先生が首を崩れかけに繋いだ、その瞬間。変わる、摂理が。世界が。
大いに歪む、今までの歴史が。
この世界にあるわけもない、エルデンリングの胎動。
かつて、エルデンリングとはただひとつ、獣であった。獣が輪となり、世界を統べる証となったものこそがエルデンリング。
かつてそれを打ち倒したものがあった故にそれはエルデンリングであり、誰もその獣をこの世界で打ち倒していないのであれば。
「大いなる王の巫女たる我が望む! 王たるもののため、獣に見えんことを!!」
アミが高らかに叫んだ瞬間、ひゅんっと崩れかけの身体から一本の光の弧が飛ぶ。それはアミの天に掲げた両腕にまとわりつき、アミの身体を天へ持ち上げた。
「……アミ!!」
「あとは、お任せを……!」
光が解き放たれ、先生たちが眩しさに目を閉じ。
目を開けた頃には、そこにはなにもなかったのである。
宇宙のような、空間が広がっている。美しいようで、おぞましいその世界は、すなわち獣の泳ぐ海だ。
『…………!!』
音のない咆哮を、なれど何よりも雄弁に轟かせる、その身に宇宙を内包したような『ソレ』。
「……ハッキリ言って、相性最悪なのですが。負けるわけにはいきません……さあ、本気の殺し合いといきましょうか、『エルデの獣』!!」
初手は、獣が解き放つ黄金の炎から始まった。空へ飛び立つアミ、それを身と同じ宇宙から作り出したような巨大剣で追う獣。
『……!』
「はぁっ!!」
すり抜けざま、聖槍が獣の身を抉る。獣は悶えるさますら見せず、宙を泳ぎながらその身から無数の光条を解き放つ。
「くぅぅぅっ……!」
うち1発が翼をかすめる、それだけでも激烈なダメージを与えられたアミは地に戻り……地を睥睨する獣は、大きく吼えた。
「……!!」
宇宙の中に築かれた足場に描かれた、エルデンリングの紋様。迫り来る光輪。収束する3重の輪が全部縮まったときどうなるかなど、容易く分かる事だ。
外側へ身をかわしながら陣の外へと逃げ出す。もちろん最後のひとつが縮まった瞬間凄まじい爆発が起きたのを見て、アミはそれでもと槍を取り直した。
「なるほど、『神』か……」
当たり前だが、エルデの獣に血は流れていない。出血という状態異常はかの神にとって起こり得ない概念だった。
故に、相性最悪。本来のアミには、勝つことの出来ない敵。それに加えて、獣は老獪で、狡猾だった。
アミがそれに気付いたのは、少し経ってから。
「はぁ……嫌になりますね! 死ぬまで嬲り殺しにしてやるってことですか!」
彼女が飛ばないと見るや、エルデの獣はその身を天へ、その上へと浮かべ、光条、光輪、ブレスを繰り返し地に叩きつけるようになったのである。己が最も有利である戦場はこれなのだと理解していたから、獣はそれを続けるのである。
「……エルデの害獣……!」
思わず口からこぼれる罵倒、一度だけ反撃に浴びせた血飛沫と蝿は、以降エルデの獣がさらに高度を上げたことで届かなくなってしまった。
背の翼の片方は光に貫かれ、焼けてしまっている。風を掴むのも今のままでは難しかろう。
「だから、なんだって言うんですか……耐える、生き残る、勝つ……どうにか、手段を探せ朝君アミ! なにか、なにかないんですか……!」
方策を求める彼女に、されど世界は無情だ。この世界は、すでに青春の世界ではない。この空間はもはやエルデの地。無情と絶望の支配する、死を前提とした地になんの希望があるだろうか?
奪われる体力と集中力。ついに、彼女の身に避けられえぬ死が光輪という形で迫った、その瞬間である。
「不器用なことよ」
「……なにが起きた? ……ッ!!」
光輪を弾き飛ばした、大きな影の背を、アミは見た。
それは、同じ槍を握り締めていた。それは、同じ司祭服を身にまとっていた。それは、されど醜く忌まれる角を有していた。
「お前を、見ていた。ずっと、ずっと。お前の中から。時は満ちた。この世界なら我の現界も叶う」
「まさか……あなたは、私のこの力の大元……?」
「相違ない。我こそは『血の君主、モーグ』。血濡れ、先へ向かう不器用な者には愛着も湧こう……もはや、我が夢はあの褪せ人のために叶うことは無い。狂うほど愛したミケラももう居らぬ」
モーグ、と名乗ったその忌み鬼は、悠然と宙に浮かぶ獣の光条を槍で弾きながらこう謳う。
「同じ神を見た同胞よ。なぜ貴様は頼ろうとしない?」
「ここに人を呼ぶ方策はありません、呼べたとしてもアレに対する解法は……!」
「あるではないか」
モーグは、アミの視線が己に止まったことを確認して、頷いた。
「然り。我こそが、『手段』だ。血の指を作り、他世界への侵入などという事柄をやり遂げたのを誰だと思うておるか。この血の君主モーグが、その者だというのに!」
「なにをすればいいのです? モーグさん」
「ふむ……我と対等か。良い。間違っていない。ここで遜られても困っていた……お前には時間を稼いでもらう。我を少しだけで良い、集中させろ。光輪は弾き飛ばせる。……やってみせろ」
モーグの言葉に、アミは無言で前に飛び出す。幾発もの光を受け流し、ブレスを両断し、光輪は……
「ようは、神の力には神の力で対抗する! 反発する磁石のように!!」
血の神の力を祈祷で槍にエンチャント、神と神で釣り合う力をさらに神秘で増幅する。
「できるもんですねぇ……! モーグさん! 準備は!?」
「誰にものを言うか。あとは貴様が来れば終わりだ」
「りょーかいですっ!!」
アミのバックステップ、セッティングされた簡易な儀式場の中央にアミがいることで、アミの世界の情報を簡易な儀式が読み解いていく。
「扉は開いた。ここに来る前の元いた位置にサインが出現している。あとは、気づけるかどうかだが……」
瞬間。そこに、光が差し込んだ。
「……なんと、驚いた。良き友を持っているではないか」
「……はい。私も、そう思います」
光の中から姿を現したのは3人。だが、3人で十分すぎるとアミは笑った。
「アミ。……ようやく、私たちを頼ってくれるか」
「ごめんなさい、姉さん。やっと、頼れました」
アミのために馳せ参じた、ツルギ。
「私それよりも今ツルギちゃんとアミちゃんの関係が気になるかなぁー!!?」
「ミカさん……来てくれたのですね」
「……私をあれだけボコボコにしといて、こんなところで負けました、もう帰れませんとか。認められるわけないじゃんね?」
アミが負けることだけは認められなかった、ミカ。
「あなたのこと、放ってはおけないわ。あなたがここで死ぬとかになったら誰がゲヘナに布教に来るバカを止めるというのかしら」
「……そんな無差別に布教は……いや、するんでしょうねぇ」
「事実してるのよ。もうちょっと考えて欲しいわ……あと、さすがに私も友達を失うのは惜しい気持ちはあるの」
「ヒナさんは可愛いですね……」
建前と本音を順に話しながらも、微笑んでみせるヒナ。
さあて、とアミは笑った。起きた現象に様子見をしていた獣は、やっと攻撃態勢に入ろうとしていた。
「まずは害獣を地面に叩き落とすところからです……なんかヒーローの第2形態は待ってくれるタイプだったんですねアイツ! やっとハエたたきもマシンガンも手に入ったんですし、頑張って見ましょうか!!」
「もしかして私の事ハエたたき呼ばわりした!?」
「ほら隕石落とす! あなたの役目はそれですよ!」
「人遣いが荒いなぁ!! 『星の呼び声』……めっちゃ聞こえる! アミちゃんここめっちゃ星の声うるさぁい!!」
「片っ端からアイツにぶつけるんですよ!!」
ワイワイとふたりがやり取りしながらも、起きた事象は天変地異だ。宇宙空間のようなこの空間において、ミカの星呼びは絶大な効果を発揮する。
「……我の見間違いか? あれら遍く、全て隕石、とな?」
「……ちょっと、呼びすぎたかも☆」
「貴様実は暗黒の落とし子の幼体とかではなかろうな? おい我が同胞よ、外れた隕石を獣に向かって弾くぞ」
「んなことできるかぁ!? モーグさん実はめちゃくちゃ脳筋じゃないですか? ねぇ!」
できた。やればできるもんだな、とアミは思い、モーグはやっぱりできるではないか、と頷き、残りのメンツはドン引きした。
とにかく、上からと下からという奇妙な隕石弾幕に獣は大きく身悶えし、そして。
「……さっさと落ちろ!」
ヒナの正確無比なしゃがみから天に解き放たれる3射。マシンガンなのにも関わらずなぜか紫の単発として解き放たれたそれは、獣の体を3度貫いた。
絶叫。そう思うほどに、声のない、だが響き渡る音が轟き、ついに獣は地に落ちた。瞬間、飛び出すふたつの影。
「姉さん!」
「任せろ……!」
ドパンッ!! とショットガンの音が響き、同じ位置にアミの聖槍が突き立ったのち切り開くように振り払われる。広がった傷に、躊躇いなくツルギがさらに撃ち込む。
ツルギとアミは、血の繋がった姉妹である。幼き頃、朝君の家に子がないことを憂いに思った朝君の当主が当時仲の良かった剣先家から子を譲り受けたのだ。朝君と剣先両家はふたりをよくよく交流もさせていたが、トリニティに入るにあたって二人とも姉妹であることが弱みになる可能性を鑑みて今までなるべく隠していたのである。
だが、もはやその必要も無い。ふたりは確固たる立場と、信念を有し、同じ道を行く友として集まった。もう分かたれることはない、そんな確信故にアミはツルギを姉と呼んだ。
「「おおおおおおおおおおおっ!!!」」
二人の声がシンクロする。ショットガンがアミに食らいつこうとする頭を弾けば、アミの振るった血炎の爪痕が爆発して巨大剣の薙ぎ払いを逸らす。
「姉さん! 上へ!!」
「キヒッ……クヒャァァァァッ!!!」
飛び込んできた姉を、跳ね上げるようにして天へと投げ上げ、ボロボロの翼をはためかせる。神秘で強引に強化して無理くり空を舞い、姉をさらなる高さに連れていく。
地上ではヒナの正確無比な3射、さらにミカの自己強化から繰り出される猛烈なラッシュが繰り広げられ、たまったものではないと獣は空へ向かう。そこに、何がいるのかを知ることも無く。
「そら来たァ!! 姉さん行きますよ!!」
「ヒャァァァァッ!!」
ずっと空に跳ね上がりながらも、アミを信頼して集中し、操作して溜め込んだツルギの『祈祷』。それは、神に引導を渡すとっておきにして、剣先の家に伝わる秘伝。
「クヒッ……『正義の信念と共に、悪徳、死なざる者へも運命の死を、その残滓を』ッ!!」
「『血炎の力、我が身我が器に宿らん』!!」
アミもまた、その聖槍へ炎をまとわせる。だが、ツルギのショットガンはありとあらゆるところから黒い炎が漏れ出ていた。
「神殺し……うってつけだァ!! 『黒き剣』!!」
アミの聖槍が昇る獣の背を切り裂く。獣は胸を反らせ、ツルギの前に全てをさらけだした。
「最高のアングルだ……キヒャァァァァァァッ!!!」
長い長いため時間と、本人の適正故に一度も用いられなかったツルギの祈祷はここに完全なる姿を披露する。ショットガンを軸に、巨大な黒い剣が、黒炎を纏って顕現し……
「ヒャッハァァァァァァァァッ!!」
一刀、頭から尾までを両断した。一瞬で縫合される身体、なれど絶命しかけた恐怖ゆえにその身は再び地に落ちる。
地上に着地したツルギはアミに一言。
「トドメはお前だ」
それを言われる前にアミは走り出していた。胸元に見えた、綻び。辛うじて起き上がろうとしていた獣の胸元を、アミの聖槍による致命の一撃が貫いて。
『…………!』
「終わりです……ひとりであなたを何とかするのがルールなのは知ってます。でも、今回はちょっとだけ。ズルさせてくださいね」
『…………』
崩れていく、解けていく。その存在が、最初からいなかったようになくなっていく。
「同胞よ」
響く声。モーグの身体もまた、薄れている。
「戻る時が来た。だが、此度の事で分かっただろう? 我が存在が、友の有り様が。ひとりでやるべきことと、やるべきことでないことがある。それをよく認めよ。さすれば、我のように道を違える君主とはなり得ぬと知れ。……まあ、どうせ貴様のことだ。存在さえわかっていれば引き出す方法もわかっておるだろうし、細やかなことは呼ばれれば語ってやろうか」
「んっ、ふふ……また、お呼びしますよ。やり口はわかりましたから」
モーグが消え行く。アミの身体に戻り行く。そうなる前に、アミは頭を下げた。
「ありがとうございます、大いなる同胞モーグ。私は、あなたの2つ名を語り継ぐ。我が身の名として……今日から、私は『血の君主』です!」
そうして、アミは世界に凱旋するためにモーグの残したサインを起動した。
「さあ、みなさん! 帰りましょう!」
呼ばれた者たちの返答は高らかな肯定だった。
これでこの後ベアトリーチェ+褪せ人とか色々あるってマジですの?なえるけも戦でした。
ラダゴン脊髄剣の代わりに宇宙ガン固めソードにしていますが、基本はえるけもはえるけもです。つまり陰湿……!
アミの強化イベントでもあり、精神がほぼ完成しました。
ツルギは運命の死の抜け殻を操っているだけに過ぎませんが、ヤバい事をやっているのはわかるね!
モーグは作中でほぼ喋らないのですが、ミケラに狂っていない状態のモーグはちいかわおじさんにちいかわ作ったりなど、諸々部下に積極的に交流、下賜を行う優しいおじさんのようです。ですので口調は尊大に、一人称は我、言葉はまともにしています。
以上よろしくお願いいたします。
さて今回も感想評価お待ちしてますので是非お願いします。