今回は短めに。
「ふむ」
辺りを見回す私に、つい最近聞いた声が聴こえた。
「もう来たか……」
「ええ、なんとなーくこれかなーっとは当たりはつけていましたから。キヴォトスの人々の心には普通とは別に『何か』の眠るパーソナルスペースがある、とか。そこに『侵入』できるとか。そんなのなんて知りませんでしたけども」
「お前と、私と。それぞれ特別なだけに決まっているだろうが」
ふたりして大笑いする。そう、目の前にいるのは。
「して、何用か? この血の君主がお前の言葉を聞き届けよう」
血の君主、モーグ。私を助けてくれた私を構成する存在であり、また誇り高き隣人。今日、私の中の彼に会う為、私は『侵入』の術を以て私自身の心に侵入をしています。
「それでは……モーグさん。早速ですが、申し上げます。その座、私に譲っていただきたい」
手の中に握り締めた、『
同時に、モーグさんの手の中に『モーグウィンの聖槍』が現れ、火が灯る。
「まだ弱い後継のために、腕と血を見てやろう。このモーグの真なるをモノとして、お前は我を継ぐ君主となるのだ」
「望むところです。……修行のお時間と行きましょう!」
「簡単に手折れることはないようにせよ……来い」
私は地を蹴った。
それから数日。私は心中から足を踏み出し、元のキヴォトスに足を踏み入れていた。
「……っ!」
渾身のガッツポーズ。そう、ついに私はモーグさんに勝利したのだ。数百の死を超えて、空を共に駆け、ついに致命の一閃をその胴に突き入れた。
勿論こちらが心中世界では幾度でも蘇るように、所詮心中の霊体であるモーグさんもすぐ蘇るのだが。
しかし勝ちは勝ちで、なんとも喜ばしい。幾度も戦ったことで新たな力を身につける……というか見て奪うことも出来た。
「さて、事前に伝えておいたとはいえ心配してるでしょうし顔出しますかね……」
そんなぼやきと共に、ティーパーティーの執務室へ向かう。
「お邪魔しますねー……っと?」
「これは……数日ぶりですね、アミさん」
「ええ、お久しぶりですナギサさん。セイアさんは?」
「今少し、ミネさんと席を外しています」
「ちゃんとミネさんは護衛やってるんですねぇ」
ミネを番犬としたのはつくづく正解な気がする、と私は思っていた。セイアという理性が
ちなみにこの発想をモーグさんに読まれた時は、『ゴッドフレイとセローシュのようなことを……百合園の乙女がその身を引き裂かれないようにしておけよ』と言われました。誰でしょう、ゴッドフレイとセローシュ。
とか思っていると、扉が開きました。
「戻ったよ……っ! アミ! 置き手紙にあったから心配はしていなかったが、まさかこんなにかかるとは思ってもみなかったよ!」
「ご心配をおかけしました……ちなみに、何日かかってます? 私」
「もう五日だ。まったく……」
「セイア様は3日目くらいからずっとアミさんのことしか……」
「やめてくれミネ。私にもプライドがある」
堂々とした顔でそう言い放つセイアさんですが、もう取り繕うのは無理ですよ? それは置いておき、状況の進展をこちらから報告しておきます。
「……まあ、置いておきましょう。状況は私がもっと強くなりました、がひとつ。以後モーグさんの協力が得られるようになりました、がひとつ。それと、とっておきの隠し球がふたつ。以上です」
その場にいた3人……ミネ、ナギサ、セイア(敬称略)の顔が歪む。
「隠し球、ふたつ……」
「ふたつ、そうですか……ふたつですか」
「……君は、本当に……なんというか、もう!」
かくして皆さんを呆れさせつつ、私はまあまあと皆さんをなだめます。
「お茶会でもしましょうよ、お仕事はその後私も手伝いますから」
「……釈然としませんが、茶会で話せば良いでしょう。準備しますか」
ナギサさんがそう言って従者たちへの電話に使おうと、携帯端末に手を伸ばしたその瞬間。
「ひゃあ!」
「ぷっ……」
「んふっ」
ナギサさんの端末と、ナギサさんの声が同時に鳴り響きます。着信がタイミングよく来るとビックリしますよね。分かりますよ……でも「ひゃあ!」はないでしょう。笑っちゃいましたよ?
「はい、桐藤です……はい、はい。……えっ? わ、分かりました……今すぐそこに居るので代わります……アミさん。先生からです」
即座に電話を受け取ると、私は電話口に出た。
「はい、どうも先生。如何されました?」
『……アミ。スマホの電源、切れてないかい?』
「今、実は充電をしています……五日間つけっぱなしならそれは落ちますよ」
『なるほどね……で、本題。アビドスの子たちから連絡が入った……自身を「メリナ」と名乗る女性を保護した、とね』
私の体に電流が走るような感覚。切り替わる意識が、ここからは仕事モードだと告げている。
「……ご協力はいただけそうなんですか?」
『分からない。が、君の言う通りの人となりなら、恐らく狂い火の王ってものを倒しに来てるんだろうからね。本人の意思は間違いないだろうと思うよ』
「ふむ……では、私が直接アビドスに行ってお話をしてきます。先生もご同席されますか?」
電話先の先生は少し考えてから、私も行こう、と返してきた。それならば良い、と考えつつ、口では。
「分かりました。では、待ち合わせと参りましょうか」
『うん。明日の朝でいいかな? 向こうの都合にもよるから決まれば連絡するけどそれでいい?』
「えぇ。私はこの件を最優先に動きますから、ご都合の良い時間にお願いします」
分かった。ナギサによろしくね? という一言を最後に、電話が切れたのを、ナギサさんに渡しながら、アミは僅かな間沈思黙考し……結論を出す。
「ねぇ、ナギサさん? 私たち、友達ですよね」
「……はい。えぇと、なにか無茶振りされる流れですか?」
「ねぇ、ミネさん。私、ぶっ飛ばされたツケまだ返してもらってませんねそういえば」
「……その通りでは、ありますが」
「セイアさんは私の顔と今までのお付き合いに免じて悪いんですけど付き合ってください」
「なっ!!?」
私は黙考の結果を笑顔と言葉で3人に示す。
「先生と待ち合わせなので、砂漠地帯に着ていける風通しのいいワンピースを買いに行きます。色々候補を探したいので、ナギサさんとセイアさんとミネさんの知ってる服のツテ、ぜーんぶ教えてください、ねっ!」
3人の顔が、そういうことか、という納得に染まり、その場にナギサとセイアのツテ、という名目でミカが呼ばれ。かくして、ティーパーティー3人と蒼森ミネによるアミの着せ替えショーがスタートしたのである。
アミが結論を出すのに、非常な労力と2時間半を要したことは、もはや語るまでもない。
こうして朝君アミは、そこそこ万全なデート用私服を手に入れ、アビドスへ向かうためにワクワクと先生を待つのであった。