戦闘員(モブ)は安全に暮らしたい 作:Unknown
護衛任務 Part1
俺の名前はミクス。雇われの戦闘員をやってる。
戦闘員といっても概ね皆が想像しているとおり、ただただネームドキャラクターにやられる脇役みたいな存在だ。いや下手したら脇役以下かもしれない。
だって今までネームドキャラクターに勝ってる傭兵とかヘルメットとか見た事ないし。この前だってゲヘナの風紀委員に蹴散らされてたし。まぁそういうわけで戦闘員という雇用兵は金と危険が釣り合っておらず、さらにはネームドキャラクターに蹴散らされて終わるという悲しい存在なのである。もちろん俺も例に漏れずネームドキャラクターにやられるモブでしかない。
そんな俺は今、連邦生徒会の本部であるサンクトゥムタワーの前で立ち尽くしていた。もちろん依頼でだ。
ただここに呼ばれるという事は間違いなく面倒ごとの匂いがする。だから正直こんなとこ来たくなかったし、面倒ごとには関わりたくない。そういうのは主人公ポジの役目だと俺は思っている。
とはいえ、ここで断っては俺の戦闘員としてのプライドが傷つくので渋々来た。という感じだ。
「まっ、プライドって言ってもミジンコみてーなプライドだけれども」
例えばゲヘナの風紀委員長だとか。ミレニアムの武闘派メイドだとか。トリニティの正義実現狂戦士だとか。そういうやべー連中との戦闘の依頼などは間髪入れず断るようにしている。
生憎と自分より格上を相手にするほどプライドが高いわけでも死にたがりなわけでもない。そんな依頼を受けるくらいであれば、街中の猫探しの依頼を受けていた方がよっぽどマシだ。
というわけで今日もいつも通り比較的安全な依頼を受けたつもりだ。ちなみに依頼内容は
一応地図はすでに貰っているし、地図通りのルートであればヘルメット団くらいしかいないため問題はないだろう。それに加え俺以外にも三人の護衛がいるらしく、とても心強い。
「っと、そろそろ時間だな」
腕につけた時計の針が集合時間ピッタリになった事を知らせる。
そして集合時間から一分も経たないうちに、サンクトゥムタワーの入り口から護衛対象と護衛らしき人物達が出てきた。
(おいおい………こりゃすげーメンツだな)
一人目は今回の依頼人、もとい連邦生徒会の七神リン。
二人目はミレニアムサイエンススクールの早瀬ユウカ。
三人目はゲヘナ学園の火宮チナツ。
四人目はトリニティ学園の羽川ハスミ。
五人目は………誰だあれ?
今まで見たことがない人物が護衛三名+一名に囲まれる形でこちらへと歩いてくる。見た事ない人物は俺と同じ男性でその頭の上にはヘイローが
恐らくあれが今回の護衛対象だろう。
(あまり緊張させるのも良くないだろうし。
うーん……ここはフランクに行った方がいいよな?)
そう思った俺は、前から来る四人組へと近づいて声をかけた。
「やーどうもどうも。取り敢えず親睦を深める意味でも握手とかします?」
|先生side|
突如目の前に差し出される右手に困惑しながら、私は目の前の人物を見つめる。高そうな黒のスーツに謎の仮面をつけた人物。声的に性別は私と同じとして、年は大体隣にいるこの子達と同じくらいだろうか?出会い頭に握手を求められたが、この子は一体誰なんだろう……?あっ、そういえば同伴者がもう一人いるって言ってたっけ。
「君が最後の人だよね?よろしく!」
私は差し出された彼の右手を握り返す。
すると、目の前の彼はどこか驚いた様子になった。
「へぇ……驚いた。あんた意外とノリいいんだな。もしかして結構コミュニケーション能力高い系?」
「あはは、高いと言われた事はないんだけどね」
コミュニケーション能力が高いなんて言われた事はないけど、飲み込みの速さだけはどこかで褒められた事がある気がする。まぁコミュニケーション能力もそれなりにあるとは自負しているけれど。
「おっといけない、自己紹介がまだだったよな。俺の名前はミクス、雇われの戦闘員だ。それであんたは?」
「私は……えーっと『先生』で、いいのかな?」
「なんであんたが疑問系なんだよ」
なんでと言われてもさっき就任したのだから仕方がないと思う。
まぁそんな事は目の前の彼は知る由もないので仕方ない。それよりも、ミクスは何かを考えているのか顎に手を当てどこか考えるような素振りをしている。
「どうかしたの?」
「……いや、なんつーか。これが『先生』なのかぁ、と思って」
そこまで感慨深くなる者だろうか?まぁ彼なりにどこか思う場所があったのかもしれない。とはいえ、今は聞く必要がないだろう。
「それじゃあ人数も揃った事だしそろそろ出発しようか」
「そうだな」
目の前の彼は私の提案に頷く。そして私達の一番先頭に立った彼はこちらに振り返ると、
「ま、お互い頑張ろーぜ」
そう励ましとも自分への激励とも取れる言葉を口にした。
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|主人公side |
護衛対象と歩く事数分。なんのトラブルも起こる事なく俺はシャーレの部室付近まで来る事ができた。道中で不良生徒との戦闘もあったが、こちらには特大戦力であるネームドキャラが三人付いているため一人お荷物の俺がいたとしても難なく突破できた。
ただ一つ面倒だった点があるとすれば相手にした不良生徒が、違法JHP弾を使っていた事だ。キヴォトス内で違法なところもあれば違法ではないところもあるというややこしい代物ではあるのだが、あれは当たるとそれなりに痛いし跡が残るのであまり好きではない。死ぬ事はないけど傷跡は残したくないしね。
「いや〜それにしてもやっぱ強いなあんたら。不良生徒達とは戦力が違うね」
「やっぱりって……私たちの事を知ってるの?」
「もちろん」
俺は雇われの戦闘員であるため、雇われ先でいろんな学園の生徒たちを見た事がある。もちろん戦った事なんかはない。俺はただ戦場の隅で自分と同じモブと戦いながら同僚がネームド達に蹴散らされていくのを見ていただけだ。
いやーあれはマジで怖かった。特にゲヘナの風紀委員の空崎ヒナとかいう奴がぶっちぎりでやばい。あれはマジでやり合いたくない部類だ。
だっておかしいだろ。至近距離から弾丸くらってんのに平気なツラして突っ込んで来るんだぜ?怖すぎるだろ。
まぁそういう感じで各校を渡り歩いてきたため、大体有名な奴らの顔と名前は覚えている。もし敵としてあった時に戦いたくないし。
「俺は雇用されればどこにでも行けるからな。有名な奴の名前は知ってるってわけ」
「まぁ確かに雇われの戦闘員ならどこで会ってもおかしくないわね」
目の前のユウカは一人納得したように頷く。しかしその隣に立つ羽川ハスミはどこか思うところがあったのか、顎に手を当て考えに耽っていた。
「あんたはどうかしたのか?」
「……いえ、先程からどこかで見たことがあると思っていましたが思い出しました。あなたは確か、以前ヘルメット団との抗争にいた方ですよね?」
「えっ、覚えられてんの?何それ怖い」
確かに以前ヘルメット団の要請で正義実現委員会とはやり合ったけど、なんで覚えられてるんだよ。別にお前とか委員長とかとやり合ったわけじゃないんだぞ?なんで覚えられてるんだよ。
「あの時、ヘルメット団を拘束する際にあなたには逃げられてしまいましたから。ツルギがとても悔しがっていましたよ」
マジで?勘弁してよ。ちょっと逃げただけじゃん。俺も雇われただけだから捕まりたくなかったし。それにあんたらのトップって追いかけてくる時の顔めっちゃ怖いんだよ。あの顔を見た瞬間、絶対に捕まりたくないと思ったくらいだもんね。
「そういえば、俺が吹き飛ばした後ってどうなったんだ?」
「あぁ、それなら数分後に悔しそうな顔をして帰ってきましたよ」
……マジかよ。俺の切り札を受けて傷なしで帰ってくるとかやばすぎだろ。まぁ確かに死なないように出力を5割くらいまで下げたよ?下げたけど普通の生徒だったら一週間は昏倒するはずだよ?どうなってんのマジで。
「あ、じゃあ傷とかは?」
「見たところは確認できませんでしたが」
「は?」
おかしいだろ。そこまで行ったらもう防御力が高いとかの次元の話じゃねーよ。チートだチート。とっととBANされろ。
「ってかヘルメットって普段こんなに真っ昼間から表通りで銃撃戦やってたっけ?それとも誰かの差金ってやつ?」
俺がそう言うと『先生』の持つ端末から少し離れたところにいる七神リンの姿が映し出される。
『それについてですが、ちょうど今この騒ぎを起こした生徒の正体が判明しました』
「まじで?誰だっ……」
た、と口にしようとした瞬間、背後から近づく殺気を感じとり反射的に前に転がった。俺が元々立っていた場所からは銃弾が地面に当たって跳ね返る音がする。咄嗟に避けなければ当たっていだろう。
「あら?避けられてしまいましたか……」
聞き覚えのある声の出所へと俺は目を向ける。
狐の面に着物のような装束。俺の会いたくない奴リストの中の一人が、高い街灯の上から俺を見下ろしていた。