Side:狂い火の王討滅戦『本隊』
「素晴らしい。望外の成果です」
歩みを止めずに進行する『本隊』。素直に言うと、私……朝君アミは最初の妨害を『露払い』らに任せきりにして行けるところまで行く、というプランニングには問題しかなかろうと思った上で、それでも私たちに相手の割くことのできるリソースを減らそうとしてこの手を選びました。
「……本当に驚くくらい、誰もいないね」
「私が連れてったあの子達がみんな倒されちゃったから……? いやそれにしたってだよね……」
「んー……まあ、楽だからいいけどぉ……ふぁ。暇すぎても、少し困るね」
「そうですね〜。でも、いつでも動けるようにはしておいてくださいね、先輩」
しかしながら、見ればこの様この通り。アリウスの兵士が散発的に現れる……などということもなく、淡々と何事もなく進行できるまでに、彼ら彼女らは兵力を減じていた……あるいは、集中しているのかは分かりませんが、少なくとも、私たちの移動中にちょっかいを出せるほど無駄に使える戦力はもうないと言って良いのでしょう。
蝿たちが伝えてくる強大な敵たちの反応、4つの塊のうち3つは血の指たちの足止めを受けているが、残りひとつはこの先の広場にいることを示しています。
バシリカ。アリウスにおいては、『至聖所』と呼ばれるそこの、手前に、その反応は佇んでいるだけ。
何事がある訳でもなく、広場に足を踏み入れるまでに至って、はじめて私たちはそれがなにであるかを確認することが出来ました。
「……ヘイローのない男の方……確かに見間違いはないですね。『先生』とお見受けします。私は『ハイータ』……三本指の巫女です。先に申しておきますが、私は非戦闘要員……居るだけの者ですので、お気になさらないよう」
語りかけてきた女……ハイータは、先生に向け、慇懃に礼を施し。
「おや……? あなた方、もうここまで。お早い御到着ですね」
そうぼやくように述べた男は深く被った鉄笠を上げようともしない。そうして、男はさらに口を開いた。
「改めて、お初にお目にかかり光栄ですよ、キヴォトスの『先生』殿。私は『シャブリリ』。歩むべき真の道を示すお手伝いをしております」
そう、男……シャブリリが言い放った次の瞬間、横から銀閃が放たれる。
「っ! おっと……危ない危ない。なかなか恐ろしいですねぇ、小娘の技としては」
「……私の前に、よく現れてくれた。王の想いはいざ知らず、王にかくあれとあなたが示した道そのものを、私は恨む。私は憎む!」
横から放った短剣が、シャブリリの握り締めた刃によって撃ち落とされ、憎悪を顕にしたメリナさんが私の側まで歩み寄る。
「混沌の慈悲を感じませんか、先生。この世にも混沌のあることを願わんとする時、律として戴冠した王という存在のなんと愚かなことか。賢君ならば、退位こそが金と察することでしょう。我らが混沌は即ち全てを叶えるのですから」
シャブリリが先生を見つめてそう言えば。
「断る。世界は混沌なんてそんなものに呑まれなくたって、慈悲にも加護にも溢れている。子供たちが、いつか大人になった時は君たちなんかよりずっと上手くやるさ」
先生はシャブリリの言葉を鼻で笑う。
「言ってくれますね、先生。ですが、そういうのならもはやあなたは不要だ……ここで死んでください」
「そうはいかない」
シャブリリの目が光り、炎が放たれ、それをメリナが止める。
「今日を夢見てきた。……いつか、約束の死をと。玉座の間で誓った。そのいつかは、きっと今日。……そう、今こそ、あなたに」
シャブリリの狂い火を受け流したメリナさんが、全速力で疾走する。
「約束の、死を!」
「失ってまだ抗いますか、小娘が!」
刃が激突し、火花が舞う。瞬間、先生は言葉を発しながら動き出す。指揮のためだ。
「みんな、始めるよ! 援護を……」
「待って、みんな、先生。アレは……私に任せて欲しいかな」
そうして、その先生の動きをホシノさんが止める。放った言葉は、なにか理由を含んでいながらも、それは語れないと言うに等しく、けれどホシノさんならば下手を打つことはないと知っている先生はそれを認めた。
「分かった。ここはホシノに預ける……先に行く?」
「んにゃ、さーすがにあれを倒さないことにはでしょ。ただまあ……アレ、メリナちゃんの因縁の相手でさ。負けないようにはできるけど、私たちがボコスカやりすぎても復讐の炎ってやつは消えないよ」
「……なるほど」
ホシノさんが銃と盾を構えてゆったりと歩み出す。先生や私を追い抜きながら、ホシノさんは独り言ちる……いえ、言い聞かせるように呟く。
「復讐は何も残さないとは言うけど……私たちにとっては、マイナスをゼロにする大切なことで。だから、暗い復讐の炎だけが、アイツを焼くのにちょうどいいんだ。みんなの熱意をぶつけるようないい種火じゃない……」
パァンッ、と銃が咆哮する。シャブリリを掠めたホシノさんの散弾に、刃を交えていた両者が止まる。
「メリナちゃん、手伝うよ……私もソイツに思うところは多少あるからね」
「……あなたなら、構わない。行こう」
「……これは傑作……私を復讐の対象とするか、巫女の小娘。それに意味などないと知っていてもなお!」
「意味ならあるよ、シャブリリおじさん?」
ホシノさんは口角を吊り上げて、好戦的に笑みを浮かべて。
「私たちはものすごくスカッとする」
「呆れてものも言えませんね、闖入者」
「私にはホシノって名前があるんだけどね。ま、いいよ……サクッと叩きのめすから、覚悟決めて、ね?」
そこからは、一方的な蹂躙だった。もはや、見ている方が辛いくらいに、一方的な蹂躙。
弾丸が降り注ぎ、弾切れになったと思いきや懐の拳銃を連射。その間にリロードされたショットガンの連射がさらに襲いかかる。
圧倒的な量と圧倒的な質を維持した、超上質な「攻め」の波……いやそれは、正しく嵐のようでした。
「……ッ!」
その嵐の中を潜り抜け、あるいはすり抜けるでもしているかのように動く、もうひとり。メリナさんもまた、蹂躙に一役買っていた。
「くっ……! なぜ、この銃弾の数々の中で動いていられる! 我ら狂い火の信徒や、この世界の生徒とやらとお前は違う! 一発当たれば、命すらも怪しいはずだ! 何故!!」
「ホシノが? 私に当てる? まさか……一週間も一緒に居れば、連携の仕方くらいは覚える。その上で、まあ当たらないし当てないでしょとも思ってる」
「無理を通せば道理は引っ込むとはいえ、限度くらいはあると思っているのだが……!」
そうして、二人の絶え間ない連撃の果て、シャブリリが僅かにホシノの弾切れに気を向けたその瞬間。
「こっちを、見たなっ!」
「ッ、しまっ……!」
「忘れるな。私は、お前の運命の死だ……!」
切り裂かれるシャブリリの肉体。噴き上がる鮮血。くずおれ、倒れ伏す肉体。
「……いや、今の一閃はお見事でした。さて、続けようではありませんか」
それを一瞥すらせず、笑うアリウスの制服を着た女子生徒。
手には、刀ではなく銃。浮かび上がるヘイローは黄色に染まり、燃え盛っている。
それは、それは。間違いのない真実。
「シャブリリ……!?」
「呼んだか、小娘」
「確かに、斬ったはず……!」
「私は混沌そのもの。潰えることは、ない。それ故に、私はここにいる。敵を滅ぼすのではありません。ただ、不滅たるが故にです」
女は……それはシャブリリであるという。シャブリリは、大いに無駄なものを見せてもらった、と嗤う。
「なるほどねぇ。大凡仕掛けはわかった、だから次のお前はもう居ない……協力してよね、メリナちゃん。種明かしは必要?」
「要らない。私も、およそは分かった。アレに対する隠し種も……まあ、いくつかはある」
「りょーかい。じゃ、やろっか!」
私もまた、奇術のタネは見破っている。見破ったところで、私……朝君アミには処理する手段が存在し得ないので、なにもできないが。
そして、シャブリリもまた、この特性は不可侵であると考えているらしく、口を開く。
「無限を如何にして滅ぼすと……しかしこの身体は優秀ですね。彼女へ、このシャブリリの依代に身を捧げてくださったことを感謝しなくては」
先生がタブレットを操作し、メリナとホシノを指揮の範囲下に置く。それは、無言のうちに行われていた。
「その身体は、アリウスの生徒のものだと言うのだね、シャブリリ?」
「えぇ、そうですとも先生。この身体は彼女らの献身、最後の祝「黙れ」福……おや、何をお怒りで」
「彼女はきっと、何も知らないままこうなったんだろうと思う。その子には沢山の可能性があったと信じている。望んだにせよ、望まないにせよ、その選択は狂って歪んだ選択だったはずだと察せられる」
だから、と。らしくなく、激情に揺さぶられた男は、その激情の激しさに反比例した冷静さでもって言葉を繋ぐ。
「狂い火の王が、ベアトリーチェが、君が。その子の、私の大切な生徒の可能性をひとつ、閉ざしてしまったというのなら。それを、悔いなく彼女らの献身などという言葉で肯定するというのなら……」
男は、着ている白いコートを揺らした。アリウスの戦闘制服もまた、奇遇にも白いコートではあるが、それとは全く意匠を異にする連邦生徒会所属の証明。それは、男の誇りであった。
「私も……お前たちのことが、赦せなくなってしまいそうだ」
激情と冷徹が同居する先生の頭脳。今この時が過去最も冴え渡る瞬間となったソレが、今指揮に100パーセントの力を解放する。
「ごめんね、ふたりとも。ちょっとだけ……私も交ぜてもらおうかな」
「見間違えた、かな。思ったより、ずっと激情家。仕方ない……情報オペレートを含む指揮をお願い」
「私たちだけでも勝てはするだろうけど、ま、先生だもんねぇ。黙ってはいられないよね……先生も、タネは分かってるんでしょ? アレ」
先生は頷いた。そして、一言でもって種明かしを済ませる。
「あの身体も、前のも。死体を動かしているね」
「そう。で、ここからは私の考えなんだけど。シャブリリってのは『死体を操って自由自在に死体間を飛び移ることが出来る概念』みたいなもんだと思うんだよね」
「狂い火の信徒については詳しくないから私も分からない、けど……そうだろうなと薄々思ってはいた」
シャブリリは楽しそうにその話を聞いていた。先生もまた、隠すつもりもないようであった。
「で? お決まりになりましたか、如何されるかは」
「彼女が言っていただろう? 彼女が君の『運命の死』だよ」
「巫女では私は倒し切れませんでしたがねぇ」
勝手に言ってなよ、と吐き捨てた先生は、そのまま二人に目線を向けた。
「悪かったね、勝手に割り込んで喋り倒して」
「構わない。そのくらいは許容範囲」
「うへへ、珍しい先生見れたからノーカンってことにしてあげよっかな! じゃ、改めて……」
先生が後ろに下がり、メリナさんが遊撃、ホシノさんが前衛に立つ。それが当然のように。
「私たちは、君たちを赦しはしない」
「二度目の、そして最後の覚悟を済ませなよ」
「真の死を、『運命の死』……あなたの終わりを。あなた自身に刻む」
そして、また。戦いの火蓋が切られる。
・シャブリリ
それは、混沌の徒。最初の狂い火の罹患者。誇るべき黄金律の新たなる王を狂い火の王とした大罪人。
男は王にならんと山嶺を登る褪せ人へ、言葉でもって唆した。
「正しき王を目指すなら、険しき道をお行きなさい。このシャブリリの言葉に耳を傾けなさい」
褪せ人は王になり、王は狂い火を統べ、全てが燃える中で、男は哀願した。
「王よ、王よ、どうかお傍に。無限の混沌を齎すのなら、私は貴方と共に行きます」
言葉を発さない王はしかし、彼を火で傷つけないことで男に答えた。
勝手にしろ、と。
・ハイータ
偉大なる王の記憶の中にある者。戦う力を持たず、拒絶の魔術だけを用いる。
彼女は、狂い火の、三本指の巫女である。焼け溶けたはずではあったが、王とひとつとなっていたことで王に仕える存在として再誕した。
『生まれて来なければ良かった』と願う幾多の魂の声を聞き、他の世界もそういった声が止むことは無いのだと悟り、王の傍で王の『救済』を望み続けている。
シャブリリの会話という名の『暇つぶし』に付き合わされていた。
イカれた女たち、どの子好き?
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深谷レイ
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明日葉ラミナ
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喰獅ノラ
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熾名イナバ
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朱貴ナタ
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割とみんな好き
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アミ様