一応ストーリー的には第2編に突入。
そろそろ君主になっといた方が都合がいいような気もしますよね
深い深い、夜の底。会議が行われるには似つかわしくない、更けた夜に、しかし彼女たちは集まっていた。
会談の名を後世に問うならば、『モーグウィン会議』……後に伝説と語り継がれ、その内容故に実際に行われたかすらも怪しまれるような、エデン条約締結における重要なターニングポイントである。
しかし、それは確かに実際に執り行われ、そして今なお継がれる歴史であった。
円卓に席を置く、いくつかの少女たちと、ふたつ空いた席。
「皆様におかれましては、お集まりいただき、ありがとうございます」
まず、ティーパーティー、桐藤ナギサが礼をして会の始まりを告げる。
卓を囲むのは、正義実現委員会より剣先ツルギ、その補佐として羽川ハスミ。シスターフッドより歌住サクラコ。そして、卓は残り二人、招かねばならぬ者があると言わんばかりに2席空いていた。
「新たなる道筋、新たなる方策を以て、私たちトリニティ総合学園はより積極的な行動と組織運営をするべきである。古くより、我々はそういったご意見と、旧来の学内における伝統を照らして、学園運営を続けてまいりました」
ナギサが述べる一言一言が、トリニティという学園を構成する派閥の主たちの耳に届く。
「お集まりいただいた理由は、他でもない先日の一件ですが……それを話す前に、お話したいことが2点」
その言葉が合図だったのだろう、扉が開き、二人の女がそこに姿を現した。
「皆様、お久しぶりですね」
「蒼森ミネ……!」
「無事だったのですね……何よりです」
ひとりは、救護騎士団団長、蒼森ミネ。そしてもうひとりは当然、彼女と同時に姿を消した『あの人』……誰もがそう思っていた。しかし、現れたのは皆の予想を遥かに上回る……いや、あるいは予想していたが有り得ないと排除した存在。
知っていたミネは言葉を発さず、呼び出したナギサは語ることなく。絶句する室内で、最初に声を出せたのはサクラコだった。
「なぜ、あなたがここにいるのですか。……朝君、アミさん」
「ご挨拶ですね、サクラコさん……『私もあなたたち側』ですから、それ以上の説明が要りますか?」
朝君アミ。血炎教団教祖。そこにいた全員がその姿に驚きを隠しえなかった。
普段の魔王のような装いはなく、黒と赤の改造制服に身を包み、頭上には紅い宝石の映える小さな冠を戴き、その場ではサクラコの他見たことの無い、大きな大きな黒翼を広げるその姿は、今までの彼女とはまるで異なる。
ミネが円卓に用意されていた空席でも末席に近いツルギの隣に着席し、アミはそこにセイアか、あるいはミカが収まるだろうと予想されていたナギサの隣の空席に悠然と座った。
「……なんだと?」
「そこは、セイア様の……」
「私が、彼女の代理ですので」
解き放たれたその言葉に僅かな剣呑な空気とどよめきを起こした円卓を、ナギサは挙手ひとつで沈めた。紅茶で唇を湿らせ、口を開く。
「……みなさん、思うところがあるかと思いますが、まずはひとつめ。アミさんについて、お話をさせてください」
話は随分前まで遡る。
蒼森ミネはトリニティ外縁からの脱出、次なる地……D.U.を経由した他自治区への移動を計画していた。もちろん、彼女単身であれば計画するにも及ばぬことではあるが、事は大きい……それはもちろん。
「ミネ、君には負担をかけている。すまない……」
「いえ。これも私の、救護騎士団団長としての務めです」
「そう言ってくれると頼もしいね……君だけが今の私の頼りだ」
百合園セイア。ティーパーティーホスト、表向き入院ということになっていて、裏でも死者であり……つまり、存在していないはずの彼女もまた、そこに居たのである。
ミネの役割は、ヨハネ分派だけに伝わってきたティーパーティーの保護施設を利用して彼女を回復させることにあった。
「……セイア様。我々はこれから、ミレニアムに向かいましょう」
「亡命、という訳だね。いいんじゃないか?」
「偽の名義などの手配を進めています。完了次第……」
ミネの言葉が、遮られる。ミネは強い。救護騎士団の団長が現れれば怪我人が増える、とはよく言ったものである。それにトリニティにはこんな格言もある……『団長が壊し、団員が治す』と。
そんな彼女の、直感が告げた。『なにか』がいる、と。
「どうしたんだい?」
「お静かに……ここをついに嗅ぎ付けられましたか……?」
「なんだって? ……まずいね」
それは迷いなくヨハネ分派の上層にいるミネしか知らぬ道を通り、こちらに近付いてくる。それが、扉の前に立つ音が、迎撃せんとしたミネの耳に届き……
「はぁっ!!」
「はぎゅっっっっっ!!?」
「……? ……あ、朝君さん……?」
ミネはあっさりと扉を蹴破った衝撃だけで扉の前に立っていたひとりの教祖を吹き飛ばしたのであった。
「大丈夫なのか、ミネ……ふくっ、ははは!!アミじゃないか!」
「がふっ……痛い……とても痛い。祝福された服着てないので本当に痛い」
「あは、ははは! 君ともあろうものが珍しい! ミネがいるならこうなることくらい……ひぃーっ! ははははは!!」
「……その、本当に申し訳ありません」
奥から声を聞き付けてのっそりとセイアが歩み出て、腹部を抑える教祖……アミの姿に笑いでとはいえ腹を抱えることになったセイアは、気を取り直してとばかりミネ同伴の元朝君アミとの会談に望んでいた。
「セイアさん、笑いすぎですよ。あの時の言葉通り頑張ってきたんですから」
「私視点では『予想図』の通りに進んだが君は?」
「いいえ。襲撃に来たアリウスの80パーセント以上はこちらで撃破出来ました。『未来予想図』の想定する未来とは異なる方向に進んでいます」
「そうか……そうか! 変えられたか! 私と君の予想は正しかったのか! なによりだ……!」
その言葉にミネは首を傾げた。未来予想図。剣呑な響きであった。
「すみません。よろしいですか?」
「……あぁ、未来予想図についてかい?」
「そうです。それではまるで、こうなることを予想されていたかのようですが」
「事実として、こうなるということを私は私の力で視認出来ていた……ただ、そこにはひとつ、おかしな点があってね」
セイアはそう言って笑った。かつて、とある少女が襲撃にやってくる、その少し前に行った会談でアミにそうして見せたように。あるいは、初めて2人が出会ったトリニティ生活の始まる前の会話のように。
「私の夢に、朝君アミの姿は1度も現れなかった。であれば、アミとはなんなんだ、というところでね!」
そう言うセイアは、少しばかり嬉しそうだった。ミネがその理由を問おうとすると、セイアは分かっているよ、とばかりにミネを静止して。
「いいかい? 私の力……仮に『観測』とするが、これはこの世界の未来を観測する力……だと思っていたんだ。見た未来を変えることは出来なかったからね。そして、私の観測する未来は最終的には常に『ボロボロになったトリニティと白いコートの生徒たち』の構図を映し出す。様々な生徒が地に伏して、ヘイローを失っている。そんな世界だ」
「それは……凄惨な……」
「だが、その夢において、登場しない人物がいた……それこそが、アミだ」
アミはこほん、と咳払いをして、口を開いた。
「その情報は即座に私に共有されましてね。私とセイア様はひとつの仮説を立てました。それは、未来は変えられない、という前提の破壊。私が世界にとって特殊な存在なのではないか、という疑念……その検証。新たな勢力の存在、それが私の手によるものならば、未来は改変されるかもしれない……あるいは、セイア様が観測している未来は『私がいない』か『私が何もしなかった世界』のもの……そういったふうに考えました」
「私たちはこれを『2年半ほど前に説として考えた』んだ」
ミネは少し考えて、それから顔を青ざめさせた。
「おや、ミネは気付いたようだよ? 君の『
「はは……手厳しい。さて、ミネさん。なにかお気づきのようですが……なにをお気づきになられたので?」
「トリニティの入学前には既にこのことをアミさんは知って……まさか、まさか! あなたは……そのために?」
ミネは青ざめさせた顔を、むしろ赤くしながらその推論を口に出した。
「あなたは、セイア様の説を立証するために『血炎教団』という組織を創った、というのですか!?」
アミはその顔を、悪魔のように歪めて笑った。
「えぇ、そうですよ。半分くらいは、ですけど。もう半分は事故です……シスターフッドの子達を少し拝借して、一般生徒を巻き込んである程度の大きさを確保する、ってつもりだったんですが……ある日、『神様』を見てしまいまして」
「アレは予想外だったね……血の神、とやらを見たアミは発狂してね。一年後くらいにあっさりシスターフッドを辞して教団を作った。実際に『神』とやらの与える恩恵もあったようで、教団はシスターフッドを信じることが出来ない人間の最後の砦になっていたようだったのが面白かったな」
「悪徳なマルチより早いスピードで信者が増えましたからね。みなさんやっぱり微妙にシスターフッドを心の拠り所にはしづらいのでしょうか」
セイアとアミはさも当たり前のように語るが、ミネは正気でいられそうに無かった。あのカルト教団が、神以外の目的も多分に含んで設立された、などとは思うまい。
「『神様』には感謝してますし、私の愛も身も全てを捧げていますけれど、過去の約束を無下にはできませんしね……」
そう語るアミ。最初に『組織を作る』という目的があって、そこに新たな神の似姿が紛れ込み、かくしてカルト教団ができ上がったのだというその真実に、ミネは半ば卒倒しかけていた。
「本当ならば、あなたを救護した方が良いのかもしれませんが……場合が場合です。また次の良い機会に救護致しますので……ひとまず、プランニングを」
「根回しは済んでます。まず、セイアさんを表に出すわけに行かないので、セイアさんはこっそりとサンクトゥスの統括の指示を私宛に出して、私がそっち向きに動きましょう。セイアさんは病状の安定、ミネさんはティーパーティーからの依頼で調査を行っていた、ということにするようですが、上層部では」
「真実を、というわけだね。うん。分かった……アリウスに対する作戦は?」
「行って右ストレート。真面目な話、マーキングしておけばいつでも最悪は防げます」
このド脳筋が。セイアは今まで作りあげたキャラらしくもない率直な暴言を呟いてから、ミネに振り返った。そしてコイツも脳筋だったな、などと一瞬失礼なことを考えてしまい、ミネに謝罪代わりに質問の有無を尋ねる。
「なにか質問は?」
「そうですね……気になっていましたが、おふたりは、いったいどのような関係で?」
「まあ、強いて言うなら初等部からの友と言うべきかな?」
質問……二人の関係性について、という問いに対してセイアが答えるのをアミはにこやかに笑いながら否定して、続けた。
「セイアさん、我々の関係性にその言葉は不足です。どんなに取り繕おうが我々の関係性は『腐れ縁』以上のものじゃないでしょう」
「……まあ、それもそうか。使者を出して呼び付けた時綺麗な他人行儀しやがってとちょっと思ったし、どう足掻いても我々は腐れ縁……単純な旧友と呼ぶにはモノが多すぎるな」
ほんと理屈っぽいですよねぇ、とミネに笑ってみせるアミに、ミネは苦笑を浮かべざるを得なかったのである。
時は戻る。そんなわけで、ミネと、今はサンクトゥス派の方の統括として再度の引き継ぎを行うためにサンクトゥス派を離れられず、表向きまだ入院兼裏向きまだ死亡のため欠席となったセイアの代理としてのアミがそこに居たのである。
「……とまあ、そんなわけで。ハナから、というかトリニティの地獄の3年間の始まる前から私とセイアさんはグルオブザグル、グルッグルのグルなわけです。今回の私は、ティーパーティーホスト、サンクトゥス派代表、百合園セイアの代理ということになります」
「なんと、いうか……必要なこととはいえ、我々の心労はなんだったのでしょうか。どうかご相談いただきたかったのですが」
「あぁえぇと……最初は次期のシスターフッドのリーダー……当時から有力候補でしたサクラコさんとご相談の上表向き対立しつつ裏で協調してシスターフッドの反リーダー派を引き連れて独立、を考えてたんですけど神様を崇め出したので。その節はご迷惑を……悪いとは思ってないですが」
心理的な辛さをかかえていた分の苦言を呈したサクラコは、反撃の爆弾に吹き飛びかけるが持ちこたえ。
「……ティーパーティーの百合園セイアの代理としてなら、あなたを選ぶ必要が無いはずですが」
「サンクトゥスの人間を出すより、私の方がサンクトゥスに詳しく、かつこれからの話もできる、ということでしょう。建設的ではあります。感情の無視具合は著しいですが」
「全くです。……控えめに言って、異教の教祖をこの場に呼ぶなど正気の沙汰ではありません」
ハスミが全くもってその通りな正論を述べるとセイアの思慮だとして身をかわす。
さすがにトリニティの、1組織を統括する人間として多少「話」は出来るようだった……これに関しては、確かめるまでもないことであるが。
「さて、役者が出揃いましたので……ナギサ様。ここからは私が引き継いでも?」
「無論です。今回のお話はここからが本番なのですから。ミネさんをどうにか連れ戻せないか頑張ったのも、それが主要因です……セイアさんまで共にあるとは予想外でしたが」
本番、とまで言われると気になる。セイアとミネの帰還、血炎教団の起こりの由来。それらが詳らかに明かされてなお、これらは本題ではないというのか。
集まった者たちの視線を一身に受けながらも、一切を気にすることなく立ち上がったアミは、その身を庭園の方に進め、一同を視界内に納めた。
「本題。そう、本題です。来る、エデン条約調印の日」
アミはそう口火を切り、そして口角を吊り上げて笑った。
全員が固唾を呑む中で、アミはその背の黒い翼を広げ、高らかに謳う。
「百合園セイアの観測した全ての世界線において、トリニティが壊滅する未来が観測されている。我々が、例外とは思えない……滅びを、防ぎ止める。あるいは、事前に滅びを滅ぼす。トリニティ全てが手を取り合う必要があります」
全員を確かな視線でなぞったアミは、宣言した。
「我々……『血炎教団』もその構図の一翼として参画する。セイア様曰く、古きトリニティには、『血』と『贖罪』を絡めた信仰の一派があったとか。名を『モーグ派』というそうです」
サクラコがまた反応を返す。
「モーグ派……彼女らもまた、異端と認められ、ユスティナ聖徒会の元本来の信仰に帰依したものたちですね」
「我ら『血炎教団』は、表向き『モーグ派の後継』として『モーグウィン派』を名乗り、私はサンクトゥスの代表代理兼教団の裏方のブレインとして動くつもりです。教団の表側の統括は既に決定済みですが、意思決定は暫くは私が行います」
「……なん、て?」
「お前……組織をひとつどころか、ふたつ抱えるつもりか。自滅する……と言いたいが、お前のことだ。やってしまうのだろうな?」
「つまり、これで私もそちら側です、ということです。ツルギさんの心配も分かりますけれど……お任せを。さて、どうします?」
にこやかに、されどやはり悪魔のように。
これまでの暗躍、言葉。それら全てを使い、ついにトリニティ中枢に確かな存在意義を撃ち込んだアミは、己を取り込まねば最早どうにもならんぞ、と遠回しに、なれど限りなく直線的に、円卓に選択を突きつける。
『血の教祖』、と名乗り続けた少女が、『血の君主』として明確に後世に伝えられる理由たる、彼女の立場なき戴冠は、この夜に行われていたのである。
・『朝君アミ(第2編)』
第一回のニーヒルをしたことで獲得した翼は自由に出し入れできるようになり、威圧感が向上した。セイアとは旧友であった事が明らかになり、今までの全てはセイアの予知した未来図の改変のために行われていた。
それはそれとして血炎信仰はガチでやってる。シスターフッドを多少割ってくるつもりが弱者救済組織になるのは予想外、とはセイアのぼやき。だがその予想外が欲しいのでは?とアミには言われるだろう。
手段と目的が合致してるからセイアもそんなに止められないのがタチの悪いポイント。やけに発言に政治的意図が含まれるものが多いのはハナから宗教と政治が密接であるから、とかではなくセイアの予知した未来図の塗り替えを行うために政治に参画できる能力を示す必要があったから。
セイアの新たな自室を擬似的な『血の閨』のような状態にして隔離し、アリウスの襲撃を阻止するプランなどいくつかセイアを今帰還させてアリウスに持っていかせないプランニングを考えており、いくつかは実行済み。だがそもそもアリウスの主戦力の大半を彼女が撃破している関係で、どう考えても杞憂でしかない。
なお、実は適当に逃がしたアリウス生に消えぬ傷跡という形のマーキングをしているためアミはいつでもアリウスに侵入できる。行って右ストレート、の真意。
教団の長の座をとある人物に譲り渡している。今はサンクトゥス派の表の統括を代理で行う少女の裏からセイアの意思を伝える傍ら、教団の政治的な動きに関する助言を行うなど、セイアの描いた図を自分なりに解釈した上で引っ掻き回すことで(セイアですらイレギュラーにはなり得ない、セイアが動いたことで未来が変わることは無いという推定がふたりにはある)未来図を改変するという方向に行動をシフトさせた。