えっ!?トリニティで血の教えを!?   作:ふぃーあ

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お待たせ致しました。とても。えぇ。とてもです。


ちょっとエモい約束事をしている人くらいの感覚でいたんですが……

「お待たせしました、先生」

 

 そう白コートの男に声をかけたアミ。先日の2時間を超える苦労と疲労と引替えにとびきりな私服を都合してもらった彼女は、楽しそうに先生の名を呼ぶと、手を振った。

 

「待たせちゃったかな? アミ」

「いえ、いえいえいえ。お気になさらず、どの道移動はすぐですから。過日私の手の者を向かわせてアビドスにサインを刻んでありますので、それを利用して向かうんですし」

「なるほど……ちなみに、どこに描いたのかな?」

「私の手の者曰く許可を得た上でアビドスの現校舎の端に描いたと聞いています……では、行きましょうか?」

 

 くるり、と先生の前で回転すると、ひらりと舞うスカート。普段は着ないロングのワンピース。薄手の生地で風通しを良くしているのは、砂漠の暑さに耐えるため。聖園ミカのツテで呼ばれた仕立屋がその場でアミのために仕立て直した逸品は、アミの整ったプロポーションをより良く見せている。

 

 白基調に、所々にあしらわれた黒の意匠が気品と合わさり、年相応の愛らしさと年齢以上の美しさとを両立させていた。

 

「アミ、その服よく似合ってると思うよ」

 

 先生から求めるままの言葉を引き出したアミはふわりと花か蝶かのように柔らかく笑った。

 

「ふふ、ありがとうございます。ミカさんやナギサさんには後々お礼をしなければなりませんね」

「二人に選んでもらったの?」

「二人のツテを頼ったんですよ。なかなかのやり手を紹介してもらいまして、良い買い物でした」

 

 ちなみに、とアミは顔の横でひとつ指を鳴らし、そのままスナップした人差し指を立てる。

 

「普段着てる司祭服、アレ実は司祭たちの手縫いです」

「うっそ!!?」

「ほんとです。最初のやつは私がちゃんとしたとこに依頼して作らせた奴なんですが、それを模倣して司祭たちが作ってくれたんですよ」

 

 だから、普段の服とか考えたのは久々でしたと続けるアミに、先生は楽しめたなら良かったね、と返すのであった。

 

「さて、行きましょう? 向こうでサイン書いてくれた私の部下も回収しなきゃいけませんから!」

「まだ向こうにいるんだ……」

「えぇ……私が拾いに行くか自分で帰るかだったら一週間遅れても私に拾われたい、だそうです。重いですねぇ」

「君が言う?」

 

 軽口を叩きながら、アミは足元に赤を広げ、赤を伸ばし、赤を掬い上げ……カーテンとなって赤が2人の全面を包み込んだ次の瞬間、弾ける赤。

 

「んーっ! 暑い!! けれど風は心地よいですね」

「ほんとに一瞬だった……っと、ここは、屋上かな?」

 

 割れた赤の先、コンクリートの上に降り立つ2人。青い空、砂漠の酷暑ながらも風吹き抜けるそこはアビドスの校舎、その屋上。そして、2人の前に跪く1人の女がそこに居た。

 

「お待ちしておりました、我が君(マイロード)

「出迎えご苦労……以後、先生の護衛につきなさい。円滑なコミュニケーションのため、自己紹介及び先生との自由な会話を許します」

「はっ! それでは先生殿、自己紹介をさせていただきます」

 

 女は跪いた姿勢のままに声を発し、目線を先生にまっすぐに向けた。

 

「私、教団にてはアミ様のお望みの通りに働く《血の指》や《純血騎士》の位階を拝命した者達を統括するしがなき者、名を『明日葉ラミナ』と申します。本日はよろしくお願いします」

「ラミナ、立って構いません。許可するの忘れてました。以後そっちの判断で自由にしてください。堅苦しいのは無しでお願いします。全部許可します」

「あっはい……えぇと、とにかくそういうことです。よろしくお願いします」

 

 苦笑いしながら立ち上がるラミナはこちらに握手を求めるように手を差し出して、先生はその手をとった。

 

「私はシャーレから来た先生だよ。よろしくね、ラミナ」

「お噂はかねがね。お会いできて光栄ですし、お守りできることを誇りに思います」

「ラミナはウチの狂信者組の中では一番の良心ですよ。常識的で、頭も回って、余計なことをしません。だからこそ《実働部隊統括》なんです」

 

 光栄です、と律儀に褒められた途端頭を下げて言葉を受けたラミナ。吊り目の金の瞳、ショートに抑えられた髪、半袖のシャツに通気性の良い長ズボンを着用して、その上から長い外套を前を開けて羽織っていた。

 

 クール系の高身長イケメン女、と言うべきであろうかなどとアミは彼女についてそう考えている。良識的な人間が戦うとなると実働部隊随一の腕を持つ最強であるというのは、アミが信頼を置くのもうなずけよう。しかも、オンオフの切り替えが結構ちゃんとしている……これはアミしか知らないことではあるが。

 

「……と、失礼しました。余計なお時間を取らせていましたがアミ様、先生殿、こちらへ。小鳥遊様と別世界からのお客様がお待ちでございます」

 

 余計なことを考えるアミの思考を断ち切るようにラミナは案内を始める。ラミナを先頭に行く一行。2分と歩かぬうちに、ラミナがとある教室の前で足を止めた。

 

 ラミナが軽く扉を叩くと、誰何の声。

 

『ラミナちゃんかなー?』

「はい。小鳥遊様、アミ様と先生殿をお連れいたしました。入室よろしいですか?」

『もちろんだよー! ほら、入って入ってー」

 

 もちろんだよー、の辺りでガラリと教室の扉が開き、ピンク色の髪の少女が顔を見せる。

 

 アビドス高等学校の実質的な生徒会長(アミが調べるところによると代を受け継いでいない。先代生徒会長が何らかの要因で死亡して以降生徒会長が不在になっている)である、小鳥遊ホシノその人であった。

 

「ほら、メリナちゃんに会いたいって言ってた人だよー」

「…………」

「あなたが……メリナさんですか?」

 

 そして、その部屋の奥。両眼を開いてこちらを見据える一人の女が、立ち上がる。

 

「そう。私が、メリナ。ひとつ聞きたい……あなたが、私を呼んだのか?」

「ええ。儀式を行い、この世界にロケートを置き、貴女を呼び寄せたのはこの私……朝君アミです」

「……まずは、感謝を。『彼』と同じ世界へ行く方法が私には分からなかったから。貴女がいてくれて、そして貴女が呼び寄せてくれてよかった」

 

 メリナ、と名乗った女は青と金のオッドアイの視線をアミに真っ直ぐぶつけながら、目を離さずに礼を施した。

 

「その言い方ではなにか他にあるようですが?」

「ある。あなた達も、そのつもりだろうと思っているけど」

「えぇ。その話を、しに来ました。メリナさん」

「なら、話す必要はない。私の答えはひとつだけ。『彼』を止める。殺してでも、終わらせる」

 

 その言葉にアミは頷いた。終わらせねば、こちらが終わる。利害の一致というべきかなんというか、こちらの交渉は成功前提に考えていたのがアミである。では、なぜ先生を連れてきたのか。なぜアビドスまで赴いたのか。その理由は、これからの話にある。

 

「では……小鳥遊さん」

「ホシノでいいよ〜……それで、何かな」

「私は、本件に関してシャーレを経由し、正式にアビドス高等学校アビドス廃校対策委員会に依頼をする用意があります。そして、正当な報酬を支払うことができます。ですので、小鳥遊さん。我々に、『王殺し』にご協力いただきたい」

 

 ホシノはその言葉を聞いて、少しばかり考え込んだ。それは、メリナという存在を『同じ者』として捉えたホシノの本質がメリナを助けてやりたいと叫んでいるが故。

 

 だが、ホシノには踏ん切りがつかなかった。それは、自分のこの感情に後輩を付き合わせるわけには行かないとそう思っているからだった。

 

「少し、考えさせて欲しい」

 

 そうホシノは結論を出そうとして、扉が開く。

 

「ホシノ先輩。それで、いいんですか〜?」

「……ノノミちゃん? なんでここにいるのさ〜」

 

 そこに立っていたのは、アビドスの2年生、十六夜ノノミ。ホシノを表裏なく支えてきた彼女は、その本心に従う理由付けを始めた。

 

「ホシノ先輩。私たちは、仲間ですよね」

「……? そうだよ〜? 何を今更……」

「ホシノ先輩、私、シロコちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん……そして、メリナさんだって。大切なアビドスのひとりですよね〜?」

 

 ホシノはその言葉に瞠目した。そうか、と。そんな事すら見落としていたのか、と。

 

「シロコちゃんはメリナさんと一緒に食べる柴関ラーメンは美味しかったと言っていました。私は色々お手伝いしてもらっちゃいましたし、アヤネちゃんは美味しいご馳走してもらったみたいでした。もうすっかり、まだ1週間も経ってないのに馴染んじゃってます」

「ふふ……そっか。そうだね。ノノミちゃん。みんな、賛成してくれるかな」

「もちろんですっ。大切なお友達の、大事な事情。できることならできる所まで助けたくなるのが仲間ですよね!」

 

 その言葉にホシノは頷いた。そうだね、そうだよね、と言葉を転がして、にこやかに笑う。

 

「ノノミちゃん、みんな呼んできてくれるかな?」

「はい、すぐに! いつもの部屋でいいですよね?」

「うん。おじさんも、すぐ行くから!」

 

 ノノミが去っていくのを眩しげに見送って、空気を読んで黙っていた面々に向き直ったホシノは一言。

 

「やろう。協力するよ……メリナちゃん。もうメリナちゃんはアビドスの仲間だし、放ってはおけない。こちらからお願いしたい……先生、朝君さん。メリナちゃんを手伝わせて欲しい」

「その言葉が聞きたかったんですよ、小鳥遊さん。……細かくはラミナから。ラミナ!」

「はっ、こちらが今回の案です。依頼方式などについて纏めてありますのでお目通し願います」

 

 ラミナから渡された紙に目を通す先生とホシノを見て、ラミナの肩を軽く小突いたアミ。

 

「ラミナ。この座の権限を貴女に移譲します。私は細かいことはよく分からないので」

「承りました。あとは万事、お任せ下さい……どちらへ?」

「メリナさんと少し、やりたいことがありますので」

 

 メリナへアイコンタクト。メリナも頷き、立ち上がる。

 

「あれ? メリナちゃん、どこか行くの?」

「……ちょっと、朝君さんと話に。人払い、お願いね」

「分かったよ〜」

 

 じゃあ、行こうか? そう言うまでもなく、2人は屋上へ歩を進めた。

 

 アミにとっては2度目の、メリナにとっては何度目か分からない風。屋上はなにか変わるわけでもなかったが、しかし心地よい。

 

「アミさん……でいい?」

「アミで構いませんよ」

「ならこちらも呼び捨てで構わない……やりたいことがある」

「聞きましょう」

 

 メリナは、伝えるかは迷っていた、とそう前置きをして。

 

「あなたには、まだ先がある。それも、とてつもない量のルーンがある……私なら、それを力に変えられる。昇華(レベルアップ)……やってみる?」

 

 まだ、『先がある』と。そうアミに告げたのであった。




・明日葉ラミナ

クール系イケメン高身長女子。胸はない。

忠義に燃える血炎教団の最強格にして、胃痛要因。
アミ直属の武力集団である《血の指》と、もっと色々なんでもやってる集団の《純血騎士》を統括する実働部隊の長で、普段は事務仕事に精を出す他、アミのいない際の教団(モーグウィン派)の主としても活動している。

極めて善良かつ良識的な思考を有しており、アミの与えた二つ名であるところの『黒曜の騎士』より『モーグウィンの良心』の方が浸透している。

教団の幹部クラスには珍しい銃を真っ当に使うために携帯している生徒で、拳銃を複数吊っているが、本来の獲物は近接の大型武器らしく、最近は使われていない模様。

「ナーたん」と呼んでいる後輩がおり、彼女の唯一の直属の部下として可愛がっているらしいしそれなりに後輩ちゃんも強いという噂があるが、誰もそんな後輩がいたことを知らない。



高評価と感想を無限にお待ちしています。次の更新は……そう開かないように頑張ってみます!!!!!
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