった」
中に入って改めて声をかけると姿勢を気にしない程にすっくと立ち上がり、体感のブレもなくこちらに歩いてくる。いつもならもう少し柔らかい雰囲気を出してくれるのだが、登場人物としてのトレーナーはどうやら武人気質らしくその体格の良さもあり、若干気圧される。
「カンプシュジムのジムリーダー兼道場主のサカキだ。ジムチャレンジを所望するということで間違いないかな?」
「はい、メジロライアンです」
「ウチは基本私との一騎討ちの勝敗をもってジムバッジを渡すことにしている。準備が良ければ早速始めたいと思うがどうだろうか」
見慣れた姿に慣れぬ威容。マックイーンがお茶会で漏らしていた愚痴を思い出して、こういうことかと少し納得する。だがその真剣な目は確かに覚えのあるもので、ライアンからすれば見慣れた以上のものである。
ウマ娘と人、トレーナーと競技者。向く方向こそ同じだが決して競い合うことの無い存在。常々ライアンはトレーナーと一緒に走れたらいいのにと思っていた。別に戦闘狂じみた話ではなく、純粋に同じように走れたら気持ち良いだろうなという諦めに見る夢想の類いである。何かを一緒にできたらいいなと言う稚い乙女心とも言えた。
「はい! よろしくお願いします、サカキトレーナー!」
そして今、違う形とはいえ乗り越える壁として想い人が目の前に現れてくれたのだ。気合いの入り具合も別格である。
「うむ! では裏手のバトルスペースに移動しよう」
屋内戦闘に向かないのか道場から移動するトレーナーの背中を遅れないように追いかける。レースとはまた違った高揚感がライアンの中で鎌首をもたげるが、それとは裏腹に頭はバトルの組み立てを冷静にこなしていた。
「ルールは3vs3、レベル制限は無し。先に相手を倒しきった方の勝ち。異論は?」
「無いです!」
「では始めよう! 行け、カイリキー!」
「やるよ! バシャーモ!」
筋骨隆々、意気揚々。多腕の阿修羅を思わせるポケモンを前にして少しだけ思考を巡らせる。少なくとも見たことの無い、しかし格闘タイプだろうポケモンである。
(大きく戦法を変える必要はないけど、耐えるかな……)
一瞬不安が脳裏を過ぎるが、共に戦ってきた相棒への信頼はその程度の不安では揺るがない。
「じしんだカイリキー!」
「みきり!」
敵のわざを完璧に捌くバシャーモは無傷。一見様子見の行動に見えるがバシャーモの特性は”かそく”。もしもカイリキーがバシャーモより速いとしても、これで次から上を取られることは無い。
「バシャーモ、ビルドアップだよ!」
「なんの! このまま押し通せカイリキー!」
”かそく”で完全に上を取ったバシャーモは、詰み技によってこうかばつぐんのじしんを辛うじて耐えた。隠し持ったオボンのみを食べることで体力は危険域を脱し、安心とは言えないものの生半可な攻撃では倒せなくなった。
「アクロバット!」
もちものが無くなったことで身軽になったバシャーモは本来以上の力をもってカイリキーに襲い掛かる。
膝から崩れ落ちるカイリキーは意識を失っているのか起き上がる様子は無い。
「これでちょっとやそっとじゃバシャーモを倒せないよ、トレーナー!」
「ぬぅ……出てこいチャーレム」
次に出てきたポケモンもまた見たことは無い。しかし直感的にライアンは勝利を確信した。鍛えた身体に詰み技を軸に練り上げられた戦術。
そこには速く、鋭く、鍛え上げた相棒を最強に押し上げる、そんなライアンの描く勝利の方程式があり、自分が歩んできた黄金ルートをなぞる行為であった。
バシャーモがその長い脚を振り上げるとチャーレムも地面に沈んだ。
「やるしかないぞルカリオ!」
勝てると興奮する脳は告げている。しかし冷静な部分は警戒心を露わにしていた。
己の勝負勘というものをライアンは信用している。ウマ娘として、競技者として、その精度は一線を画すと言っていいだろう。仕掛けのタイミング、バ群の隙間、注意すべき相手。そういった勝利を掴むための直感を通して彼女は世界と相対してきた。
だが、ことポケモンバトルにおいて知らぬポケモンの特性やもちものの有無はその勝負勘を鈍らせるには十分であった。
「ブレイズキック!」
バシャーモがトップスピードでその鋭い蹴りを解き放つ。おそらくこの一撃をルカリオは耐えられないだろうと彼女の冷静な部分は告げていた。
鋼に炎はばつぐんでタイプも一致している。当然座学も十全に目を通しているライアンの選択は間違いではなかった。
ただルカリオというポケモンの戦術を知っているトレーナーなら警戒すべき行動があった事だけが彼女の誤算だった。
「ルカリオ、カウンター」
ルカリオはその人気の割に打たれ弱いポケモンである。しかしそれは、明確な居るだけで強いポケモンと違って戦術論を練り上げられたポケモンであるとも言える。弱点も強みも光る物があるということは、時に最良のソレよりも戦闘を有利に進めることがあるのだ。
ルカリオの代名詞とも言えるのが”こらきし型”、こらえるやきあいのタスキという体力を1残して耐える事で後手の一撃で相手を確実に沈める戦法である。
「きあいのタスキ!? でもそれなら……!!」
合わせるように繰り出された掌底の一撃はバシャーモの意識を刈り取るのに十分な様であった。ゆらりと幽鬼のように立ち尽くすルカリオは、受けたダメージの大きさを感じさせず静かに闘志を高めているようだった。
その姿に背筋に冷たいものが走るが、それでもライアンが取り乱すには至らない。どんな戦術にも弱点があり、ライアンのてもちにはその解答があった。
「バシャーモ、戻って! ルガルガン、アクセルロック!」
「ガルゥ!」
倒れたバシャーモをボールに回収して、矢継ぎ早にルガルガンをフィールドに出してわざを叫ぶ。
先制技で1だけ残った体力を削り取る。そこには弱点もレベルの差も関係なくレベル1のコラッタであってもでんこうせっかで勝ちを拾える。
幸運にもてもちのルガルガンは先制技であるアクセルロックを覚えていた。レベルこそ少し心許ないが、何も無ければ間違いなく勝てる対面だったと言えるだろう。
「はやてがえしだ」
ルガルガンがアクセルロックを出すより速く、ルカリオの身体がぶれる。ライアンの視界に入ったのは怯んで技を出せずにその場でたたらを踏むルガルガンの姿であった。
(まずい! とにかく違うわざを……)
「ドレインパンチ」
揺れる。知らない技、相棒が倒れた現状。様々な状況が間違いなくライアンの勝負勘を鈍らせた。倒れるルガルガンへの申し訳なさが胸を占めるが、勝負は待ってはくれない。
出せば強いポケモンこそ居ても無敵のポケモンなど居ないというのに、ライアンの目には相手のルカリオが脅威に見えて仕方がなかった。ルガルガンの体力を吸収し危険域を脱した姿からは闘志のようなものすら感じられた。
勝ち戦が暗礁に乗り上げた。動揺して戦法を崩してしまった。まずい、動揺が喉を締め付ける。だがそれでも前に進む気概を忘れぬことこそメジロである!
「さぁ、お互い最後の1匹だ」
「行って! タイレーツ!」
ポンと飛び出してルカリオに威嚇するように鳴くタイレーツと共に敵のルカリオを睨みつける。相棒のバシャーモには劣るとはいえタイレーツもまた勝負を託すに足るポケモンである。そして何よりライアンの戦術に合致したポケモンであった。
「メガシンカして、はいすいのじんだよ!」
「まだ押していこうルカリオ、ドレインパンチ」
ひと塊になったタイレーツが敵を倒さんと吠える。スピードが乗っていたバシャーモや先制技しか使えなかったレベルの低めのルガルガンではルカリオの速さは掴めなかったが、これで間違いなく射程圏に捉えた。
体力を吸い取るドレインパンチは脅威であるがそれでもタスキを持たないルカリオの耐久力では、大きな一撃の前には焼け石に水。
「勝つよトレーナー、ばかぢから!」
「バレットパンチだ!」
当然最大火力を叩き込む。速さの優劣が分からない為に使ったはいすいのじんにより攻撃力も上がっている。更には速さでも上を取っている以上メガタイレーツの火力を信じて殴り抜く事が、今のライアンに取れる最良の一手だった。
ルカリオの神速の拳がタイレーツを捉える。が、それでタイレーツが止まる筈もなく渾身の一撃がルカリオに届いた。
どおっ、と倒れ込むルカリオの姿を乾いて張り付いた喉を鳴らして食い入るように見つめる。1秒、2秒……起き上がってくる様子は無い。勝ったのだ。
「やった、勝った!」
自分と同じく勝利を噛み締めてフィールドで雄叫びを挙げるタイレーツを労うように撫でてからボールに戻す。レースとは違う高揚感が全身に滾っているのを心地よく感じる。
もしも競い合えたらと思っていた相手との試合だったのもあるが、何より今までの中でもトップレベルの強敵との試合はライアンの闘志を震えさせるに十分だった。
「ぬぅ、負けたか。ここしばらくはジムチャレンジの関門として頑張っていたんだが、若い才能の前では無力なようだ」
「いえ、凄く強かったです。ルカリオもかっこよくて、また戦いたいです!」
「ふふ、それならまた遊びに来るといい。ウチの道場はポケモンバトルの修行もやっているから、門下生の相手をしてやってくれ。私もその時はリーグ戦用のメンバーで相手をしよう」
道場の看板が欲しければその時に差し上げよう。と笑う姿はいつもの気のいいトレーナーと同じであり、要らない看板を取りに来るのも悪くないかもしれないと思う程度にはライアンも気を許していた。
「ではカンプシュジムを破った者の証、オーラバッジを受け取ってくれ」
銀に緑青。そこに格闘イメージだろうオレンジが合わさったルカリオから立ち上った闘気を思わせる意匠だった。
「オーラバッジがあれば巨大な岩で塞がれた道も切り開けるかいりきのわざを扱えるようになる。是非活用してこれからの冒険に役立てて欲しい」
バッジホルダーにしまい込みながら説明を聞く。道中にあった配置に少し違和感のある巨大岩が脳裏をよぎった。次の予定がまたひとつ増えた。
「それとこれは個人的な贈り物だ。これはドレインパンチのわざマシン。決して倒れない不屈の意志を拳に込める、我が道場自慢のわざだ」
「ありがとうございます」
「うむ、ポケモンリーグ本線での君の活躍を期待しているよ」
道場を出てポケモンセンターに寄るライアンは待ち時間の間に図鑑の分布を眺める。
「リオルかぁ……」
メジロライアン。勝負と勝利と鍛錬をこよなく愛するウマ娘。彼女もまた強く可愛いというポケモンの魔力に囚われたウマ娘の一人である。
あぁ、メジロ。これもまたメジロなのだ。
ウマ娘とイメージに合うポケモンって思いつくけど旅パの割にバランス悪いな?とかなってしまって1発目のイメージからちょこっと手直しすることがあります。
榊トレーナー
メジロライアンの担当トレーナー。現地産。
メジロに脳を焼かれている節があるが基本的には真面目なトレーナーである。なにかに熱狂するタイプのトレーナーと仲が良く、おそらくマートレとの会話に100%の理解を示せるトレーナー。
「世界の抑止力に抗う…?なるほど、それもまたメジロだ」