ブルーアーカイブ二次創作 要塞奔走!ザ・スクランブル・フォートレス! 作:よるめく
『先生、遅くなってごめん』
『頼まれていた件についてだけど、こっちで確認できる限りは問題なかったよ』
『これ以上は直接出向いてみないとわからない』
『でも最近はちょっと予定が空かなくて……』
チヒロからのモモトークを確認し、先生は“大丈夫、忙しいのにごめんね”とメッセージを打ち込んだ。
横からスマホの画面をのぞき込みつつ、ホミカが尋ねてくる。
「どう? ヴェリタスからはなんて?」
「確認してもらった限りでは問題ないって。待ってて、違う生徒にも確認を取ってみる」
チヒロの手が空かないなら、やはりハレだろうか。そう考える先生の腕にしがみつき、ホミカは不安そうな顔を作る。
「うわぁ~~~~~……本当にヴェリタスが問題ないって言うなら……もう何も信じられないよぉ~~~~~~」
「気をしっかり。チヒロが問題ないって言うなら、別のところに問題があるんだよ。一緒に仕事をしたことがあるなら、チヒロの腕はホミカが誰よりもわかってるでしょ?」
「そうだけどぉ……」
泣き言を漏らすホミカを宥めつつ、先生は小さく唸った。
ミレニアムサイエンスハイスクールが誇る天才ハッカー集団ヴェリタス、その副部長が問題ないと太鼓判を押すのだから、そうなのだろう。
先生はスマホを置くと、ホミカが持ってきたノートパソコンに向き直る。
映し出されているのは監視カメラの映像だ。薄暗く、殺風景な倉庫の中を斜め上のアングルから見下ろす形。それがあるタイミングで暗転し、また元に戻る。パッと見、なんの変化もない。詰まれた資材コンテナも変わりないように見える。
「でも、コンテナがいくつか空っぽになっていた、と」
「そう! 高出力のエネルギーモジュールとか最新の特殊合金とか、色々盗まれてたの!」
「う~~~~~~~~~~~む」
相槌なのか自己主張なのかわかりづらい唸り声が割って入る。
顔を上げると、ミコがプリントアウトした髪を何枚か差し出してきた。遺失物のリストだ。
先生は項目のひとつひとつを丁寧に洗う。
「エネルギーモジュール、外板用の合金プレート……ホミカ、この大型フレイムタービンっていうのは?」
「あ、それ? それは火力発電用の燃焼機関だよ。炎をまき散らしながらグァーって回って凄い電力を出すんだけど……危なくってお蔵入りに……」
「火事になりそうな装置だね……」
「そうなの! エンジニア部に何を考えてるんだーって文句言ったらさ、なんて返ってきたと思う!?」
「……ロマン?」
「よくわかったね!? しかもエンジンなのにバカでかいガトリングガンみたいになってるの。おかしくない!?」
いつものエンジニア部だった。
天才たちの輝くような笑顔を思い出しつつ、先生は立ちあがった。
「次は現場を見てみよう。盗難に遭った倉庫まで案内してくれる?」
「う~~~~~~~~~~~む」
ミコが頷き、先導する。
要塞部の部室を出てやってきたのは巨大な倉庫。中に入ると、街にやってきたような気分に陥る。
天井はかなり高く、倉庫の中にさらにたくさんの倉庫が軒を連ねているのだ。
要塞部が保有するコンテナは数が多い。被害にあったコンテナの場所へ行く途中で、巡回警備の生徒に銃を突き付けられた。
「止まれ要塞部! そっちの女は誰だ!」
「う~~~~~~~~~む……シャーレの先生。要塞部のヘルプに来てくれてる」
「シャーレ? ヘルプ?」
物々しい装備を身に着けた生徒は唇をひん曲げ、吐き捨てるように言った。
「ふん、天下の要塞部も落ちたものだな。盗難を許した挙句、外部に頼らないといけないとは」
「……う~~~む……」
言い返せないのか、気まずそうに目を逸らすミコ。
先生は彼女をかばうように立つと、巡回警備の生徒に問う。
「事件については、君も知ってるの?」
「それはそうだ。そっちのセキュリティ担当が大騒ぎをしていたからな。周辺の調査にも駆り出された!」
「なら……」
先生は巡回警備の生徒に近づくと、ミコからもらったプリントの一部を指し示す。
そこには、倉庫の品が盗まれたと考えられる日付と時刻が記載されていた。
「この時間、この辺を巡回していた生徒もいる……ってこと?」
「もちろんだ。ちょうどその時間通りがかった生徒も聴取に応じた。だが、彼女たちは変わったことはないと言っていたし、事実巡回の時に持ち歩いているカメラにも不審なものは何も映っていなかった」
「その映像、私も見られる?」
「は? み、見せられるわけないだろう! 巡回警備委員会の記録を部外者になんて!」
「いえ、見せてあげなさいな」
たおやかな声が話に割り込む。
やってきたのは、軍服とドレスを合体させたような制服を着た、優雅な雰囲気の女子生徒である。
警備の生徒だけでなく、ミコたちも思わず背筋を伸ばす。先生はその様子から、割って入って来た生徒の立場にアタリをつけた。
新顔の生徒はコツコツとヒールを鳴らしながら先生に近づき、一礼をする。
「お初にお目にかかるわね。わたくしは
「い、委員長……! どうしてこちらに」
「ここは任せてくれていいわ、あなたは仕事に戻って」
「は、はい!」
警備の生徒は蜘蛛の子を散らすようにして立ち去っていく。
先生はその様を横目で見送り、エナを見つめる。
「初めまして、エナ。ヘッドクォーターというと、ウォータイムの生徒会だよね」
「ええ。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません。シャーレの先生がこちらに来ると聞いて、真っ先にここへお出でになると思っておりました。どうやら、良いタイミングだったようで」
エナは閉じていた目を薄く開け、ミコたちに視線を投げた。
要塞部の面々は肩を縮め、緊張した様子で立ち竦む。さりとてエナは何を言うこともなく、先生に視線を戻した。
「ウォータイムを代表して、我々はシャーレに全面的な捜査協力をお約束します。恥の上塗りではありますが、是非とも解決して頂ければ、と」
「恥の上塗り、っていうのは?」
「物資の盗難を許したことが一恥、賊を捕らえられないことで二恥。あなたに頭を下げることで三恥目です。そうでしょう、要塞部の皆さま方?」
要塞部の三人は気まずそうに目を逸らす。反論すらできないらしい。
エナは呆れて溜め息を吐く。
「嘆かわしいですね。ウォータイムの守りの要がこの体たらく。やはり、要塞部は解体すべきでしょうか」
「待って。解体するのはまだ早いんじゃない? 盗まれたた物資を取り返せば……」
「いいえ、先生。それだけが問題ではないのです。……いえ、あなたに言っても詮の無い話でしたね」
エナは隔たりを感じさせる口調で言うと、懐から取り出したメモ帳に何やら走り書きをし、ページを切って手渡してきた。
何かの暗号が書かれていて、先生には内容が読み取れない。
「後で、巡回警備委員会の本部でそれを見せると良いでしょう。必要とする情報を得られるはずです」
「ありがとう。助かるよ」
「助かっているのはこちらも同じですから」
先生の隣を通り過ぎたエナが、今度はミコの前に立つ。
ミコはおどおどと目を泳がせた。
エナには気品というか、他者を圧倒するような息苦しいオーラがある。物腰こそ柔らかいが、人を畏怖させるオーラだ。ミコたちはそれに気圧されていた。
「わかっていると思いますが、期日は残り五日です。先代や存在意義に顔向けできないようなことを繰り返すのであれば、要塞部はもはや不要と断じます。いいですね」
「う、うむ……」
ミコは後輩ふたりを庇うようにして、なんとか頷く。その姿はエナと比べるととても小さく見えて、いかにも頼りなかった。
鼻から息を吐き、エナは先生に一礼して去っていく。その後ろ姿が見えなくなり、硬く響く足音が聞こえなくなるまで、要塞部の三人は肩肘を張っていた。
靴音の反響さえ消えて、ようやくウリアが胸を撫で下ろす。
「ふいぃ~……相変わらずコワいな~……」
「う~~~~~~~~む……」
「三人は、エナのこと苦手?」
「先生こそ、よく会長に凄まれて平気ですよね」
「先生だからね」
疲れた顔のホミカに冗談めかして肩を竦めて見せると、要塞部の緊張も和らいだようだった。
先生はエナの去った方を見やる。気になることは色々あるが、ひとまず最初の目的を達成してしまうのがいいだろう。
「それじゃあ、倉庫の中、案内してくれる?」