サインによってアリウス自治区に踏み込んだ一行を迎えたのは、音のない、されど戦闘慣れしたものであれば即座にわかる急行の足音。
「……ッ!」
「今」
ラミナの口から発せられる一単語、その言葉の終わる前に銃弾と凶手が宙を舞う。
「がっ!」
「ぐっ……!」
「っ!?」
『出迎え』であったろう、倒れた少女たちの前で着地した彼女の大きな、普段はローブで包んで体に巻き付けるようにして隠している黒翼が広げられ、その者は静かに立ち上がる。
「さすがの腕だな、山鴉。……さて、教団各員! 行動を開始せよ!!」
「こっちは私ね」
「なら此方か……ふむ、行くとするかの」
「(サムズアップ)」
ラミナの言葉と同時に、教団の面々はその場を別方向に動き出す。
「出迎えは大義だが我が主の前だ。悪いが無礼討ちとさせてもらおうか、アリウス」
ラミナは口角を吊り上げそう呟き、背に背負った大鎌を開いた。
「おや、ラミナ。随分とやる気に満ちているようで」
「無論です。貴女の道を阻ませは致しません。貴女のお目に触れさせることすらも本来はしたくないこと……そこまで至らぬことにはお許しを」
「いえ、許します。我々はこのまま、奥のバシリカへ前進します。迎えは任せますよ」
そうして、ラミナが本隊の守りを司り、それぞれが二人一組を基本として各個撃破作戦を開始したのである。
Side:《凶手の山鴉》
駆ける。翔ける。宙を、地を、区別なく疾駆する。その姿を捉えることが出来るものはそこになく、そのモノはどこまでも残忍である。
そう、まるで「カラス」のように。
四人のアリウス生が天を、地を跳ね回る黒い影を追う。だが、それはすでに「カラスがそこを飛んだ痕跡」でしかなく、故に未だ彼女は飛び回る。
「ぐぁっ!? くっ……! こいつ!」
「……?」
先程から、ひとつの傷すら負わず空中からも地上からも、浴びせかける銃弾の弾幕の雨を1人で降らせるキョウはあることに気がついた。
『硬すぎる』と。これまでの経験を考えると、相当な強者でもない限りはこれほどの銃弾を浴びせれば倒れるものだ。
「だが……甘い。私たちには神の加護がある! いつかはこの弾幕も終わる! その時が反撃の期……!」
『神の加護』。キョウはその言葉にふと、嫌な予感を覚えていた。言葉が発せない彼女は、しかし教団の実務部隊の誰よりも現場的な対応において聡明である。
(神。キョウさんの知ってる『母様』やトリニティの知ってる『神様』じゃあないんだろうなぁ〜。私たちが渡されてる情報は多くない。ま、『狂い火の王』ってやつを神に類する力を持つものとして、それをアミ様たちが倒しに来てるって考えると……『神』は『狂い火』に類するモノか、そのもの。硬いわけだね)
そこまで思考しながら、弾幕を撒き続ける。
彼女らの知るところにはないが、ミカとアミの激突の際に部隊の大半を失ったアリウスは、残りの生徒たちを強化することによって今までの戦力を賄おうとしていたのである。
キョウの推論通り、『狂い火』の力を神秘に取り込ませることによる、ブーストであった。
(どうする? キョウ……弾が切れる。リロードはアクセサリーで短縮して都度やってはいる、けど……そろそろ見切られるね。次で近接戦と行こう)
「……ッ!!」
「な、速っ……!?」
壁を蹴り、鋭くターン。足で首を挟み込み、空中から仕掛けるは必殺の格闘術。
(フェイタルレッグツイスター、改……なんちゃって)
「うぉぉぁぁぁぁっ!!?」
「な……!?」
そのまま空中に放り出された女の下で、黒い猛禽が嗤う。
手に握られたアサルトライフル。最初から取り付けられていた銃剣が、彼女の視界に映った。そして、彼女は身動きの取れぬ中空で、己がどうなるかを悟った。すなわち、これは……『狩り』なのだと。己は『食われる』のだと。
「……ひっ!?」
巻き込みを恐れ、誰も弾を撃つことが出来ない。誰もが呆然としたままに、彼女の空中戦を見ていることしか出来なかった。
ずしゃ、と人が堕ち、すたっ、と鴉が舞い降りる。
「
その言葉は、黙していてなお、何よりも雄弁だった。
Side:《人斬り》
「甘いのお!」
振るわれた刃が銃弾を「斬る」。このキヴォトスで時代錯誤にも剣客をやっているというのに、それでも「強者」を名乗る所以がそこにある。
「囲めッ!」
「なっとらんなぁ!!」
斬りかかり、体術戦に持ち込む。教団仕込みの戦闘術とは別の、経験依存の法則。すなわち、彼女がまだ《人斬り》だった時の記憶の再現。
「人が斬れると思ったのだがバケモノを斬ることになろうとはなぁ。望外、望外よ!」
「バケモノだと……!? どっちが……!」
「分かっておるさ、だがな! その黄色い瞳、4人揃って生まれつきそうなら尊敬じゃて! 売ったな、その命を狂い火に!」
イナバはさらに踏み込む。手にした愛刀《屍山血河》を振るいながら。斬る度に、その速度が上がっていく。イナバに戦いの実感が取り戻されていく。『人斬り熾名』の錆びた刃が、血によって研ぎ澄まされていく。
キョウと同じく、相手しているのは四人一組の小隊。そして奇しくも、近接戦により巻き込みを封じた所まで同じだった。咄嗟に応戦したアリウスの生徒は、その手に引き抜いたアーミーナイフと緊急用拳銃を用いて戦闘を続行している。
けれど、練度の差は歴然。『人を斬ったことがある』と『人を撃ったことがある』の意味は、このキヴォトスではまるで違う。
そう示すように、イナバは傷を負わず、アリウス生には生傷が増えていった。
「くっ……!」
「終わりかのぉ……!」
「まだ、だっ!!」
目を一層妖しく黄に光らせたアリウス生は、その光をそのまま前方へ解き放つ。
「なかなか良かったぞ、お前は」
そして、それは空を薙ぎ、消えていき。はっと目線を下げた先、地面すれすれにまで身体を前傾させたイナバがそこにあった。
「良い。葬送は我が奥義をもって成してやろう……《死屍累々》ッ!!」
赤く染まった屍山血河の刃による、十度の連斬。呪血をたっぷりと含む屍山血河の力の解放をその身に叩き込まれたアリウス生はそのヘイローを消し、地に倒れた。
その小隊で最も強かったのであろう彼女を打ち倒したイナバは、そのままの勢いで三人へ突撃。彼女にかけた時間の半分も数えず、アリウスの小隊を壊滅に追い込んだ。
「足りん。もっと手応えのある敵が欲しい。敵は、どこだ?」
ゆら、ゆら。手足の末端から燃える炎をイナバは幻視していた。
そこに、立ち塞がる影がひとつ。
「強敵を探すか。俺が相手になるが……どうだ、剣客殿」
赤い雷が、槍に弾ける音がした。
「ふむ……何者かは知らぬ。知る必要もない。来いッ!」
赤雷の槍と、朱血の刀。一瞬で、刃が交錯した。
Side:《餐の探求者》&《愛を謳う者》
イナバが新たな強敵と出会したその頃。喰獅ノラと深谷レイは、敵手を遭遇次第レイの《花束》に吸わせる、というひらめきがきれいにハマって小隊をひとつ壊滅させたあとであった。
「ふぅん……なかなかハマると強いわね、貴女」
「は……場面を選びますが。ですが、ノラ様はいつでもどこでもお強いでは無いですか」
「まあね。けどまあ、そういう強さにも焦がれるものよ……特化型だなんて、憧れよね……っ! レイ!!」
「ご了解ッ!」
瞬間、ノラとレイはその場から飛び退いた。
そこに立っていたのは、なんだろうか。それは、強いて言うなればその場にあることを望まなかった者。その座を譲った者。すでに追憶になった者。
追憶故に、ここにあるモノ。
ぼっ、と。虚空に黄色い火が灯る。
その者は王であったモノ。一人の哀れな男の末路。それは王と仰ぐには弱すぎた。そして、今玉座に座した一人の褪せ人……『王』は考えた。なるほど、先達に頼るのも一興ではあるのかと。
名前を知らざる者たちの前にソレは啼き呻き、そして知らぬ轟音と高音でもって金切り声のような音を掻き鳴らして、出現した。
その場において誰も名を知らぬソレは、かつて狭間の地から分かたれた『影の地』における『狂い火の王』。
名を、《狂い火の王、ミドラー》という。
厳密に言えば、それは写し身である。とある男の研究……《聖徒の交わり》の成功体のひとつに、ベアトリーチェが狂い火の王から受け取った追憶を注ぎ込んだ、偽物に過ぎない。
だが、それは劣化を意味しない。そして、彼女らはそれすらも知り得ない。
「……レイ! コイツは不味い……私たちで仕留める!」
「承知しました。しかし……これはいったい!?」
「わからないわ……けれど、やるしかない!」
そして、ミドラーが高らかに両腕を上げ、今にも戦闘が始まる、その瞬間。
「……ッ!!」
蹴り飛ばされ、大きく吹っ飛んだ。両足でドロップキックをぶちかましたその女は、翼を広げて立ち上がり、振り返って親指を立てた。
「あら、あちらはもういいの? キョウ」
『こっちが優先。お小言はもらうだろうけど、なんかいたらラミナが片付けるでしょ? って通信入れてあるよ〜』
「せっかくお助けいただいているのにあとで小言というのも些か癪ではありますし、さっさとアレを倒してしまいましょうか?」
レイの言葉に同意するようにキョウがアサルトライフルを構え、ノラが背負ったスナイパーライフルを引き抜く。
レイは手にした《花束》を武器として構え、目の前の怪物に真っ直ぐな目線を向け。
「!!!!!!!!」
まるで産声が如く声を上げた怪物に向かって、攻撃を開始した。
・キョウの格闘術
ゲームの影響を受けていることがある。
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