シャブリリとホシノ、メリナの戦いが始まる頃。残る三方の戦いもまた、激化する。
最も熱く刃を交えていたのは、イナバと槍使いであった。
「シッ……!!」
「やるなぁ、嬢ちゃん!」
「そちらも、な!」
イナバの刃が宙に軌跡を描き、対する槍使いの槍が同じ数の火花を生む。突き、薙ぎ、時に斬るが如く振るわれる槍は、正しく殺すために振るわれる刃に他ならない。
「……ふふ、ふふふふ……」
「は……っ、お前そういう手合いかよ! 命を賭けることに興奮してんのか、その歳で?」
「いいや、違うのだよこれが。其方のような近接武器を振るう手練と手合わせするのは初めてでね……こんなにも、楽しいものかと!」
男は深く笑みを浮かべる。そりゃあ、と男は皮肉げに笑った。
「銃ってもんがあるんだろ、こっちには。負けはしねぇだろうが、便利だろうからな。そりゃこんなの使わなくたっていいよなぁ、楽しくもなるわけだ……」
その言葉に頷きをもって返し、同じタイミングで返す刃で距離をとる。イナバは心の奔流のまま、男に名を問うた。
「あぁそうだとも! 武人殿! ご芳名を、頂戴したい! このような楽しい時間に、互いの名も知らず有り様を刃で探すのは愚の極み!」
「……『ヴァイク』。竜雷纏いし槍の騎士、円卓の騎士がひとり。今は狂い火に呑まれた大馬鹿者の騎士崩れだ」
後ろの情報はイナバにとってはどうでもいいこと。男が雷を纏い、その力を強め、時に速く、時に鋭くその槍を振るってきたことはその身でもう知っているから。
だから、イナバにとって大事だったのは、生まれて初めての強敵の名前だけ。
「ヴァイク……いい名前ではないか」
「ふ……同じことを
「熾名イナバ……血に酔う人斬りよ」
「そっちもいい名前じゃねぇか……じゃ、仕切り直しと行こうかイナバ。この竜雷の真の力……見せてやるよ!」
ヴァイクがそう宣い、槍を掲げたその瞬間。中空から赤黒い雷が迸り、ヴァイクの槍にまとわりつく。バチバチと弾ける赤雷はまるでヴァイクの戦意に応じているかのよう。
「……摩訶不思議な力だな。それも祈祷か?」
「その通り。これは竜が人に授けた祈祷のひとつさ。俺は自慢じゃないが一等いい女に好かれててね。ソイツからの貰い物だよ……『ランサクスの薙刀』!」
その宣言と共に現出した、雷の巨大な刃がイナバを襲う。飛び上がってバック宙することで刃をかわしたイナバが着地する瞬間を見計らったヴァイクは、すかさずもう一撃を宣言した。
「『フォルサクスの雷槍』ッ!」
「んぬぅっ!!」
研ぎ澄まされた雷の投槍がイナバへと向かい、咄嗟に掲げた刃で受けるもそれを通して強大な電圧がその身を襲う。
「直撃よりは、マシ程度か……!」
「古竜の竜雷を、鋼で止めようなんて舐められたもんじゃないか。無茶ってもんだよ、それは」
男が嘲る通り、イナバの腕には雷の通電によって発生する特有の火傷痕がくっきりと刻まれていた。
「まだやるかい、嬢ちゃん」
まさに、直撃よりマシでしかない状態。イナバの腕がだらりと垂れ、愛刀『屍山血河』の切っ先が地を向く。
「は……はは、ふふふっ……」
だが、それでも、だとしても。イナバは笑う、嗤う。
「まだ、か。……何も始まってなぞおらんぞ、ヴァイク」
この男なら、この好敵手なら、『耐えられる』。そう認識したイナバのリミッターが外れていく。
「お前が……儂の今生最大の敵だ。今、そう感じた」
矯正された『人斬り』の感性が、天性で持ち合わせてはならぬ『人を害する才能』が、今、イナバの持ち合わせる理性で制御されつくした獣性によって、咆哮する。
「おいおい……勘弁してくれよ、マジで言ってんのか?」
「主の道を阻む敵ではなく、我が生涯に残る最高のライバル……どうか、楽しませてくれ。どうか、耐えてくれ。私に斬られてくれるまで……!」
イナバの瞳が爛々と輝き出し、その言葉に連動した現象が次から次へと起こり始める。
「……火の粉?」
辺りに漂いだしたのは小さな火の粉。ヴァイクが火元を確かめようとして、それに気づく。
「腕が……燃えているだと?」
「見るのは、初めてだろ? 無為に人斬る人でなし、
暗く朱い血の炎が、純粋な赤焔へと入れ替わる。抑えた獣性を解き放ったことにより、一人称から作り上げた『翁』の人格が崩れる。
「人変わりついでに炎も入れ替えか。
勝手に言ってろ、イナバはそう言いたげに紅の瞳を輝かせる。
「は……来いよ、クソッタレ」
大上段に刀を振り上げ、イナバが躍り懸かる。
「ッ!」
「だぁっ!!」
イナバの刃が下まで振り抜かれ、ヴァイクの竜雷を纏った槍は地に叩き伏せられた。咄嗟に飛び退くヴァイクは
「クソが……!」
瞬発的に生み出された小さな雷の槍がイナバを狙うも、振り下ろした姿勢から流れるように前に低姿勢で突進するイナバを撃ち抜くことはできない。唯一偶然当たるルートだった雷槍は、圧縮された炎が開放された衝撃を受け、空気中を辿る道筋を変えてしまった。
故に、イナバはそのままヴァイクの元へ到達した。
「おおおおッ!!」
「チッ……!」
次の一閃は横薙ぎに。ヴァイクの対応は槍で受け……
「こうか……!?」
流す。急激に『重く』なったイナバの刃は槍で受け切ることは不可能と判断したヴァイクは、瞬間的に発想を転換。弾きもガードもできないなら流してしまえと行動したのである。
しかしそれでなお、『勝負になる土台』が整っただけにすぎず。刃を振るう二人の形勢は、力を解放した全力に至り、そしてなおイナバが優勢であり。それ故に刃で分からないことを問いかけるのはイナバからだった。
「惜しい、惜しいなぁ! なんでキミみたいなのが狂い火って奴に仕えてるのさ!」
「仕えたくて仕えてるわけじゃあない、やらされてんのさ。だけど、ある程度の自由意志は残ってる。じゃなきゃお前とやりあってねぇ、たぶん人が集まってるところに雷槍ブッパなすお仕事でもやってたんじゃねぇのか?」
イナバはその言葉に笑えないなー、と思いつつも問うことにした。
「じゃ、なんでボクとやり合ってんのさ!」
「お前に足止めされるのが俺の自由意志で出来ることの限界だってことさ。俺は向こうの『王モドキ』と違って『本物』だが、本物だからこそ考えが回る。目の前の敵全員焼いて滅ぼすしか脳も能もない『追憶』とは違うんだよ」
「『王モドキ』の『追憶』だって? 聞き逃せないなぁ、早くキミを斬ってソイツも斬らないと……ね!」
刃の速度が上がる。それにヴァイクの顔が引き攣る。
「おいおいおい……話してやったじゃねぇか。ちったぁ落ち着けっての!」
「これが落ち着いていられるか! はぁぁぁっ!!」
何十度と振るわれた刃がヴァイクの鎧を掠める。
「あぁクソ、もうおっつけねぇか?」
ヴァイクは自分の速度に限界を感じていた。それは、必然の摂理。土台、キヴォトスに生きる人間では無い彼が、それでも全開のキヴォトス人の、なお上澄みにあたるであろうイナバと渡り合ったのは彼の経験によるものであり。
ヴァイクの経験に、これ以上素早い連撃を叩き込んでくる存在はいなかったのである。そして、それがイナバに露見するのも遠くない。そうヴァイクは確信していた。
「ちぃ……!」
「終わらせようッ!」
そして、イナバもまた、分かっていた。ヴァイクの速度を自分が追い越したことを、理屈ではなく魂で理解していた。
経験にないことを押し付けようというのが、イナバが途中から狙っていたことだった。
あるいはヴァイクがとある道を行き、聖樹の下でまみえる腐敗を司るデミゴッドと交戦していれば、まだ速度で張り合えたのかもしれないが。
しかしそれはたらればの話に過ぎず、そしてこの場は必然のみが支配している戦場だった。
「『炎』をッ!」
「なに……ッ!」
イナバが放った『炎』がヴァイクに迫る。炎がヴァイクを抜けていく、しかしヴァイクはそれを必要経費と割り切った。自分たち狂い火陣営に『火』とはなんともと思いつつ、その手の槍を鋭く前方へ突き……
誰も捉えず、空を切る。
「あぁクソ、そういうこともすんのかよ……」
ぞっ、と。ヴァイクの背に怖気が走る。強者ゆえの直感で、逃れ得ぬ死の気配を悟ったヴァイクは力を抜いた。
「楽しかったよ、ヴァイク!」
炎を目眩しに使い中空に飛び上がったイナバが、刃を振り抜きながら着地する。
「……あぁ、俺も楽しかったよ」
腹を鎧ごとざっくり斬られてなお、ヴァイクは立っていた。言葉を発していた。身体の端から徐々に黄色の炎がやってきて、溶けそうになっている彼に、イナバは一言。
「トドメは必要?」
答えは、その場で両膝を着いたことによって成された。もはや力も入らぬのであろうその身で、ヴァイクは姿勢を整えていく。
奇しくもそれは、正座の姿勢に似ていた。上半身を槍を支えに直立させて、ヴァイクは首元を晒していた。
「次のキミが、こうしなくても良い人だといいな」
「もう次は勘弁だ。……ここで終わるといいんだが」
「アミ様なら、なんとでもするでしょきっと。期待しててよ」
「ふ、そうさせてもらおう。じゃあな」
そうして、イナバは思い切り振り被った。晒されたヴァイクの首筋を断ち切るのに、十二分な一閃。首が飛んで、ヴァイクは黄色の炎と白い灰の中に消えた。
今やその白い灰だけが、イナバの勝利を証明するものだった。
【竜雷の騎士】ヴァイクVS【人斬り】熾名イナバ。
勝者……熾名イナバ。
決着。まだ事前勝負なのに3戦残ってる!すごーい!()
高評価とか感想もらえると次の更新が早くなります。これは割とマジなので宜しくお願いします。
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